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次回、おしおき回とかじゃないですよね?


 眠い目を擦り、伸びをする。腕が棚の中のどこだかに当たってゴンと音がした。うん。伸びをするには狭かった。


 中途半端に開けられた引き戸をがらりと鳴らして全開にする。尻もちをついたまま呆然としているルパージュ先生の前へ、のそのそと這って出ていく。

 なんだか爽快。疲れてる時って、ちょっと眠るとすっきりするよね。


「おはようございます。先生。科学室でランチですの?」

「今は放課後ですよ」


 いっぱい寝てた。


「早退したんじゃ……」


 あ、そうでした。

 言い訳できそうにない状況。こういう時は、神妙に、きちんと正座して、伏し目がちに、本当のことを織り交ぜながら……


「早退しませんでした」

「ええと? ここにずっと? なんで? どういう?」

「教室に居るのが辛くて、一人になりたかったんです」

「教室に居るのが辛いとは、どういうことですか?」


 ルパージュ先生の目が真剣になり、尻もちから胡座へと座り方を変え、「じっくり聞きますよ」の体勢になる。


「友人のエレナ・ヒューズのことです」

「いじめられているんですか?」


 ぐっと身を乗り出し、物凄く心配そうに訊ねられた。やっぱり、教師にとって担任しているクラス内のいじめって大事なんだろう。


「いえ、私がいじめられているわけではありません。エレナは誰もいじめたりしませんし、勿論、いじめられもしません。……今は」

「今は?」

「はい。ただ、アリアナが休んでいて寂しいのか、周囲への当たりが強くて、クラス内がギスギスし始めています。今はまだ、私でもなんとか対処できていますが、エレナの機嫌がもっと悪くなって、周囲に当たり散らすようになったら? 誰か標的を見つけて一人に攻撃性が向かったら? いつかいじめに発展したり、エレナ自身が皆の反感を買ってクラスから弾き出されてしまうのではないかと心配なんです」


 私の話を聞いて、先生は顎に手をあて、うーんと唸った。


「そうですね。最近のエレナさんの不機嫌には気付いていましたが、そんなに深刻な状況になっていたとは…… 今の内に手を打ったほうが良さそうですね。私の方からもエレナさんに働きかけてみましょう」

「よろしくお願いします」


 よしっ。誤魔化せた!


「それで、結局、どうしてここ?」


 誤魔化せてなかった!


「ここで待っていれば、先生とお話できるかなと思いましたの。ほら、あれですわ。職員室は他の生徒の出入りもありますし、あまり聞かれたくなかったのです。王太子殿下の婚約者候補というエレナの立場もありますし」


 若干苦しかったが、言い切って顔を上げると、ルパージュ先生が感動の面持ちで目を潤ませていた。


「ありがとう!」

「きゃっ」


 がっしりと両手を取られ、にじり寄られる。


「教師になって早数年。生徒に頼られたのは初めてです!」


 初めてなのか。


「先生、がんばるから! 必ずや期待に応えるから!」


 二十代とは思えない、少年のようなキラッキラの純粋な目だ。ぐう…… 嘘ではないけれども、騙して申し訳無い…… あれ? って言うか、ルパージュ先生、ボサボサの頭と目の下の(くま)が酷くて気付かなかったけれど、よく見ると、顔立ちは凄く整っている…… と言うか…… かなり美男子なんじゃ……?


 思わず、正面からぐっと顔を覗き込む。


 と、その時、バタンと音を立てて教室のドアが開いた。


「おやまあ」


 実験用の機材を両手に抱えたフランシス・カバネル。そして、その後ろには、


「クリスタ?」


 驚いた顔のマリウスがノートを持って立っていた。が、その表情が、みるみる険しくなっていく。


 あー、えーっと、

 これは何か、すごく誤解されたやつですね。


「課題のノート集めてきました。ここに置きます。手、離してください」

「ややっ。これはすまなかった。つい嬉しくて。教師としてな。他意は無い」

「クリスタ、行くぞ」


 マリウスに手を取られ、立ち上がると同時に引っ張られるように科学室を出る。ちらりと振り返ると、フランシスが、「お大事に」或いは「がんばれ」とでも言いたげな顔をしていた。


 いや、そこは助けてくれよ。




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