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第1幕 世界のはじまり

 

正門の辺りが騒がしい。

 空音が見物人に紛れて覗いていると、人垣の中央の方から、男の声が聞こえてきた。



「さぁ諸君っ。我々が参加するからには、大船に乗った気持ちでいてくれっ」

 見物人は三十人ほどか。大声をあげているのは、男がひとり。五人ほどの先頭にいて、左右に割れている人垣を意気揚々に歩いていた。

 冷ややかな目で見つめていると、空音から少し離れた所から同じように見ていた人たちの声が聞こえてきた。



「……異世界人が。自分が英雄にでもなったつもりらしい」

「異世界人ばかりを集めた『勇者クラス』のやつらだろ?『愚者クラス』と言われているのがわからないのか?」

「今回の魔獣退治には、懇願して参加させてもらったらしいぞ」

「はぁ。もう迷惑以外何者でもないだろう……」

 話しているのは見習い騎士たちだったが、呆れた様子で正門を出ていこうとする連中を見ている。

 聞いている空音も同じ気持ちなのだが、見習い騎士たちが言っていることに当てはまるのは、あの大声をあげていた男、小倉啓一郎だけだろう。啓一郎のあとに続いているメンバーは俯き加減に歩いていたし。

「この学院も魔導協会の頼みで、仕方なく預かっているらしいな。でも全員がバカじゃないみたいだ。

あとに続いている連中が可哀想かもしれないな……」



 わかっているんだな。空音は頭を抱えたくなる。

見習い騎士たちは、正確に現状を見抜いているらしい。

この学院の生徒たちはさすがに優秀だと感じる。



「うらやましいぐらい前向きな彼ですね」

この声は、空音のすぐ近くで聞こえた。それも知り合いだ。

「……メティル」

「このセフィラの街の郊外でも、魔獣被害が出ましたから。早急に退治して安心できることに越したことはないですよね」

 笑顔が似合うこの美少年は、身長は空音よりやや小柄で華奢に見えるが、これでも『騎士クラス』二年でトップの成績なのだから、人は見かけによらない。

 その後ろには、自称メティルの従者であるヴィントが黙って立っている。こちらは我関せずといつもの仏頂面だ。

 この寡黙なイケメンは、無言で空音に会釈をしてきた。こちらは剣術がメティルを抜いてトップだ。ようは騎士クラス、魔導術クラス両方のツートップが揃っていることになる。


 

 「どうも」

 空音が笑顔で会釈すると、メティルが不服そうに

「僕のときはなにも言ってくれなかったのに」

「…言うとかの前に、自分から話しかけてきてなかった?」

「そうでしたっけ?」

肩をすくめてとぼけるメティルに、空音はため息をついた。


 

 「…あれ、メティル・コロンフルとヴィント・ガルサルトじゃないか」

周りにいた見習い騎士たちがざわつく。

 実力的にはすでに即戦力で、将来はどこの国でも、最高位の魔導師や聖騎士レベルの高ランクの存在として永久就職が約束されているような二人が、こんな茶番のような場面に揃っていることに気づくと、それは急速に周りの見物人たちにも広がった。

 ここで迷惑を被るのは空音である。

「なに。メティル殿とヴィント殿が?」

正門をくぐろうとしていた小倉啓一郎が反応する。

思わず空音は舌打ちをしたくなった。

「逃げましょうか?」

わざとらしいメティルの申し出に、

「なにを今更…」

と嫌味全開でつぶやき、

「……たしかに」

とヴィントが続いた。

「あれ?先ほどから二人ともやけに仲がいいね。余計に嫉妬するんだけど…」

メティルも負けてはいない。

 

 三人がこんな言い合いをしている間に、小倉啓一郎がやってきた。

周囲の見物人たちは関わりたくもないのか、啓一郎を避けるように人垣が割れる。

「やぁ。ぼくたちの旅立ちにメティル殿たちが見送りにきてくださるとは。それにくう君じゃないか。なんだ、君もぼくについて来たかったんだね。いいよ。待っていてあげるから……」

 


 こいつ、ほんとにやだ。空音の顔は嫌悪感に満ちている。

「ソラは何も言っていないだろう?それに誰も、自分の名前も間違えるような相手に、命を預けるようなマネはしたくないだろう。行くならばとっとと行け。俺たちはお前に興味はない」

 ヴィントが空音と啓一郎の間に立ち、正面から啓一郎に言い放つ。

「……君は本当に失礼だな、ヴィント殿。僕は君に話してはいない。それと、くう君の名前はね。青空の『空』と書いて『くう』と読むんだ。これが僕たちの世界の言葉だから申し訳ないが。これは僕とくう君の話だよ。少し黙っていて……」


 

