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第4幕 自動人形

 聖テスイラ神殿広場前。

碧が指摘した場所から、神殿裏手の場所の小道に、空音、メティル、ヴィント。そしてリランや碧たち、総勢八人――正確には三人と五体は突如、姿を現した。

空音が使ったのは、瞬間移動能力だった。



 「ふう……場所は少しはずしたよ。見つかるといけないから」

「それはいいが、お前は大丈夫なのか?」

空音がメティルたちに話しかけると、ヴィントが疲れた様子の空音を問いつめた。

「ヴィント。あんまり大声だすと、空の気遣いも無駄になるよ」

碧にダメ出しされ、ヴィントが口元に右手をあてる。

「……メティル様の言う通り、度を越した心配性なのですね。ヴィント様は」

リランにまで言われるとは。ヴィントは「すまない」と小声で碧とリランに謝った。

「二人とも、ヴィントも反省してるから。それより、アオイが見たのは……あの服屋かい」

「うん、あそこ。まだ動いていないから、いるよ」

メティルの問いに、碧は姿が見えないよう気をつけながら、小さな衣料品店の方を指で示した。



 「……メティル。ぼくに行かせてくれないかな。その二人の後ろあたりに、瞬間移動してみる。

話に応じてくれる相手ならいいけど、ダメなら、この広場に連れ出すから」

「そこで保護する。という作戦でいいかな」

笑顔のメティルに、空音は「うん」としっかりと頷いた。

「本当に……大丈夫なんだな」

念を押すヴィントに、

「相手は誰かもわからないし。もしもぼくたちだけでダメだったら、よろしく」

「……わかった。気をつけろ」

「ありがと」

ヴィントに、空音は笑ってみせた。

「碧と陸翔。一緒に行こう。来羽はヴィントのフォローを続けて」

「OK」

「やった、一緒に行かれるっ」

陸翔と碧はすぐ同意し、来羽は「気をつけてね。ぼくはここで待ってるから」と言って、ヴィントの顔を見た。

「じゃ、行ってくる」

空音と陸翔、碧の姿がその場から消えた。



☆彡 ☆彡 ☆彡



 紬が弾かれるように振り向いた。

「紬?」

「ユウマ様。私の後ろに隠れて」

紬は背後にユウマをかばう。





 「よっと。あ、いたいた」

空音は 二人の少年、少女を見つけた。

「ぼくたちはこの国の見習い騎士と、そのパートナーの魔導人形(トリグラフ)だよ」

碧が完全に警戒モードの二人に笑顔で手を振った。



「なにが見習い騎士だと。そんなやつが魔導人形(トリグラフ)などつれていられるだけの能力などあるわけがない」

「人を外見だけで判断するの、すごくよくないと思うけど……」

特に警戒しているだろう少女に、陸翔がそう口にして睨みつけた。

「空。あの子……魔導人形(トリグラフ)だよ。大当たりだったかもしれないね」

「……すごいな、メティル」

この状況を予測して、メティルはここに移動するように支持をだしていたことを、空音は思い出していた。



 空音と碧が話している間に、陸翔と少女は臨戦態勢になっている。

「ちょっ、陸翔。戦っちゃダメだって」

「でも、空。こいつ、空をバカにしたんだよ」

そういう忠誠心はいらないって。空音が苦笑いで陸翔を止める。




 「ソラって……君は異世界人なの?」

少年の方が、空音に話しかけてきた。

「え……うん。九十九空(つくもそら)……っていうんだ。君も同じかな?」

空音の問いに、少年は口ごもる。

「……このジオタ王国の見習い騎士を名乗るか……。信じられんな。そう名乗れば、警備隊も見逃してくれると、考えて利用したはずだ。

貴様たちは『ルシィラ国』の者だろう。異世界人たちには悪いが、やつらの所業は許されるものではないな……」

代わりに答えた少女は、空たちが信用に値するとは考えていないらしい。もはや、見るものすべて『敵』としての認識らしい。

「……ぼくたちは君たちの敵じゃないと……どう言えば信じるの?」

「信じるつもりは……ない」



 「紬……」

「大丈夫です。ここは私に任せてください」

背後の少年に少女は笑顔で応じると、すぐに空音たちに殺意むき出しで身構えた。

「ね。ここは私が相手をするよ」

少女が光る剣をかまえると、陸翔は木製の小さめのブーメランを両手に握った。

