過去編3/5
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
柚子達と活動を始めて最初の事件は人間に退治されそうになっている妖怪の救出だった。
その妖怪は生まれたてから時間があまり経っておらず、人から精気を少しずつ吸いながら暮らしており、妖怪に精気を吸われた人は体が弱ければ一時的に体調を崩したりしたが少量だったためほとんどの人は吸われたことには気が付いていない。
だがどこかのお偉いさんの奥さんが旅で疲れていた所を知らずに吸ってしまい、その奥さんが体調を崩してしまい、その原因となった妖怪を探して退治しようとしているんだそうだ。
近くの林に逃げ込んだ所で追い詰められているその妖怪を見つけ、黒根が木の根で振り下ろされた刀を受け止める。
驚いている人の前にしのが現れ説得を試みる。
しのが気を引いているうちに黒根が妖怪を抱えて離脱した。
しのの説得は失敗し、しのも黒根を追って柚子達のもとへ戻る。
まだ名前のない妖怪は人の精気を吸わなくても生活できるように柚子とノラとシロが育てて、その間の精気はしのが仕事の合間に提供することになった。
基本的には妖怪は保護していたが、なかには恨みや怨念から生まれたために悪さをしている妖怪もいて妖怪の印象が悪くならないように退治することもあった。
そうやっていくつもの仕事をこなしているとある日、大きなムカデの妖怪が暴れているという情報が入る。
現場に行くと戦う人達が見えるが、刀は頑丈な体に歯が立たず、何人もの人がケガをしていた。
大百足は山から来たらしくもう少しで人の町に入りそうだ。
これ以上町に近づけないように黒根が木々を操ると大百足に巻き付いて動きを止める。
するとそれをほどくために暴れるのでしのが結界を張って時間を稼ぎ、近くの人達を逃がす。
その間に黒根は木の根での攻撃を試みるが弾かれてしまう。
全員が逃げれたことを確認すると霊縛符を使ってより動きを止めようとするが一瞬しか止まってくれない。
大きく動いて暴れるので近づくのもやっとだ。
黒根「おい!何でいつものように呪滅符を使わないんだ!?」
しの「だけどこいつ、いつもの嫌な感じがあまりしないんだ。」
黒根「だがこのままでは町に入るぞ。」
しの「それでも、、」
しのが大百足が通った場所を見ると何かに気づく。
しの「なあ、お前ならもう少し止めておけるだろう?」
黒根「余力はあるが長くはもたないぞ。」
しの「私が戻るまで持たせてくれ頼む!」
黒根「はあ?」
しのが黒根に頼みごとをするのは初めてでそれを聞いて黒根は戸惑っている。
その間にしのは山の方へ走って行ってしまった。
黒根「あ!こら!どのくらいかかるんだ!?」
しの「すぐ戻る!」
その間にも大百足は暴れるので黒根は拘束用の木を増やしてさらに妖力を消費して黒く硬く変えると動きは鈍くなるが代わりに木と大百足の力比べのようになる。
一方でしのは一瞬見えた人の影を追っていた。
しのはすぐに追いつき人影の首根っこを掴むとそれは青年だった。
青年「ごめんなさい。ごめんなさい。こんなことになるなんて思わなかったんだ。」
捕まって怯える青年にしのは質問していく。
しの「あの大百足はお前が生み出したのか?」
青年「僕は教えてもらった儀式をしたら強い手下ができるって思って。」
そう言って渡された壺の中には虫の残骸が入っていた。
しの「蟲毒か?」
青年「そんな名前だったかも。」
蟲毒とは100匹の毒虫を1ヵ所に閉じ込めて共食いをさせて、最後に残った虫が特殊な能力を持つというあまり良いとは言えない呪術だ。
しの「誰に聞いた?」
青年「旅しているお坊さん。この壺もそのお坊さんから貰ったんだ。」
壺をよく見てみると何か術がかかっているようで力を感じる。
青年「強くなれって思いながらこの山に隠していたんだけどふたを開けたら一匹の百足が出て来ていきなり大きくなったんだ。」
しの「そうか、わかった。あいつは何とかするが、お前には責任を取ってもらう。ここで待っていろ。」
青年「は、はい。」
しのは黒根の方へ戻って行く。
しの「待たせたか?」
黒根「遅い!」
しの「悪かった。だけど決めた。」
黒根「何を?」
