30話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
志乃の踊りが終わると雫が話しかけてくる。
雫「ねえ、浜名瀬さん。それに続きがあるのは知ってる?」
志乃「ああ。だがあの時は人が変わって2人で踊っていたから私には無理だぞ。」
雫「なら私と踊ってくれない?」
志乃「知っているのか?」
焔「雫も踊るのか?」
雫「そうよ。」
焔「楽しみだな。」
雫「あ。だけど白布ってあるの?」
志乃「あるぞ。」
1号と9号が竹筒から4,5mほどの鈴をつけた白い布の端を持って来る。
雫「何でもあるのね。」
志乃「神楽鈴は出し入れできなかったけど。」
雫「竹筒を通るなら大体ありそうね。」
志乃「雫はどっちやるんだ?」
雫「どっちでもいいわよ。」
志乃「なら私が左でも良いか?そっちの方が覚えているから。」
雫「ええ。」
志乃「、、身長差あるな。」
志乃と雫が並ぶと志乃の方が背が高く、一緒に踊るには少しやりずらいので志乃は雫の背と同じになるまで小さくなる。
雫「便利ね。」
志乃「服は変えられないけどな。茂蔵、良いか?」
茂蔵「おう。」
茂蔵は志乃と雫の服を巫女の服に変える。
雫「私も?」
茂蔵「それだと動きにくそうだったからな。一緒に踊るなら合わせた方が良いだろ。」
雫「そうね。ありがとう。」
それから志乃と雫は息の合った踊りを踊り、それが終わるとポツポツと雨が降ってくる。
志乃「降ってきたな。」
雫「雨乞いだもの。」
志乃「素人が踊っても降るものなのか?」
雫「私は雨女よ。」
志乃「そういうものなのか。」
焔「雫。かっこよかったぞ。」
雫「かっこいいって他に言うことあるでしょ。」
焔「俺とも踊ってくれ。」
雫「あなた振り付け知ってるの?」
焔「振り付けって?」
雫「知らないのにどう踊るつもりよ。」
樹霧之介「2人とも息が合っていて綺麗でした。」
志乃「雫が合わせてくれて踊りやすかったんだ。雫にこんな特技があったなんて知らなかったよ。」
樹霧之介「僕も初めて知りました。動く事はあまり好きでは無いと思っていましたから。」
茂蔵「いつも動きにくそうな着物着ているもんな。」
志乃「あ、茂蔵。私の服、戻してくれないか?」
茂蔵「何でだ?」
志乃「この姿に慣れてないから維持が大変なんだ。元の姿に戻りたい。」
茂蔵「それなら。」
志乃は茂蔵に衣装を戻してもらい、元の姿に戻る。
雫「浜名瀬さんを戻すなら私のも戻してよ。」
志乃「雫は戻ったら動きにくいだろ。」
雫「でもこの格好は、、」
茂蔵「おいらも踊りたかったんだ。一緒に踊ろうぜ。」
雫は茂蔵に連れられて焔が待つ舞台代わりの場所へ連れられて、焔と茂蔵は振り付けも無く自由に踊り、雫は踊っているというよりかは焔と茂蔵に振り回されている様にも見える。
だがしばらくすると雨が本格的に降って来たので木の下に避難した。
真琴「降って来たわね。」
樹霧之介「あれ?白蛇さんはどこでしょう?」
いつの間にか白蛇の姿が無くなっていて辺りを見渡すと井戸に入る白蛇の姿があった。
井戸には雨水が入り水かさが増えていて、その中に白蛇が入ると低く唸るような雷鳴が鳴り、井戸から白い雲の様なものが渦を巻いて空に昇って行った。
途端に雷鳴が鳴り響き雨が滝の様に降るが、すぐに弱くなり雲の切れ目から星空がのぞいてくると空から声が響く。
白蛇?「ありがとう。」
突然の事でしばらく誰も何も言えず静寂な時間が流れる。
志乃「帰るか。」
樹霧之介「そうですね。」
志乃の言葉を皮切りに帰り支度を始めそれぞれ帰路に着くがその頃には朝日が昇り始めていた。
その日の朝、学校の休み時間に陽葵は澄花に問い詰められている。
澄花「ねえ、陽葵。真夜中に廃村に行っていた人達が泥だらけで帰って来たって聞いたんだけど何かあなたの師匠から聞いてない?」
陽葵「聞いてないよ。あの後連絡も無かったんだから。」
澄花「白い大蛇を見たって言っていたけど陽葵の師匠、無事だよね?」
陽葵「無事だと思うよ。」
陽葵は珍しく眠そうな志乃の方をチラッと見る。
澄花「だけど連絡も無いんでしょ?怪我とかしてない?」