少年が衣服のポケットから、なにかを取り出したしそっと右手で握った。

「……碧、私は『飛ぶ』から、あの女の子が動いたらよろしく」

「わかった」

碧に指示を出すと、突然、空音は少女に向かって走り出した。

「させるかっ!!」

少女は陸翔を飛び越え、少年に向かうような動きの空音に、剣を振り下ろした。



 刹那。空音の姿が消える。

「……しまったっ」

そんな少女の前に、碧が短剣で少女に斬りつける。

「このっ」

少女がその短剣の攻撃をかわすと、「ユウマ様っ、お逃げくださいっ!!」と叫んだ。

が、少女の声が少年に届く前に、空音の姿が少年の前に現れた。

「……ごめんね」

空音が小声で謝り、少年を抱えようとすると、少年は右手を空音の腹部に当てた。

そのまま、空音と少年の姿が消えた。

「ユウマ様ぁぁっ!!」

少女が絶叫した。



 

 「……くっ、あっ!!」

広場の中央が光り輝く。

そして少年を抱えた空音が現れてそのまま地面にぶつかると、少年を放り出して腹部を押さえてうずくまった。

「ソラっ!!」

ヴィントとメティルがとび出す。

「動かないでくださいっ!!」

少年がうずくまる空音に短剣をかまえた。

「近づくと、この方の命はありませんっ!!」

空音の腹部あたりから、じわりと赤い液体が流れ出ていた。




「……ソラになにをした」

「火属性の『クズ・エリクシル』で、この人のおなかに一撃を与えました。ぼくはこんな大したことのないと思うものの力でもを増大できます。致命傷ではないと思いますが、このまま放置すれば、出血多量でこの方は死ぬと思います」

睨みつけるヴィントに、少年は気おされないように、空音に向ける短剣を心臓あたりの付近と思われる背中越しに、切っ先をむけた。

「ぼくは本気です。この方を助けたいならぼくたちに、これ以上干渉しないことが条件です」



 「ユウマ様っ!!」

二人が隠れていた衣料品店脇の小道から、少女が飛び出してくる。

「……紬、よかった」

少女が少年のそばに駆け寄った。

「ぼくたちの邪魔をしないでください。ぼくたちが逃げ延びるまで、この方は人質として同行してもらいます。ぼくたちの後を追うつもりでも、ぼくの能力ですぐにわかりますから。追ってきたと分った時点でもこの方の命はありません」

「……ユウマ様。この異世界人は生かしておいても、この世界に良いことはなにもないでしょう。連れ去る必要はありません。この場で殺してしまいましょう」

「紬。それはダメだよ。異世界人でも、いい人はたくさんいる。ぼくもいろんな異世界人に助けてもらったから」

 この二人のやりとりの間に、来羽が武器である短剣をかまえようとしたが、少女が来羽に向けて

光の剣を投げつけた。

「……っ!!」

来羽の短剣がはじかれる。

が、少女の手にはすぐに新たな剣が握られている。

「紬。君の剣の力を借りるよ」

少年がそういうと、数メートル上部に無数の剣が出現していく。

メティルやヴィントたちの上に、数多の剣が切っ先を向けて狙っていた。

「少しでも動いたら、これを、あなたたちに降らせます」



 「……そうか。それが君の力なんだね……」

うずくまる空音から、そんな言葉が聞こえた。

「お前……」

少女が言いかけると――。



 宙に出現していた剣が一気に、澄んだ金属音をたてて地面に落下した。

そして少年と少女は目に見えない重圧で、抵抗することもできず、地面に押し付けられた。

「……な、なに……」

「これは……重力……能力か……」

この重力場は、少年と少女だけに働いているらしく、二人は耐えきれずに倒れ伏す。



 「ふう。痛かった……」

と、空音が上体を起こした。

「ソラっ」

「ソラっ!!」

皆が空音に駆け寄ってくる。

「大丈夫かっ」

ヴィントが空音の腹部を見ると、服には血の跡が残っているが、傷跡は確認できなかった。

「こいつ……」

殺意を込めて、ヴィントは少年を睨みつけた。

「かい…ふくのうりょく……までもって……いるんですね……」

「ただ右手を軽く当てられただけだと思ったんですけどね。おなかになにかが爆発したような衝撃と痛みがありました。油断したぼくがいけないんですけどね。さすがにすぐに起き上がれませんでした。

