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45話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)妖ノ郷(あやかしのさと)に着くと真琴(まこと)達が樹霧之介(きりのすけ)の家の後ろに集まっていた。

樹霧之介(きりのすけ)「どうかしたんですか?」

真琴(まこと)「あ、樹霧之介(きりのすけ)、お父さんの様子が変なのよ。」

真琴(まこと)達がいるのは黒根(くろね)の本体である切り株の周りでその切り株から生えている枝から出ていた葉っぱは枯れていて2枚あった葉っぱの1枚は既に落ちている。

真琴(まこと)達が声を掛けても喋る事なくただの切り株に見えるそんな黒根(くろね)の姿を見て志乃(しの)は動けなくなってしまった。

樹霧之介(きりのすけ)「、、さん。し、、さん。志乃(しの)さん!」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)に呼ばれて我に返る。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。父さんはまだ生きています。一緒に原因を考えてください。」

志乃(しの)「ごめん。考え事してた。」

樹霧之介(きりのすけ)「しっかりしてください。」

志乃(しの)「すまない。真琴(まこと)黒丸(くろまる)がこうなったのはいつからだ?」

真琴(まこと)「昨日は普通だったわ。今日お昼に来たらこうなってたの。」

志乃(しの)「時間は経ってないんだな。」

真琴(まこと)「多分。」

志乃(しの)は精気を送りながら5号を出して原因を探ると噛み痕を見つけ、そこには少しだが妖気が残っていて原因の妖怪が分かる。

志乃(しの)恙虫(つつがむし)か。」

樹霧之介(きりのすけ)「それは何ですか?」

志乃(しの)「人や妖怪を刺して病気にする奴だ。」

樹霧之介(きりのすけ)「なんでそんなものが妖ノ郷(あやかしのさと)に入って来たんでしょう。」

志乃(しの)「ここには悪意の無い妖怪は入れるんだ。恙虫(つつがむし)は虫だからな悪意も何もない。そこそこ妖力の強くなった恙虫(つつがむし)がどこからか入って来たんだろう。」

樹霧之介(きりのすけ)「だけど何でわざわざ父さんを刺すんですか?」

志乃(しの)「あいつは血や樹液を飲むんだ。黒丸(くろまる)は樹液を飲まれて病気をもらったんだろう。」

真琴(まこと)「治るの?」

志乃(しの)「時間が経っていないのが幸いだな。解毒すれば大丈夫だ。それで風見(かざみ)。」

風見(かざみ)「なんや。」

志乃(しの)黒丸(くろまる)のここに噛み痕がある。ここの妖気を覚えて恙虫(つつがむし)を見つけてほしい。」

風見(かざみ)「見つけたらどうしたらいい?」

志乃(しの)「生きるためとはいえ病気をばら撒く奴だ、退治してくれ。」

風見(かざみ)「分かった。」

志乃(しの)「私と樹霧之介(きりのすけ)で解毒するから他は恙虫(つつがむし)を探しに行ってくれないか?」

樹霧之介(きりのすけ)「僕も残るんですか?」

志乃(しの)「植物系の治療のほとんどは柚子(ゆず)に任せていたんだ。治療法は分かるが樹霧之介(きりのすけ)の手も借りたい。」

樹霧之介(きりのすけ)「分かりました。」

志乃(しの)「そうだ。探索に行く前に、、」

志乃(しの)は4号が持って来たプッシュ式の霧吹きを真琴(まこと)達に吹きかける。

真琴(まこと)「これは?」

志乃(しの)「虫よけだ。恙虫(つつがむし)に噛まれる確率が減るだろう。」

(しずく)「噛まれる時は噛まれるのね。」

志乃(しの)「ああ。だから気を付けてくれ。」

捜索班は風見(かざみ)真琴(まこと)茂蔵(もぞう)のチームと5号、(ほむら)(しずく)の2チームに分かれて探すことになり、志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)黒根(くろね)の治療に当たる。

