34話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
夏休みに入り志乃が修行の進捗を見に行くと陽葵から里帰りの日程が決まったと言ってきた。
志乃「決まったのか。それで私は行ってもいいのか?」
陽葵「うん。あの時の事でまだ不安があるのは皆知っているから。浜名瀬さんが良いならって。」
志乃「そうか。」
陽葵「だから浜名瀬さんは気にせずに来て。」
志乃「分かった。」
そしてその日がやって来た。
陽葵の父親の実家に行く為に陽葵の親戚が車を出してくれる。
陽葵の家に来てくれたので志乃も準備をして車を待つ。
陽葵母「志乃ちゃんせっかくの夏休みなのに本当に良いの?」
志乃「はい。どうせ私の両親は仕事で構ってもらえないので。」
陽葵母「海外でのお仕事だっけ。大変ね。」
志乃「慣れてますから。」
陽葵母「本当にいい子ね。うちの子にならない?」
志乃「遠慮します。」
陽葵「いいじゃん。浜名瀬さん一緒に暮らさない?」
志乃「断る。」
陽葵「何で?」
そんな話をしていると陽葵の家の前に車が止まる。
陽葵伯父「やあ、久しぶりだね。陽葵ちゃん大きくなった?」
陽葵「お久しぶりです。」
陽葵伯父「美和ちゃんも久しぶりだね。」
美和は陽葵の母の名前だ。
美和「ええ。お久しぶりです。お迎えありがとうございます。」
陽葵伯父「いいよ。それでそっちの子が電話で聞いた志乃ちゃんかな?」
志乃「浜名瀬志乃です。お世話になります。」
陽葵伯父「こちらこそ陽葵の事よろしく頼むよ。」
志乃「はい。」
美和が助手席、志乃と陽葵が後ろに乗り込み目的地へと出発するが陽葵の伯父さんはたまに志乃の方を気にしているようだ。
志乃「今回はいきなり来てしまってすみません。」
陽葵伯父「ああ。いやいや、それは良いんだ。こちらこそジロジロ見てしまって悪かったね。少し気になる事があるんだ。」
志乃「何でしょう?」
陽葵伯父「分かる範囲で良いんだけど君のご先祖に陰陽師の人っているかい?」
志乃「え?」
陽葵伯父「変な事聞いてしまってすまん。忘れてくれ。ただ決して君を部外者だとか邪魔者だとかは考えてないよ。大切な姪っ子の友達なんだから。」
志乃「はい。」
陽葵「浜名瀬さんて何かお父さんの家と関係あったの?」
志乃「お前の父親の苗字を聞いていいか?」
陽葵「えっと、何だっけ、、」
志乃「何をしていた家だ?」
陽葵「家は立派な日本家屋だけど何してたかまでは分からないよ。」
志乃「名前も何してたかも分からない人との関係なんて知らないぞ。」
陽葵「あっちに着けば分かるから。」
志乃「そうだろうが少し行くのが怖くなったな。」
陽葵「何で。」
志乃「昔は人間とはあまり仲良くしてなかったから恨みを持つ家系もいるんだよ。」
陽葵「だけど昔の話でしょ。」
志乃「だけどお前の伯父さんが聞いてきたんだぞ。」
陽葵「それってどういう事?」
志乃「私の記録が残っている可能性があるんだ。」
陽葵「そっか。だけど私は見た事無いよ。」
志乃「陽葵はあまり行っていないんだろ。」
陽葵「うん。」
志乃「まずは行ったら名前の確認だな。」
陽葵「それでも関係ないって言ってしまえば良いんだよ。」
志乃「それもそうなんだが、あまり記録には残さないようにしてたのに何で残っているのかが怖くてな。」
陽葵「それでも私の先祖が浜名瀬さんと交流があったかもしれないなんて驚きだよ。」
志乃「悪い方でなければいいんだがな。」