陽葵「連絡がないのはいつもの事だから。」
澄花「陽葵は何でそんなに楽観的なの?心配じゃないの?」
陽葵「えっと。」
澄花「ねえ。師匠の住んでいる所とか知らない?」
陽葵「知らないよ。」
澄花「何で?」
陽葵「何でと言われても、、」
それからも陽葵は休み時間が終わるまで質問攻めにあっていた。
そして放課後になり志乃と陽葵が2人一緒に帰ると昨日の話になる。
陽葵「浜名瀬さん。昨日どうだったの?」
志乃「白蛇の住処を荒らしていたから掃除をさせた。それだけだ。」
陽葵「やっぱり浜名瀬さんも関わってたんだ。」
志乃「あのままだと怪我じゃすまなかったからな。」
陽葵「今日、ずっと眠そうなのも深夜まで何かしてたの?」
志乃「色々とな。」
陽葵「そうなんだ。」
志乃「今日は静かなんだな。」
陽葵「もうずっと質問攻めで疲れたよ。」
志乃「そうだったな。」
陽葵「浜名瀬さん何で助けてくれなかったの?」
志乃「どう助けろと?」
陽葵「まあ、そうなんだけど。師匠の設定くらい考えても良いんじゃない?」
志乃「設定?」
陽葵「そう。それを話せば質問され続ける事は無いんじゃないかな。」
志乃「そういうものか、、」
陽葵「だから一緒に考えて。」
志乃「私は今日眠いんだ。勝手に考えてくれ。」
陽葵「明日は学校休みだよ。明日でもいいんだよ。」
志乃「明日は本を書き直そうと思っている。」
陽葵「なら勝手に考えるよ。」
志乃「そうしてくれ。」
それから志乃が帰るとアパートの玄関前に雫が立っているのが見える。
志乃「雫、どうした?」
雫「あ、話したい事があって。今時間大丈夫?」
志乃「大丈夫だ。まあ入れ。」
雫「お邪魔します。」
志乃が扉を開けて雫を中に入れる。
雫「何もないのね。」
志乃「ごちゃごちゃしても暮らしにくいからな。」
雫「竹筒に物、入れれるものね。」
志乃「正確には違うぞ。」
雫「どういうこと?」
志乃「竹筒の出入り口は私が持っているこれとは別にもう一つあってそっちから出入りして持って来てもらっているんだ。」
雫「なら道具を置いている場所があるってこと?」
志乃「竹筒に繋がっている隠里は小さいからな。」
雫「へー。」
志乃「見てもらった方が早いな。」
志乃は押入れを開けて屋敷に繋がる入り口に入り雫はそれを呆然と見ていた。
志乃「雫も来てくれ。」
志乃は顔を出して雫を呼ぶ。
雫「今行くわ。」
雫が中に入ると大きな屋敷が目の前に現れる。
雫「こんなところがあったのね。」
志乃「生活する時は大体あっちだけどな。」
雫「何で?」
志乃「なんとなく。」
雫「まあ、詳しくは聞かないわよ。」
志乃「この辺で良いかな。」
志乃は庭の見える縁側に座り隣に座るように雫を手招く。
志乃「それで雫は何の話をしに来たんだ?」
雫「えっと。浜名瀬さんは雨乞いの舞を何処で見たのかなと思ったの。」
志乃「あれは黒丸と仕事の帰り道だったな。妖ノ郷への入り口が近くに無かったからその場所まで歩いて移動していたら畑の方で声がして気になったから見に行ったんだ。そしたら雨乞いの儀式をしていた。」
雫「よくそんなの覚えていたわね。」
志乃「なんか印象に残っていたんだ。雫は何でそんな事聞きに来たんだ?」
雫「...。」
志乃「言いたくないならいいぞ。」
雫「私、生前は巫女だったの。雨乞いの儀式をしていたわ。」
志乃「ならその時にあれも踊っていたのか。」
雫「私が踊ったのは浜名瀬さんが最初に踊った1人で踊るところだけよ。」
志乃「だが2人の方も踊れていたよな。」
雫「見てたの羨ましかったから。」
志乃「羨ましい?」
雫「私は特定の人以外とは触れ合ってはいけなかったの。穢れるから。」
志乃「穢れ、生贄か。」
雫「ええ。初めはそれが何を意味するかは分かっていなかった。いい子にしていれば他の子達と同じように扱ってくれると思っていた。だから踊りも練習したし、部屋から出てはいけないという言い付けも守ってきた。なのに、、」
志乃は言葉に詰まる雫の背中を優しく撫でる。
雫「、、私が世話係以外の人の顔を見れるのは雨乞いの儀式だけだった。後は暗い部屋で人が近寄らないように管理されて生きてきた。そして長雨で飢饉が起きた時に私は、私、、」
