35話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
陽葵は離れないと言った言葉通りずっと志乃と行動を共にしていた。
他の親戚も集まり大勢で夕飯を共にする。
親戚1「陽葵ちゃんとは久しぶりに会ったけどお友達と仲良しなのね。」
志乃「変な誤解が生まれる前に離れてくれないか?」
陽葵「やだ。」
親戚2「あらあら。」
お酒は出なかったが明るい人達が多く、七回忌といってもそこまで暗い雰囲気ではなかった。
ただ少し陽葵を考慮しているようにも見えて陽葵に話しかける人はあまり陽葵の父親の話はしていない。
その代わり陽葵が懐いている志乃の話を求められる事が多く、陽葵が余計な事を言うのを止めるため志乃は陽葵から目が離せず、より仲の良い友達判定を貰ってしまう。
終盤になり、片付けが始まると志乃も手伝いをしようとする。
陽葵「浜名瀬さんがするなら私もする。」
親戚3「陽葵ちゃんはしなくても大丈夫よ。志乃ちゃんもお客さんなんだから座ってて。」
そう言われて志乃は仕方なく座る。
志乃「お前、何をやらかしたんだ?」
陽葵「ここに来た時はまだ子供だったからよく転んだり物壊しただけだもん。」
志乃「おっちょこちょいなのは昔からだったんだな。」
陽葵「おばさん達も大げさなんだよ。」
志乃「妥当じゃないか?」
陽葵「何で。」
志乃と陽葵がそんな話をしている少し離れた場所では他の親戚達の話が聞こえる。
親戚4「お葬式をした時は陽葵ちゃん。部屋から出てこなかったのにね。」
親戚5「明るくなって良かったよな。」
陽葵伯父「志乃ちゃんのおかげかね。」
親戚4「そうじゃないか。あんなにべったりくっ付いているんだ。」
親戚5「そういうお前は奥さんとはどうなんだ?」
親戚4「あそこまでは仲良くはないが上手くはやっているよ。」
夕食も終わり、近い所に住んでいる親戚は帰って行った。
志乃達は泊まるので客間に案内されて特にすることも無かったので志乃は借りた本を読む事にする。
陽葵「浜名瀬さん。もう一冊借りてたけどそれ何が書いてあるの?」
志乃「日記。最後の霊嚢石の場所の手掛かりが無いか探そうと思ってな。」
陽葵「それも暗号なんだ。」
志乃「だから人に知られたくない事を書いてあるんだろうとは思ったが、ろくな事が書いてないな。」
陽葵「何書いてあるの?」
志乃「知らなくていい。」
陽葵「見せて。」
志乃「普通の本も読めないのにどうするつもりだ?」
陽葵「普通の本は読めるよ。ただ集中力が持たないだけ。」
志乃「読めてないじゃないか。」
陽葵「そんな事ないもん。」
その時襖が開いて美和が声を掛けてくる。
美和「伯父さんが車の準備ができたから来てって。」
この家のお風呂は小さいので近くの銭湯に行こうという話になっていたのだ。
志乃「ありがとうございます。今行きます。」
美和「ねえ、志乃ちゃん。」
志乃「何ですか?」
美和「この本読めるの?」
志乃「いえ、下手な字だなと眺めていただけですよ。」
美和「そう。」
志乃「どうかしましたか?」
美和「ううん。私も前に見て変な文字だなって思っていただけだから。」
志乃「そうですか。」
陽葵「おじさん待たせているなら早く行こうよ。」
美和「そうだね。準備は出来てる?」
陽葵「うん。」
それから銭湯から帰って寝て次の日、親戚がまた集まるとお坊さんが来てお経など一通り終わると全員でお墓の方へ移動する。
その間もずっと陽葵は志乃から離れないが、お墓の掃除が終わったところで志乃がどこかへ行こうとする。
陽葵「どこ行くの?」
志乃「お手洗いくらい1人で行かせてくれ。」