陽葵「だけど妖怪退治もしてたんでしょ。英雄として残っているかもよ。」
志乃「強い力は逆に恐怖の対象になる事もある。自分らが手出しできなかった妖怪を倒して怖がられた事もあったんだぞ。」
陽葵「それは助けてもらって怖がる方がおかしいよ。」
志乃「私の信用が低いせいでもあるんだけどな。」
陽葵「そんな事無い。」
それまでヒソヒソ話していたが陽葵が急に大きな声を出して前方にいる2人にも聞こえたようだ。
陽葵伯父「どうしたんだい?」
陽葵「何でも無いです。」
陽葵伯父「伯父さんのせいだったらごめんね。本当に志乃ちゃんの事歓迎しているんだから。」
陽葵「大丈夫です。浜名瀬さんの事は私が無理に頼んだから。私に責任あるの。」
陽葵伯父「責任とか使う年頃になったんだね。大丈夫だよ。子供が1人増えたくらいで煩くいう大人はいないんだから。」
陽葵「はい。」
それから順調に進み、浅めの川に架かる橋を渡って一軒の家にたどり着く。
陽葵伯父「着いたよ。」
美和「ここまでありがとうございました。」
陽葵「伯父さんありがとう。」
志乃「ありがとうございます。」
陽葵の伯父さんは少し離れた駐車場に車を停めに行ったので3人で先に入る事になった。
志乃が表札を確かめてみると九重と書かれていた。
陽葵「浜名瀬さん。心当たりある?」
志乃「いや、無いな。」
陽葵「何で?」
志乃「何でと言われても名前を聞かなかった誰かかもしれない。」
陽葵「じゃあ何も分からないの?」
志乃「お前の親戚に聞けば何かわかるかもしれないだろ。」
陽葵「どう聞くの?」
志乃「、、わざわざ聞く必要もないか。」
陽葵「えー。気になるよ。」
美和「どうしたの?入るわよ。」
陽葵「あ、うん。」
美和は扉を開けて挨拶をする。
美和「こんにちは。」
陽葵祖母「あらあら。いらっしゃい。よく来たね。」
美和「お久しぶりです。数日間よろしくお願いします。」
陽葵祖母「ええ。」
陽葵「おばあちゃんこんにちは。」
陽葵祖母「まあまあ。陽葵ちゃん?大きくなって。それでその後ろの子がお友達?」
志乃「浜名瀬志乃です。しばらくお世話になります。」
陽葵祖母「志乃ちゃんね。こちらこそよろしくね。」
志乃「はい。」
陽葵祖母「私はお茶の用意をするから先に茶の間で待っていてね。」
陽葵「うん。」
美和「手伝います。」
陽葵祖母「来たばかりなんだからいいよ。上がってゆっくりしなさいな。」
美和「それじゃお言葉に甘えて、お邪魔します。」
陽葵「お邪魔しまーす。」
志乃「お邪魔します。」
3人で茶の間で待っていると陽葵の祖母がお茶を持って、車を置いてきた陽葵の伯父さんと共に入って来る。
陽葵伯父「やっぱり似てるな。」
陽葵「似てるって誰と?」
陽葵伯父「いや、志乃ちゃんがこの家に出る幽霊に似ているんだ。」
陽葵「幽霊?浜名瀬さん何かこの家に恨みでもあるの?」
志乃「何でそうなる。」
陽葵伯父「いやいや、似てるってだけで志乃ちゃんより大人だったから。」
陽葵「ねえねえ。それって何処に出るの?」
陽葵伯父「奥の座敷だよ。」
陽葵「見に行っても良い?」
美和「少し大人しくしてなさい。」
陽葵祖母「良いんじゃないかい?こんな田舎では窮屈だろう。それに、あの事を思い出してここを嫌うよりずっといい。」
美和「すみません。」
陽葵祖母「あの子がいなくなったとしても自分の実家だと思ってくれていいんだから。楽にしなさい。」
美和「ありがとうございます。」