志乃「無理するな。」
隠里にあり、天候が変わらない屋敷に雨が静かに降り出した。
雫「ごめんなさい。雨、迷惑よね。」
志乃「ここに雨を降らせないのは私には降らすことができないからだ。たまにはこんな天気も悪くない。」
雫「そう。、、私の最後の務めは岩の中で災いを鎮める事だった。ずっと出口の岩が動くのを待ったけど生きている間に動くことは結局無かったわ。雨を止ませるために生贄にされた人間が雨を降らす妖怪に生まれ変わるなんて皮肉よね。」
志乃「そんな勝手な人間の考えに振り回される事は無いさ。確かに天気は人の命を救うし、奪うこともある。だからってそれを操作しようとして何も知らない子供の命を使うのは違う。お前が悩むことじゃない。」
雫「、、そうよね。ありがとう。少し楽になったわ。」
志乃「なら良かった。また何かあれば気軽に来ていいんだぞ。」
雫「そうさせてもらおうかしら。それで、この雨だけどもう少し降りそうなんだけど大丈夫?」
志乃「雨は嫌いじゃない。むしろこのままの方が寝れそうだ。」
雫「そう言えば今日も学校あったのよね。もしかしてあれから寝てないの?」
志乃「昔は徹夜しても大丈夫だったんだけどな。長い間寝ていたせいか最近は眠い事が多いな。」
雫「こんな時にごめんなさい。断ってくれても良かったのに。」
志乃「時間が経ったら話せないこともあるだろ。明日は学校が休みだから大丈夫だ。」
雫「私はこれで帰るわね。」
志乃「見送るよ。」
雫「大丈夫よ。」
志乃「戸締りしたい。」
雫「、、それなら。」
志乃が雫を玄関まで見送ると焔がアパートの近くまで来ていた。
雫「ありがとうね。」
志乃「ああ。またな。」
雫「ええ。」
焔「雫。俺に黙って何で志乃の所来てるんだよ。俺も混ざりたかった。」
雫「浜名瀬さんに迷惑掛からないように1人で来たの。」
焔「迷惑なんて掛けない。」
雫「これまでを振り返ってもそんなこと言える?」
迷惑そうながらも笑う雫を見てから志乃はアパートの戸締りをすると屋敷の方へ戻り縁側で寝転がると雨の音を聞きながらボーと昔を思い出す。
雨乞いを踊る少女は多くの人に囲まれながらも寂しそうでずっと何かを見ていた。
人に囲まれ、求められて居場所がある、そんな自分と逆の立場にあるはずの人間が柚子と出会う前の自分と重なり気になっていたのだ。
志乃「裏では同じだったのか。」
気にはなったが妖怪は関連していないからと雨乞いの儀式だけ見て帰った事を少し後悔したが樹霧之介が見つけてくれて今は笑っていることに安堵していた。
そんなことを考えているといつの間にか寝てしまっていた。
起きると雨は止んでいて、アパートへ出て外をみると朝になっていた。
志乃は屋敷に戻り、陽葵に渡すための本を書き始める。
しばらく書いていると集中力が切れてきたので気分転換に散歩でもしようと外に出るともう昼過ぎになっていた。
公園のベンチで管狐達と陽にあたっていると声をかけられる。
陽葵「浜名瀬さんいた。」
志乃「どうした?」
陽葵「師匠の設定考えたんだけど浜名瀬さん居ないかなって探してみたら管狐の妖気を感じて来ちゃった。」
志乃「そう言えばそんな事言っていたな。」
陽葵「少し見てみてよ。」
陽葵に差し出されたノートを見てみると最初の1ページにだけ陽葵が考えたであろう設定が書かれていて他のページは真っ白だった。
志乃「わざわざ新しいノートを使ったのか?」
陽葵「家にあるノートで書いて良いノート、これくらいしか無かったから。」
志乃「妖怪の写本をしていたノートは無いのか?」
陽葵「だけどまた続きするでしょ?」
志乃「やり直すなら別のノートでもいいんじゃないのか?」
陽葵「まさか最初からって本気だったの?」
志乃「覚えるための写本だぞ。覚えていないのならもう一回だ。」
陽葵「えー。」
志乃「まあ、まだ内容の整理に時間が掛かるから今は他の事をしてくれ。」
陽葵「他の事って?」
志乃「今は霊力の量を増やす事を考えてくれ。そうすれば次は結界符1枚でも結界を張れる方法を教えるから。」
