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17話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

真琴(まこと)狂骨(きょうこつ)は消えたわ。後は帰るだけだから電話切るね。」

志乃(しの)?「お疲れ。ありがとう。」

真琴(まこと)が電話を切った事を確認し、皆が喋りだす。

(しずく)(ほむら)は何で最後にあんな大技を出すの?山を燃やす気?」

(ほむら)「燃やしはしなかったんだから良いだろ。」

(しずく)「だからって当てることは無かったんじゃない?」

(ほむら)「避けると思ったんだ。まさかあんなところで管狐(くだぎつね)が出てくるなんて思わない。」

狂骨(きょうこつ)?「痛みは無かったから落ち着いて。」

(しずく)「その格好で言われてもね。」

そこには爆発で真っ黒になり、真琴(まこと)の紙で動きを封じられた狂骨(きょうこつ)がいる。

真琴(まこと)「それにしてもその管狐(くだぎつね)の懐き具合からして浜名瀬(はまなせ)さんなのよね?」

12号は真っ黒になった狂骨(きょうこつ)にべったりくっ付いて離れようとしない。

そのため爆発の時は志乃(しの)が庇って汚れなかったのに今は真っ黒になっている。

志乃(しの)「体は狂骨(きょうこつ)だけどね。」

(しずく)「私も樹霧之介(きりのすけ)のお父さんのメールを見た時は半信半疑だったけど、管狐(くだぎつね)の名前を一発で言い当てたし、電話の浜名瀬(はまなせ)さん黒根(くろね)って言ってたからね。」

真琴(まこと)「それで何があったの?」

志乃(しの)「...。」

真琴(まこと)(ほむら)の炎の威力が弱い時点で私達が狂骨(きょうこつ)浜名瀬(はまなせ)さんだと気づいてた事は分かっていたのよね。」

志乃(しの)「...。」

真琴(まこと)「何でまだ逃げようとしたの?」

志乃(しの)「これは私の問題だから巻き込めないと思って。」

(しずく)「今更ね。」

志乃(しの)「ごめん。」

真琴(まこと)「それで狂骨(きょうこつ)の正体に心当たりは?」

志乃(しの)「私が壺に閉じ込められていた時、ペラペラ喋ってくれたよ。」

それは昔、鬼渡(きわたり)が受けた依頼が始まりだった。

お偉いさんの依頼で断れず参加した陰陽師同士で技を競い合う大会という名の金持ちの道楽に駆り出され、乗り気でなかったため適当に相手してさっさと帰ろうとしていた所、1人の陰陽師が式神の制御ができずに暴れさせてしまい誰も手を付けれなかったところを志乃(しの)が制圧したことがあった。