陽葵伯父「陽葵ちゃん達は僕が見てるよ。母さんとゆっくりしていて。」
美和「ご迷惑をおかけします。」
陽葵「行こう。伯父さん。浜名瀬さんも。」
陽葵伯父「慌てないでよ。」
志乃達は奥の間に移動するとそこは薄暗く、電気を付けると志乃が何かに気づいて質問する。
志乃「すみません。この香炉っていつからありますか?」
志乃は床の間に飾られている香炉を指さす。
陽葵伯父「香炉?ああ、倉庫の整理をしていた時に見つけた物だよ。そう言えばこの香炉を出してから幽霊を見るようになったかも。もしかしてそういうのに詳しいの?」
志乃「少しだけです。」
陽葵「浜名瀬さん妖怪とかに詳しいんだよ。」
陽葵伯父「そうなんだ。本当に先祖に陰陽師がいたりしてね。」
陽葵「浜名瀬さんは先祖、、」
志乃「陽葵。調子が戻ったのは良いが余計なことは言うんじゃない。」
陽葵「ごめんなさい。」
陽葵伯父「はは。そういうお年頃なんだよね。」
志乃「お前のせいで変な誤解が生まれているだろ。」
陽葵伯父「まあ、この部屋は自由に見てもらっていいから。」
志乃「香炉を触っても?」
陽葵伯父「壊さなければいいよ。」
志乃「それとこの家に慧玄という人はいましたか?」
陽葵伯父「僕は詳しく知らないけど、家系図がどこかにあったはずだよ。見る?」
志乃「いえ。そこまでは大丈夫です。」
陽葵伯父「母に言えばすぐ出してくれるから遠慮しないで。」
そう言って陽葵の伯父さんは部屋を出て行った。
陽葵「慧玄って誰?」
志乃「前に言っただろ数年間だけ付き合った道具作りが好きな人間だ。」
陽葵「え。まさかその人が私のご先祖様?」
志乃「まだ分からない。あいつは器用だったからな。」
陽葵「それって遠回しに私が不器用って言ってない?」
志乃「事実だろ。」
陽葵「そうだけど。って何してるの?」
志乃は香炉を手に取ってひっくり返すと底に小さな取っ手が付いており、それを回すと中から大きめのビー玉くらいの白い玉が出てきた。
陽葵「壊さないって言われてたよね。」
志乃「仕様だ。壊してない。」
志乃は上下をもどしてから玉の出てきた所に指を入れると人の影が浮かび上がる。
陽葵「これって、浜名瀬さん?」
そこには立体的な破魔凪時代の志乃が浮かび上がり、声は聞こえないがそれは立って誰かに何かを話しかけているようだった。
そして志乃が指を外すとそれは消える。
陽葵「今の何?もう一回やって。」
志乃「こんなもの残していたのか。貴重な霊嚢石をこんな事に使って。」
陽葵「どういう事?」
志乃「妖怪が自分の記憶を見せたりする技の応用で空間の記憶と再生をする術がある。それをこの香炉に仕込んでいるんだ。」
陽葵「なら今の浜名瀬さんって過去の浜名瀬さん?」
志乃「様子から見るに大きめの呪具の開発中に相談している時のものだな。」
陽葵「どうやって動かしたの?」
志乃「この下の所に霊力を流せばいい。あ。」
陽葵はキラキラした目で志乃を見ている。
陽葵「それ貸して。」
志乃「駄目だ。」
陽葵「何で。私のご先祖が作った物でしょ。」
志乃「保存されているのは私の姿だぞ。」
陽葵「だから見たいの。」
志乃「駄目だ。」
陽葵「その下の所に霊力を流すんだよね。」
志乃「駄目だぞ。」
陽葵「霊力流して無いのに何で伯父さんは浜名瀬さんの姿が見れたの?」
志乃「それはこの霊嚢石のせいだ。これには私の霊力が込められている。電池みたいなものと思ってもらって構わない。」
陽葵「へー。何で今は映ってなかったの?」
志乃「多分劣化だな。」