陽葵「やだ。付いて行く。」
志乃「仕方ないな。」
陽葵「お母さんちょっとトイレ行って来るね。」
美和「分かったわ。もう少しでお参り始まるから早めにね。」
陽葵「うん。」
そして志乃と陽葵はお寺のトイレを借りてお墓へ戻り、お参りも静かに終わった。
そこに遅れてやって来た親戚の人が陽葵の横の志乃を不思議そうに見ている。
親戚「あれ?志乃ちゃん橋の方に歩いているの見たけど、見間違いだったのかな?」
陽葵「え。それっていつの事ですか?」
親戚「ついさっきだよ。見たのは車からだったからよく見えなかったんだ。お盆だし他の所から来た人だったのかもね。」
陽葵「浜名瀬さん。」
陽葵の声かけに隣にいる志乃は何も喋らないので陽葵はその志乃を連れて誰も見てないお寺の裏に連れて行く。
陽葵「ねえ、あなたもしかして管狐?」
志乃に化けていた8号はバレたかと元の姿に戻りそれを見て陽葵は志乃を見たという親戚に声を掛ける。
陽葵「すみません。浜名瀬さんを見たという橋はどこですか?」
親戚「浜名瀬?」
陽葵「志乃のことです。」
親戚「それならここに入る時に必ず通る橋だよ。多分陽葵ちゃんも来るときに通ったんじゃないかな。だけど今ここに居たよね?」
それを聞いて陽葵の顔色は悪くなる。
その橋は陽葵の父親が消えた場所で陽葵のトラウマの場所なのだ。
親戚「どうしたの?そう言えば今いた志乃ちゃんは?」
陽葵「私ちょっと行って来る。」
美和「陽葵。何処に行くの?」
陽葵「橋に行かないと浜名瀬さんが消えちゃうの。」
美和「志乃ちゃんならさっきまであなたと一緒だったでしょ。」
親戚達は急に見えなくなった志乃と取り乱している陽葵を見て混乱している。
一方で志乃はトイレで8号と入れ替わり2号で姿を消していたが人気のない場所で現れると貰った鈴、未使用の霊嚢石と順番に9号が持って来て、志乃は鈴に霊嚢石を押し当てる。
すると霊嚢石は鈴の中に入り、音を立てるがその音はどんどん遠くなり、志乃はその音を追って橋に辿り着く。
橋に着くと鈴の音は聞こえなくなり周りの景色が徐々に変わって行く。
夏の眩しい日差しが無くなり、あれだけ煩かった蝉の声もピタリと止み昼か夜かも分からないただ明るい空間と何も聞こえない場所に出る。
足元の橋もコンクリートから石造りに変わり、アスファルトで整備されていた道は土を固めただけの道に変わっている。
周りが完全に変わると鈴は砕けてしまう。
志乃は周りの確認のため5号を出そうとするが竹筒はただの竹筒になっていて1号を呼んでみるが管狐の隠里が繋がる事は無かった。
ここは他の隠里とは違う空間だという事が分かり、周りを観察するがあるものがない空間、そういう表現しかできない場所だった。
正確にいえば当たり前にあると思っていたものが所々抜けているという感じで例えば時間、ここには昼も夜も無くただ明るいだけだ。
それから音、自分の声は聞こえるが木が生えているのに葉のこすれる音や虫の音がしない。
他にも無いものはありそうだが危険はなさそうなので志乃は自分の目的のためその空間の中を歩いて行く。
すると赤く大きな体で角を生やした鬼が2体、何かの門を守るように立っていたので志乃はそれに近付くが鬼は金棒を振り上げ志乃の前を塞ぐ。
鬼1「お前生者だな。ここは地獄の入り口へ繋がる場所だ。通すわけにはいかん。」
志乃「通ったらどうなるんだ?」
鬼1「閻魔様の許可無しに生者を通せば俺らの首が飛ぶ。」
志乃「そうか。なら通れないな。」
鬼1「分かったのなら帰れ。」
志乃「どうやって?」
鬼1「そこの川に飛び込めば生者は上流に、死者は下流に勝手に流される。」
