2話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
最近では部活を決めて活動をしている同級生も増えてきた。
特に部活へ入らなくてはいけないという校則は無いが志乃の周りには部活へ勧誘する人達が群がっている。
特に運動部の勧誘が多く、志乃の体育での活躍を見た同級生から執拗に誘われるのだ。
志乃はそれが嫌で長めの休み時間には校舎裏の静かな木陰にあるベンチで読書をしている。
2号の幻でベンチごと姿を消せば声をかけられる事は無いので静かに過ごせるのだ。
そんな事を繰り返していると本格的に部活動が始まり、志乃を勧誘する人は少なくなっていった。
お陰で2号の幻が無くてもベンチで静かに過ごす事ができるようになったので、姿を消さずに読書をしていると声をかけられる。
女性「君が浜名瀬くんかい?」
志乃「浜名瀬 志乃なら私だがあんたは誰だ?」
女性「すまない。私は高梨春奈。女子野球部の部長をさせてもらっている。」
志乃「部長さんが私に何の用だい?」
春奈「野球に興味はないか?」
志乃「ない。」
春奈「はは、即答か。あれだけの勧誘を断って帰宅部になっただけはあるね。」
志乃「勧誘には遅い時期だがなぜ声をかけた?」
春奈「はは、恥ずかしい話。1年達が全員逃げてしまって、代わりを探しているんだ。」
志乃「そうか。私はやる気は無いから諦めてくれ。」
春奈「そうもいかないんだよ。うちの部は人数がギリギリな上、隣町との試合も近いんだよ。だから才能のありそうな人を入れないといけないんだ。いや、部活に入らなくても良いから助っ人として試合に出てくれないか?」
志乃が顔を上げると物陰に隠れている数人を見つける。
志乃「逃げた人達は何て言っていたんだ?」
春奈「練習が嫌なんだそうだ。基礎トレも投げ出してどっか行った。」
志乃「話を聞いたのか?」
春奈「何が嫌なのか聞いたら嫌な顔して黙り込んだよ。私とは話したくないんじゃ話し合いなんて無理さ。」
志乃「逃げているのは1年生の方ではなく貴方の方みたいだな。」
春奈「はぁ?実際に居なくなったのはあいつらだ!」
志乃「じゃあ、戻るように1年生に話したのか?」
春奈「あんな奴等より才能のある人間が入れば試合には勝てるんだ。無駄な事なんてしたくないな。」
志乃「もし、私が入って人数は足りるのか?」
春奈「いや、これから勧誘に行く。」
志乃「わかった。なら助っ人になろう。」
春奈「おお、ありがとう。」
志乃「但し、私のポジションはピッチャーだ。それ以外ならこの話は無かった事にする。」
春奈「はあ!?ピッチャーは私だ。そんな無茶な要求飲めるか!」
志乃「才能のある方がやれば勝率は上がるだろう?」
春奈「野球をやった事はあるのか?」
志乃「無い。だが、あんたがやるよりは勝率が上がると思うが?」
春奈「ただ運動神経が良いだけの人間ができると思うな!」
志乃「なら試してみるか?」
春奈「わかった。放課後にグラウンドへ来てくれ。それで決めてやる。」
志乃「わかった。」
春奈は他の人を勧誘しに何処かへ行ってしまった。
すると物陰から見ていた人達が志乃の元へやって来る。
志乃「君たちは女子野球部の1年生だな。」
部員1「はい。お願いがあります。」
志乃「なんだ?」
部員1「助っ人の話、断ってくれませんか?」
志乃「なぜ?」
部員1「あの人、自分の事というか、試合の事しか考えてないんです。」
部員2「そうです。この間も日直で遅れたら話も聞かずに怠けてるとか、一方的に怒鳴られて。」
部員3「だから話を聞いて欲しくてボイコットしているんです。」
部員1「ボイコットして、試合が出来なくなれば部員の大切さが分かると思うんです。」
志乃「分かった。考えてみる。」
部員1「お願いします。」