志乃(しの)黒根(くろね)の周りの地面に虫よけを撒くと治療に取り掛かる。

志乃(しの)「まずは病原となっている毒を抜けるだけ抜きたいが私は霊力しか使えない。だから樹霧之介(きりのすけ)の妖力を借りたい。」

樹霧之介(きりのすけ)「どうすればいいですか?」

志乃(しの)「操作は私がするからこの噛み痕から妖力を流してくれ。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。」

樹霧之介(きりのすけ)が噛み痕に手を当てて妖力を流し込み、志乃(しの)はその上から手を当てて樹霧之介(きりのすけ)の妖力を操作する。

同じ妖力でも違う妖怪だと拒否反応を示すことがあるが黒根(くろね)樹霧之介(きりのすけ)の妖力を拒否することなく奥の方まで浸透させることができる。

そのおかげでほとんどの毒を吸い出すことができたので、毒を吸った樹霧之介(きりのすけ)の妖力ごと壺に入れて封印し、そのまま浄化すると無くなった。

志乃(しの)「次は傷の治療だな。」

志乃(しの)は4号から軟膏を受け取るとそれを黒根(くろね)に付いている噛み痕に塗っていく。

樹霧之介(きりのすけ)「他にすることはありますか?」

志乃(しの)「後は黒丸(くろまる)の回復力に頼るしかない。」

樹霧之介(きりのすけ)「大丈夫でしょうか?」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)のおかげで毒はほとんど抜けた。もうしばらく精力を注げば回復できるだろう。」

樹霧之介(きりのすけ)「なら僕、妖力注いだ方が良いですか?」

志乃(しの)「余裕があるなら。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。僕最近妖力も増えてきたんです。」

志乃(しの)「そうか。頼もしいな。」

そんな時志乃(しの)は妖気を感じて結界を張るとそこに両手を合わせたくらいの大きさの黒褐色で全身毛で覆われ、複数の足と大きな牙を持つ人の顔をした虫の妖怪が飛びついてきた。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん、これって。」

志乃(しの)恙虫(つつがむし)だ。ここまででかくなったのは久しぶりに見るな。」

恙虫(つつがむし)が飛びついてきてからすぐ風見(かざみ)茂蔵(もぞう)真琴(まこと)恙虫(つつがむし)を追って来た。

真琴(まこと)「ごめん。そいつ早いうえに硬くて仕留めれなかった。」

志乃(しの)「硬い?」

恙虫(つつがむし)には外骨格のような硬い部分は無いので攻撃は通るはずだ。

志乃(しの)は9号が持って来た短刀を受け取り、結界を解くと恙虫(つつがむし)のお腹めがけて突き刺そうとするがガキンという音がして短刀は刺さらずに恙虫(つつがむし)を弾き飛ばす。

その時の恙虫(つつがむし)の色は真っ黒に変わって少しテカっている。

志乃(しの)黒丸(くろまる)の術か。」

樹霧之介(きりのすけ)「もしかして父さんの樹液吸ったからですか?」

志乃(しの)「たまにいるんだよ。妖怪の血を吸ってそいつの術を使う奴が。」

樹霧之介(きりのすけ)「どうするんですか?」

志乃(しの)「吸ってから時間が経てば効果が無くなるはずだ。それまで結界に閉じ込める。」

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さんでも斬れないの?」

志乃(しの)黒丸(くろまる)が強化した黒い根は全力出しても斬れなかったんだ。火とかにも強いから同じ術なら今の私に攻撃を通す術は無い。」

真琴(まこと)「全盛期の浜名瀬(はまなせ)さんにも無理ならここにいる全員が無理よね。」

志乃(しの)「追い詰められたら地面に潜ってしまう。六面を囲む結界が必要だから準備したい。逃げないように時間稼ぎと準備ができたら誘導を頼んでいいか?」

真琴(まこと)「任せて。」

樹霧之介(きりのすけ)「分かりました。」

志乃(しの)茂蔵(もぞう)風見(かざみ)黒丸(くろまる)の近くにいてくれ。こっちに来たって事はまた黒丸(くろまる)の樹液を狙っている可能性がある。」

風見(かざみ)「分かった。」

茂蔵(もぞう)「任せろ。」

志乃(しの)「ただし噛まれるなよ。」

風見(かざみ)「大丈夫だ。」

茂蔵(もぞう)「おいらを噛めると思うなよ。」

志乃(しの)黒根(くろね)から離れて結界の準備をする。

樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)恙虫(つつがむし)が逃げないように拘束を試みるが木も紙も牙で破られる。

