表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/41

30話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

志乃(しの)の踊りが終わると(しずく)が話しかけてくる。

(しずく)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さん。それに続きがあるのは知ってる?」

志乃(しの)「ああ。だがあの時は人が変わって2人で踊っていたから私には無理だぞ。」

(しずく)「なら私と踊ってくれない?」

志乃(しの)「知っているのか?」

(ほむら)(しずく)も踊るのか?」

(しずく)「そうよ。」

(ほむら)「楽しみだな。」

(しずく)「あ。だけど白布ってあるの?」

志乃(しの)「あるぞ。」

1号と9号が竹筒から4,5mほどの鈴をつけた白い布の端を持って来る。

(しずく)「何でもあるのね。」

志乃(しの)「神楽鈴は出し入れできなかったけど。」

(しずく)「竹筒を通るなら大体ありそうね。」

志乃(しの)(しずく)はどっちやるんだ?」

(しずく)「どっちでもいいわよ。」

志乃(しの)「なら私が左でも良いか?そっちの方が覚えているから。」

(しずく)「ええ。」

志乃(しの)「、、身長差あるな。」

志乃(しの)(しずく)が並ぶと志乃(しの)の方が背が高く、一緒に踊るには少しやりずらいので志乃(しの)(しずく)の背と同じになるまで小さくなる。

(しずく)「便利ね。」

志乃(しの)「服は変えられないけどな。茂蔵(もぞう)、良いか?」

茂蔵(もぞう)「おう。」

茂蔵(もぞう)志乃(しの)(しずく)の服を巫女の服に変える。

(しずく)「私も?」

茂蔵(もぞう)「それだと動きにくそうだったからな。一緒に踊るなら合わせた方が良いだろ。」

(しずく)「そうね。ありがとう。」

それから志乃(しの)(しずく)は息の合った踊りを踊り、それが終わるとポツポツと雨が降ってくる。

志乃(しの)「降ってきたな。」

(しずく)「雨乞いだもの。」

志乃(しの)「素人が踊っても降るものなのか?」

(しずく)「私は雨女よ。」

志乃(しの)「そういうものなのか。」

(ほむら)(しずく)。かっこよかったぞ。」

(しずく)「かっこいいって他に言うことあるでしょ。」

(ほむら)「俺とも踊ってくれ。」

(しずく)「あなた振り付け知ってるの?」

(ほむら)「振り付けって?」

(しずく)「知らないのにどう踊るつもりよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「2人とも息が合っていて綺麗でした。」

志乃(しの)(しずく)が合わせてくれて踊りやすかったんだ。(しずく)にこんな特技があったなんて知らなかったよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕も初めて知りました。動く事はあまり好きでは無いと思っていましたから。」

茂蔵(もぞう)「いつも動きにくそうな着物着ているもんな。」

志乃(しの)「あ、茂蔵(もぞう)。私の服、戻してくれないか?」

茂蔵(もぞう)「何でだ?」

志乃(しの)「この姿に慣れてないから維持が大変なんだ。元の姿に戻りたい。」

茂蔵(もぞう)「それなら。」

志乃(しの)茂蔵(もぞう)に衣装を戻してもらい、元の姿に戻る。

(しずく)浜名瀬(はまなせ)さんを戻すなら私のも戻してよ。」

志乃(しの)(しずく)は戻ったら動きにくいだろ。」

(しずく)「でもこの格好は、、」

茂蔵(もぞう)「おいらも踊りたかったんだ。一緒に踊ろうぜ。」

(しずく)茂蔵(もぞう)に連れられて(ほむら)が待つ舞台代わりの場所へ連れられて、(ほむら)茂蔵(もぞう)は振り付けも無く自由に踊り、(しずく)は踊っているというよりかは(ほむら)茂蔵(もぞう)に振り回されている様にも見える。

