1-2
「――…起きなさい。」
「………。」
「起きなさい。」
「っ…。」
深い闇の中から拾い上げられるように意識が声に応じて徐々に戻ってくる。
静寂な空間に響く大声ではないものの、鼓膜に真っ直ぐと通る声に瞑っていた瞼は浮かび上がる意識と連動するようにゆっくりと開かれた。
先程とは異なり、視界に映るのは真っ白な天井。
その眩しすぎる程の白さに眉を潜めながら、横たわっていた男は上体を起き上がらせた。
「今度は…、何処だ…?」
「起きましたか。人の子よ。」
「…っ!」
男はまだはっきりとしない視界に目元を擦りながら、声の主へ顔を向けた。
そこにいたのは、黒いベールで顔を覆われた女性の姿。
臍上程までに垂れたベールで顔は見えないが、真っ白な空間に佇む黒いベールに黒いウェディングドレスの姿は異様な程に目立っていた。
「あ、あんたは…?」
「起きましたか。人の子よ。」
「…あ、ああ。起きたよ。」
「そうですか。ならば、お話をしましょう。」
「話?そうだ。話を聞かせてくれ。ここは何処で、あんたは誰で。…いや、そもそも俺は――」
「お話をしましょう。」
女性の言葉は良く言えば穏やか、悪く言えば無機質な声で淡々と言葉を紡ぐ。
漸く出会えた情報源に安堵を覚えつつ、未だ思い出せない焦りからか僅かに早口になる言葉に対して女性は何の感情も乗っていないであろう声色で言葉を遮った。
「…。聞けば分かるって?」
「それは分かりません。私は貴方ではありませんから。」
「それはそうだ。とにかく、あんたしか情報源がないんだ。話でも何でも聞かせてくれ。」
余計な言葉のラリーは無用と判断したのか男は一つ吐息を放ち、縋るしかない情報源たる女性と向き直った。