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マリウスside:すぐに消える君


 毎年、その年に社交界デビューする貴族の子女、デビュタントたちのために開催される、特別な舞踏会。主役の令嬢たちにとっては、成人の祝いであり、結婚相手を得るために顔を売る最初の機会だ。そして、若い男たちにとっては、高位貴族の令嬢の父親たちに顔を売り、王族に顔を売る、数少ない機会である。


 というわけで、「ここはエレナの口車に乗せられて、クリスタを見守ろう」と意気込んで会場に入ってきたのだが、思ったようには問屋はおろさなかった。早い段階から、知っている人間にも知らない人間にも話し掛けられ、輪の中心に置かれ、ちっともクリスタに近付けない。


 焦れながらも、居場所は確認して、常に視界に入るよう位置取りしていた。幸いなことに、クリスタはいつもの友人二人とのお喋りに夢中で、男からのダンスの誘いも断っているようだった。


 なんとなく、ホッとした。

 なにせこの三人は目立つのだ。普段は、その中心に派手で大柄で声も大きく自己主張強めのエレナが居るから、皆そこに注目しがちだが。それを取り巻く友人だけあって、三人とも程良く派手で、綺麗で、品があり、家柄も良い。


 黒髪でスレンダーな長身美女のアリアナ・ミレーは、学園きっての才媛で名を馳せている。学期末試験では毎回、知性に覚えのある者が彼女を越えようと挑んでは無惨にも砕け散り、その度に信者を増やしていると聞く。


 ふわふわと細かくうねったくせ毛が特徴の小柄なベアトリーチェ・ブリュルは、甘えた声で男心を擽る。学園の男子生徒が秘密裏に行う人気投票で、最も可愛らしい女生徒として選出され、「学園の妹」の称号を得たのも納得だ。


 その二人と比べて、クリスタが男たちの話題に上がることは少ない。しかし、それは、彼女の人気が劣っているからではないことを、たぶん、男たちは皆、密かに知っている。


 クリスタは、全てを持っている女性だ。

 涼やかで儚げな容姿。神秘的な雰囲気。所領に金山を持つ富豪の伯爵家の長子として蝶よ花よと愛されて育ち、伯爵を継ぐ二人の弟はまだ小さいが賢く健やかと聞く。自身は王太子の婚約者候補のエレナの幼馴染にして親友で、共に妃教育も受ける淑女。本人にその自覚が有るか無いかは知らないが、羨望の視線を受けても特段気にすることはなく、(へりくだ)りも、ひけらかしもしない。


 全てを兼ね添えていながらも、我侭で派手好きなエレナの一歩後ろに控え、常にエレナを立て、許し、甘やかし、時には(いさ)め、見守っている聖女。

 そして、聖女というのは、男の理想像でもある。


 クリスタは、多くの男たちにとって、本命なのだ。ゆえに誰も、いたずらにクリスタを褒め、評価を上げ、ライバルを増やそうとはしない。クリスタを思う男は、ひたすらに虎視眈々と、本気で狙っているのだ。


 エレナが「守って」と言うのも頷ける。老若男女から視線を注がれることに慣れているエレナは、クリスタや他の友人二人についても、どんな種類の視線がどれだけ注がれているか、敏感に察知するようだった。


 と、そんなことを考えながら、話し掛けてきたどこぞの子息に適当に挨拶して、再びクリスタたち三人の方に視線を戻す。


 居ない。


 焦って、あたりを見回す。ダンスを踊る人の輪の中にも居ない。飲み物を取りに行ったのでもない。

 今の今までそこに居て、三人揃って笑っていたのに。三人は、揃って忽然と姿を消してしまった。





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