志乃(しの)「後からその家の信頼は地に落ちて没落したと聞かされたが、まさかこんなに長い間恨まれているとは。」

真琴(まこと)「いや、完全に逆恨みじゃない!」

(しずく)「思い込みって怖いのね。」

志乃(しの)「しかもその時、暴れていた式神に腕食べられちゃったんだよね。」

真琴(まこと)「さらっと怖いこと言うのね。」

志乃(しの)「しかも治るところをその陰陽師に見られたから私が特殊な体ということは知られている。私の体を狙ったのはそのためかも。」

真琴(まこと)「あいつの狙いは分かったけど、これからどうするの?剝魂(はっこん)(かがみ)は?」

志乃(しの)「鏡はもう戻れないように割られていた。」

(しずく)「え。ならどうやって戻るの?」

(ほむら)志乃(しの)、ずっとこのままなのか?」

志乃(しの)「あまり気は進まないが一応方法はある。」

真琴(まこと)「良かった。戻れるのね。」

志乃(しの)転魂ノ儀(てんこんのぎ)をしようと思う。」

真琴(まこと)「それって陰陽師の術でしょ?その体でできるの?」

志乃(しの)「今この体は妖力しか使えないけど妖力でも霊力のように扱うことはできる。」

真琴(まこと)「いやいや。妖力と霊力じゃ根本が違うわよ。」

志乃(しの)「だけど同じように変換はできる。慣れていないから消費量は多くなるがこいつなら転魂ノ儀(てんこんのぎ)を1回ぐらいはすることができそうだ。」

真琴(まこと)浜名瀬(はまなせ)さんが言うなら信じるわ。何か手伝うことはある?」

志乃(しの)「私の体を動かないようにしてほしい。」

真琴(まこと)「分かったわ。」

志乃(しの)「それと儀式中はできればあまり見ないでくれると助かる。」

真琴(まこと)「理由は分からないけど分かった。樹霧之介(きりのすけ)達にも伝える?」

志乃(しの)「ああ。できれば周りにいるやつらは少ない方が良い。」

真琴(まこと)「なら、安全に拘束できる私と樹霧之介(きりのすけ)だけが残るわ。」

志乃(しの)「助かる。逃げられたら面倒になるから一回で決めたい。」

志乃(しの)達は志乃(しの)の体に入っている狂骨(きょうこつ)に気付かれないよう計画を進める。

部屋の中は志乃(しの)の体に入っている狂骨(きょうこつ)樹霧之介(きりのすけ)真琴(まこと)だけの状態になり、志乃(しの)が飛び込むと同時に樹霧之介(きりのすけ)は壁と床から木の枝を生やすと志乃(しの)の体を拘束してその上から真琴(まこと)が紙で固めようとしたが手の拘束が間に合わず印を結ばれ結界を張られる。

志乃(しの)は何とか結界内に入ったが、狂骨(きょうこつ)は次の印を結んでいる。

印を止めるには片手だけでも完全に固定しなくてはいけないが結界で真琴(まこと)の紙は届かず、樹霧之介(きりのすけ)の枝は動きが遅い。

だが幸いなことに結界内には竹筒が落ちていた。

志乃(しの)「9号短刀。」

志乃(しの)は短刀を受け取ると右手を短刀で壁に刺して固定し、印を止める。

そのまま顔を近づけて口と口を付けると結界は無くなり、志乃(しの)狂骨(きょうこつ)は共に動かなくなった。

先に動いたのは志乃(しの)の方だった。

志乃(しの)「戻れた?」

樹霧之介(きりのすけ)志乃(しの)さん!何てことするんですか!?」

志乃(しの)「え?あ。壁に穴開けてごめんね。」

志乃(しの)は右手の短刀を抜いて右手を隠す。

樹霧之介(きりのすけ)「違います。右手を見せてください!真琴(まこと)、救急箱持ってきて下さい。」

真琴(まこと)「ここにあるわ。」

いつの間にか真琴(まこと)が用意していた救急箱で志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)に右手の手当を受けている。

樹霧之介(きりのすけ)「何でこんなことするんですか。」

志乃(しの)「あれ以上術をこの体で使われたくなかった。」

真琴(まこと)「だからって自分の体にも容赦ないのね。」

狂骨(きょうこつ)「これは。転魂ノ儀(てんこんのぎ)か?」

狂骨(きょうこつ)も起きるが真琴(まこと)の紙で動けないようにしている。

(ほむら)「終わったか?」

静かになったので他の皆も部屋を覗いている。

志乃(しの)「終わったよ。」

特に心配そうな顔をしている陽葵(ひまり)に向かって志乃(しの)は左手で手招きをする。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん。ごめんなさい。」