一通り言った後、部員達はドタドタと退散していった。
志乃「今日は、騒がしかったな。」
ボソッと呟く。
放課後、志乃は体育服を着てグラウンドに向かう。
春奈「来たな。」
志乃「ルールはどうする?」
春奈「どちらかが投げて、どちらかが打つ。打たれたら交代。先に3回ストライクを取れば勝ち。シンプルだろう?」
志乃「わかった。先に投げて良いぞ。」
春奈「舐められたもんだね。分かった。後悔させてやる。」
ピッチャーは副部長、審判は顧問の先生が担当している。
志乃がバットを構えると春奈が投げる。
志乃は一切動かずストライクとなる。
春奈「怖くて動けなかったか?」
志乃「いや、本気の球じゃなさそうだったから降らなかった。」
春奈「生意気言うじゃないか。なら次行くぞ。」
そう言って前よりも速い球を志乃は軽々打ち、遠くへ飛ばす。
春奈「たまたまだろ?」
志乃「負け惜しみか?」
春奈「まだ負けてないだろ。次やれよ。」
そう言ってグローブとボールを投げて渡し、志乃の持っていたバットを奪い取るようにして持っていく。
志乃「行くぞ?」
春奈「いつでも来いよ。」
その言葉のすぐ後、春奈の横をボールが通る。
志乃「今のストライクで良いか?」
春奈「良いんじゃないか?油断している時に投げるのは汚いかもしれないけどな。」
志乃「あんたじゃない、審判に聞いた。」
それを聞いて春奈は顔を真っ赤にしている。
審判もストライクと判断してボールが志乃に返される。
志乃「次投げるぞ。」
春奈は無言のまま構える。
そうして投げられたボールはキャッチャーのグローブの中に吸い込まれる。
3投目もストライクを取り志乃が勝つ。
志乃「何で負けたと思う?」
志乃は無言で俯く春奈に問い掛ける。
春奈「あんたに才能があったからだろ。野球した事ないなんて嘘だろう?」
志乃「野球はした事ないさ。投擲はよくしているが。」
春奈「キャッチボールでもしているのか?まぁ、いいや。約束だ。ピッチャーはあんたに譲る。試合は頼んだ。」
志乃「それはいいが、まだ人数足りなさそうだが試合できるのか?」
志乃は部活に参加している人達を見渡して言う。
春奈「それは、試合までに集めるさ。あんたが入れば勝てるだろ。」
志乃「試合っていうのは1人でできるのか?」
春奈「それは無理だろ。最低でも9人はいる。」
志乃「私がいれば勝てるんだろう?ならあとは人形でも良いのか?」
春奈「そんなので試合なんてできないさ。」
志乃「なぜ?」
春奈「なぜって、当たり前だろう?人形は動かない。」
志乃「ならあんたが集めたいのは動く人形か?」
春奈「どう言う事だ?」
志乃「いくら優秀な人がいても他ができなければ負けると言っている。」
春奈「それは私が弱いって事か?」
志乃「ある意味そうだな。」
春奈「そりゃあ、今の見せられたら否定はできないが、そんな言う事か?」
志乃「なら、強さって何だ?」
春奈「あ?そんなの色々あるだろう?」
志乃「1人でカバーできる事か?」
春奈「そんなの。」
志乃「人には向き不向きがある。」
春奈「そのくらい知っている。」
志乃「私は野球をやるのには不向きだ。」
春奈「はぁ?今私を負かしただろう?」
志乃「それは一対一だったからだ。試合をすれば負けるだろう。」
春奈「何で?」
志乃「野球は団体戦だ。私には仲間がいないから。不戦勝で相手の勝ちだ。」
春奈「仲間?」
志乃「あんたにもいなかったな。」
春奈「だから今集めて…。」
志乃「それは仲間か?少なくとも私はあんたを仲間とは思っていないぞ。」
春奈「そんな。」
志乃「逃げた人達は何を話していたか覚えているか?」
春奈「1年生の事か?そんなのいちいち覚えて無い!」
志乃「どんな顔していたか見ていたか?」
春奈「そんなの…見て、いない。」