しの「こいつを私の式神にする。」
黒根「はあ?」
しの「だからもう少し止めててくれ。」
黒根「勝手に決めんな。聞いているのか?おい!」
黒根は大百足を止めるために意識を集中しているので今いる場所から動けないのでそれを利用してしのは契約の準備を進める。
一番早くできる体の一部を捧げて契約を行う血紋の誓を行うため、脇差を使い自身の髪を切ると大百足の前に持って行き呪文を唱える。
唱え終わると大百足は髪を食べて大人しくなった。
???「苦しい。」
契約が終わると声が聞こえる。
しの「もしかして大百足お前の声か?」
大百足「うん。苦しい。」
しの「黒丸。もう大丈夫だから術を解いてくれ。」
黒根「わかった。」
そして大百足に巻かれていた木々は外れたが大百足は動かない。
大百足「苦しい。」
相変わらず大百足は苦しんでいる。
大百足「それ、苦しい。嫌だ。」
大百足はしのの持つ壺を見ている。
黒根「そう言えばそれは何だ?」
しの「こいつが生まれる切っ掛けとなったものだ。もしかして暴れたのもこいつのせいかもしれない。」
そう言ってしのが壺をたたき割りしばらくすると大百足は元気になった。
しの「もう大丈夫か?」
大百足「うん。」
しの「さて、私の式神として最初の仕事をしてもらうか。」
そしてしのはさっきの青年の所へ行く。
青年「退治したんですか?」
しの「いや、していない。」
そう言って地面に合図を送ると地面から大百足が現れて青年の目の前に顔を近づける。
青年「ぎゃああ!」
不意を突かれたのもあって恐ろしい顔を目の前にして失神してしまった。
しの「これからは軽率な行動は控えるんだな。」
黒根「こいつこのままでいいのか?」
しの「その方が起きた時に夢ではないことがわかるだろう。」
黒根「なあ、なに怒っているんだ?」
しの「別に。」
生きるためではなく自身の名誉のためだけに生き物の命を軽率に扱った事はこれまで生きていることに悩んできたしのにとって許したくない事だったのだ。
この事件でしのと黒根は有名になっていき、しのはいつの間にか人でも妖怪でも悪さをすれば容赦なく罰し、静かにさせる者として一部の人や妖怪には破魔凪と呼ばれるようになっていた。
大百足は地面に潜ると姿を消すことができた。
呼べば地面から出てくるがあの巨体がどこに行っているのかその原理はしのにもわからない。
だが場所に困る事が無いので正直ありがたい能力だった。
事件の後、壺について相談する為にしのは師匠である鬼渡の所に来ていた。
鬼渡「久しぶりだな。」
しの「久しぶり。来た理由はわかっているよね。」
しのは予め紙の式神に壺のカケラを持たせて鬼渡に送っていたのだ。
鬼渡「ああ、壺の事だろう?大体の解析は済んでいる。他にも話があるからまあ入れ。」
しの「わかった。」
2人は屋敷の中に入り落ち着いて話を始める。
しの「それでこの壺は妖力を増加させる効果があってそれで苦しめられた妖怪が暴走する様な術だと思うんだが。」
鬼渡「その通りだ。それでお前が聞きたいのは誰がこいつを作ったのかだろ?」
しの「話が早くて助かる。」
鬼渡「壺を見ていたら特徴的な癖を見つけてな。こいつは斎守家のものだろうな。」
しの「斎守、本家はどこにあるんだ?」
鬼渡「今勢力を伸ばしている所だからな。あまり手を出すのはお勧めしない。」
しの「それでも、嫌な予感がする。」
鬼渡「名前は伝えてしまったんだ。俺が教えなくてもお前なら調べてしまうだろう。無茶はしないと約束できるか?」
しの「ああ、あちらから手を出してこなければ何もしない。もしもの為に教えてほしい。」
鬼渡「わかった。場所はこの紙に書いてある。」
そう言って一枚の紙を渡される。
鬼渡「それとこれも渡しておこう。」
しの「これは?」
鬼渡「新しい衣装だ。お前も有名になったからな。そろそろ男装しなくても良いだろう。なあ、破魔凪。」
しの「知っているのか。あまり好きじゃ無い呼び名なんだが。」
鬼渡「そう言うな。認められた証なんだから。それよりそれを着てみろ。お前の部屋はそのままになっているから。」
しの「わかった。」
しのは新しい服に着替えるが露出が多い割に飾りがあって上手く動けず直ぐに脱いでしまった。
しの「師匠。」