陽葵「また結界符?」
志乃「攻撃系の札は霊力が足りないと発動しても効果が無いか薄いんだ。しかも近づかないといけないから身体強化もできない陽葵には危険だ。」
陽葵「なら、霊力増えたら身体強化を教えてくれるの?」
志乃「ああ。もう少し増えたら体の一部分を強化するくらいなら出来そうだからな。」
陽葵「なら頑張る。」
志乃「それで式神の方はどれくらい進んだんだ?」
陽葵「そうそう。結構動かせるようになったんだよ。」
そう言って陽葵は自分で作った式神を取り出してベンチの空いたスペースで動かして見せる。
志乃「良い感じだな。これなら感覚共有も教えていいかもな。」
陽葵「やった。いつ教えてくれるの?」
志乃「明日にでもお前の家行こうか。」
陽葵「今からでもいいよ。なんなら此処でもいいよ。」
志乃「感覚共有は意識を式神に移すような感じなんだ。その間は体の方が無防備になるから誰からも見られない安全な場所でやりたい。」
陽葵「そうなんだ。」
志乃「だが今からでもいいのなら陽葵の家へ移動するか。」
陽葵「うん。今から行こう。」
志乃「その方がお昼を付き合わなくてもいいからな。」
志乃はボソッと呟く。
陽葵「あ。私まだお昼ご飯まだなんだけど浜名瀬さんも何か食べる?」
志乃「やっぱり明日にするか。」
陽葵「え、なんで?」
志乃「お前に渡す本の続きを書く。」
陽葵「ゆっくりでいいよ。」
志乃「呪具を渡してしまったから早めに覚えてほしいんだがまあ、明日でもいいんだよな。」
陽葵「なら今から来てよ。」
志乃「行くのはいいが私はお昼は要らないぞ。」
陽葵「えー。まあ、今日は帰りに何か買って帰るよ。」
志乃「そうしてくれ。」
志乃と陽葵はコンビニでおにぎりを買った後、陽葵の家へ行く。
志乃「お前がご飯食べている間に軽く説明するぞ。」
陽葵「ふぁい。」
志乃「口に物入っているときに喋るな。」
陽葵はこくこくと頷く。
志乃「式神には自分の精神の一部を移すことができるんだ。今は霊力だけで動かしているが精神を移して操作できればもっと色々な動きもできる。」
陽葵は口の中のおにぎりを呑み込んでから喋る。
陽葵「そんな事出来るの?」
志乃「黒丸は本体から精神を離しているだろ。あんな感じだ。」
陽葵「だけどそれで本体から離れられないんでしょ?」
志乃「黒丸の場合は妖力であの状態を保っているからな本体から離れると維持できないんだ。お前が目指すのは式神を依り代に精神の一部を移すだけだから大丈夫だ。」
陽葵「へー。樹霧之介のお父さんも同じ事すれば遠くに行けるの?」
志乃「遠くを見ることくらいはできるだろうが喋ったりとかは難しいだろうな。」
陽葵「そっか。」
志乃「食べ終わったら早速やってみるぞ。」
陽葵「そんな簡単に言うけど少し怖いんだけど。」
志乃「なら止めとくか?」
陽葵「やる。」
それから志乃はご飯を食べ終わった陽葵に精神を移す方法を教える。
陽葵「やるとは言ったけど精神を切り離すってどうするの?」
志乃「まずは幽体離脱してもらおうと思う。」
陽葵「それって前に狂骨が浜名瀬さんにしたやつ?」
志乃「あれは魂を取り出されたんだ。今回は精神だけを取り出す。」
陽葵「そんなことしても大丈夫なの?」
志乃「魂を取り出されたら魂と体との繋がりが無くなれば死ぬが、精神の場合は帰り道が分かれば大丈夫だ。」
陽葵「さらっと言ったけどあの時の浜名瀬さん本当に危なかったんだ。」
志乃「私の場合、例えそうなっても人魚の効果で生命維持されるから戻れれば大丈夫だ。」
陽葵「それでもあの時は怖かったよ。」
志乃「お前が招いたことでもあるんだぞ。それよりどちらでもいいから手を出せ。」
陽葵「反省してます。」
そう言いながら陽葵は右手を志乃に差し出すと、志乃はいつの間にか取り出していた筆で陽葵の手の甲に何かを描く。
陽葵「これは?」
志乃「還路印だ。離した精神の帰り道を示すために付けるものだから消すなよ。」
陽葵「うん。」
志乃「今から全精神を体から離す。」
陽葵「大丈夫なの?」
志乃「帰り道さえ分かれば大丈夫だ。」
陽葵「その為の印なんだね。」
