3話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
不自然なほどに最近は妖怪が悪さをしているような噂は聞かない。
だが、たまに探知能力に優れた5号が妖気に反応して知らせてくることがあるのだ。
気にはなるが手掛かりが何も無いので志乃は普通に学生生活を過ごしていたが、ある日の帰り道にいつものように12号が志乃に甘える為に勝手に出て来て志乃の周りを回っていると突然紙が襲いかかって来る。
その紙は12号を狙っていて志乃は12号を抱えて続けて襲ってくる紙を華麗に避ける。
紙が飛んできた方を見ると着物を着た一人の女性が宙に浮いていた。
志乃は一目でそれが文車妖妃という妖怪だとわかる。
この妖怪は手紙、主に恋文の執念や情念から生まれる妖怪で、手紙がメールやSNSに代わった現代では珍しい妖怪だ。
志乃は最近手紙を書いたこともなければ出す相手もいない。
襲われる理由は思い当たらないが実際に襲われているので9号を呼び、短剣を受け取ると応戦する。
文車妖妃は志乃が管狐を庇った事に何故か焦っている様子だが襲撃を受けた本人には関係ないと短剣を振る。
それを相手は紙一重で避けて山の方角へ逃げようとする。
志乃は1号・2号・3号を呼び出し、9号と合わせて結界符を持たせ、文車妖妃の前へ行くように指示をすると管狐達はすぐに回り込み四角の形を作った。
結界符を発動させ結界の壁を作ると文車妖妃の行く手を邪魔する事に成功する。
いきなり目の前にできた壁に止まったため、志乃との距離が縮む。
文車妖妃は振り向くと大量の紙を飛ばし、志乃の視界を妨害しようとするが志乃はそれを軽く飛び越え、蹴りを入れる。
文車妖妃はそれを咄嗟に紙でガードするが飛ばされて道に倒れる。
起きようとするのを組み伏せて阻止し、首に短剣を突きつける。
志乃「何故、襲ってきた?」
文車妖妃は怯えていて何も話さない。
志乃「話さないなら用はない。」
そういうと短剣を首に近づけようとした時。
???「待って!」
その声で志乃は手を止め、声の方を見る。
そこには同級生の桜庭 陽葵が息を切らして走って来ていた。
陽葵「待って、ください。フギャッ!」
走って目の前で転ぶ姿に戦意を削がれた志乃は黙って陽葵の様子を見ている。
陽葵「その人は悪くないんです。」
志乃「人を襲っておいて悪くないことはないだろう。」
陽葵「それは。」
志乃「お前は桜庭家の人間だよな。ならこいつはお前の式神か?」
陽葵「何の話ですか?」
志乃「私は他の陰陽師に恨みを買うことはよくあったが桜庭家には手を出していないはずだぞ?」
陽葵「陰陽師?私の家は一般的なサラリーマンの家庭ですよ?」
志乃「?じゃあ何で…。」
???「僕の仲間を放してください!」
声が聞こえたと思うと木の根が鞭のように志乃に向かって飛んでくる。
志乃が跳んでかわすと文車妖妃は自由になった。
新手かと戦闘態勢に入るがそこにいたのは小学3・4年生くらいの男の子だった。
陽葵と文車妖妃に樹霧之介と呼ばれるその子供の顔には見覚えがあった。
志乃「柚子?」
その顔は志乃にとっての恩人であり、友である木霊という妖怪と瓜二つだったのだ。
志乃がつい言葉にしてしまった名前に樹霧之介が反応する。
樹霧之介「柚子は母の名前ですがお知合いですか?」
志乃「柚子は生きているの?」
そう恐る恐る聞いた。
とある事件で別れてから行方が分からなかったのだ。
樹霧之介「母は僕を残して消えてしまいました。」
志乃「そう。」
志乃は覚悟をしていたが友の子供から直に聞かされた事実にとても落ち込む。
その様子を見て樹霧之介は言葉を続ける。