鬼渡「どうだ?女物はあまり作った事が無かったが自信はあるんだぞ。」
しの「いえ、裁縫道具を貸してください。それと衣装に使った布も。」
鬼渡「それは、、」
しの「貸してください!」
鬼渡は渋々裁縫道具と布をしのに渡す。
しのは露出と飾りを無くして動き易い衣装に仕上げた。
鬼渡「結構変えたんだな。」
しの「あれで戦えは無理がある。」
鬼渡「だが、印象を与える為にも、、」
しの「これで良いんです!」
鬼渡「はい。」
しの「それでは、私はこれで。奇抜でしたが新しい衣装、ありがとうございます。」
鬼渡「ああ、また来いよ。」
そしてしのはまた柚子達のもとに戻り、活動を始める。
ある日、とある村で生贄の儀式をしている事を聞く。
それは巨大な蛇に生贄を捧げ、怒りを鎮めるというものだった。
妖怪の仕業の可能性もあるので、しのと黒根は現場に向かう事にする。
生贄の祭壇を調べると、予想通り蛇の姿を持つ夜刀神という妖怪だった。
少し懲らしめると降参して人間を食べない事を約束するが、少しするとまた蛇が生贄を要求している事を聞く。
今度は力を空井戸の底に作った祠に封印し、近づけば呪滅符が発動し攻撃する様にした。
夜刀神は普通の蛇の大きさになり、時間をかければある程度の力は戻るだろうが封印を解かない限り悪さはできないだろう。
黒根「蛇は執念深いというが、あれで良かったのか?」
しの「本当は心配だけれどあんな姿見せられたらな。」
黒根「そうだな。あんな高速で首を振りながら謝るやつ初めて見た。」
しの「それに怯えている奴を滅するのはなんか気が引ける。」
黒根「それもあいつの作戦だろうがな。」
しの「まぁ、しばらくは悪さできないからその間に改心してくれたら良いけど。」
帰り道2人で話しながら帰った。
それからは大きな事件は無かったが徐々に拠点に変化が現れる。
保護した妖怪達の数が増えていったのだ。
一人前になっても行くあてがなく残る妖怪も出てきて場所が無くなってきてしまいこれ以上の受け入れが難しくなってきた。
一部は鬼渡の屋敷で預かってもらったり、しのの式神として活躍するものもいるが早めになんとかしないと管理できなくなった妖怪達が悪さをしてしまう可能性もある。
そんな中でも妖怪が起こす事件は起こる。
破魔凪の噂を聞いた女性が鬼渡の所に辿り着き依頼してきたのだ。
しのは鬼渡の屋敷に行きその女性の話を聞く。
女性の話では依頼人とその姉は親に見捨てられ、2人で旅をすることになり、旅中に収穫した物などを売って暮らしていたそうだ。
ある日竹林に寄った時に不思議な竹があり、それには鼠くらいの細長い生き物が2匹住んでいて姉に懐いたのでそのまま竹を切り取って連れて行ったんだそう。
だけどその生き物はよく食べてこれまでと同じような稼ぎ方だと飢えてしまう。
良くないことだとはわかっていたが収穫物を売るとき、秤にその生き物で重さをごまかしお金をもらっていたが次第に2匹が3匹、4匹と増えて行って養うことができなくなってしまったので竹林に逃がそうとしたけれどそれに怒って姉に取り憑いてしまい、お寺に駆け込んだが手も足も出せずそのお寺の住職から破魔凪の話を聞いて人づてに話を聞きながらここにたどり着いたんだそう。
依頼人の希望もあり今回はしのが依頼人と姉のいるお寺に向かうことになった。
その時にしのは目隠という妖怪を一緒に連れて行くことにした。
目隠は目を布で覆った女の子の姿をした妖怪で目は見えないが目で見れないものを見ることができ、依頼人の姉に憑いているものを見るのに役に立ってくれると思ったからだ。
3日ほどかけて歩くと目的のお寺が見えてくる。
お寺の中に入ると住職が迎えてくれて依頼人の姉が寝ている部屋に案内してくれた。
依頼人の姉は高熱にうなされており、不気味な声を度々あげている。
しのが辺りを見渡すと話にあった竹筒が布団の横に置いてあり、それを手に取ろうとすると依頼人の姉は起き上がりそれを守ろうとする。
依頼人の話では憑かれてから竹筒には誰にも触れさせないようにしているそう。
竹筒に手を伸ばしたことで警戒されてしまい近づくと逃げられてしまうようになってしまったのであまり刺激しないように目隠に依頼人の姉を見てもらうことにする。
