3、虚空を見つめる目《視点…伊集院麗羽》
今日も私は教室の隅で目立たない生活を続けている。私は伊集院麗羽。私の本業は学生ではなくアイドル。だからいつも目立たないように、バレないようにサングラスは着けちゃいけないので、仕方なく金縁の丸眼鏡をかけて誤魔化している。
私が学生アイドルだという事を知っているのは、かの『リリィさん』だけ。今日も私はみんなが帰るのを待っていた。
「ねぇ、麗羽。」
リリィさんの声では無かった。
振り向くとそこにはクラスの自称一軍女子の南佳奈が立っていた。いつもこうだ。多分こうやってくるのはクラスの一軍女子に好かれるためだけなのだろう。
「……………‥何です?」
______ほんっっつとうにめんどうくさい。
私はあなたの承認欲求を満たす物じゃないのよ。
「いっつもそうやってクラスに残ってるの?カワイソー。一緒に帰る人が居ないのねカワイソー。」
______彼女はこうする事でしか満たされないのかしら。
「人を待っているだけですけど。」
「そんなこと言って~。そんな訳ないでしょ?」
そんな事あるの。
煽らないでください。
「……あ。待ち人来たからお帰りになってください。」
「は?」
『は?』はこっちのセリフですわ。
「あ、やっほ~。……あれもしかして密談中だった?出直した方が良い?」
「全然そんなことないよ~。てことで、早くお帰りくださいます?」
「……あっそ。」
彼女はそう吐き捨てるとそそくさと帰っていった。
「れいちゃん。どうしたの?」
「やっぱり、リリちゃんといるのが自分を偽らなくて心が軽いよ…。」
「アイドル業なんて嘘をついて暮らすんだからね~。辛いに決まってる。」
「楽しいんだよ?__________でもね。」
「辛いんでしょ?____みんなに嘘をつくのが。」
「……………………………………うん。」
「れいちゃんのファンも沢山いるのは良く知ってるから軽々しく『辞めれば?』なんて言えないけどさ。れいちゃんが体調崩して休業するのもファンは悲しいし心配しちゃうし。難しいね。」
「よく、わかるね……。」
「残念ながら生きてる時から『勘が良すぎて嫌い。』って言われたしね。」
「私はれいちゃんの話を聞いて、相談に乗ったり、共感したり、アドバイスをすることはできるけど、ぎゅって抱きしめて慰めてあげることはできないし、頭を撫でてあげることはできない。
……でもれいちゃんには幸せになってほしい。
………………‥私の分まで幸せになってほしい。」
「………嬉しい。そうやって言ってくれるの。」
「本音だよ?」
「知ってる。」
「よかった。」
「……え?」
「……………ううん、何でもない。」
「………………………………………そっか。」
ふと彼女の方を見ると、彼女は虚ろな目で虚空を見つめていた。