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第2幕 彼女の理由

 「こっちは中央広場の方ですね。こんな目立つところに……」

避難は完了しているようで、人の気配はない。

広場に到着して、空音は周囲を見回す。

 

 

 <空。敵は中央神殿の左にある搭の屋根にいるよ。人数は三人。多分そのうち自動人形(プッペ)が一体いる。どうする?>

空音の頭に直接話しかける声がある。しかし空音は動じることなく、

<まだ攻撃しないで彩雲。今、この街のことを見てみるから>

<わかった>

 声はそこで途切れた。


 

 「メティル、ヴィント。敵が中央神殿の左の搭の屋根に三人いるらしい。そのうち一人が自動人形(プッペ)かもしれないって」

空音は声が指摘した建物に背を向ける形をとっている。

ヴィントは右肩に剣を担ぎ、屋根からは顔が見えないようにした。

口の動きで会話の内容を読み取られないようにする処置である。



「どうしましょう。ここでみんなで分かれて、敵を探しますか」

メティルはそう言って周囲を見回す動きをした。

「……ソラは陸翔たちを連れているから目立つかもしれないですね。そういう意味では僕もでしょうけど。陸翔たちの中で一人、ヴィントについてもらえませんか?

そうすれば連絡もつきやすいですし」

敵から口元を見せて読唇術で読み取らせないように注意しながら、メティルが空音たちにそっと話しかける。

「それなら私がヴィントにつくよ。私なら遠方射撃もできるし」

一番身長の低い来羽はヴィントの影に隠れて、表情を見えにくくしている。



「了解。じゃ、それでいこう」

空音の言葉を合図に、空音と陸翔と碧、メティルとリラン、ヴィントと来羽は三方に分かれた。



☆彡 ☆彡 ☆彡


 

 「敵さんは残りの魔導石像(タロス・ガーゴイル)を探しに行ったか。

で。残りの『ガーゴイル』の様子はどうだ?」

屋根の上にいる三人のフード姿の一人が、隣のもう少し身長の低い仲間に声をかけた。



「放った百体の『ガーゴイル』のうち、半分以上の反応はあるよ。

短い時間だけど、思った以上の成果もでてないし。割とスムーズに退治されてるみたい。 

この街の連中、襲われ慣れているんじゃない?やけに避難とか手慣れてるし……どれだけ街の中を大暴れすればいいのかなぁ」

問われた仲間は、さもつまらなそうにしている。

「そりゃぁ、魔導騎士学院のそばだよ。イエモリさんが、この街に逃げ込んだっていう『ソティラス』を捕まえてこいって。見つからなかったら、街の中で暴れてあぶり出せってさぁ。これでいいんじゃない?俺らは陽動だし」


 

 中央広場にある『中央神殿』は、真ん中の一番高いの搭と、左右にそれよりやや低い搭がある。

正面左の搭の屋根に、三人ばかり、長いローブを着こんだ輩がいた。

「お前ら。無駄口たたいてないで、今分かれた連中を追うぞ。やつらの連れている魔導人形(トリグラフ)の『エリクシル』を奪う。そうすれば、イエモリ様がお前らをそばに置いてくださるかもな」

一番身長の低い…子供の身長ほどの者が高圧的な口調で話す。

それでも残りの二人は、表情はうかがえないが、素直な態度で「了解」と言った。



「ねぇ、ひとつだけ確認なんだけどさ。

 これがうまくいったら、本当にイエモリさんの側近になれるんだよね?