すると2匹の獣が見えたそうで、より詳しい特徴を聞くと管狐という妖怪だということがわかった。
まずは憑いている管狐を追い出すために持ってきたタバコの葉を近くの杉の葉を集めた焚火の中に放り込み、その煙を依頼人の姉がいる部屋の窓から送り込む。
焚火の所にしのと住職、依頼人の姉の所に依頼人が準備して行うが焚火が尽きても管狐は出て行かなかった。
だけど弱ってはいたようで依頼人の姉の熱は引いていて静かに寝ている。
この人と離れたくない理由はわからないがこれ以上は憑かれている人の体力と精神力が持たないと判断して呪滅符を使い直接管狐を消滅させることを決めた。
服の一部を脱がして一番憑いている場所に近い胸のあたりに呪滅符を貼り霊力を込めると「ギャッ」っと一声上げ、口から2つの煙が出ていき消えていった。
目隠に見てもらっても憑いていた管狐の姿は無く、完全にいなくなっていた。
しのは気になっていた竹筒を手に取ると憑いていた管狐の子供だろう、中を覗くと小さな管狐が何匹かいる。
竹筒を守ろうとしていたのは子供達を守ろうとしていたためだろう。
依頼人の姉から出て行かなかった理由もこの子達を置いていけなかったからかもしれない。
人の命を守るためだったが悪いことをしたような気がしていると依頼人はその管狐達も退治してほしいと願い出る。
しのは依頼人の気持ちもわかるがまだ何もしていない妖怪を退治することにも気が引ける。
持ち帰って柚子達に相談しようと思い依頼人を説得し、竹筒を封印して持ち帰ることにした。
帰る時、住職だけが見送りに来てくれた。
依頼人は姉が病み上がりで看病するためと言っていたがそれは口実で、管狐を退治しなかったことが不服で来なかったんだろう。
しのが住職に背を向けた時、背中に激痛がはしる。
住職がしのの背中に短刀を突き刺していたのだ。
深く突き刺さった短刀を抜くとしのは倒れ、全身の血が抜ける感覚と共に意識を失う。
完全に意識がなくなる前に住職の声が聞こえる。
住職「悪いな。お前らは斎守家の邪魔になるんだ。」
目隠はすでに隠れていて目隠を逃がしたことに住職は舌打ちしてから、しのを近くの林へ引きずっていく。
誰も来そうにない奥の方へ来るとしのの懐から竹筒を出して封印を剥がそうとするが術者以外に剥がせないようにしてあるので途中であきらめて先に死体を埋めるための穴を掘り始める。
人が1人入れそうな穴が掘れた頃しのが起き上がる。
住職は一瞬驚くがすぐに短刀を取り出し戦闘態勢に入る。
住職「まさか人外だとは、よく人をだませたな。」
しの「まさか寺の住職が人殺しをするとは思っていなかったよ。」
住職「お前は人ではないだろうが。」
そう言って短刀を持って突っ込んでくるが素人が正面から向かってきてもしのの脅威にはならない。
避けて足を引っ掛けると簡単に転んで体勢を崩す。
立ち上がる間もなくしのが圧をかけながら近づくと住職は腰を抜かして命乞いをする。
住職「わ、わしは命令されただけだ。こ、殺さないでくれ!」
しの「命は取らないさ。色々と教えてもらうまでは。」
住職「わしは何も知らない。」
そう言いながら油断しているしのに1枚のお札を取り出し貼り付けるが妖怪用の札だったのか、しのに効果は無い。
住職「お前、何で滅魔符が効かない。」
しの「人間には効かないでしょ。これ。」
そう言って貼られたお札を剥がしてひらひらさせる。
住職「人間が生き返るものか!化け物め!」
しの「久しぶりに言われたなその言葉。わかってはいるけど傷つくんだよね。」
そう言って棒手裏剣を住職が座っている地面の近くに投げつける。
刺さった手裏剣を見て住職はしのが攻撃の意思がある事を悟り交渉に切り替える。
住職「悪かった。謝る。お前の言うことも聞くから許してくれ。」
しの「じゃあ、斎守家について話してもらおうか?」
住職「斎守家、そうだ。邪魔になりそうな奴らを始末できれば役職に就けるって言っていたんだ。破魔凪、お前もその中に入っていた。」
しの「他にもいたのに何で私を選んだんだ?」
住職「噂では妖怪と組んでいる変わり者で殺った後の始末がやりやすそうだったんだ。」
しの「そうだね。誰にも見つけられないような林に埋めれば良いもの。それで、今回の依頼人を使って私を探したと?」