攻撃も黒くなると通らず、弾かれてしまうがそれでも黒根(くろね)の近くと遠くに行かないように時間を稼ぐ。

真琴(まこと)「黒くなって動かれると余計に気持ち悪いわね。」

樹霧之介(きりのすけ)「それも志乃(しの)さんの準備ができるまでです。」

真琴(まこと)「分かってるけどたまに飛んで来るの本当に嫌。」

樹霧之介(きりのすけ)「吸われたら病気になりますもんね。気が抜けません。」

真琴(まこと)「いや、その前に生理的に無理。」

樹霧之介(きりのすけ)「あ。そっちですか。」

志乃(しの)「待たせたな。こっちに追い込んでくれ。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。」

真琴(まこと)「待ってたわ。」

3人で途中まで順調に追い込むが、もう少しというところで急に進路を変えて黒根(くろね)の方に走り出してしまう。

もう少だと気を抜いてしまい止められず、恙虫(つつがむし)黒根(くろね)に噛み付こうとするがその前に茂蔵(もぞう)が飛び出して茶釜に変化へんげすると恙虫(つつがむし)は勢いを止められずに茂蔵(もぞう)が化けた茶釜に噛み付き、牙がはまって抜けなくなった。

動けなくなった恙虫(つつがむし)志乃(しの)霊縛符(れいばくふ)を貼り付け動きを封じると茂蔵(もぞう)は変化を解いて恙虫(つつがむし)の牙から抜けて志乃(しの)霊縛符(れいばくふ)の効果が切れる前に恙虫(つつがむし)を用意した結界の中に投げ入れ、結界を閉じる。

真琴(まこと)「よく触れるわね。」

志乃(しの)茂蔵(もぞう)、大丈夫か?」

茂蔵(もぞう)「おいらの化ける茶釜は硬いんだぜ。」

志乃(しの)茂蔵(もぞう)を持って体中を調べるが傷はなさそうだった。

茂蔵(もぞう)「くすぐったい。」

志乃(しの)は一通り調べると茂蔵(もぞう)を降ろして4号に丸薬を持って来てもらう。

志乃(しの)「念のためこれ呑んでおけ。」

志乃(しの)は丸薬を茂蔵(もぞう)に渡すと茂蔵(もぞう)はそれを呑む。

茂蔵(もぞう)「苦っ!」

志乃(しの)「口のある奴ならそれで済む。」

風見(かざみ)「おやっさん。薬飲めないもんな。」

志乃(しの)「治療ができなければ死ぬこともあるんだ。間に合ってよかったよ。」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。恙虫(つつがむし)もう黒くなりませんよ。」

