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女子、怖い


 マリウスと一緒に帰宅すると、父は驚きのあまり目を白黒させた。

 昼間の内に私とマリウスの婚約を望むという、国王からの正式な書面を受け取ってはいたけれど、それ自体が寝耳に水の話で混乱しているところ、時を置かずして夕方には追い打ちをかけるようにマリウスからの使いが来たものだから、「これ、マジのやつじゃん!」的な感じで家族中がパニックしたそうだ。


 家族の反応がこれだとすると、他の皆は?


 考えると気が重くて、とにかく皆に知られる前に、一刻も早くエレナと話をしなくては、と思った。マリウスからヒューズ侯爵に直接報告したと言っていたから、エレナだって当然知っているだろうけれど。いずれ他の皆の知るところになるその前に、自分の口で伝えたかったし、エレナの本音を知りたかった。


 一夜明けて、私は覚悟を決めて学園へ向かっていた。その道中のことだ。


「クリスタ様、ごきげんよう」

「クリスタ様、良いお天気ですわね」

「クリスタ様、ご一緒してもよろしいですか?」


 いつもと違う。

 昨日まで全然友達じゃなかった同級生やら先輩後輩やらが、やたらと声をかけてくる。しかも揃いも揃って、クリスタ「様」って!


 ……えっと、これはもしや、皆もう知ってる?


 気持ち悪いと思いつつ、振り切れない。だって慣れていないんだもの。どうやってすげなくしたら良いのか分からない。


 大名行列のようになってぞろぞろと校門をくぐり、視線を浴び、ひそひそと話題にされ、背中をむずむずさせながら教室に入る。そこに、完璧に髪をセットし、姿勢を正して座って手鏡を覗き込む、いつも通りのエレナを見つけた。


「エレナ!」


 安堵して、大名行列を置き去りにして駆け寄る。クラス中が、私たち二人を遠巻きにしながら緊張と好奇心とで聞き耳を立てているのが分かった。


「エレナ、話したいことがあるの。一緒に来て」


 私の言葉に、エレナが手鏡を置いた。


「ここで話して。どうせ皆知っているし、私は構わないわ」

「エレナ……」


 頑として動く気の無いエレナを前に、覚悟を決める。ごくりとつばを飲み込んで口を開くも、言葉が出てこない。こんなふうに、衆目の中で話す想定なんてしていなかった。

 どうしよう、なんて言おう、ともじもじしていると、そんな様子を見兼ねてか、エレナがそっと私の手を取った。


「クリスタ。気を使ってくれなくても大丈夫。私達はこれまでと変わらずお友達よね?」

「エレナ……」

「邪魔してやろうと思っていたけれど、マリウス様が本気じゃ敵わない。祝福するわ」


 手を取り微笑むエレナに、目が潤む。


「ありがとう、エレナ。大好きよ」

「私も」


 ホッとして、いつものようにエレナの隣に座る。しかし、「いつも通り」はそこで終わった。これまで全く親しくもなかったクラスメイトの女子たちが、突然どやどやとやってきて私とエレナを囲むと、周りの席に座り始めたのだ。そして、


「あら、エレナ()()たら、これからは呼び捨ては駄目ですわよ?」

「そうね、クリスタ様って呼ばなきゃ」

()()とは立場が違うのだから」


 と、これまでずっと担ぎ上げていたエレナを、手の平を返したように、自分たちと同じ位置まで引きずり下ろした。その上、


「クリスタ様の髪、綺麗。結ってさしあげてもよろしくて? 私、得意ですのよ」

「えー! 私も触りたい!」


 これまで絶対に興味がなかったであろう私に対して、突然距離を詰めてきた。

 今度は私を担いでわっしょいする気満々なのだ。クラスメイトたちの笑顔が、貼り付けられた偽物に見える。本当に何なのこれ。気持ち悪い。


 不慣れな状況に身体を強張らせて小さくなっていると、エレナが大きな溜め息をついた。


「あなた達の声、甲高くて耳が痛くなるわ。散ってくれない?」


 エレナ!? 言い方!


「大人数で固まっていると、他の方の迷惑になりますから……」


 フォローを試みる。ああ、変わらないエレナだ、とホッとする。このいつも通りの役割がしっくりくる、と胸を撫で下ろしかけた、その時だった。


「なあに、その言い方。前から気に入らなかったのよ」

「そうだわ。これまで散々クリスタ様に迷惑かけてきて、これまでと変わらないお友達? ……何様よね」

「嫌ならあなたが他所へ行けば?」


 私の気持ちを代弁したふりして、自分の言いたいこと言ってるだけの言葉。しかも、それを放ったのは、先日ネックレスの件でエレナともめた女生徒と、エレナをけしかけた二人組だった。さすがにこれには、気持ち悪いを通り越して腹が立った。


「止めて。私は迷惑だなんて……」


 がたんっ


 私が反論しかけたところで、エレナが勢い良く椅子から立ち上がった。そして、その勢いのまま駆け出すと、教室から出て行ってしまった。


 ……あのエレナが、逃げた!?


 予想外な行動に驚いて咄嗟に対応できなかった。我に返って、私も教室を飛び出す。


「待って! エレナ!」


 表情は見えなかったけれど、走り去ったエレナは、泣いていたんじゃないかと思った。


 嫌だ。駄目だ。エレナは高慢で、高飛車で、居丈高で、不遜で、横柄で、傍若無人なお姫様じゃないと。あんな虫みたいな奴らに負けて逃げ出すなんて、らしくない。けど、そうさせたのは、不甲斐ない私だ。


「エレナ! どこ行っちゃったのよ……」


 結局、追いつくことも、探し出すこともできず。その日、エレナは教室に荷物を残したまま、私の隣には戻ってこなかった。




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