陽葵(ひまり)志乃(しの)に抱きつき泣いている。

それを皮切りに次々に部屋に入って来た。

黒根(くろね)「おい、志乃(しの)。何で怪我が増えているんだ?」

志乃(しの)黒丸(くろまる)うるさい。これは必要なものだった。」

黒根(くろね)「必要な傷何てあるのか?」

志乃(しの)「あいつはこの体で印の結界を張ったうえに火球まで出そうとしていたんだ。」

黒根(くろね)「それくらいお前は避けれただろ。」

志乃(しの)「そんな大量の霊力を使えば私の体は持たない。」

黒根(くろね)「初耳だぞ。」

陽葵(ひまり)「嘘だよね。浜名瀬(はまなせ)さん。」

志乃(しの)「、、私の中に呪いが封じてある。」

陽葵(ひまり)「そんな、、静寂の闇の奥で、我が内なる呪いが存在し続けるなんて。」

志乃(しの)「どういう意味だ?」

陽葵(ひまり)「何でもない。」

志乃(しの)黒丸(くろまる)は予想できていたんじゃないか?今は呪いを霊力で抑えているがその霊力が足りなくなった時のこと。」

黒根(くろね)「封印時と同じように灰になるのか?」

志乃(しの)「そう。霊力で抑えられないなら体で抑えるしかない。」

黒根(くろね)「そのまま外に出すことは、お主の性格じゃできんか。」

志乃(しの)「ごめん。」

黒根(くろね)「そこらへんはもう諦めとる。」

狂骨(きょうこつ)「おい!それよりもお前。何でこの体で転魂ノ儀(てんこんのぎ)が使える。」

志乃(しの)「陰陽師ならできて当然だろ。」

狂骨(きょうこつ)「妖力を霊力の様に変換するとかどうやったらできるんだ?」

志乃(しの)「訓練でしなかったのか?」

狂骨(きょうこつ)「妖怪と体を移し替える訓練なんて聞いたことないわ!」

志乃(しの)断霊丹(だんれいたん)を呑んで体内に妖力を取り込めば感覚は掴めるだろ?」

狂骨(きょうこつ)「あれは妖力がどんなものか感じ取る訓練でそんなことはしないはずだ。」

志乃(しの)「そうだっけ?」

狂骨(きょうこつ)「お前が規格外なのは分かった。だが俺は諦めないぞ。」

志乃(しの)「ここまできてお前を逃がすと?」

狂骨(きょうこつ)「お前が人間を殺せないのは知っている。だから通り名も破魔凪(はまなぎ)だったんだろ。人を殺すような奴は鬼や死神が付くからな。どんなに悪さしようが黙らせるだけの奴が元人間の俺を殺せるわけがない。」

その時棒手裏剣が狂骨(きょうこつ)の横を通り抜け後ろの壁に突き刺さる。

志乃(しの)「遺言はそれだけか?」

狂骨(きょうこつ)「お、脅しなら効かないぞ。」

志乃(しの)「ここだと家を傷つける。外に出ようか。」

志乃(しの)狂骨(きょうこつ)を連れて家から出て行ってしまった。

黒根(くろね)「うるさかった奴が一生黙っておるんじゃ。死ぬより怖いことを知らん様じゃの。」

真琴(まこと)「だけど、大丈夫なの?浜名瀬(はまなせ)さん、怪我もしてるし霊力もなさそうだったけど。」

陽葵(ひまり)「そうだよ。追わないと。」

黒根(くろね)狂骨(きょうこつ)も妖力は残っとらん。今は好きにさせてやれ。」

何があったかは分からないがしばらくして静かになった狂骨(きょうこつ)と共に志乃(しの)が帰ってきた。

黒根(くろね)「久しぶりだったがまだ腕は落ちておらんようじゃな。」

志乃(しの)「うるさい。」

陽葵(ひまり)「何があったの?」

黒根(くろね)「聞いてやるな。黒歴史を掘り起こされて不機嫌なんじゃ。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんにもあるんだ黒歴史。」