志乃(しの)「そうか、今行く。」

志乃(しの)が3号を出して結界の中を炎で焼くと恙虫(つつがむし)は煙となって消えた。

樹霧之介(きりのすけ)恙虫(つつがむし)はいなくなりましたが(ほむら)達はどこまで行ったんでしょう?」

真琴(まこと)「そう言えばまだ帰ってないわね。」

志乃(しの)「、、今5号が近づいて来ているからもうすぐ来ると思う。」

その言葉通りしばらくしたら5号と共に(ほむら)(しずく)が帰って来た。

真琴(まこと)恙虫(つつがむし)は退治したわ。どこ行ってたの?」

(ほむら)「聞いてくれよ。こっちも大変だったんだぜ。」

(しずく)「そうよ、管狐(くだぎつね)に案内された枯れ木を除けたら卵がびっしり付いていたの。」

(ほむら)「数匹卵から出てきてたから周りに引火しないように枯れ木ごと燃やしたんだぜ。」

(しずく)「それからもまだ管狐(くだぎつね)に案内されるからその場所に行っては燃やして来たの。虫よけのおかげかこっちには来なかったけど本当に気持ち悪かったわ。」

(ほむら)「燃やしたのは俺だ。(しずく)は俺の後ろで目瞑っていただけじゃないか。」

(しずく)「あんな気持ち悪いの直視できるわけないじゃない。」

真琴(まこと)「大変だったのね。」

志乃(しの)は戻って来た5号に質問をする。

志乃(しの)「もう他には無いらしい。ありがとうな。」

(しずく)妖ノ郷(あやかしのさと)を守るためだもの当たり前よ。」

(ほむら)「だけど久しぶりに思いっきり燃やせて俺は楽しかったぜ。」

(しずく)「今回だけはあんたがいてくれて良かったわ。」

(ほむら)「それでそっちはどうだったんだ?親玉倒せたんだろ?」

真琴(まこと)「ええ。浜名瀬(はまなせ)さんが結界に閉じ込めて焼いてくれたわ。」

志乃(しの)茂蔵(もぞう)がいなければ捕まえられなかったし、真琴(まこと)樹霧之介(きりのすけ)が時間稼いでくれたからな。」

風見(かざみ)「...。」

樹霧之介(きりのすけ)風見(かざみ)がいなければ恙虫(つつがむし)は見つからなかったですよね。」

真琴(まこと)「そうね。風見(かざみ)が見つけてくれなかったら追い詰める事も出来なかったわ。」

風見(かざみ)「ありがとうな。ワイも風の盾とか使えればよかったんだけど。」

志乃(しの)「実戦経験が少ないと咄嗟に動くって難しいよな。」

風見(かざみ)「反応速度ってどうやって上げれば良いんだ?」

志乃(しの)「お前は妖気を感知できるんだ。それで敵が次どう動くか予想できれば反応は早くなると思うぞ。」

風見(かざみ)「簡単に言うが難しいぞ、それ。」

志乃(しの)「なら敵を観察して次の動きを予想することを癖にしろ。」

風見(かざみ)「ワイにできるかな。」

志乃(しの)「まあ、いきなりは無理だろうが意識するところから始めればいい。見つけてからも妖気を意識し続けろよ。」

風見(かざみ)「分かった。やってみる。」

志乃(しの)「それで今日は修学旅行のお土産を渡す為に来たんだ。せっかく集まっているから今渡しても良いか?」

真琴(まこと)「沖縄に行って来たんだっけ?」

志乃(しの)「ああ。」

樹霧之介(きりのすけ)「それなら家に入りましょう。」

志乃(しの)「その前に黒丸(くろまる)に精気渡してくる。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕も妖力渡します。皆さんは先に入っていてください。」

それから志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)は精気と妖力を黒根(くろね)に渡すと家に入ってお土産を渡す。

(しずく)にはぬいぐるみ、真琴(まこと)には便箋のセット、(ほむら)茂蔵(もぞう)にはお菓子、風見(かざみ)には琉球炭をそれぞれ順番に渡していく。

(しずく)「このぬいぐるみ可愛いわね。ありがとう。」

真琴(まこと)「海の便せんとか遠くに届きそうでいいわね。」

(ほむら)「焼き菓子か?見た事ない形だな。」

茂蔵(もぞう)「これ芋か?おいら好きなんだ。ありがとうな。」

風見(かざみ)「炭、寝る時近くに置いておくと良く寝れるんだ。ありがとうな。」

志乃(しの)「選んだのは樹霧之介(きりのすけ)だけどな。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕が少し口を滑らせたらいつの間にか買っていたのは志乃(しの)さんでしょ。」