志乃「下流には何があるんだ?」
鬼1「三途の川だ。」
志乃「下流に泳ぐことは可能か?」
鬼1「可能だが死ぬぞ。死にたいのか?」
志乃「いや、今回は約束があるからな。身を任せるよ。」
鬼1「そうか。どうやって来たかは知らんがさっさと帰れ。」
志乃「残念ながら探し物があるんだ。それが見つかったら帰るよ。」
鬼1「ここに居られると迷惑だ。さっさと帰ってくれ。」
鬼2「こんな奴の相手しなくてもいいだろ。さっさと捕まえて川に放り込もうぜ。」
そう言って鬼の1体が志乃に掴み掛るがそれを志乃は軽く避ける。
鬼2「このちょこまかと。お前も見てないで手伝え。」
志乃を捕まえる鬼が2体に増えても志乃は余裕で逃げ回る。
志乃「探し物が見つかればすぐ帰る。手伝ってくれないか?」
鬼2「それは何だ?」
鬼達は捕まえられないと思い、志乃の言葉に耳を傾ける。
志乃「不死者を殺すことのできる物を探している。」
鬼1「死なないから不死者なんだろ。」
志乃「地獄にいる奴らは死なないから不死者みたいなものだろ。」
鬼2「俺らを処罰するものはあるが現世には持っていけないぞ。」
志乃「それでも何かないのか?」
鬼達が考えていると後ろから声を掛けられる。
???「おい、そこのお前危ないぞ。」
志乃が振り返るとそこには男性がいて手招きをしている。
鬼2「あいつ。ここに来て時間が経つのにまだ帰ってなかったのか。」
志乃「誰だ?」
鬼1「現世に帰そうとしているんだが逃げ回って捕まらないんだ。」
志乃「なあ、あいつを帰すことができれば私の言っていた物を探してくれないか?」
鬼1「あるかは分からないぞ。」
志乃「それでもここに生者がいるのはお前らにとって良いことではないよな。」
鬼2「分かった。お前のいう物を用意しよう。」
鬼1「そんな物あったか?」
鬼2「散無華の種とかどうだ?」
鬼1「だが使えば魂は強制的に地獄へ送られる。閻魔様の許可無しに渡せないだろ。それにあれは種を付けることがあまりない。在庫もあったか分からないぞ。」
志乃「あるんだな?なら私はあの人を説得しに行って来る。」
鬼1「まだ渡せるか分からないぞ。」
志乃「交渉材料にしたが私もあの人間が戻りたいと思っているなら戻したい。」
鬼1「そうか。なら頼む。」
志乃「ああ。」
志乃はいつの間にかいなくなった男性を探しに行くと岩の陰で縮こまっているのを見つける。
志乃「おい。」
男性「君、無事だったのか?」
志乃「あいつらは地獄の獄卒だ。生者に手出しはできない。」
男性「それでも鬼だぞ。あの金棒で何をされるか分からない。」
志乃「それでお前はいつまで逃げるつもりだ。」
男性「出口を見つけるまでだ。」
志乃「出口ならあそこだぞ。」
そう言って志乃は川を指さす。
男性「川が出口なわけないだろ。」
志乃「ここから現世に繋がっているのはあそこしかないらしい。」
男性「お前。俺をだましているんじゃないだろうな。」
志乃「何のために。」
男性「何、、確かに何のためだ?」
志乃「お前は帰りたくないのか?」
男性「帰りたいさ。あっちには妻も子供もいる。子供はまだ小さいんだ。俺がいなければ困らせてしまう。」
志乃「なら一緒に帰ればいい。」
男性「お前もここに迷い込んだ人間なのか?」
志乃「私の場合は自分から来た。」
男性「どうやって?」
志乃「昔の友人が作った鈴を使って来たんだ。」
男性「高校生の昔って何年生の時だ?」
志乃「まあ、気にするな。」
男性「なあ、その鈴ってこのくらいの大きさで布が付いていなかったか?」
男性は手で丸を作って説明しながら質問する。
志乃「お前もしかして陽葵の父親か?」