志乃(しの)黒丸(くろまる)。余計なことは言うな。」

黒根(くろね)「おお。怖い、怖い。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)も忘れろ。」

陽葵(ひまり)「どうしよっかな。」

志乃(しの)「そう言えば修行の事だが。」

陽葵(ひまり)「忘れます。忘れるから中断しないで。」

志乃(しの)「いや。続ける。」

陽葵(ひまり)「え?」

志乃(しの)「今言っていた断霊丹(だんれいたん)のものをしようと思う。」

陽葵(ひまり)「妖力を感じとるってやつ?」

志乃(しの)「ああ。初めは管狐(くだぎつね)を使おうと思っていたが協力者ができたからな。」

陽葵(ひまり)「それって?」

志乃(しの)「人型でそれも元陰陽師の妖怪だからうまくいきやすいだろう。協力してくれるよな。」

狂骨(きょうこつ)「あ、はい。させていただきます。」

真琴(まこと)「本当に何があったの。」

狂骨(きょうこつ)はすっかり素直になっている。

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)、しばらく場所借りても大丈夫?」

樹霧之介(きりのすけ)「はい。大丈夫です。使って下さい。」

志乃(しの)「ありがとう。それじゃ、4号。断霊丹(だんれいたん)あったよね。持ってきてくれる?」

4号が持ってきた小瓶にはいくつかの丸薬が入っている。

その一つを志乃(しの)は取り出し陽葵(ひまり)に渡す。

陽葵(ひまり)「あの。これ本当に吞むの。」

それは前に志乃(しの)玲香(れいか)に吞まされた物と同じ物で、独特のにおいがする。

志乃(しの)「呑まないと始まらないぞ。」

陽葵(ひまり)は恐る恐る丸薬を口に含むとすぐに独特のにおいと苦みが口と鼻いっぱいに広がる。

志乃(しの)「出したらもう一回だぞ。」

その言葉に陽葵(ひまり)は頑張って呑みこむ。

志乃(しの)「今どんな感じ?」

陽葵(ひまり)「すごく。嫌な臭いと味がします。」

志乃(しの)「だろうね。私もこれだけは嫌いだった。」

陽葵(ひまり)「そんなの何で今するの!」

志乃(しの)「危険察知のためにも妖力がどんなものか感じておく必要がある。それに狂骨(きょうこつ)と1つ約束したからチャンスは今しかないんだ。」

陽葵(ひまり)「約束?」

志乃(しの)「訓練の手伝いをしたら成仏させてあげるって。ね。」

志乃(しの)狂骨(きょうこつ)の方を見る。

狂骨(きょうこつ)「はい。できるだけ早く終わらせるんで送ってください。」

志乃(しの)「早さはいらない。丁寧にお願いね。」

狂骨(きょうこつ)「はいぃ。」

あれだけ現世に残ろうとしていた狂骨(きょうこつ)の変わりように全員が志乃(しの)を怒らせないようにしようと思った瞬間だった。

志乃(しの)「それじゃ、陽葵(ひまり)狂骨(きょうこつ)は向かい合って座って。」

陽葵(ひまり)狂骨(きょうこつ)志乃(しの)の指示に従い座る。

志乃(しの)陽葵(ひまり)は両手を前に、掌を上に向けてね。そうそう。狂骨(きょうこつ)はその上に手を置いて妖力を流して。」

しばらく陽葵(ひまり)狂骨(きょうこつ)はそのまま静止する。

陽葵(ひまり)「あ、何か霊力とは違うもの感じる。」

志乃(しの)「いいね。それ自分で動かせる?」

陽葵(ひまり)「難しい。いつもとは何かが違う。」

志乃(しの)「それが霊力と妖力の違いだね。言葉にはできないから感覚で覚えて。」

狂骨(きょうこつ)「体内に入ったからって自分とは別の力だ。動かすことなんてできないだろ。」

陽葵(ひまり)「あ。動いた。」

狂骨(きょうこつ)「はあ?」

志乃(しの)陽葵(ひまり)には基本をずっと練習させてたからね。結果を考えずに簡単で派手な術を使おうとした人との違いだよ。」

狂骨(きょうこつ)「すみませんでした。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんそれ私にも言ってます?」

志乃(しの)「当たり前だろ。」

陽葵(ひまり)「すみません。これからはもっと精進します。」

志乃(しの)「これからは私の指示を無視しするなよ。」

陽葵(ひまり)「はい。」

志乃(しの)「後、知らない人には付いて行かない。」

陽葵(ひまり)「はい。」

志乃(しの)「嘘はつかない。」

陽葵(ひまり)「はい。」

志乃(しの)「まあ、今回は催眠に掛かっていたみたいだからな。これ渡しておく。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)に9号が持って来たお守りを渡す。