だがしばらくすると雨が本格的に降って来たので木の下に避難した。

真琴(まこと)「降って来たわね。」

樹霧之介(きりのすけ)「あれ?白蛇(しろへび)さんはどこでしょう?」

いつの間にか白蛇(しろへび)の姿が無くなっていて辺りを見渡すと井戸に入る白蛇(しろへび)の姿があった。

井戸には雨水が入り水かさが増えていて、その中に白蛇(しろへび)が入ると低く唸るような雷鳴が鳴り、井戸から白い雲の様なものが渦を巻いて空に昇って行った。

途端に雷鳴が鳴り響き雨が滝の様に降るが、すぐに弱くなり雲の切れ目から星空がのぞいてくると空から声が響く。

白蛇(しろへび)?「ありがとう。」

突然の事でしばらく誰も何も言えず静寂な時間が流れる。

志乃(しの)「帰るか。」

樹霧之介(きりのすけ)「そうですね。」

志乃(しの)の言葉を皮切りに帰り支度を始めそれぞれ帰路に着くがその頃には朝日が昇り始めていた。

その日の朝、学校の休み時間に陽葵(ひまり)澄花(すみか)に問い詰められている。

澄花(すみか)「ねえ、陽葵(ひまり)。真夜中に廃村に行っていた人達が泥だらけで帰って来たって聞いたんだけど何かあなたの師匠から聞いてない?」

陽葵(ひまり)「聞いてないよ。あの後連絡も無かったんだから。」

澄花(すみか)「白い大蛇を見たって言っていたけど陽葵(ひまり)の師匠、無事だよね?」

陽葵(ひまり)「無事だと思うよ。」

陽葵(ひまり)は珍しく眠そうな志乃(しの)の方をチラッと見る。

澄花(すみか)「だけど連絡も無いんでしょ?怪我とかしてない?」

陽葵(ひまり)「連絡がないのはいつもの事だから。」

澄花(すみか)陽葵(ひまり)は何でそんなに楽観的なの?心配じゃないの?」

陽葵(ひまり)「えっと。」

澄花(すみか)「ねえ。師匠の住んでいる所とか知らない?」

陽葵(ひまり)「知らないよ。」

澄花(すみか)「何で?」

陽葵(ひまり)「何でと言われても、、」

それからも陽葵(ひまり)は休み時間が終わるまで質問攻めにあっていた。

そして放課後になり志乃(しの)陽葵(ひまり)が2人一緒に帰ると昨日の話になる。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん。昨日どうだったの?」

志乃(しの)白蛇(しろへび)の住処を荒らしていたから掃除をさせた。それだけだ。」

陽葵(ひまり)「やっぱり浜名瀬(はまなせ)さんも関わってたんだ。」

志乃(しの)「あのままだと怪我じゃすまなかったからな。」

陽葵(ひまり)「今日、ずっと眠そうなのも深夜まで何かしてたの?」

志乃(しの)「色々とな。」

陽葵(ひまり)「そうなんだ。」

志乃(しの)「今日は静かなんだな。」

陽葵(ひまり)「もうずっと質問攻めで疲れたよ。」

志乃(しの)「そうだったな。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん何で助けてくれなかったの?」