住職「神出鬼没で探すのは難しかったから、あの姉妹はちょうどよかったんだ。」
しの「管狐はお前が仕掛けたことではないんだな。」
住職「はい。それは偶然だったんです。」
しの「そうか。」
住職「それで、ほか聞きたいことはありますか?」
しの「そうだな、今は無いな。ただあの姉妹にはこのことは話すなよ。」
住職「もちろんです。これ以上は巻き込みません。」
しの「あと、私は人魚を食べて不死なんだ。殺そうなんて思うなと斎守家に伝えておけ。」
住職「は、はいぃ。」
そう言って住職は逃げて行った。
しのは竹筒を拾うと目隠を探す。
契約しているのでお互いの位置はすぐにわかって合流できた。
すると目隠はしのをどこかに案内する。
そこは放置されて時間が経っていそうな人口の洞穴だった。
大人の人が立って入れるくらいの高さがあり、周りは石で補強され、少し湿っているのか藻や蔦が生えている。
中は外から見ても行き止まりだということがわかるくらい浅い場所だったが目隠は奥へと進み、行き止まりの壁をすり抜けて行ってしまった。
驚いて追いかけようとするがしのは壁に阻まれてしまうが、目隠がまた現れてしのの手を引きそれに付いて行くと見たことのない空間に出た。
周りを見渡すと妖怪がいてここに住んでいるようで、しのの事を警戒している。
すると2人の前に1人の妖怪が現れた。
老人のような背格好に杖を持っていて、大きさのあっていないボロボロの服を着て頭には布をかぶっていて顔は見えない。
しの「あなたは?」
???「私の名前は無い。名無しとでも呼んでくれ。」
しの「なら、名無し。ここはどこなんだ?」
名無し「ここは私が見つけた空間。私は妖怪の住処を作るためにここを開発をしている。そのために住民である妖怪を集めている。」
しの「それなら頼みたいことが。」
名無し「人間が口出しするな!」
名無しがいきなり怒鳴り、それに驚きしのは黙ってしまう。
名無し「ここは妖怪だけの場所だ。人間は出て行け。」
そう怒る名無しの着物の裾を目隠が引っ張り、首を横に振る。
目隠「この人は違う。」
無口な目隠がしゃべった。
名無し「人に怯えたお前をここに呼んだが、何故人間を連れてきた?」
目隠「あなたと同じだから。」
名無し「私が人間と同じとはどういうことだ?」
しの「私は弱い妖怪を保護しています。」
名無し「保護?お前が持っているものは何だ?」
名無しは管狐を封印している竹筒を指す。
しの「これは、、」
名無し「人間は裏切る。信じることはできない。」
しの「私は人間だが少し話を聞いてくれないか?」
名無し「人間の話は聞かん。出ていけ!」
しの「人間が嫌いなんだな。わかった。」
しのは脇差を鞘から抜く。
名無し「なんだ?実力行使ならこちらも、、、」
しのは抜いた脇差を自身の腹部へと突き刺した。
名無し「何してんだ!?人間は嫌いだが死ねとは言ってないぞ。」
そう言ってすぐに名無しはしのを地面に寝かせて刺さった脇差を抜く。
しの「意外と優しいんだな。」
名無し「目の前で死なれて喜べるか。」
そう言って手当のために服をめくるがそこには傷は無い。
しの「私は人間だが他の人間とは違っていて、化け物なんて呼ばれたこともある。」
しのは何事もなかったかのように起き上がり服を整える。
名無し「仕掛けがあるんじゃないのか?」
しの「私は人魚を食べてしまった人間だ。疑うなら見える場所を斬ろう。」
そう言って脇差を拾って袖をめくる。
名無し「いやいい、あの顔が演技でできるとは思えない。傷は治っても痛みはあるんだろう?」
しの「やっぱり優しいんだな。」
名無し「わかった。ここまでしたんだ。話だけは聞いてやる。」
許可をもらい、しのは話を始めた。
柚子との出会いとそこから始まった活動、拠点に保護した妖怪たちがあふれてきている事など話した。
名無し「言いたいことはわかった。」
しの「それで協力してほしいんだが。」
名無し「そうだな。正直すべてを信用しているわけではない。」
しの「それは仕方ない。」
名無し「だから一度お前達の拠点を見せてくれないか?」
しの「もちろん。」
しのは一部だけでも信用されたと喜ぶ。