陽葵(ひまり)「お守り?」

志乃(しの)「簡単なものだけだが精神系の術を弾く。肌身離さず持っていてくれ。」

陽葵(ひまり)「ありがとう。」

志乃(しの)「それで旅行前に言っていた結界符(けっかいふ)はできてる?」

陽葵(ひまり)「あ。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)?」

陽葵(ひまり)「いや、あの。印結んで作る結界ができれば大丈夫かなと思って、、」

志乃(しの)「お前に(ふだ)は早すぎたか。感覚を使う方があっているみたいだからしばらくはそっちメインで考えよう。」

陽葵(ひまり)「それって。」

志乃(しの)断霊丹(だんれいたん)の出番もあるかもな。」

陽葵(ひまり)「やだー!」

狂骨(きょうこつ)「えっと私はどうしたら?」

志乃(しの)「ああ。コツは掴んだみたいだから後は管狐(くだぎつね)達でもできる。」

狂骨(きょうこつ)「なら。」

志乃(しの)「送ってやる。来世では努力しろよ。」

狂骨(きょうこつ)「はい。」

志乃(しの)が何かを唱えてから狂骨(きょうこつ)の額に触ると狂骨(きょうこつ)は徐々に薄くなって煙となって消えた。

志乃(しの)樹霧之介(きりのすけ)ありがとう。場所貸してくれて。」

樹霧之介(きりのすけ)「あ。どういたしまして。」

志乃(しの)「あとみんなには私の過去の事で迷惑をかけてしまってすまなかった。」

そう言って志乃(しの)は頭を下げる。

(しずく)「今更よね。」

(ほむら)「もっと頼って良いんだぞ。」

茂蔵(もぞう)「おいらはいただけだけどな。」

真琴(まこと)「今度はもっと早く知らせてよ。」

風見(かざみ)「ワイもワイも、今回使えなかったけど風護石(ふうごせき)練習してるんだ。」

樹霧之介(きりのすけ)「僕も志乃(しの)さんを頼りますので志乃(しの)さんも気兼ねなく僕達を頼ってください。」

志乃(しの)「ありがとう。」

陽葵(ひまり)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さん。」

志乃(しの)「何?」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんは消えないよね?」

志乃(しの)「どういうことだ?」

陽葵(ひまり)「私、浜名瀬(はまなせ)さんが動かないの見た時、本当に怖くて、不安で、、」

志乃(しの)「ごめん、ごめん。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)を抱きしめて頭を撫でる。