陽葵父「陽葵を知っているのか?あの子は元気なのか?」
志乃「その前にお前、現世で何年経っているか知っているか?」
陽葵父「1年くらいだろ?」
志乃「現世ではお前がいなくなって13年だぞ。」
陽葵父「は?嘘だろ。」
志乃「陽葵は今私の同級生で、私がここに来たきっかけはお前の七回忌だ。」
陽葵父「俺、死んでいるのか?」
志乃「書類上ではな。」
陽葵父「陽葵は元気か?美和は?」
志乃「2人共元気だ。お前が消えてショックを受けていたがまあ、頑張っているよ。」
陽葵父「そうか、、」
志乃「それでお前は何でここに来たんだ?」
陽葵父「俺は先祖が遺した暗号を解読していたら先祖が初恋の人のために作った発明品があると知ったんだ。」
志乃「それがあの鈴だったと。何でよく確かめもせず使おうと思ったんだ?」
陽葵父「初恋の人の為に作った物なら綺麗な物が見れると思ったんだ。だから陽葵にも見せてやろうと思って使ったら変な場所に出るし、鈴は壊れるし、鬼はいるし、、」
志乃「陽葵の考え無しに動く性格は父親譲りか。」
陽葵父「はは、嫌なところが似てしまったな。」
鬼1「おーい。さっきの人間。いるか?」
志乃「呼ばれている。」
陽葵父「大丈夫なのか?」
志乃「私が頼み事をしていたんだ。怖いのであれば私だけが行く。ここから動くなよ。」
陽葵父「いや。娘の友達だけ行かせるわけにはいかない。俺も行く。」
志乃「そうか。」
志乃は陽葵の父親を連れて鬼達の元へ行く。
鬼1「ああ、いたいた。」
志乃「あったのか?」
鬼1「その前にお前の名前を聞いても良いか?」
志乃「浜名瀬志乃だ。」
鬼1「それは本当の名か?」
志乃「本当の名か、、」
鬼1「途中で名前は変えたか?」
志乃「物心ついた頃からしのと呼ばれていて途中から破魔凪と呼ばれた事もあった。それ以外は知らない。」
???「お主。破魔凪と呼ばれていたことがあるのか?」
その話を聞いていたのか何もない空間に声が響く。
志乃「そうだがお前は誰だ?」
鬼1「閻魔様だ。頭が高いぞ。」
志乃「は?何でそんなお偉いさんが出てくるんだ。」
鬼1「俺も知らん。とにかく頭を下げろ。」
既に頭を下げている鬼と共に志乃も頭を下げ陽葵の父親の方を見るが既に恐怖から土下座をしていた。
閻魔「今は志乃だったか。表を上げよ。」
志乃「閻魔様と知らなかったとはいえ、先ほどの無礼な物言いお許しください。」
閻魔「よい。亡者から度々お前の事を聞いていた。それで散無華の種だったな。ちょうど1つだけ残っておった。これをお前に譲ろう。」
志乃「ありがとうございます。」
閻魔「何に使うか知らんがお前なら間違った事には使わんだろう。」
志乃「信頼をおいていただけるのは光栄ですが何故そのように言えるのですか?」
閻魔「お前のこれまでの行いだと思えばいい。」
志乃「ですが私は自分でもその様な行いをした記憶はございません。」
閻魔「まあよい。わしはお前を信じてその種を渡す。今回はそれだけでいい。」
志乃「はい。」
閻魔「使い方は種を持たせた鬼に聞くといい。」
志乃「ありがとうございます。」
声が消えて頭を下げていた鬼も立ち上がる。
鬼1「お前、閻魔様に認められるとか凄いな。」
志乃「私もよく分からない。」
鬼1「それであの男あのままでいいのか?」
陽葵の父親は土下座をしたまま動いていない。
志乃「おい。大丈夫か?」
陽葵父「今のは?」
志乃「閻魔様らしい。もう帰られたから楽にしろ。」
陽葵父「何でそんな大物が出てきたんだ?」
志乃「私にも分からん。」
陽葵父「でも色々話していなかったか?」
志乃「そうだが出てきた理由は私も分からん。」