志乃(しの)「どう助けろと?」

陽葵(ひまり)「まあ、そうなんだけど。師匠の設定くらい考えても良いんじゃない?」

志乃(しの)「設定?」

陽葵(ひまり)「そう。それを話せば質問され続ける事は無いんじゃないかな。」

志乃(しの)「そういうものか、、」

陽葵(ひまり)「だから一緒に考えて。」

志乃(しの)「私は今日眠いんだ。勝手に考えてくれ。」

陽葵(ひまり)「明日は学校休みだよ。明日でもいいんだよ。」

志乃(しの)「明日は本を書き直そうと思っている。」

陽葵(ひまり)「なら勝手に考えるよ。」

志乃(しの)「そうしてくれ。」

それから志乃(しの)が帰るとアパートの玄関前に(しずく)が立っているのが見える。

志乃(しの)(しずく)、どうした?」

(しずく)「あ、話したい事があって。今時間大丈夫?」

志乃(しの)「大丈夫だ。まあ入れ。」

(しずく)「お邪魔します。」

志乃(しの)が扉を開けて(しずく)を中に入れる。

(しずく)「何もないのね。」

志乃(しの)「ごちゃごちゃしても暮らしにくいからな。」

(しずく)「竹筒に物、入れれるものね。」

志乃(しの)「正確には違うぞ。」

(しずく)「どういうこと?」

志乃(しの)「竹筒の出入り口は私が持っているこれとは別にもう一つあってそっちから出入りして持って来てもらっているんだ。」

(しずく)「なら道具を置いている場所があるってこと?」

志乃(しの)「竹筒に繋がっている隠里(かくれざと)は小さいからな。」

(しずく)「へー。」

志乃(しの)「見てもらった方が早いな。」

志乃(しの)は押入れを開けて屋敷に繋がる入り口に入り(しずく)はそれを呆然と見ていた。

志乃(しの)(しずく)も来てくれ。」

志乃(しの)は顔を出して(しずく)を呼ぶ。

(しずく)「今行くわ。」

(しずく)が中に入ると大きな屋敷が目の前に現れる。

(しずく)「こんなところがあったのね。」

志乃(しの)「生活する時は大体あっちだけどな。」

(しずく)「何で?」

志乃(しの)「なんとなく。」

(しずく)「まあ、詳しくは聞かないわよ。」

志乃(しの)「この辺で良いかな。」

志乃(しの)は庭の見える縁側に座り隣に座るように(しずく)を手招く。

志乃(しの)「それで(しずく)は何の話をしに来たんだ?」

(しずく)「えっと。浜名瀬(はまなせ)さんは雨乞いの舞を何処で見たのかなと思ったの。」

志乃(しの)「あれは黒丸(くろまる)と仕事の帰り道だったな。妖ノ郷(あやかしのさと)への入り口が近くに無かったからその場所まで歩いて移動していたら畑の方で声がして気になったから見に行ったんだ。そしたら雨乞いの儀式をしていた。」

(しずく)「よくそんなの覚えていたわね。」

志乃(しの)「なんか印象に残っていたんだ。(しずく)は何でそんな事聞きに来たんだ?」

(しずく)「...。」

志乃(しの)「言いたくないならいいぞ。」

(しずく)「私、生前は巫女だったの。雨乞いの儀式をしていたわ。」

志乃(しの)「ならその時にあれも踊っていたのか。」

(しずく)「私が踊ったのは浜名瀬(はまなせ)さんが最初に踊った1人で踊るところだけよ。」

志乃(しの)「だが2人の方も踊れていたよな。」

(しずく)「見てたの羨ましかったから。」

志乃(しの)「羨ましい?」

(しずく)「私は特定の人以外とは触れ合ってはいけなかったの。穢れるから。」

志乃(しの)「穢れ、生贄か。」

(しずく)「ええ。初めはそれが何を意味するかは分かっていなかった。いい子にしていれば他の子達と同じように扱ってくれると思っていた。だから踊りも練習したし、部屋から出てはいけないという言い付けも守ってきた。なのに、、」

志乃(しの)は言葉に詰まる(しずく)の背中を優しく撫でる。

(しずく)「、、私が世話係以外の人の顔を見れるのは雨乞いの儀式だけだった。後は暗い部屋で人が近寄らないように管理されて生きてきた。そして長雨で飢饉が起きた時に私は、私、、」

志乃(しの)「無理するな。」

隠里(かくれざと)にあり、天候が変わらない屋敷に雨が静かに降り出した。

(しずく)「ごめんなさい。雨、迷惑よね。」

志乃(しの)「ここに雨を降らせないのは私には降らすことができないからだ。たまにはこんな天気も悪くない。」

(しずく)「そう。、、私の最後の務めは岩の中で災いを鎮める事だった。ずっと出口の岩が動くのを待ったけど生きている間に動くことは結局無かったわ。雨を止ませるために生贄にされた人間が雨を降らす妖怪に生まれ変わるなんて皮肉よね。」