志乃(しの)「だけど私にはお土産という考えが無かった。」

真琴(まこと)「2人共ありがとう。嬉しいわ。」

(しずく)「だけど浜名瀬(はまなせ)さん、お金はどうしているの?」

志乃(しの)「昔、仕事の報酬で貰ったものがあるからそれを売っている。」

(しずく)「報酬って誰が出したの?」

志乃(しの)「師匠が持って来た仕事は依頼人から報酬を貰っていたんだ。小判とか美術品とかだな。」

(しずく)「へー。」

志乃(しの)「いくつかは歴史的価値があったみたいで高く買い取ってもらったからお金の心配はいらない。」

風見(かざみ)「ならもう少し良い所住めばいいんじゃないのか?」

志乃(しの)「あそこに決めたのはあまり周りに人がいない場所だったからだ。」

(しずく)「まあ、あんなボロアパート誰も住みたいとは思わないわよね。」

志乃(しの)「こんな体だと周りと付き合いのある場所には住めないからな。」

(ほむら)志乃(しの)は何でここ(妖ノ郷)に住まないんだ?」

志乃(しの)「入学の手続きで住所がいるって事と当時は入り口を見つけれなかったからな。」

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さんなら探せば見つけれそうだけど。」

志乃(しの)「今は感覚を取り戻してきたが起きたばかりの時は隠された入り口が分からないくらいには感覚が鈍っていたからな。」

(ほむら)「それで卒業したらどこに住むんだ?」

志乃(しの)「卒業した後か?」

(ほむら)「だって学校無いなら住所無くても良いんだろ。」

(しずく)浜名瀬(はまなせ)さんが行っているのは高校よ。大学とかもあるんだからまだ分からないわよ。」

志乃(しの)「そうだな。これから考える。」

(ほむら)志乃(しの)は仲間なんだから人間でもここに住んでも良いだぞ。」

志乃(しの)「昔、柚子(ゆず)や名無しにも言われたな。」

(しずく)「それでも住まなかったの?」

志乃(しの)「あの時は開発途中で不安定だった時期だからな。」

(ほむら)「なら今ならいいんだろ。」

志乃(しの)「、、考えてみる。」

(しずく)(ほむら)浜名瀬(はまなせ)さんを困らせないで。」

(ほむら)「そんなつもり無かった。」

志乃(しの)「大丈夫。私は黒丸(くろまる)の様子見て帰るよ。」

(しずく)「変な空気にしてごめんなさい。これ大事にするわね。」

(ほむら)「初めて食べるお菓子だけどおいしいぜ。ありがとうな。」

(しずく)「あなた、もう食べてるの?」

(ほむら)(しずく)だってさっきからずっとそれ抱えているじゃんか。」

(しずく)「いいじゃない。」

志乃(しの)「あ、そうだ樹霧之介(きりのすけ)。」

樹霧之介(きりのすけ)「何ですか?」

志乃(しの)「これも買っていたんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕にも?」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)に小さめのガラスの置物と泡盛を渡す。

樹霧之介(きりのすけ)「これはガラスの魚ですか?不細工な顔が可愛いですね。」

志乃(しの)「酒は黒丸(くろまる)に買ったが強い酒だから飲ませ過ぎには気を付けてくれ。何かあれば置物にすればいい。」

樹霧之介(きりのすけ)「はい、ありがとうございます。」

真琴(まこと)「修学旅行中って高校生の姿よね。お酒なんていつ買ったの?」

志乃(しの)「飛行場で時間があったから少し。」

真琴(まこと)「よくバレなかったわね。」

志乃(しの)「買った後は2号に見えないようにしてもらっていたからな。」

それから志乃(しの)黒根(くろね)の様子を見に行くと声はまだ聞こえないが枯れた葉っぱの代わりに新しい葉がまだ小さいが生え始めていた。

志乃(しの)はアパートへ戻ると押入れから隠里(かくれざと)へ行って引き出しから散無華(さんむか)の種が入った瓶を取り出し、それを部屋で眺めてみる。

志乃(しの)「卒業、できるかな。」

志乃(しの)は瓶の蓋を取ると短刀を使い指先を切って少し血を垂らしてみると種はその血を吸うが色は変わらない。

志乃(しの)は短刀の刃を手の平に当てるが、切らずに短刀を鞘に納めていつもの場所に置く。

志乃(しの)「まだ早いよな。大丈夫、情報集めが先だ。」

志乃(しの)は自分自身を落ち着かせていると慣れない環境でしばらく寝泊まりしたからか、恙虫(つつがむし)と戦った疲れからか眠気に襲われたのでアパートに戻り布団を敷いて寝ることにした。