志乃「ああ。たまにだが間違えて他の体に入る事があるからな。」
陽葵「そんなことあるの?」
志乃「間違えて小動物や虫などの精神の弱い生き物の体に入る事がある。」
陽葵「もしそうなったら?」
志乃「もしもそんなことになれば合図を送ってくれ、また精神を離してやるから。」
陽葵「それって入った体の精神は大丈夫?」
志乃「元々の体でないなら離れやすい。陽葵の精神だけを離す事はできる。」
陽葵「そうなんだ。」
志乃「心の準備が整ったら言ってくれ。始めるから。」
陽葵「いつでもいいよ。」
志乃「それならまずは床に寝て力を抜いてくれ。」
陽葵「うん。」
陽葵はその場に仰向けに寝る。
志乃「そうだ。精神だけの状態では私も見る事も声を聞くこともできないから意思疎通は出来ないと思ってくれ。」
陽葵「それ最初に言ってよ。」
志乃「常識だから伝える事として認識してなかった。」
陽葵「そんな常識知らないから。」
志乃「だから今教えただろ。」
陽葵「あれ?それなら樹霧之介のお父さんは何で喋れるの?」
志乃「妖力で器を作っているんだ。」
陽葵「へー。」
志乃「初めてもいいか?」
陽葵「もう伝え忘れとか無いよね?」
志乃「、、多分。」
陽葵「怖いんだけど。」
志乃「まあ、精神だけでもこっちの言う事は分かるから伝え忘れがあればその場で言うよ。」
陽葵「大丈夫だよね?」
志乃「還路印があれば他の体に入ったりとかしていなければ牽念符で精神を戻せる。」
陽葵「精神を離すお札もあるの?」
志乃「それは離念符だな。」
陽葵「えっと。精神が離れたら私は何をすればいいの?」
志乃「その状態に慣れることが目的だから自由に動けるようになったら体に戻ってくれ。」
陽葵「分かった。」
志乃「他に聞きたいことあるか?」
陽葵「、、大丈夫かな。」
志乃「それじゃ目を閉じてくれ。」
陽葵が目を閉じると志乃は離念符を貼る。
すると陽葵は一瞬何かに引き寄せられる感じがして目を開けると空中に浮いていて下には自分が寝ていてそれを見守る志乃の姿が見える。
精神だけの状態の陽葵は動いてみようとするが上手く動けない。
正確には手足は動かせるが移動ができないのだ。
足の下に地面があるわけではないので足をただ動かしても進めるわけではない。
コツを志乃に聞こうにも声は届いてなさそうだ。
陽葵はただ浮きながら手足をバタバタしていると泳ぐ要領で前に進むことが分かる。
すると志乃がポツリと呟く。
志乃「あ。陽葵に泳げるか聞くのを忘れてた。まあ、プールの授業もあったから大丈夫か。」
陽葵はそれを聞いて文句を言おうと思ったが今はこの状態に慣れる事を優先する。
しばらくすると色々と分かってきてこの状態では物に触れる事ができないので壁もすり抜けて外に行くことができる。
そして志乃が言っていたように姿も見えていないようで陽葵が志乃の顔を覗き込んでも志乃は無反応だったので悪戯しようと思ったが何もかもすり抜けるのにどうやって悪戯しようか考えていると体に近付き過ぎて体の方に吸い込まれてしまう。
一瞬で目の前が暗くなり、目を開けると志乃がいて体が重い。
志乃「どうだった?」
陽葵「フワフワ浮いててちょっと楽しかった。今は体が重い。」
志乃「そうか。」
陽葵「あ、浜名瀬さん。もしも私が泳げなかったらどうするつもりだったの?」
志乃「あまりに帰りが遅いなら牽念符を使うつもりだったよ。精神だけの状態に慣れる事が目的だし、式神に精神を移せば泳げるかどうかは関係ないからな。」
陽葵「だけどさっきなにか呟いていたよね。」
志乃「どちらかと言えば自分で戻れた方が良いからな。」
陽葵「浜名瀬さんいつも説明が足りないよ。」
志乃「やってみれば分かるだろ?」
陽葵「そういう問題じゃない。」
志乃「まあ、次にいくか。」
陽葵「話を逸らさないでよ。」
志乃「ほら、式神を出せ。」
陽葵「分かったよ。」
それから陽葵は志乃に式神に精神を移す術を教えてもらい、短い間だけだが式神と感覚を共有することが出来るようになった頃には外は薄暗くなっていた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。