志乃(しの)「そんな勝手な人間の考えに振り回される事は無いさ。確かに天気は人の命を救うし、奪うこともある。だからってそれを操作しようとして何も知らない子供の命を使うのは違う。お前が悩むことじゃない。」

(しずく)「、、そうよね。ありがとう。少し楽になったわ。」

志乃(しの)「なら良かった。また何かあれば気軽に来ていいんだぞ。」

(しずく)「そうさせてもらおうかしら。それで、この雨だけどもう少し降りそうなんだけど大丈夫?」

志乃(しの)「雨は嫌いじゃない。むしろこのままの方が寝れそうだ。」

(しずく)「そう言えば今日も学校あったのよね。もしかしてあれから寝てないの?」

志乃(しの)「昔は徹夜しても大丈夫だったんだけどな。長い間寝ていたせいか最近は眠い事が多いな。」

(しずく)「こんな時にごめんなさい。断ってくれても良かったのに。」

志乃(しの)「時間が経ったら話せないこともあるだろ。明日は学校が休みだから大丈夫だ。」

(しずく)「私はこれで帰るわね。」

志乃(しの)「見送るよ。」

(しずく)「大丈夫よ。」

志乃(しの)「戸締りしたい。」

(しずく)「、、それなら。」

志乃(しの)(しずく)を玄関まで見送ると(ほむら)がアパートの近くまで来ていた。

(しずく)「ありがとうね。」

志乃(しの)「ああ。またな。」

(しずく)「ええ。」

(ほむら)(しずく)。俺に黙って何で志乃(しの)の所来てるんだよ。俺も混ざりたかった。」

(しずく)浜名瀬(はまなせ)さんに迷惑掛からないように1人で来たの。」

(ほむら)「迷惑なんて掛けない。」

(しずく)「これまでを振り返ってもそんなこと言える?」

迷惑そうながらも笑う(しずく)を見てから志乃(しの)はアパートの戸締りをすると屋敷の方へ戻り縁側で寝転がると雨の音を聞きながらボーと昔を思い出す。

雨乞いを踊る少女は多くの人に囲まれながらも寂しそうでずっと何かを見ていた。

人に囲まれ、求められて居場所がある、そんな自分と逆の立場にあるはずの人間が柚子(ゆず)と出会う前の自分と重なり気になっていたのだ。

志乃(しの)「裏では同じだったのか。」

気にはなったが妖怪は関連していないからと雨乞いの儀式だけ見て帰った事を少し後悔したが樹霧之介(きりのすけ)が見つけてくれて今は笑っていることに安堵していた。

そんなことを考えているといつの間にか寝てしまっていた。

起きると雨は止んでいて、アパートへ出て外をみると朝になっていた。

志乃(しの)は屋敷に戻り、陽葵(ひまり)に渡すための本を書き始める。

しばらく書いていると集中力が切れてきたので気分転換に散歩でもしようと外に出るともう昼過ぎになっていた。

公園のベンチで管狐(くだぎつね)達と陽にあたっていると声をかけられる。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんいた。」