陽葵父「そ、そうか。」
それから1体の鬼が一粒の種が入った小さな瓶を持って来た。
鬼2「閻魔様からお許しが出た。持って行け。」
鬼に差し出されたその瓶を志乃は受け取る。
志乃「ありがとう。それでどうやって使えばいい?」
鬼2「順番は問わないが種に血を染み込ませる事と体内に入れる事。この2つの条件が揃えば半日から1日ほどで開花する。」
志乃「血の量は?」
鬼2「量は分からないが種全体が赤く染まるまでだ。」
志乃「そうか。なあ、こういう使い方できるか?」
志乃は鬼にヒソヒソと話をする。
鬼2「できるが魂は必ず地獄へ落ちる。おすすめはせんぞ。」
志乃「だがそれなら人数は関係ないんだろ。」
鬼2「ああ。」
志乃「そうだ。魂は地獄に落ちるのは分かったが肉体はどうなるんだ?」
鬼2「肉体は花弁のように咲いた花とともに散る。不死者だろうが関係なく肉体は残らない。でないと不都合があるからな。」
志乃「そうか、ありがとう。」
鬼2「何を抱えているかは分からないが地獄は人にとってあまりいいところじゃない。来ないことを勧めるぞ。」
志乃「心配してくれるのか?」
鬼2「事実を言っただけだ。」
志乃「そうか。じゃあ、用は済んだから私は帰る。」
鬼2「ああ。もう来るなよ。」
志乃「世話になったな。」
鬼達は元の場所に戻り、志乃は陽葵の父親と川へ行く。
志乃「行くぞ。」
陽葵父「すまない。1つ言ってなかったことがあるんだ。」
志乃「何だ?」
陽葵父「俺はトンカチなんだ。」
志乃「川に飛び込んで身を任せるだけだ。」
陽葵父「潜るのも駄目なんだ。」
志乃「なら私の手を握って息を止め、目を瞑ればいい。」
陽葵父「自分の子供の同級生にそんな情けない事できない。」
志乃「なら自分で飛び込むか?」
陽葵父「それも怖い。」
志乃「今の姿が一番情けないぞ。」
陽葵父「すみません。手を握ってください。」
志乃「初めからそう言え。」
志乃は陽葵の父親の腕を掴んで一緒に飛び込むと浅いように見えた川の底は見えず、泳いでないのに川の流れとは逆の方向へと流される。
しばらくするとただ明るい光からオレンジがかった光になり、ヒグラシの声が聞こえてくる。
流れが緩やかになり、足が川底に当たったのでそのまま立ち上がるとあの空間に入った橋が架かっている川の中に出て、竹筒の隠里が繋がったのか12号が飛び出して志乃の肩に乗る。
志乃はまだ志乃の腕を掴みながら川に沈んでいる陽葵の父親を引き上げる。
志乃「もう足が着くんだから自分で立て。」
陽葵父「も、戻って来たのか?」
陽葵の父親が辺りをきょろきょろ見渡していると8号が志乃の元に戻って来た後に半泣きで叫んでいる声が聞こえた。
陽葵「浜名瀬さーん。」
陽葵は志乃を見つけて走って来ていたが、途中で転んだので志乃は陽葵に近寄り手を差し出す。
志乃「戻ってくるって言っただろ。」
陽葵「だって、だけど。浜名瀬さんが消えてもう1週間なんだよ。」
志乃「へ?」
あの空間は時間も無いので現世に戻る際に時間が狂ったらしい。
そこに陽葵の父親が近づき、陽葵の顔を覗き込む。
陽葵父「陽葵なのか?」
陽葵「、、誰?」
志乃「お前の父親だぞ。」
陽葵「え、あ。そう言えば写真の人とそっくり。」
陽葵父「そうだよね。陽葵と別れた時はこんなに小さかったんだから覚えてなんていないよね。」
陽葵の父親はあからさまに落ち込んでいる。
陽葵「えっと。お母さんも浜名瀬さんの事心配していたから早く家に戻ろう。」
陽葵父「え、パパは?」
陽葵「うん。お父さんの事も心配してたよ。」
陽葵父「そんな取ってつけたような感じで言わないでよ。」