樹霧之介「事情がありここにはいませんが父とお話ししませんか?」
陽葵と文車妖妃はその言葉に「あそこに招待するのか?」と驚いていたが樹霧之介がそれをなだめる。
樹霧之介「こちらに妖ノ郷に繋がる通路があります。」
そう言って案内されたのは古家の塀と塀に挟まれた細い隙間だった。
妖ノ郷とは人と距離を置くために妖怪たちが作った人間界とは違う空間のことである。
案内され、付いて行くとそこは今までいた町と雰囲気がガラッと変わり、木製の建物が並んだ賑やかな場所だった。
人間はおらず、様々な姿の妖怪たちが歌ったり踊ったりしているが一部の妖怪は志乃を見て隠れてしまう。
奥の方へ進むと一軒の小さな家が見える。
その家の裏に巨木の切り株があり、新しく生えたであろう枝には小さな新芽が出ている。
樹霧之介「父さん帰ったよ。」
樹霧之介はそう切り株の新芽に話しかけると新芽から小さなおじさんが表れた。
???「おお、帰ったか。」
樹霧之介「新しいお客さんを連れて来たよ。母さんの知り合いみたいだけど父さん知ってる?」
そう言って切り株の上の男性を見ると志乃が反応する。
志乃「黒丸?」
???「その呼び方、お主しのか。」
男性は怪訝な顔をする。
志乃「やっぱり黒丸だ。」
???「何度も言うがわしは黒根じゃ。そんな犬っころのような名前ではない!」
志乃「生きてたんだ。」
黒根「お主もな。」
志乃「小さくなったな。」
黒根「お主も少し幼くなっていないか?」
志乃「ああ、忘れてた。8号。」
志乃は1匹の管狐を呼ぶと術を解く。
すると高校生の姿から大人の姿へと変わり、服装も陰陽師がきているような服になった。
後ろで見ていた樹霧之介、陽葵、文車妖妃の3名はとても驚いている。
黒根「やっぱり8号か。」
黒根はそう言いながら8号の頭をなでて、8号も黒根に甘えるようにすり寄るが体格の差があり、黒根は押し倒されてしまう。
黒根「そういえばしのは何故ここに? 樹霧之介に案内されたようじゃが。」
黒根は8号にもみくちゃにされながら質問する。
志乃「それについてはこっちが聞きたいな。」
そう言って陽葵と文車妖妃の方を向く。
陽葵「あれについてはちょっと、、勘違いというかね。」
文車妖妃「え、まあ、そうね。」
文車妖妃は陽葵に振られて焦っている。
黒根「陽葵よお主はただでさえミスが多いんじゃ。もっと慎重に行動しないと駄目じゃろう。」
陽葵「はい。」
文車妖妃「わ、私も良く調べずに、、すみません。」
黒根「何があったかは知らないが、真琴お前も同罪なんじゃな。」
文車妖妃の名前は真琴というらしい。
真琴「はい。」
陽葵「説明は私からさせていただきます。」
樹霧之介「それなら中に入ってからにしましょう。」
樹霧之介の案内で家の中に入る。
中には1部屋しかなく、押入れとちゃぶ台のみのシンプルな場所だ。
黒根は樹霧之介に運んでもらい、ちゃぶ台の上へ降りる。
他の人たちは床に直に座った。
黒根「それで何があったんじゃ。」
黒根が聞くと陽葵が答える。
陽葵「あの事件で私にも妖怪が見えるようになったじゃないですか。」
黒根「そうじゃな。」
陽葵「それでその、浜名瀬さんのまわりに狐が飛んでいるのが見えるようになって。」
黒根「浜名瀬?」
志乃「今の名前は浜名瀬志乃なんだ。今は良いだろ。陽葵は続けてくれ。」
志乃は不機嫌そうに陽葵の方を見る。
陽葵「そ、それで浜名瀬さんに妖怪が取り憑いていると思って、まこ姉に相談を。」
黒根「何でわしや樹霧之介に相談しなかったんじゃ?」
陽葵「樹霧之介は最近立て続けの戦闘で疲れていそうだったし、樹霧之介のお父さんに行ったら樹霧之介の耳に入るでしょ?」
真琴「話を聞いたらそこまで強そうな妖怪でもなさそうだったので、私1人で大丈夫だと思ったんです。」