志乃(しの)「だけど消えるな、か。」

陽葵(ひまり)「え?」

志乃(しの)「保証はできないな。」

陽葵(ひまり)「そんなの。浜名瀬(はまなせ)さんなら大丈夫でしょ?」

志乃(しの)「今回みたいなこともあるから。」

陽葵(ひまり)「今度は言う事聞くから。」

黒根(くろね)陽葵(ひまり)。こいつは一度わしらの前から消えておる。」

陽葵(ひまり)「だけど今はいるよ。」

黒根(くろね)「いつ何が起きるか分からない以上それは約束できんのだろ。」

陽葵(ひまり)「どうして。」

志乃(しの)「お前を安心させる嘘は付けるぞ。」

陽葵(ひまり)「嘘じゃ駄目じゃん。」

志乃(しの)「だけど守れるか分からない約束はもうしたくないんだ。ごめん。」

陽葵(ひまり)「、、私もごめん。」

志乃(しの)「だけどできる限りの事はする。」

陽葵(ひまり)「わかった。それでいい。」

志乃(しの)「ありがとう。」

陽葵(ひまり)「私も強くなる。浜名瀬(はまなせ)さんほどではないにしても自分の身と周りの人くらいは守れるようになりたい。」

志乃(しの)「それじゃ私は基礎からみっちりと教えないとな。」

陽葵(ひまり)「基礎はできてるでしょ?」

志乃(しの)(ふだ)も作れないのにか?」

陽葵(ひまり)「う。」

志乃(しの)「心身ともに疲れただろ。次の修行は1週間後にするからそれまで休め。」

陽葵(ひまり)「うん。結界符(けっかいふ)も作っておくね。」

志乃(しの)「それはしばらく使わないって言ったはずだが。」

陽葵(ひまり)「あの、なら何をするの?」

志乃(しの)「言ったよな。しばらく感覚を使う修行をするって。」

陽葵(ひまり)「やっぱり。無くならないよね。」

志乃(しの)「当たり前だ。1週間後に行くから覚悟しておけよ。」

樹霧之介(きりのすけ)「あの。断霊丹(だんれいたん)ってそんなに不味いんですか?」

志乃(しの)「呑んでみる?」

樹霧之介(きりのすけ)「え。」

陽葵(ひまり)「止めといたほうが良いよ。」

志乃(しの)「妖怪には効果ないし、呑んでも影響は無いけど。」

黒根(くろね)樹霧之介(きりのすけ)。わしも呑まん方が良いと思うぞ。」

樹霧之介(きりのすけ)「父さんは呑んだことあるんですか?」

黒根(くろね)「一度志乃(しの)に無理矢理な。」

志乃(しの)「そう言えばそんなこともあったな。」

陽葵(ひまり)「どうしてそんな酷いことを!?」

黒根(くろね)志乃(しの)が酷い顔してたことがあって、それをからかったんじゃ。」

志乃(しの)「1度吞んだ後効かなくなって訓練にならないからって師匠に何度も呑まされた時だな。」

陽葵(ひまり)「もしかして私もそうなる?」

志乃(しの)「お前は大丈夫だろ。」

陽葵(ひまり)「良かった。」

志乃(しの)「それじゃそろそろ帰ろうかな。」

樹霧之介(きりのすけ)「あ、志乃(しの)さん。ちゃんと休んでくださいよ。」

志乃(しの)「分かってる。」

陽葵(ひまり)「じゃあね。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)を家まで送って自分も帰路に着く。

いつも寝るときはアパートの方を使っているが今日は屋敷の中にある昔使っていた自室の部屋に布団を敷いてそこで寝る。

志乃(しの)「消えるな、か。」

落ち込んでいる志乃(しの)を心配した式神達が周りに集まってくる。

志乃(しの)「昔は消えたいと思っていたのにな。」

キュウキュウ聞こえるが相変わらず式神達の言っていることはわからない。

志乃(しの)柚子(ゆず)に拾われて、師匠に出会って、黒丸(くろまる)と出会って、それから随分変わった。時間が経てば変わっていくのは分かってた。だから安心するために変わらない場所を作ったはずなのに。何で今こんなに不安なんだろうね。」

久しぶりに懐かしい顔を見たせいなのか昔の記憶が蘇り色々と考え込んでしまい、志乃(しの)はそのままいつの間にか眠りについていた。

1週間後、志乃(しの)陽葵(ひまり)の家に来ていた。

志乃(しの)「おはよう。よく休めた?」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん。おはよう。」

志乃(しの)「元気ないな。」

陽葵(ひまり)「また呑むの?」

志乃(しの)「妖力がどんなものかは分かっただろ?」

陽葵(ひまり)「うん。」

志乃(しの)「今日は霊力を使って妖力を探るから断霊丹(だんれいたん)は使わないよ。」

陽葵(ひまり)「良かった。」

志乃(しの)「使いたいなら別だけど。」

陽葵(ひまり)「いえ。大丈夫です。」

志乃(しの)「広い場所に行きたいからこの近くの公園まで行こうか。」

陽葵(ひまり)「うん。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)が公園に移動すると夏休み中ということもあり子供たちがたくさん遊んでいた。