志乃は香炉を横に置いて落ちた霊嚢石を拾って見てみる。
志乃「これには小さいひびが入っている。ここから霊力が漏れ出た時に記憶が再生されたんだろ。通常は別の操作で霊力を送れるようにしてある。」
陽葵「そうなんだ。」
説明中にも陽葵は香炉の方を見ているので志乃はため息をついて香炉を触るとパチッと音がする。
陽葵「浜名瀬さん。今なにしたの!?」
志乃「中の記憶を消した。」
陽葵「壊したら駄目だって言われてたじゃん。」
志乃「香炉としての機能はある。」
陽葵「壊したことには変わりないよね。」
志乃「壊してはいない。記憶をまた記録すれば使える。」
陽葵「その記憶が大事なんじゃん。」
その時襖が開いて陽葵の伯父さんが入って来た。
陽葵伯父「家系図が見つかったんだが喧嘩か?」
陽葵「伯父さん。」
志乃「幽霊を祓っただけです。もう出ないと思いますよ。」
陽葵伯父「そ、そうか。それでその香炉、、」
志乃「すみません。気になって下を開けてしまいました。元に戻しておきますね。」
陽葵伯父「ああ。それにしてもその下、開ける事が出来たんだな。知らなかったよ。」
志乃は気付かれないように9号に霊嚢石を回収してもらい、香炉を元に戻す。
志乃「ほらいつまで不貞腐れているんだ。行くぞ。」
陽葵「もう少し見たかった。」
志乃「どちらにしろあれをここの家の人に説明できない。」
陽葵「そうだけど。」
志乃達が茶の間に行くと1つの巻物が広げられている。
陽葵「それが家系図?」
陽葵祖母「そうよ。それで志乃ちゃんが言っていた慧玄って人は江戸時代の人なの。よく名前知っていたわね。」
志乃「香炉に書いてありました。」
陽葵伯父「あれ、香炉見る前に言ってなかったか?」
志乃「そうでした?」
陽葵伯父「いや。まあ、いいか。」
陽葵祖母「それでこの人は発明家でね。今でも蔵にはこの人が作った道具があるんだよ。」
陽葵伯父「使用用途が分からないものばかりなのに父は捨てるなって言うんだ。」
陽葵「そう言えばお父さんが消えた日、倉庫の掃除してたかも。」
陽葵伯父「ごめん。嫌な事思い出させたね。」
陽葵「ううん。大丈夫。ねえ、倉庫の中も見ていいかな。」
陽葵伯父「陽葵ちゃんが言うなら良いけど、無理しなくてもいいよ。」
陽葵「浜名瀬さんがいるから大丈夫。」
陽葵伯父「そうか。なら鍵を取って来るよ。」
陽葵「うん。ありがとう。」
志乃「あの香炉に代わる何かを見つけようとしてないだろうな。」
陽葵「へへ。」
志乃「むやみに霊力流すなよ。危ない物も作っていたんだから。」
陽葵「分かったよ。」
それから倉庫に向かうと陽葵の伯父さんが鍵を開けてくれて志乃と陽葵は中に入る。
壁いっぱいに棚があり、箱や見た事の無い道具が並んでいて中には甲冑や金庫などもある。
陽葵伯父「僕は外で待ってるけど気をつけてね。」
陽葵「うん。それじゃ浜名瀬さん行こ。」
志乃「中の物壊すなよ。」
陽葵「大丈夫大丈夫。」
志乃「たまに出てくるその自信はどこから来るんだ。」
志乃と陽葵は倉庫の中に入り、陽葵が棚を物色している間に志乃は霊力に反応するものが無いか調べている。
陽葵「ねえ、浜名瀬さん。ここにも香炉があったよ。」
志乃は少し触って霊力を流してみる。
志乃「これもさっきと同じ呪具だな。」
陽葵「じゃあこれにも何か記憶が入ってるの?」
志乃「それなら本来の使い方しているみたいだから見ても良い。」
陽葵「本来の使い方?」