志乃「ほう、うちの管狐達が弱そうだと?」
真琴「あ、いえ、そうだけどそうじゃなくて。」
志乃「妖怪である君に言うことではないが妖怪は見た目で判断できるものではないぞ。」
真琴「はい、今回で思い知りました。」
陽葵「だけど今回、狐よりも浜名瀬さんが強かったような。」
志乃「それで、最近5号の様子がおかしいと思っていたが樹霧之介達が動いていたのか。」
志乃は陽葵を無視して話を進める。
陽葵「あの、すみません。私も質問良いですか?」
志乃「答えられることなら。」
陽葵「浜名瀬さんと樹霧之介のお父さんとの関係とか、今何歳で何で高校に通っているのかなとか。」
黒根「高校と言ったら寺子屋じゃないか。はは、お主あれだけ反対しておったのに通っとるんか。ははは。」
そう黒根が笑い出す。
志乃「うるさい!お前らに言われたからじゃない!友達を作るためじゃなく。情報集めのために行っているんだ。」
黒根「目が覚めたのは最近なのか?」
志乃「そうだけど。」
志乃は不機嫌そうだ。
陽葵「あの、浜名瀬さんも妖怪なんですか?」
志乃「どうだろうな、生まれは人間だとは言えるが。」
黒根「こやつは人魚の肉を食べて不老不死になった人間じゃよ。」
陽葵「人魚!本当にいるんですね。」
志乃「今は見ないけどな。」
陽葵「だけど不老不死って憧れません?」
志乃「親しい人間は先に死んで、化け物と罵られ石を投げつけられるとしても?」
陽葵「え?」
陽葵は自分の軽率な言葉に少し後悔して俯いてしまった。
志乃「まあ、それでも不幸ばかりではないぞ。私を人間と言ってくれる奴らに出会えたからな。」
志乃は言い過ぎたと思いフォローをする。
陽葵「そうなんですね。」
志乃「まあ、食べない方がいいが。」
陽葵「なら何で食べたんですか?」
志乃「あまり深入りするものではないぞ。」
陽葵「あ、やっぱりいいです。」
志乃は陽葵を睨んで圧をかけ、それにひるんだ陽葵は委縮する。
黒根「はっは。陽葵は学ばん奴じゃのう。今日はもう暗いからそろそろ帰らんか?」
黒根の提案に皆は同意し、志乃と陽葵は人間界へと帰ることにした。
黒根は切り株から離れられないので樹霧之介と真琴が妖ノ郷の堺まで見送ってくれた。
人間界は思っていた以上に暗くなっており、志乃は念のため陽葵を家まで送っていくことにする。
陽葵「えっと今回は私の早とちりでご迷惑をおかけしました。」
帰り道の静寂に耐えられなかった陽葵が口を開く。
志乃「だが、古い友人に会えた。」
陽葵「そういえば浜名瀬さんて何歳なんですか?」
志乃「んー。途中から数えてないからな。」
陽葵「生まれた年とか分からないんですか?」
志乃「そういうのは当時なかったからな。」
陽葵「無いってどういうことですか?」
志乃「あ、あったかもしれないが当時気にしてなかったから知らないんだ。」
陽葵「じゃあ、当時何かありませんでした?」
志乃「何かって。」
陽葵「覚えてる事件とか。」
志乃「事件というか戦は何度か見たな。」
陽葵「戦!?まさか戦国時代から生きてるんですか?」
志乃「ほら、もういいだろう。家に着いたぞ。」
陽葵「もう少しだけでも。」
志乃「帰れ。」
陽葵「はーい。また学校で話しましょう。」
志乃の強い口調に負けて陽葵はあきらめたようだ。
志乃「周りに聞かれたら頭がおかしいと思われるぞ。」
陽葵「聞かれなきゃ大丈夫ですよ!また明日!」
そう言って陽葵は家の中に入って行った。
志乃は明日からまた2号で姿を消すことを決めて自分の家へと帰って行く。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。