『ルシィラ国』ってさ、この業界で…ブラックだって噂なんだよね……たしかに扱い低いし。結構ハードだし。こっちは命をはってるわけだし?それなりの見返りがないと…ねぇ」

いかにも現実的な発言というのか。もう一人が、

「業界ってさぁ。どこのだよ?たしかにブラックだなって俺も思うけど」

呆れつつも、自分も同意の発言をする。


 

「……本当に人間は面倒だ。お前らを評価してるから、このジオタ王国に潜入させたんだろう?それにボクは自動人形(プッペ)でも最高性能の『ガラティア型』だぞ。お前らもそれぐらいの言葉は、我らの国に属した時に聞かされているだろう?」

自動人形(プッペ)と言った子供の言葉に、二人は互いの顔を見合わせて、

「わかったよ。信じるしかないか」

「はーい。じゃ、そういうことで」

と、軽い態度で答えた。



 「本当に、人間とは扱いづらい……」

自動人形(プッペ)の方が、まるで年長の上司のようなつぶやきを漏らした。

「なんかパオムの方が私たちの保護者みたい」

「…人間って本当に変な生き物だ」

自動人形(プッペ)――パオムは小さなため息とともに、呆れた態度でつぶやいた。

「俺は、魔導人形(トリグラフ)っていう、いかにも魔法っていう人形がいる異世界に、

俺たちの世界の自動人形(プッペ)がわがもの顔で動き回ってる方が……気持ち悪いよ」

 二人は男女なのだろう。おそらく男であろう方が、本音を口にする。


 

「お前の方が人間らしくていいよ、誠司。

でもイエモリ様は、この世界に連れてこられた異世界人たちの国をつくって、地球の科学とこの世界の魔導術を両立できる世界にしようと考えているんだ。

大それたように思えるかもしれないが、異世界人を異物にしか思わないこの世界の人間が大多数だからな。

 知らしめるためには仕方ないだろう。胡散臭く聞こえても、お前たちだって、この世界の人間にひどい目にあったから、我らのところに来たんだろう?」


  

 人間的な感情を話すと思えば、所詮は自動人形(プッペ)なんだろうな。

表面的なもっともらしい理想論しか言わないか。そう作られているんだろうけどな。



 複雑な感情のやり場がないまま、誠司は「はぁ」と息を吐きだす。

「まぁ。それを覚悟して、ここにいるんだからな。そのためには、イエモリさんに認めてもらった方がいいだろうな」

「いい判断だ。じゃ、誠司、お前は左に行った連中を追ってくれ。綺羅は右。ボクはあの魔導人形(トリグラフ)を二体連れたやつを追う」

「了解」

「はーい」



☆彡 ☆彡 ☆彡

 

 

 三人の動きが見せた時。中央神殿が見える貴族の屋敷の屋根から、潜んでいたローブ姿の彩雲がライフルを構えて引き金を引いた。


 

 「……あ」

前触れなんてなかった。突然、パオムの額を光の軌跡が貫いた。

「パオムっ!?」

「……やられたっ」



 動きを止め、パオムの体は搭の屋根から落下していく。

誠司は綺羅の体を抱えて、搭の窓から建物の中へ入り込んだ。

「なになにっ!?やだっ、パオムがやられた!?」

「俺たちは見張られてたんだっ。やつらにも、自動人形(プッペ)がいるのかもしれない」

状況がつかめていない綺羅に、誠司は手短に説明する。

「ここも危ないな。俺たちも狙撃される可能性がある、熱探知の能力なら、俺たちの姿なんて手に取るようにわかるだろうが」

「誠司くん、すごいんだけど……」

「……俺、元自衛官……少し前に話しただろう?」

「おう。なんかわかんないけどすごいねぇ」

綺羅の軽すぎる態度に、誠司は脱力するしかなかった。


 

 「本当にすごいですね」

予期せぬ第三者の声に、二人は驚愕の表情を声が聞こえてきた方向へと向けた。



「はじめまして、ですね。僕は空といいます。

あなた方が連れていた自動人形(プッペ)は、もう動作停止しています。再起動も望めないでしょう。ここであきらめてくれませんか?」



 そこにはあの屋根から監視していた、二体の魔導人形(トリグラフ)を連れていた見習い騎士の一人がいた。



「ありえねぇだろう……」

 誠司が戦慄したのは、あの広場からこの搭の最上階まで、この時間で到達するのは見習い騎士程度の実力ではあり得ない――ということ。

「あんた……異世界人だろう。どんな能力もってんの?」

空と名乗った少年は、ニッコリと笑った。

「手の内なんて早々に明かせませんけど……そうですね。ぼくは『身体強化』ぐらいですかね」

「へぇ……そうなんだ」

友好的な態度だが、この場合、不気味に感じる。


 