すごい力ですね。ユウマくん」

「……あなたたちは……いったい……」



 「お久しぶりです、ユウマ殿。ゆっくり話したいところなんですが…」

「あなたは……以前、どこかでお会いしたことが……」

ユウマの目線に合わせるように、メティルは片膝をついていた。

「それはあとでお話します。今は、これを片づけてしまわないと」

と、ユウマに話して、メティルは立ち上がると、周囲を見回す。

「敵だね……数は……三体ってところかな」

碧がつぶやいた。





 「……騒ぎがしているなと来てみたら。もう誠司と綺羅は捕まってるし。

君たちでしょ。あの二人は結構優秀な部類の魔導師だったのに……。

パオムはクズだけどね。まぁ、陽動が失敗したのはあいつのせいだろうけど」

碧が『三体』と表現したのは、突然現れた三人が、|自動人形が子供の姿が多いことだったことからだが。





 「お前らは『レイナ式ガラティア11(イレブン)量産型』だろ。メインの『ガラティア1~10型』に入れなかった量産型(ハンパもの)。まったく、性能だって誰も彼も変わらないのに。

いまだに誰がダメ。でも自分はすごいってねぇ……。まだやってたんだ。笑えるんだけど」

来羽は憐憫の笑みで、三体の自動人形(プッペ)を笑う。

「……貴様、我らと同じ『ガラティア型』か?『魔導術協会』に回収されて改造でもされたのか。

ならば、貴様は我らよりはるかに劣る。我らがいつまでも、開発当時のままの性能だと思うか?」



  「そう思えないんだけど?で、お前は誰だ?アルファベットだけでいいよ。名前あててやるから」

来羽が三体の自動人形(プッペ)たちに言った。

「……なるほど。だが、素直に話すバカがどこにいる」

「だって、さっきのやられたの、コード№B-2のパオムだろ?あっけなかったけど……」

来羽に挑発されているとわかっていても、三体のうちの一体が、来羽に対して怒りを露わにしていることは、空音たちが見てもわかっていた。

「俺はGー7だっ……」

「んじゃ、ホプラだ」

来羽がそう言い終えたと同時に、ホプラの額が光の銃弾に撃ち抜かれる。

崩れ落ちるホプラを見て、二体に戦慄が走った。

「……狙撃っ。これでパオムもっ」

「そういうこと」

慌てて飛びのいてここから逃げようと身構えたもう一体の眼前に、来羽が現れる。

「お前はP-16、フーブだったっけ」

「……え」

来羽はフーブと言い当てた自動人形(プッペ)の額に短剣を突き立てていた。

残りの一体は、ヴィントが首を切り落としていた。

「来羽。こいつはなんて名前だったんだ?」

「こいつはVー9ヨルヨ……といった。ぼくや彩雲と同じで、劣等生と言われてたんだよね……こいつもここにこうしているようになったんだ……出世というのかな」

懐かしんでいるのか、憐れんでいるのか。来羽の表情はとても複雑だった。

「……お前……」

首だけになった自動人形(プッペ)、ヨルヨが来羽に話しかける。

「まさか……シファ……か?……メルはどう……した…」

ここでヨルヨの言葉は止んだ。

「私は今は来羽というんだよ。メルは彩雲。空と出会って、ぼくらは変わったんだよ」




 「これは……」

空音はユウマと紬の周りに重力シールドを張って、保護していた。もう重圧はかけてはいない。

「違うでしょ、来羽。君と彩雲は立花さんが作ったからだよ。だから個性が強すぎた」

「それは言えるかも……」

いつの間にか、彩雲が空音たちのそばに戻ってきていた。



 「ソラ、クウ、アヤモ。それにヴィントもお疲れ様。

ユウマ殿と、ツムギ殿を保護して、そのヨルヨの首はシルワ先生のところへ持っていこう。

彼の『エリクシル』を調べ終わったら、丁重に埋葬をしよう」

メティルの言葉に、来羽は「うん」と静かに頷いた。

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