5、仮面を被る男《視点…三栖結人》
いやな夢を見た。
大好きで愛おしくてたまらない彼女が殺される夢を見た。
大好きな彼女が大嫌いなあいつに殺される夢を見た。
額から落ちてきた雫が目に入った。どうやら僕は冷や汗をかいてしまったようだ。
もう彼女は居ないというのに、この部屋で暮らしていると彼女の面影を感じてしまうことがある。別に嫌な訳では無い。ただもう彼女が居ないということを感じてしまうだけなんだ。
……………………もしかしたら僕はずっと彼女を探しているのかもしれない。
彼女が亡くなってから、孤独を感じてよく病んでしまう。生前の彼女と同じ様に病んで、自分で頑張って立て直して、誰かに少し救われて、そのお陰で気持ちが晴れて、また嫌なことがあって、また病んで…。今だったらあの時の彼女の精神状態が分かるような気がする。ベッドから起き上がる。部屋を見渡す。とても殺伐とした部屋。僕の心と裏腹に、ひどく晴れている。そのお陰で、写真立てが眩い太陽の光を受けてきらりと光った。僕の心に彼女の笑顔が刺さる。
あの時は確かに幸せだったんだ。
ベッドから立ち上がると立ち眩みがした。いつもの事だ。ぐらぐらする視界を恨みながら朝食を作る。ポットのゴトゴト音が自分の耳鳴りに重なる。お茶漬けを食べながら彼女の写真を眺める。職場に行く準備をする。今日の小テスト、英語の教科書、単語帳、電子辞書……。持ち物はとても多い。玄関に立って、姿鏡を見る。顔の死んだ青年が立っている。仮面を被る。途端に青年の顔は優しく微笑んだ顔になった。
「先生!おはようございます!」
「おはよう、雨宮くん。」
「ごきげんよう。」
「おはようございます、伊集院さん。」
「おっは~、すみすみぃ~」
「赤坂さん、今日も相変わらずだね(笑)」
「せんせーしかこんな反応してくれる人いないんだもん。」
「やっていいのは先生だけだよ?」
「もち~、じゃ。」
「せっ、先生っ、おはようございます……。」
「西園寺さん、おはよう。最近は挨拶してくれて嬉しいな。」
「あっ、ありがとうございます……?」
「ゆう先生おはようございます。」
「板田先生、今日も相変わらずですね、ほら、半袖。まだ春の初めですよ。」
「いやー、いつもの事ですよ。……暑いですし。」
「あはははっ! 先生の体感温度は本当に面白いですね!」
「じゃ、今日もお互い頑張りましょうか(笑)」
「そちらも頑張ってくださいね、じゃ。」
「はぁ、」
放課後、ふと息を吐いた瞬間に仮面が取れるの分かった。顔をあげるとそこには虚ろな目をしている男が居た。もう授業も帰りのSTも終わった。生徒の前に出ることは無い。
教室に明日の準備をするために教室に向かう。教室に向かうと電気がついていた。日直の消し忘れかと思ったがそれはすぐに否定された。_______声が、聞こえるんだ。
どこか聞いたことのある声。
その声が歌を歌っている。
………………これは、あの曲じゃないか。悠月がいつも歌っていた曲じゃないか。
ノックをする。
僕は教室に入る。
だが、そこには誰もいなかった。