志乃(しの)「どうした?」

陽葵(ひまり)「師匠の設定考えたんだけど浜名瀬(はまなせ)さん居ないかなって探してみたら管狐(くだぎつね)の妖気を感じて来ちゃった。」

志乃(しの)「そう言えばそんな事言っていたな。」

陽葵(ひまり)「少し見てみてよ。」

陽葵(ひまり)に差し出されたノートを見てみると最初の1ページにだけ陽葵(ひまり)が考えたであろう設定が書かれていて他のページは真っ白だった。

志乃(しの)「わざわざ新しいノートを使ったのか?」

陽葵(ひまり)「家にあるノートで書いて良いノート、これくらいしか無かったから。」

志乃(しの)「妖怪の写本をしていたノートは無いのか?」

陽葵(ひまり)「だけどまた続きするでしょ?」

志乃(しの)「やり直すなら別のノートでもいいんじゃないのか?」

陽葵(ひまり)「まさか最初からって本気だったの?」

志乃(しの)「覚えるための写本だぞ。覚えていないのならもう一回だ。」

陽葵(ひまり)「えー。」

志乃(しの)「まあ、まだ内容の整理に時間が掛かるから今は他の事をしてくれ。」

陽葵(ひまり)「他の事って?」

志乃(しの)「今は霊力の量を増やす事を考えてくれ。そうすれば次は結界符(けっかいふ)1枚でも結界を張れる方法を教えるから。」

陽葵(ひまり)「また結界符(けっかいふ)?」

志乃(しの)「攻撃系の札は霊力が足りないと発動しても効果が無いか薄いんだ。しかも近づかないといけないから身体強化もできない陽葵(ひまり)には危険だ。」

陽葵(ひまり)「なら、霊力増えたら身体強化を教えてくれるの?」

志乃(しの)「ああ。もう少し増えたら体の一部分を強化するくらいなら出来そうだからな。」

陽葵(ひまり)「なら頑張る。」

志乃(しの)「それで式神の方はどれくらい進んだんだ?」

陽葵(ひまり)「そうそう。結構動かせるようになったんだよ。」

そう言って陽葵(ひまり)は自分で作った式神を取り出してベンチの空いたスペースで動かして見せる。

志乃(しの)「良い感じだな。これなら感覚共有も教えていいかもな。」

陽葵(ひまり)「やった。いつ教えてくれるの?」

志乃(しの)「明日にでもお前の家行こうか。」

陽葵(ひまり)「今からでもいいよ。なんなら此処でもいいよ。」

志乃(しの)「感覚共有は意識を式神に移すような感じなんだ。その間は体の方が無防備になるから誰からも見られない安全な場所でやりたい。」

陽葵(ひまり)「そうなんだ。」

志乃(しの)「だが今からでもいいのなら陽葵(ひまり)の家へ移動するか。」

陽葵(ひまり)「うん。今から行こう。」

志乃(しの)「その方がお昼を付き合わなくてもいいからな。」

志乃(しの)はボソッと呟く。

陽葵(ひまり)「あ。私まだお昼ご飯まだなんだけど浜名瀬(はまなせ)さんも何か食べる?」

志乃(しの)「やっぱり明日にするか。」

陽葵(ひまり)「え、なんで?」

志乃(しの)「お前に渡す本の続きを書く。」

陽葵(ひまり)「ゆっくりでいいよ。」

志乃(しの)「呪具を渡してしまったから早めに覚えてほしいんだがまあ、明日でもいいんだよな。」

陽葵(ひまり)「なら今から来てよ。」

志乃(しの)「行くのはいいが私はお昼は要らないぞ。」

陽葵(ひまり)「えー。まあ、今日は帰りに何か買って帰るよ。」

志乃(しの)「そうしてくれ。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)はコンビニでおにぎりを買った後、陽葵(ひまり)の家へ行く。

志乃(しの)「お前がご飯食べている間に軽く説明するぞ。」

陽葵(ひまり)「ふぁい。」

志乃(しの)「口に物入っているときに喋るな。」

陽葵(ひまり)はこくこくと頷く。

志乃(しの)「式神には自分の精神の一部を移すことができるんだ。今は霊力だけで動かしているが精神を移して操作できればもっと色々な動きもできる。」

陽葵(ひまり)は口の中のおにぎりを呑み込んでから喋る。

陽葵(ひまり)「そんな事出来るの?」

志乃(しの)黒丸(くろまる)は本体から精神を離しているだろ。あんな感じだ。」

陽葵(ひまり)「だけどそれで本体から離れられないんでしょ?」

志乃(しの)黒丸(くろまる)の場合は妖力であの状態を保っているからな本体から離れると維持できないんだ。お前が目指すのは式神を依り代に精神の一部を移すだけだから大丈夫だ。」