朝起きて学校は休みなので支度をしてから最近あまりできていなかった解呪を進める。

前に失敗したので使える霊力を少し残して終えると志乃(しの)のスマホに真琴(まこと)からメッセージが来ていた。

見てみると今日の夕方に妖ノ郷(あやかしのさと)にある樹霧之介(きりのすけ)の家に来れないかという事だった。

行けると返して夕方まで在庫の減ったお(ふだ)の補充をするためにお(ふだ)の作成に取り掛かる。

時間になり志乃(しの)妖ノ郷(あやかしのさと)にある樹霧之介(きりのすけ)の家に行くと樹霧之介(きりのすけ)達全員が迎えてくれた。

志乃(しの)黒丸(くろまる)、回復したんだな。」

黒根(くろね)「おかげでな。それで志乃(しの)よ。今回の事でわしの気持ちが少し分かったんじゃないのか?」

志乃(しの)「悪かった。」

黒根(くろね)「なら今度から無茶するんじゃないぞ。」

志乃(しの)「時と場合による。」

黒根(くろね)「やめる気が無い事は分かった。」

志乃(しの)「私はすぐに治るから。」

樹霧之介(きりのすけ)「アカマタの時もそう言ってましたよね。」

黒根(くろね)「何じゃ何かしたんか?」

真琴(まこと)「そう言えば樹霧之介(きりのすけ)って何で修学旅行付いて行ったの?」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さんがまた無茶しそうな気がしたからです。」