志乃「逃げた理由は練習が嫌だからそう決めつけていたな。」
春奈「だってそうだろう?遅刻だってしていた。それを咎めるのもリーダーの仕事だ。」
志乃「理由を聞いて改善する事は考えなかったのか?」
春奈「言い訳なんて聞いてる暇無いさ。練習時間はあまり無いんだ。」
志乃「そうやって部員と向き合うのから逃げたんだな。」
春奈「逃げてなんて、逃げて…いたのか。3年になって、初めての試合で、卒業した先輩の為にも勝たなきゃって、頼れる人いなくなって、頼られる人にならなきゃって。」
志乃「頼られる事が多くなったかもしれないが、頼れる人がいなくなったのは違うと思うぞ。」
周りを見れば心配する3年と2年の部員がいる。
顧問「すまなかった。君がそこまで悩んでいるなんて気がつかなかった。いつも元気に練習しているものだと思っていたんだ。」
春奈「先生…。」
顧問「君がいるからと頼って掛け持ちの部活ばかり気にしていたが、悩みがあればいつでも相談に乗るからな。」
副部長「私も副部長になったんです。これから頼られる人になりたいと思っています。」
部員の人達は励ましの言葉を春奈にかける。
春奈「ありがとう。まず、1年生のみんなに謝りたいんだけど、ついて来てくれる?」
そしてグラウンドに1人残された志乃は帰る支度をする為教室に戻った。
次の日、いつものベンチで本を読んでいると春奈が声をかけてきた。
春奈「昨日はありがとう。1年達とは和解できたよ。」
志乃「そう。」
春奈「それで、やっぱりピッチャーは自分がしたいなぁと。」
志乃「私は人数がいなかった時の助っ人で、人がいるなら参加しなくてもいいんだろう?」
春奈「でも、参加してくれても良いんだよ。どうせならうちに入っちゃいなよ。」
志乃「遠慮する。」
春奈「そうだよね。でもありがとう。」
志乃「ああ。」
そうして春奈は練習へと向かう。
志乃「休み時間だけどやる気だねぇ。」
そう言って、勝手に出ている12号の頭を撫でる。
1ヶ月後、春奈のお願いにより志乃は女子野球部の試合を見に来ていた。
すると相手選手の様子がおかしい事に気がつく。
ベンチの方から半透明の何かが伸びて選手に取り憑いている。
その取り憑かれた選手は翠嶺高校の部員とすれ違いざまに体当たりをして転ばせたのだ。
転んだ部員は咄嗟の事で受け身を取れず手首を捻ってしまう。
勿論、顧問は相手の顧問に抗議しているが、相手側はわざとでは無く、少し眩暈がして当たってしまったと言い訳をしている。
そして相手側の顧問には般若の面が付いていた。
他の人が気にしていない事から妖怪の類である事は明らかだ。
般若は人の悪意を増幅させる妖怪だ。
ここ数年の試合では翠嶺高校が勝っているために相手側は焦り、不安になっていたところにつけ込んだのだろう。
般若を放置できないがこのままでは人数が足りずに試合に負けてしまう。
志乃は急いで部員達の元へ向かう。
相手側の顧問「今回の試合は残念ながら予備の部員を用意していなかったあなた方の負けという事で…」
そんな声が聞こえてきたところで志乃が割り込む。
志乃「人数が足りないのか?」
相手側の顧問「誰だ?」
志乃「私は人数が足りない時の助っ人を頼まれた翠嶺高校の生徒です。」
相手側の顧問「途中参加なんて認めんぞ!」
顧問「そんなルールは存在しません。それに元はと言えば貴方の生徒がぶつかったのが原因です。」
相手側の顧問「だが、ユニフォームも着ていないじゃないか。」
春奈「ユニフォームは予備がある。」
志乃「ならすぐ着替えてこよう。」
顧問「問題は無さそうですね。」
相手側の顧問「チッ。もうすぐ試合は始まるぞ。」
顧問「あなた方が遅れさせていましたがね。」
相手側の顧問「くそっ!」
そうして試合が始まるが、春奈はセンターの方へ向かう。