陽葵(ひまり)「へー。樹霧之介(きりのすけ)のお父さんも同じ事すれば遠くに行けるの?」

志乃(しの)「遠くを見ることくらいはできるだろうが喋ったりとかは難しいだろうな。」

陽葵(ひまり)「そっか。」

志乃(しの)「食べ終わったら早速やってみるぞ。」

陽葵(ひまり)「そんな簡単に言うけど少し怖いんだけど。」

志乃(しの)「なら止めとくか?」

陽葵(ひまり)「やる。」

それから志乃(しの)はご飯を食べ終わった陽葵(ひまり)に精神を移す方法を教える。

陽葵(ひまり)「やるとは言ったけど精神を切り離すってどうするの?」

志乃(しの)「まずは幽体離脱してもらおうと思う。」

陽葵(ひまり)「それって前に狂骨(きょうこつ)浜名瀬(はまなせ)さんにしたやつ?」

志乃(しの)「あれは魂を取り出されたんだ。今回は精神だけを取り出す。」

陽葵(ひまり)「そんなことしても大丈夫なの?」

志乃(しの)「魂を取り出されたら魂と体との繋がりが無くなれば死ぬが、精神の場合は帰り道が分かれば大丈夫だ。」

陽葵(ひまり)「さらっと言ったけどあの時の浜名瀬(はまなせ)さん本当に危なかったんだ。」

志乃(しの)「私の場合、例えそうなっても人魚の効果で生命維持されるから戻れれば大丈夫だ。」

陽葵(ひまり)「それでもあの時は怖かったよ。」

志乃(しの)「お前が招いたことでもあるんだぞ。それよりどちらでもいいから手を出せ。」

陽葵(ひまり)「反省してます。」

そう言いながら陽葵(ひまり)は右手を志乃(しの)に差し出すと、志乃(しの)はいつの間にか取り出していた筆で陽葵(ひまり)の手の甲に何かを描く。

陽葵(ひまり)「これは?」

志乃(しの)還路印(かんろんいん)だ。離した精神の帰り道を示すために付けるものだから消すなよ。」

陽葵(ひまり)「うん。」

志乃(しの)「今から全精神を体から離す。」

陽葵(ひまり)「大丈夫なの?」

志乃(しの)「帰り道さえ分かれば大丈夫だ。」

陽葵(ひまり)「その為の印なんだね。」

志乃(しの)「ああ。たまにだが間違えて他の体に入る事があるからな。」

陽葵(ひまり)「そんなことあるの?」

志乃(しの)「間違えて小動物や虫などの精神の弱い生き物の体に入る事がある。」

陽葵(ひまり)「もしそうなったら?」

志乃(しの)「もしもそんなことになれば合図を送ってくれ、また精神を離してやるから。」

陽葵(ひまり)「それって入った体の精神は大丈夫?」

志乃(しの)「元々の体でないなら離れやすい。陽葵(ひまり)の精神だけを離す事はできる。」

陽葵(ひまり)「そうなんだ。」

志乃(しの)「心の準備が整ったら言ってくれ。始めるから。」

陽葵(ひまり)「いつでもいいよ。」

志乃(しの)「それならまずは床に寝て力を抜いてくれ。」

陽葵(ひまり)「うん。」

陽葵(ひまり)はその場に仰向けに寝る。

志乃(しの)「そうだ。精神だけの状態では私も見る事も声を聞くこともできないから意思疎通は出来ないと思ってくれ。」

陽葵(ひまり)「それ最初に言ってよ。」

志乃(しの)「常識だから伝える事として認識してなかった。」

陽葵(ひまり)「そんな常識知らないから。」

志乃(しの)「だから今教えただろ。」

陽葵(ひまり)「あれ?それなら樹霧之介(きりのすけ)のお父さんは何で喋れるの?」

志乃(しの)「妖力で器を作っているんだ。」

陽葵(ひまり)「へー。」

志乃(しの)「初めてもいいか?」

陽葵(ひまり)「もう伝え忘れとか無いよね?」

志乃(しの)「、、多分。」