志乃(しの)「しなかっただろ。」

樹霧之介(きりのすけ)「アカマタの薬わざと受けて何言っているんですか。」

志乃(しの)「すぐに治まっただろ。」

茂蔵(もぞう)「まあまあ、落ち着けって。本来の目的忘れてないか?」

志乃(しの)「そう言えば何で呼ばれたんだ?」

真琴(まこと)「昨日のお礼しようと思って呼んだのよ。」

志乃(しの)「気にしなくてもよかったんだが。」

真琴(まこと)「それで何がいいか樹霧之介(きりのすけ)のお父さんに聞いたら浜名瀬(はまなせ)さんは甘党だって聞いたから全員でお菓子作ってみたの。」

志乃(しの)「ん?何で黒丸(くろまる)が知っているんだ?」

黒根(くろね)「もしかしてお主、あれで隠していたつもりか?」

志乃(しの)「隠していたつもりは無かったが話したことなかっただろ。」

黒根(くろね)「買った麦芽糖を棚に隠して大事に食べていたことくらい知っておる。」

志乃(しの)「棚に仕舞っていたのは出したままにして師匠に食べられたことがあったからだ。」

黒根(くろね)「まあ、他人に食べられたくないくらいには甘い物が好きなんじゃろ。」

志乃(しの)「だけどいつ見てたんだ?食べる時はいつも1人の時、、柚子(ゆず)か。」

黒根(くろね)「そうじゃ。柚子(ゆず)がお主の可愛い姿が見れたと喜んで報告してきたぞ。」

志乃(しの)柚子(ゆず)のびわがより甘くなったのはそのためか。」

樹霧之介(きりのすけ)「まあ、志乃(しの)さんの甘い物好きが分かったところで食べてみてください。」

樹霧之介(きりのすけ)はバナナの乗ったカップケーキを持ってくる。

志乃(しの)「調理器具あったのか?」

真琴(まこと)「最低限の器具は材料と一緒に買って、オーブンは石を積んで(ほむら)に焼いてもらったの。」

志乃(しの)「わざわざそんな事してくれてたのか。」

茂蔵(もぞう)「早く食べて感想聞かせてくれよ。」

志乃(しの)「そうだな。」

志乃(しの)はカップケーキを一口食べてみる。

志乃(しの)「美味いな。この果物も初めての食感で美味しい。」

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さんってバナナ食べた事ないの?」

志乃(しの)「買い物する時に見た事はあったが食べたのは初めてだ。」

黒根(くろね)「昔は無かったものな。」

志乃(しの)「皆は食べないのか?」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さんに食べてもらうために作ったんですよ。」

志乃(しの)「だが大勢で食べた方がいいだろう。」

黒根(くろね)「麦芽糖を独り占めしていた奴の言葉とは思えんな。」

志乃(しの)「食べたかったのか?」

黒根(くろね)他人(ひと)の楽しみを取るような事はせんよ。」

志乃(しの)「まあ、これは日持ちしないだろうし、沢山あるから皆で食べた方がいいだろ。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうですね。皆で食べましょうか。僕お茶淹れてきます。」

皆でカップケーキを食べることになり、ちゃぶ台を囲んで賑やかな時間が始まる。

黒根(くろね)「それで樹霧之介(きりのすけ)、わしはそのカップケーキとやらが食べれん。代わりに志乃(しの)が買って来たという酒をくれんか?」

樹霧之介(きりのすけ)「父さんは病み上がりなんです。しばらくは駄目ですよ。」

黒根(くろね)志乃(しの)の厚意を無下にするつもりか?」

志乃(しの)「私も今飲むのは反対だ。それに飲まなくても置物として置いておけばいい。」

黒根(くろね)「飲ませる気が無いのなら最初から買ってこんでくれ。置いておくだけとか生殺しにもほどがあるぞ。」

志乃(しの)「そうだな。やっぱり持って帰るか。」

黒根(くろね)「酒の味が分からない奴が持っていて何になる。」

志乃(しの)「どっちだよ。」

黒根(くろね)「今回は我慢してやる。じゃが、もう少し療養したら少し飲ませてくれんか。」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)どうする?」