陽葵(ひまり)「この中でやるの?」

志乃(しの)「他の人がいてもできないといけないからな。」

陽葵(ひまり)「分かった。何すればいいの?」

志乃(しの)「2号と6号で鈴を持った管狐(くだぎつね)を隠すから感だけを頼りにその鈴を取って来い。これなら少し大きい子供が宝探ししているように見えるだろ。」

陽葵(ひまり)「子供、、」

志乃(しの)「私から見ればみんな子供だ。もう隠れたから12匹全員見つけろよ。」

陽葵(ひまり)「公園内だけだよね。」

志乃(しの)「ああ。頑張れ。」

2時間後。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん。」

志乃(しの)「何?」

ベンチに座って本を読んでいる志乃(しの)陽葵(ひまり)が1つ目の鈴を持って来る。

陽葵(ひまり)「鈴も見えないなんて聞いてないよ。」

志乃(しの)「鈴が見えるとも言ってない。」

陽葵(ひまり)「ぬぬ。あ、ここにもいた。」

志乃(しの)「正解。ちなみに12号はずっと私の肩にいたぞ。」

陽葵(ひまり)「これで2個目。」

志乃(しの)「あと10個頑張れ。見つからなくても昼には戻って来いよ。」

お昼になって陽葵(ひまり)が鈴を3個追加で持ってきたのでお弁当を食べることにする。

志乃(しの)「4時間で5個か。」

陽葵(ひまり)「これでも頑張ったんだよ。」

志乃(しの)「そうだな。初めてにしてはなかなかいいんじゃないか?」

陽葵(ひまり)「やった。」

志乃(しの)「次はもう少し大きい公園でもいいかな。」

陽葵(ひまり)「まだやるの?」

志乃(しの)「午後からも探してもらうぞ。」

陽葵(ひまり)「それはやるけど他の修行は?」

志乃(しの)「今できるのはこれと(ふだ)を書くことと断霊丹(だんれいたん)を使うやつだな。」

陽葵(ひまり)「しばらくこれで良いです。」

志乃(しの)「そうか。」

陽葵(ひまり)「それで、聞きたいことがあるんだけど。」

志乃(しの)「何だ?」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんって人間が消えたとこ見たことある?」

志乃(しの)「神隠しか?」

陽葵(ひまり)「分からないけど。この前の狂骨(きょうこつ)が消えた時みたいに徐々に薄くなってこうサーっと消えるの。」

志乃(しの)「煙は出たか?」

陽葵(ひまり)「そういうのは、無かった、、はず。」

志乃(しの)「霧が出ていたりとか。」

陽葵(ひまり)「何もないところだったと思う。」

志乃(しの)「突風が吹いたりも無い?」

陽葵(ひまり)「うん。」

志乃(しの)「、、誰が消えたんだ。」

陽葵(ひまり)「私の、、お父さん。」

志乃(しの)「そう言えば前にいないって言っていたな。」

陽葵(ひまり)「ねえ、心当たりない?」

志乃(しの)「いきなり消えるならともかく薄くなって消えるのは知らないな。」

陽葵(ひまり)「そっか。」

志乃(しの)「何で今聞くんだ?」

陽葵(ひまり)狂骨(きょうこつ)の消え方がお父さんの消え方と似てたから。思い出して。」

志乃(しの)「いつの話だ?」

陽葵(ひまり)「12年前、今みたいに暑い日に一緒に散歩していたらいきなり消えたの。」

志乃(しの)「どこで消えたとかは覚えているか?」

陽葵(ひまり)「あ。だけどもう昔の事だから。」

志乃(しの)「前の消えるなって言ったのはそれがあったからか?」

陽葵(ひまり)「、、うん。」

志乃(しの)「幼少期の恐怖は中々治らない。悪かったなトラウマを呼び起こして。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんは悪くないよ。」

志乃(しの)「それなら約束する。私は消えない。」

陽葵(ひまり)「え?」

志乃(しの)「たとえ消えても戻ってくるから。」

陽葵(ひまり)「いいよ。もう。」

志乃(しの)「それじゃ。午後も頑張ろうか。」

陽葵(ひまり)「うん。行ってくる。」

志乃(しの)「全員見つけて来いよ。」

陽葵(ひまり)「、、できるだけやる。」

日が暮れて来た頃、陽葵(ひまり)は12個すべて見つけて泥だけで志乃(しの)の所に戻って来た。

陽葵(ひまり)「動き回っているなんて聞いてない。」

志乃(しの)「全員止まっているなんて言ってない。」

陽葵(ひまり)「意地悪。」

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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