陽葵(ひまり)「怖いんだけど。」

志乃(しの)「まあ、精神だけでもこっちの言う事は分かるから伝え忘れがあればその場で言うよ。」

陽葵(ひまり)「大丈夫だよね?」

志乃(しの)還路印(かんろんいん)があれば他の体に入ったりとかしていなければ牽念符(けんねんふ)で精神を戻せる。」

陽葵(ひまり)「精神を離すお(ふだ)もあるの?」

志乃(しの)「それは離念符(りねんふ)だな。」

陽葵(ひまり)「えっと。精神が離れたら私は何をすればいいの?」

志乃(しの)「その状態に慣れることが目的だから自由に動けるようになったら体に戻ってくれ。」

陽葵(ひまり)「分かった。」

志乃(しの)「他に聞きたいことあるか?」

陽葵(ひまり)「、、大丈夫かな。」

志乃(しの)「それじゃ目を閉じてくれ。」

陽葵(ひまり)が目を閉じると志乃(しの)離念符(りねんふ)を貼る。

すると陽葵(ひまり)は一瞬何かに引き寄せられる感じがして目を開けると空中に浮いていて下には自分が寝ていてそれを見守る志乃(しの)の姿が見える。

精神だけの状態の陽葵(ひまり)は動いてみようとするが上手く動けない。

正確には手足は動かせるが移動ができないのだ。

足の下に地面があるわけではないので足をただ動かしても進めるわけではない。

コツを志乃(しの)に聞こうにも声は届いてなさそうだ。

陽葵(ひまり)はただ浮きながら手足をバタバタしていると泳ぐ要領で前に進むことが分かる。

すると志乃(しの)がポツリと呟く。

志乃(しの)「あ。陽葵(ひまり)に泳げるか聞くのを忘れてた。まあ、プールの授業もあったから大丈夫か。」

陽葵(ひまり)はそれを聞いて文句を言おうと思ったが今はこの状態に慣れる事を優先する。

しばらくすると色々と分かってきてこの状態では物に触れる事ができないので壁もすり抜けて外に行くことができる。

そして志乃(しの)が言っていたように姿も見えていないようで陽葵(ひまり)志乃(しの)の顔を覗き込んでも志乃(しの)は無反応だったので悪戯しようと思ったが何もかもすり抜けるのにどうやって悪戯しようか考えていると体に近付き過ぎて体の方に吸い込まれてしまう。

一瞬で目の前が暗くなり、目を開けると志乃(しの)がいて体が重い。

志乃(しの)「どうだった?」

陽葵(ひまり)「フワフワ浮いててちょっと楽しかった。今は体が重い。」

志乃(しの)「そうか。」

陽葵(ひまり)「あ、浜名瀬(はまなせ)さん。もしも私が泳げなかったらどうするつもりだったの?」

志乃(しの)「あまりに帰りが遅いなら牽念符(けんねんふ)を使うつもりだったよ。精神だけの状態に慣れる事が目的だし、式神に精神を移せば泳げるかどうかは関係ないからな。」

陽葵(ひまり)「だけどさっきなにか呟いていたよね。」

志乃(しの)「どちらかと言えば自分で戻れた方が良いからな。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんいつも説明が足りないよ。」

志乃(しの)「やってみれば分かるだろ?」

陽葵(ひまり)「そういう問題じゃない。」

志乃(しの)「まあ、次にいくか。」

陽葵(ひまり)「話を逸らさないでよ。」

志乃(しの)「ほら、式神を出せ。」

陽葵(ひまり)「分かったよ。」

それから陽葵(ひまり)志乃(しの)に式神に精神を移す術を教えてもらい、短い間だけだが式神と感覚を共有することが出来るようになった頃には外は薄暗くなっていた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