樹霧之介(きりのすけ)「まあ、少しくらいなら。」

黒根(くろね)「おお。約束じゃからな。」

(しずく)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さんはチョコ食べたことある?」

志乃(しの)「無いな。」

(しずく)「ならこのチョコ入り食べてみて、バナナとの相性良いんだから。」

志乃(しの)(しずく)から手渡されたカップケーキを食べる。

志乃(しの)「うん、本当だ。美味しいな。」

茂蔵(もぞう)「なあ、ならこっちも食べてみてくれないか?」

志乃(しの)「サツマイモか、昔よく食べたな。」

そんな感じでわいわいとしていると夜になってお開きになった。

それぞれが帰路に着き志乃(しの)もアパートへ帰る途中、不審な男性を見付ける。

その不審な男性は大きめの荷物を持って薄暗い道できょろきょろと辺りを見回している。

志乃(しの)「こんな所で何をしている。」

晴臣(はるおみ)「君は、浜名瀬(はまなせ)さん。良かった~。」

不審な男性は陽葵(ひまり)の父親である晴臣(はるおみ)で、志乃(しの)を見つけると嬉しそうに近寄って来るが志乃(しの)は一定の距離を保つために後ずさる。

晴臣(はるおみ)「何で逃げるんだ。」

志乃(しの)「お前こそなんで近づいて来る。」

晴臣(はるおみ)「聞いてくれよ。戸籍が復活したから美和(みわ)陽葵(ひまり)の元に行こうと思ったら迷ったんだよ。」

志乃(しの)「送ってもらわなかったのか?」

晴臣(はるおみ)「お前は最近誰かに頼り過ぎだ、自分の力で行けと追い出されたんだ。」

志乃(しの)「ここまでこれたのならお金は持たせてもらえたんだろ。」

晴臣(はるおみ)「まあ、そこまで鬼ではないから。」

志乃(しの)「それで何で迷っているんだ?連絡取ればいいだろ。」

晴臣(はるおみ)「まだ携帯を契約していないんだ。公衆電話探してたらこんな所まで来てしまった。」

志乃(しの)「そうか、頑張れ。」

志乃(しの)はそれだけ聞くとアパートの方へ歩いて行こうとするので晴臣(はるおみ)はその手を掴む。

晴臣(はるおみ)「いやいや。陽葵(ひまり)の友達だよね。家知っているなら案内してよ。」

志乃(しの)「だが誰かに頼らずに行けと言われたんだよな。」

晴臣(はるおみ)「迷子を助けるくらいいいじゃないか。」

その時後ろから志乃(しの)を呼ぶ声が聞こえる。

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん。まだここにいたんですね。」

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)、どうしたんだ?」

晴臣(はるおみ)「何?そこに何かいるのか?」

志乃(しの)「もう見えていないんだな。」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さんこの人誰ですか?」

志乃(しの)陽葵(ひまり)の父親だ。迷子らしい。」

樹霧之介(きりのすけ)陽葵(ひまり)さんの?何で迷うんですか。」

志乃(しの)「そう言えば一軒家に住んでいるなら昔も住んでいたんじゃないのか?」

晴臣(はるおみ)「その家は俺が消えてから兄さんが買った家なんだ。家賃とか少しでもお金の負担が無くなるようにって。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)の母親の方の家は何もしてないんだな。」

晴臣(はるおみ)美和(みわ)の両親はもういないんだ。」

志乃(しの)「そうだったのか。」

晴臣(はるおみ)美和(みわ)が小さい時に事故で亡くなって子供の頃は親戚を転々としたらしい。それもあって俺の親戚達は美和(みわ)に甘いんだ。」

志乃(しの)「人格もあると思うぞ。」

晴臣(はるおみ)「俺は性格が悪いと言いたいのか?」

志乃(しの)「良くはないだろう。」

樹霧之介(きりのすけ)「それで志乃(しの)さん。何でその人消えていたんですか?」

志乃(しの)「あ、そうか樹霧之介(きりのすけ)は知らなかったな。陽葵(ひまり)の父親は13年前に行方不明になっていたんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「知りませんでした。そう言えば陽葵(ひまり)さんの家族の話聞いたことないかもしれません。」

志乃(しの)「それでこの前私が見つけて連れ戻したんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうだったんですね。それで志乃(しの)さんはその人送って行くんですか?」

志乃(しの)「まあ、仕方ないだろう。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうですか。」

志乃(しの)「そう言えば樹霧之介(きりのすけ)は私に何か用があったのか?」

樹霧之介(きりのすけ)「あ。作ったカップケーキまだ余っていたので志乃(しの)さんに届けようと思ってきたんでした。」

志乃(しの)「そうだったのか。ありがとう。」

樹霧之介(きりのすけ)「それじゃ、僕はこれでお暇します。」

志乃(しの)「ああ。わざわざありがとうな。」

樹霧之介(きりのすけ)「気にしないでください。」

晴臣(はるおみ)「それって何だい?」

志乃(しの)「私の仲間が私の為に作ってくれたカップケーキだ。」

晴臣(はるおみ)「もしかして妖怪が作った物かい?」

志乃(しの)「そうだがお前にはやらんぞ。」

晴臣(はるおみ)「1個くらいいいじゃないか。」

志乃(しの)「駄目だ。そんな事言うなら案内しないぞ。」

晴臣(はるおみ)「あ、嘘嘘。もう言わないから案内してくれないか?」

志乃(しの)「仕方ない。」

樹霧之介(きりのすけ)はそのまま妖ノ郷(あやかしのさと)へ戻り、志乃(しの)は渋々晴臣(はるおみ)陽葵(ひまり)の家へ案内してアパートへ帰った。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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