志乃「ピッチャーは部長であるあんたの位置だろう?」
春奈「だけど助っ人の条件は…。」
志乃「いきなりポジションが変わると本気が出せないだろう?」
春奈「はっ!みくびるなよ。私はどこでも全力を出せるさ。」
志乃「まぁ、今回は私がセンターに行きたいんだ。」
春奈「わかった。。ありがとう。」
そして試合が始まる。
志乃は相手側の顧問に憑いている般若の面を割る機会が無いか探しながら試合をしている。
攻守交代する時相手側の顧問に近づきユニフォームに仕込んだ封呪符を取り出して般若の面に貼り付ける事に成功する。
志乃「虫が付いていましたよ。」
そう言って封呪符を貼るとお面は消えて顔が見える。
お面が消えると悪意も小さくなったようで頭を抱え自分の行動に後悔しているようだった。
ただ、お面は般若の本体に戻っただけで本体を叩かないとまた取り憑かれるだろう。
だけどこれで試合に集中できるようになったので志乃は攻守共に活躍する。
試合が終わり、翠嶺高校が勝利した。
志乃は他の部員に声をかけられる前にさっさと姿を消してしまった。
般若の本体の居場所が分かったので、早めに退治しないといけないからだ。
般若は試合のあった会場の近くにある空き倉庫の1つに潜んでいた。
志乃「意外と近くに居たな。」
3mありそうな背に般若の面をつけている妖怪は薄暗い倉庫で不気味に佇んでいる。
般若は志乃の存在に気付くと刀を振りかざし襲いかかってくる。
志乃「9号!」
志乃が呼ぶと短剣を咥えた 管狐が出てきてそれを受け取ると同時に刀が振り下ろされる。
それを短剣で受け止めるが強い力で押されてしまう。
志乃「3号!」
そう叫ぶと出てきた 管狐は般若の顔に向かって炎を吐き出す。
それに怯んだ隙に志乃は体制を立て直す。
志乃「9号、周りを飛んでくれ。」
そう言うと9号は般若の周りを素早く飛び回り、注意をひく。
その隙に志乃は足元に向かって叫ぶ。
志乃「出て来い!大百足。」
すると地面から大きな百足が出て来て般若の体に巻き付き締め付けると、般若はバランスを保てず倒れこみ、それを志乃は避ける。
顔の方に回り込み短剣を突き刺し面を割ると叫び声を上げ、煙となって消えていった。
志乃「終わったか。」
志乃「皆んなありがとう。」
そう言うと大百足は地面へ、 管狐は竹筒に帰って行った。
志乃が倉庫から出ると、志乃を探す女子野球部の人達がいたが無視して電車で家に帰ってしまった。
試合が終わってから初の登校日。
いつものようにベンチで本を読んでいると春奈が話しかけて来る。
春奈「やっぱりここだった。試合の後、打ち上げあったのに何で帰っちゃったの?」
志乃「野暮用を思い出した。」
春奈「私には仲間が大切とか言っていたのに君はいつも1人なんだな。」
志乃「人には適した環境というものがあるんだ。」
春奈「君は1人が適しているのか?」
志乃「さあ?」
春奈「わからないならうちの部に来てみる?歓迎するけど。」
志乃「やめとく。」
春奈「だよね。今日はお礼を言いたかっただけだから、気にしないで。」
志乃「そうか。」
春奈「うん。ありがとう。あっ、それとまだ日程は決まって無いんだけど優勝祝いやる予定なんだがこれは来てほしい。」
春奈は手を合わせてお願いする。
志乃「暇だったら。」
春奈「それは行けたら行くという事かい?」
志乃「暇だったら行くかもしれない。」
春奈「わかったよ。一応日程が決まったら伝えるからな。」
志乃「行けるとは言っていない。」
春奈「わかってる。来たかったらで良いよ。」
そう少し諦め気味に言うと春奈は練習に行ってしまった。
志乃「仲間か。」
志乃はそう呟いて空を見る。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。