 誠司は空の能力を探りつつ、自身の能力である『地属性』の『金属精製』で剣を作り出す。詠唱なんて必要ない。

訓練をして、この世界での自分の価値を高めるためにも、魔導師のレベルなら『第二級』クラスの実力を手に入れている。

『地属性』の『金属精製』を使って、自衛官だった時の経験値も合わせれば、なんとかあいつに勝てるだろう。

 過剰評価かもしれないが、用心に越したことはない。


 

「無詠唱で剣を出せるんですね。すごい実力者なんでしょう。どうして『ルシィラ国』で活動してるんですか?」

「空くんって言ったっけ?君、この世界の人に差別されなかった?」

誠司は攻撃のタイミングを探りつつ、空の話にのってみせる。

「……されましたね。でもそれ以上に、この世界の人たちに助けてもらってきました。意味なく敵対するより、一度でも話してみませんか?」

と、無意識に空は左手を自分の左頬に添える。

そこには、手のひらの長さほどの刃物による傷跡が残っているのが見えた。



 誠司は空の複雑な表情から、自分たちよりも辛い思いをしているのでは?という感想を持った。

「そうだね。でも、対話をしても聞いてもらえないのも結構辛いぜ。だから、どうしても同じ世界の人間でつるみたくなる。君は違うのかい?空くん……」

誠司の問いかけに、空は笑顔を崩さないまま

「それはぼくも同じ考えです。でも……ぼくはこの世界で離れ離れになった友達を探しているんですよ。

もう三年も会えていないんです。早く会いたいと思っているから。

 そのためなら、この世界の人たちともうまくやって、情報を得たいんですよ。

異世界人だけじゃ、限界があると思ったので。実際そうでしたし」


 

「なんだ、私と同じじゃない。私も同じ学校の友達を探してるんだ。君も『ルシィラ国』に私たちと一緒においでよ」

ここで綺羅が、会話に参加してくる。

「……うーん。それはどうかな?

じゃぁどうして、同じ世界の人間同士なのに、『ルシィラ国』は容赦なく同郷の人まで襲うんでしょうね」

「それは仕方ないよ。君と同じような考えで、この世界の人間に味方する連中もいるとは思うけど。

でもほとんどは、自分のことしか考えていないと思うんだよね。自分だけが助かりたいとしか考えてないから。

君のように、大切な仲間を探したいとかいう『人のため』っていう考えが全然ないもん。

私、そんな連中をたくさん見てきたからさ。

君にはそうなってほしくないんだよね」

綺羅には綺羅の思いがある。それを空はどう思うのか。

誠司は注意深く、空の表情を観察する。

「……そうですか。でも、それにはあまり共感できない……かな」



 空の声音にかすかな怒りを感じ取る。誠司はこの会話を終わりを予感した。

「それは誤解だよ空くん。でも私や誠司くんはそんなことしてないって。

どうしようもないやつらでも、私たちは保護しているんだよ。

みんながみんな、君の言っているような人たちばかりじゃないんだよ。

それに、元の世界に帰れないなら、私たちの居場所をもらうぐらいは仕方ないよぉ。

この世界の連中が、私たちの悪いイメージを広げてるんでしょ?話をしないのはあいつらじゃん」

綺羅は力強く空への説得を続ける。

「なるほど……では、あなたはどうですか」

空の視線は誠司に向けられる。


 

 こいつは真実を知っているんだろう。



 素直な綺羅は、『ルシィラ国』の言い訳をそのまま信じ込まされてる。

辛い記憶があるのなら、『ルシィラ国』の建前は、綺羅の希望のような価値があるのだろう。

転移してまだ二か月の綺羅じゃ、三年もいる空という少年との知識、経験は雲泥の差だ。


 