しの「だがここから歩けば3日はかかるんだ。運ぶことはできるがここから離れても大丈夫なのか?」
名無し「ここの空間は私が安定させている。多少の操作も問題ない。」
しの「それってどういうことだ?」
名無し「手を繋いでその拠点を思い浮かべてくれ。」
しの「わかった。」
疑問はあったが名無しの言う通り手を繋ぎ拠点にしている山の山小屋を思い浮かべた。
するとさっき入ってきた場所の隣に見慣れた戸が出てきた。
名無し「開けてみろ。」
しのは恐る恐るその戸を開けると柚子達が見える。
山小屋の戸に繋がっているのだ。
シロ「あ、しのだ。」
ノラ「あれ?しの?」
柚子「え?しの。いつ帰ったの?」
しのが驚いて戸の所で固まっていると柚子達に声を掛けられる。
しの「本当に帰ってきたの?」
柚子「何言って、ってその血どうしたの!?」
2回傷を負ったしのの服は血だらけでボロボロだった。
しの「あっ。着替えないと。あ、着替え、小屋の中なんだけど、これどうやって入れば?」
小屋に入るための戸は別空間に繋がっていて小屋の中に入れそうに無い。
名無し「出入り口は他に作った方が良さそうだな。」
柚子「目隠と誰?」
戸からは名無しと目隠も出てくる。
しの「先に説明した方が良い、よね。」
柚子「そうだね。黒根も呼んでくるよ。」
柚子がその場にいなかった黒根を呼んで来た。
黒根「うぉ。しの、何があったんだ?」
黒根もしのの格好を見て驚いている。
それくらいしのの恰好がボロボロなのだ。
しのはこれまでにあった事を話した。
管狐の事、住職の事、斎守家の事、名無しと別空間に開拓している妖怪の棲家の事など順番に話していった。
柚子「なるほど、それで名無しさんはここにいる妖怪達を受け入れてくれるの?」
黒根「だが信用できるのか?」
名無し「信用か、しのだったか。こいつがした事以上の事はできないが、私にできる事ならしよう。」
黒根「しのは何をしたんだ?」
名無し「私もびっくりしたんだが、、」
しの「わわわ、言わなくていい!」
黒根「だが、それがわからないと無理の基準を決められないぞ。」
しの「私は名無しは信用できると思っている。」
黒根「いや、これまで助けてきた大切な奴らをいきなり現れた奴に任せる事はできない。お前は何でこいつを信用しているんだ?」
しの「それは、、」
腹部を刺した自分を助けたからとは言えずに言葉に詰まってしまう。
名無し「こいつは人間嫌いの私を信用させる為に腹部を自分で刺したんだ。」
柚子「え!?そんな無茶な事していたの?」
黒根「なるほど背中を刺されてなぜ前まで血だらけなんだと思っていたらそんな事をしていたのか。」
柚子「まだ他に話して無い事ないよね?」
しの「無いよ。今回はこれだけ。」
柚子「今回は?他で何かあったの?」
しの「あ、、」
しのは墓穴を掘ったと自分の発言に後悔している。
柚子「そう言えば髪短くして帰ってきたこともあったよね。」
しの「す、すぐ伸びたから。」
柚子「まぁ、今はいいわ。それからどうなったの?」
しの「不死身とは言ってなかったけれど刀を抜いて手当てしようとしてくれたんだ。根は優しいよ。名無しは。」
柚子「そうだったの。名無しさん。驚かせたようで申し訳ありません。」
名無し「大丈夫だ。信頼を得るためだけにあんな事する人間は初めて見たけどな。」
しの「特殊な体だからできた事だけど。」
柚子「それでももう無茶な事はしないで。」
しの「ごめんなさい。」
名無し「それにしても最初に聞いた時は妖怪と人間がどう仲良くできているのか半信半疑だったがこんなこともあるんだな。」
柚子「これなら私も信じられる。黒根はどう?」
黒根「そうだな。そちらが良ければお願いしよう。」
名無し「あい、わかった。」
話はまとまり名前も妖ノ郷となり居場所のない妖怪たちの住処として提供されることとなった。
入るためには敵意が無いものが特定の場所で手をかざして妖力を流し込むと出入り口が開くそうで出入り口は全国に作られ移動するときにも使えて遠くに行くのが楽になった。
そして妖力の無いしのは柚子や黒根に手伝ってもらうこととなった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