陽葵は疑問に思ったが、さっき志乃がしたように香炉の下を開けるが玉は出てこず、そのまま指を当てて霊力を流してみる。
すると今度は何かの設計図の様な物が浮かび上がった。
陽葵「なにこれ。」
志乃「本来は自分の発明が誰かに取られないように設計図とかを香炉に偽造して置いておく物なんだ。」
陽葵「へー。じゃあいくつか見つけたけどあれ全部設計図?」
志乃「調べてみないと分からないがそうだろうな。」
陽葵「なら何であれだけ浜名瀬さんの映像が入っていたんだろ。」
志乃「知らん。」
陽葵「装飾もあれだけ凝っていたよね。」
志乃「そうだな。」
陽葵「本当に知らないの?」
志乃「何が言いたい。」
陽葵「いやいや。浜名瀬さんが隠し撮りに気づいて無かった事に疑問がありまして。」
志乃「それだけ心を許してしまっていたのは認めるがそれだけだ。」
陽葵「恋仲とかじゃなかったの?」
志乃「家庭を築くのは一度で十分だ。」
陽葵「え。浜名瀬さん、結婚していたの?」
志乃「ああ。子供もいたが私より先に老いて死んだ。」
陽葵「そんな暗い話サラッと言わないで。」
志乃「もう遠い昔の話だ。」
陽葵「えっと。なんかごめん。」
志乃「何故謝る。」
陽葵「思い出したいものじゃないでしょ。」
志乃「思い出すも何もいつも思っている事だ。」
陽葵「浜名瀬さんはそういう事乗り越えてるんだね。」
志乃「乗り越えてはいない。そこで止まっているから常に頭にあるんだ。」
陽葵「そう、なんだ。」
陽葵はそれから何も言えずに黙ってしまった。
それからは黙々と作業を続ける。
高い場所は志乃が結界を使って登り調べて全て調べ終わった。
志乃「おかしいな。」
陽葵「どうしたの?」
志乃「私はあいつに霊嚢石を10個渡したんだがさっきのも合わせて6個しか見つからない。」
陽葵「江戸時代でしょ。壊れたとか無くなったとかじゃないの?」
志乃「それなら良いんだが今もまだこれが入った呪具があったりしたら怖いんだよな。」
陽葵「そんなに長く持つの?」
志乃「中の霊力を使っていないなら発動する可能性はある。さっきの香炉だって勝手に動いただろ。」
陽葵「そうだったね。」
志乃「無害な物なら良いが危険なものに入っていないか心配だ。」
陽葵「だけど危険だって分かっていて入れっぱなし何てことあるの?」
志乃「動かし方で危険になるものもある。」
陽葵「心配なら何で浜名瀬さんは見に行かなかったの?」
志乃「私の事を忘れていそうな時に一度行ったんだが引越していた。」
陽葵「そうだったんだ。」
志乃「それに私は動かさないなら抜いておくように口酸っぱく言っていたのにあの香炉の他にも2つ呪具の中に入ったままだった。空だったから良かったが。」
陽葵「私のご先祖様いい加減な人だったんだね。」
志乃「何かに集中すると他を忘れる性格だったからな。他が心配だ。」
陽葵「だけど倉庫だけにある事は無いんじゃない?香炉も家にあったんだから。」
志乃「そうか。5号。」
志乃は5号を出して家内を探してもらいもう一度倉庫の中に入って本を取ってくる。
陽葵「なにそれ。」
志乃「あいつが書いた発明品の説明書だ。時間が掛かりそうだから読んで待とうと思う。」
陽葵「へー。」
陽葵は志乃が読んでいる本を覗いてみると絵は何とか分かるがミミズのような字が書いてあって読む事はできない。
陽葵「何て書いてあるの?」
志乃「ここには風を起こす道具の説明が書いてある。これに霊嚢石の1つが入っていたから気になってな。まあ、無害そうなやつで良かったよ。」