陽葵「え。私のお父さんってこんな面倒くさい人だったの?」
志乃「陽葵。1週間は私も予想してなかった。家へ行こう。謝りたい。」
陽葵「分かった。」
志乃達が陽葵の父親の実家に行くと陽葵の祖母が出迎えてくれた。
陽葵祖母「あんた。晴臣かい?本当に?」
晴臣は陽葵の父親の名前だ。
晴臣「ただいま母さん。」
陽葵祖母「もしかして志乃ちゃんが連れ帰ってくれたのかい?ありがとうね。」
陽葵の祖母は泣いて志乃の手を握り、志乃はどうすればいいのか分からずそれをただ眺めていると、志乃を探すために町中を歩き回っていた人達が次々と帰ってくる。
親戚1「志乃ちゃん見つかったって?え。晴臣?本物?」
他の人達も同じような感じで志乃が見つかった事に安堵した後に晴臣を見て驚いている。
川で濡れていた志乃はシャワーを借りて持って来ていた服に着替えた。
そして全員が集まったところで志乃は探してくれた人達に謝罪をする。
志乃「ご心配とご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
親戚2「いや、それって晴臣を探しに行っていたんだろ?」
親戚3「心配はしたけど謝る事じゃないよね。むしろ感謝したい。」
親戚4「謝罪は晴臣だけでいいよな。」
晴臣「この度はご心配とご迷惑をおかけしました。」
美和「本当に本当にどこ行ってたのよこの馬鹿!」
美和は晴臣と再会した時は泣いて落ち着くのにしばらくかかっていた。
親戚5「本当にどこにいたんだ?」
晴臣「俺もよくわかっていないんだ。」
親戚2「志乃ちゃんは分かる?」
志乃「さあ、私もいつの間にか1週間経っていたので驚きました。」
本当の事を言っても信じてもらえないので説明になってない説明をすると親戚達は帰って行った。
その後も警察から事情を聴かれたりしていると外はすっかり暗くなっていた。
残ったのは志乃と陽葵、美和、晴臣、陽葵の伯父、陽葵の祖母、陽葵の祖父だった。
陽葵伯父「なあ、志乃ちゃん。謝らなくてはいけないのは志乃ちゃんじゃなくておじさんの方なんだ。」
陽葵「どういう事?」
陽葵伯父「陽葵ちゃんのトラウマを刺激しないように言えなかったが志乃ちゃんが倉庫から持って来た鈴、あれは陽葵ちゃんのお父さんが消えた時に持っていた物と同じ物なんだ。」
美和「それなら私も、志乃ちゃんが読んでた本。夫が暗号だって言って解読していた物なの。」
志乃「それで汚い字ではなく変な文字って言っていたんですね。」
美和「私そんな風に言っていた?」
志乃「はい。それで何で謝るんです?」
陽葵伯父「危険性を知っていてそれを教えなかったんだよ。」
志乃「それは陽葵が私から離れなかったから言えなかっただけですよね?」
陽葵伯父「それも、、いや、陽葵ちゃんは関係ないよ。言おうと思えば耳打ちでもすればよかったんだ。俺は期待してしまったんだ。君ならこの鈴の謎を解けるんじゃないかって。」
志乃「別に良いんじゃないですか?」
陽葵伯父「それでも1週間もいなくなって、戻ってこれなくなっていたかもしれなかったんだぞ。」
志乃「普通に帰り道は分りました。1週間も経っていたのには驚きましたがそれだけです。」
陽葵伯父「だが13年間も戻れなかった奴がいるんだぞ。」
志乃「それはその人が怖がりでトンカチだからです。」
陽葵伯父「どういうことだ?」
志乃「そうですね。あなた方にはお話ししましょう。ですが今から言う事を信じるも信じないもあなた方にお任せします。」
志乃はあの空間の事を説明し始めた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