 へんな言い訳をしても、この坊主には看破されそうだなぁ。

決意を固めると、誠司は息を吐きだした。

「銃弾連射っ!!」

 


 空に向かって、何百という銃弾が浴びせかけられる。

あまりの音量に、耳をふさいだ綺羅の体を、誠司は担ぎあげて搭の中を走り出した。



 「ちょっと誠司くんっ!?」

「あいつはやばいっ。

俺たちと話した内容は嘘じゃないかもしれないが、あいつはブレないもんを持ってる感じがした。

俺たちなんかの説得じゃ、簡単に勧誘なんかできないもんだろうっ。

あきらめろ。ここは逃げる方が正解だ」

「でも、誠司くんの攻撃じゃ、あっちが死んじゃってるよ」

 廊下を走りながら、綺羅が、誠司に叫ぶ。


 

 「心配、ありがとうございます」

走っている二人の前に、人の姿――笑顔の空が立っていた。

「……うそ……」

綺羅が呆然とつぶやいた。誠司は綺羅を降ろして背後にかばいながら、失笑した。

「あんた、まさかさぁ……。

 イエモリさんの上司っていう、『ルシィラ国』の国王アスマさんっていう化け物級の人の……お友達で、おんなじぐらいの実力持ってる『ソラネ(・・・)』ちゃんじゃないよねぇ」


 

 誠司の説明に、空は――空音は、はにかんで見せた。誠司の背中には、冷たい汗が流れている。

「なんだ。バレてたんですね。あなたは結構な情報をもっているみたいですね。

これから『ルシィラ国』のことで色々と訊かせてください」


 

 いつの間にか、誠司と綺羅には、剣を突きつけた二人の子供がいた。

「降参。命の保障はしてくれる?」

誠司は早々にあきらめ、両手をあげて降参のポーズをとった。

「……誠司くん」

「俺たちの負け。この子、俺なんかじゃ到底敵わないわ。無理無理」

気持ちの切り替えが早いらしい。

この場合、誠司の的確な判断で、綺羅も命拾いしたと言える。


 

 「はい。ジオタ王国はどこぞの国みたく、人間から『エリクシル精製』なんてことしませんよ。ただし、武力放棄と、『霊力(マナ)』封印はしてもらいますけど」

空音の説明と同時進行で、陸翔と碧は、誠司と綺羅の首と背中に回した両手首に、銀色の輪をはめていた。


 

☆彡 ☆彡 ☆彡



 「空が捕まえたみたい。二人の異世界人だったみたいだよ」

ヴィントについていた来羽が、空音からの報告をヴィントに告げる。

「……そうか。俺があちらに行けばよかったな」

空音と同郷であろう異世界人と敵対し、捕まえるのは辛いだろう。ヴィントの言葉は、空音を思いやっての言葉だ。


 

 「ヴィントは優しいね。でも空だから、こんなに早く捕まえたんだと思うよ」

「……だろうな」

少し照れながら、ヴィントは来羽につぶやいた。

「……待って。空から連絡……空が捕まえたやつって、陽動要員だったみたい。なんか『ソティラス』

とかいう子供を探していたんだって。このジオタ王国のこの街で目撃報告があったんだって……」

来羽の話に、ヴィントの目が見開かれた。


 

 「アオイ。それは名前か?それとも……」

その言葉はヴィントには聞き覚えがあった。でもそれは、『あり得ない』存在としてだったが。



 「『神の子(ソティラス)』……という意味らしい。それって、無限の『霊力(マナ)』を持つとかいう、選ばれし人のこと?神様とか、伝説とかじゃなくて、本当にそんな人いたんだ……」

来羽も動揺が隠せないでいる。

「アオイ。ソラにその二人を早く警備隊に預けて、合流するように言ってくれ。俺たちはメティルたちを合流しよう。その話が本当なら、この世界の命運に関わりかねない」

「わかったよ」

来羽が空音に連絡している間に、ヴィントは思考を巡らせていた。



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