陽葵「そうなんだ。もう1つは何に入っていたの?」
志乃「ちょっと待って。」
志乃はページをパラパラと巡る。
志乃「多分これだな。猫の鳴き声を発する道具。ネズミ避けに作ったらしいが効果無かったのなら抜いておけば良いのに。」
陽葵「浜名瀬さんはこの字よく読めるね。」
志乃「教えてもらったからな。」
陽葵「教えて貰ったって?」
志乃「これは暗号だ。」
陽葵「私には汚い字にしか見えないよ。」
志乃「慧玄の字はお前とは違って綺麗だったぞ。」
陽葵「一言余計じゃない?」
志乃「事実だ。」
そんな話をしていると5号が戻って来て2個の霊嚢石を持っている。
志乃「空が2つに使いさしが2つ、未使用は1つで壊れているのが3つか。まだ2つ足りないな。」
陽葵伯父「おーい。何か見つかったかい?」
志乃はその声を聞いて霊嚢石を竹筒の中に入れる。
陽葵伯父「おや、その本。汚い字で読めないだろ。」
志乃「絵を見ていました。」
陽葵「ねえ伯父さん。この香炉少し貸してもらってもいい?」
陽葵伯父「香炉?さっきみたいに幽霊でも出るのかい?」
陽葵「出るかもしれないから試したいの。」
陽葵伯父「そうか。よくわからないけど壊したりはしないでね。」
陽葵「うん。」
陽葵伯父「志乃ちゃんも気になる物があればいいよ。帰る時までに倉庫に戻しておいてくれればいいから。」
志乃「はい。じゃあこの本と、、」
志乃はそう言って本をもう一冊と少し大きめの鈴を持って来た。
それは古く所々錆びていて中の玉も無いようで音も鳴らず、装飾も紐で黒ずんだ布が結び付けられているだけだ。
陽葵伯父「それでいいの?」
志乃「はい、しばらく貸していただけませんか?」
陽葵伯父「別にいいけど、、なんでそんなガラクタが良いの?」
志乃「少し気になっただけです。」
陽葵伯父「そうか。それなら無くなっても問題無さそうだし持って行ってもらってもいいよ。」
志乃「ですがここのお爺さんは蔵の中の物は捨てるなと言っていたんでしょ?」
陽葵伯父「捨てるなとは言っててもあげるなとは言われてないからね。どうせ無くなっても気付かないよ。」
志乃「ありがとうございます。」
陽葵伯父「本は返してね。」
志乃「はい。」
陽葵「え、それ貰うの?ガラクタだよ。」
志乃「壊すかもしれないからその方が良い。」
陽葵「これ何に使うの?」
志乃「...。」
陽葵「浜名瀬さん?」
志乃「なあ、約束覚えているか?」
陽葵「約束?」
志乃「去年の夏休みにした約束だ。」
陽葵「もしかして消えるなってやつ?」
志乃「ああ。消えない。消えても戻ってくると言っただろ。」
陽葵「なんで今それを言うの?」
志乃「1つだけ破っても良いか?」
陽葵「何で。」
志乃「気になる事が出来た。」
陽葵「嫌だよ。約束したもん。」
志乃「お前の親戚にも迷惑をかける。」
陽葵「余計駄目じゃん。」
志乃「戻ってくる。それだけは守るから。」
陽葵「やだ。どこ行くの?私も連れてってよ。」
志乃「残念ながら1つしか見つからなかった。」
陽葵「もしかしてその鈴が関係あるの?」
志乃「そうだ。」
志乃は鈴を竹筒の中に入れる。
陽葵「あ!出してよ。それ私のご先祖様が作った物でしょ。」
志乃「私が貰ったものだ。」
陽葵「ならずっと浜名瀬さんから離れないから。」
志乃「好きにしろ。」
志乃は黙っておけば良かったかもと少し後悔していた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。