 得意満面に、自分の世界の話を異世界の人に押し付ける男に、空音は白けてしまった。

「小倉さん。ぼくの名前は『そら』で、ヴィントが合ってますよ。

 ヴィントはぼくの気持ちを察してあなたに言ってくれたんです。ぼくはあなたに関わりたくないので、早く行ってくれませんか。

 同じ異世界人として恥ずかしいので」

 見習い騎士たちの中で失笑がおこる。空音としてもこんな厳しい言い方はしたくない。だがこの男にはこれだけ言っても、言葉の意味がちゃんと伝わるかどうか怪しいからだ。

「…くう君。僕と一緒にいることで、肩身の狭い思いをさせてしまっていたんだね。たしかに僕の強さでは、君との実力差が大きすぎるだろうね。…でも僕はこの世界を守るために召喚された勇者なんだから、それは仕方ない。大丈夫。僕はちゃんと君も守るよ。だから僕についてくれば……」



 「もうそれぐらいにしておけ、啓一郎。集合に遅れるよ」

 演説途中の啓一郎の背後から、ひとりの少年が現れて声をかけた。

「なんだ、廉。もうそんな時間か。それじゃくう君、メティル殿。あとヴィント殿も。吉報を待っていてくれ」

 もうなんと言っていいかわからず、ぶん殴って黙らせようかと決意を固めていた空音に救いの手が現れ、廉は「ごめんね、空。こいつ連れていくから」と啓一郎を半ば強引に連れて行った。

「廉、気をつけてね」

「ありがと」

「心配しなくても大丈夫だよ、くう君。君の思いは……」

 空音と年齢が近い近江廉とは話せるし、廉は一番の気遣いのできる人間だ。この時も啓一郎を引きづるように連れ去った。

 空音は廉にねぎらいの言葉をかけたつもりが、啓一郎はすべて自分のためと変換してしまう。彼にとって、この世界は彼のためだけに作られたとしか考えていないのだろう。


 

 「……いつ見ても愉快な人だねぇ」

何も言わなかったのか、言えなかったのか。メティルがようやく口をひらいた。メティルも啓一郎が苦手の部類な人種であることは、以前に空音は聞いていた。


 「ソラ、おつかれだったな」

見習い騎士の一人が、空音にねぎらいの声をかけた。

「はは…ありがとう」

 空音が笑顔で見習い騎士に答えると、

「じゃ、僕たちは校舎に移動しようか」

メティルが促し、空音とヴィントが続く。

正門前の見習い騎士たちも、白けムードでそれぞれの目的の場所へと散っていこうとしていた。



 「……っ!?」

空音が反応した。啓一郎たちが出て行った正門前を凝視する。

「ソラ…っ」

ヴィントもメティルもその意味に気づいたようだった。

来羽(くう)陸翔(りくと)っ、来てっ!!」

間髪、空音は何者かを呼んだ。

「空、街に『あいつら』が来てるよ」

二人の少女が空音の前に突然現れる。そのうちの一人が空音に話しかけた。

「リランっ」

メティルも何者かを呼ぶ。

「メティル様、お呼びでしょうか」

「『あれ』が現れたらしい。ぼくらも行くよ」

「…御意」

こちらも突然に少女が一人現れた。空音の前に現れた二人と違って、こちらは片膝をつき、メティルに頭を垂れている。主従関係が成立しているように見えた。

「空、彩雲(あやも)が先行してるよ」

「わかった。行こう」

空音、メティル、ヴィント。それに三人の少女たちの姿がその場から消える。

「……え!?」

空音たちの行動を見ていた者たちは、姿を消した空音たちの動きに唖然としている。

が、すぐにその理由がわかることになった。



☆彡 ☆彡 ☆彡



 「……私、もう啓一郎と一緒はいや。このパーティー抜けたい」

啓一郎と行動を共にしている少女が一人、俯き加減につぶやいた。

「何を言ってる七架。僕と一緒に…」

「それがいやだと言ってるのっ。啓一郎。

 あなたは勇者なんかじゃないの。

 もう何百人もこの異世界…エル・アルプル界に時月市の人間が来てるのよっ。特別な理由なんか、何一つもない。私たちは、この世界から浮いてるのっ。いい加減わかってよっ。

 あんたのバカみたいな言動のおかげで、私たちまであなたみたいに、迷惑な人間のような目で見られてるの。これ以上我慢できない。空の方が、よっぽどうまくやってるわっ。

 私は『魔導騎士クラス』に編入してもらうわ。あんたみたいなバカと一緒にいたくないっ」

石浦七架(いしうらななか)が、力強く叫んだ。



 「七架……」

啓一郎が、呆然と七架を見た。

「俺も同じかな、啓一郎。空が君を拒絶するのがよくわかる。俺も七架と一緒にこのパーティーを抜ける。君は勇者なら、一人でもやっていけるだろう?俺たちをここで追放してくれ」

廉も続く。

「二人とも、今まで頑張ってやってきたじゃないか。俺も啓一郎に思うところはあるけどさ。たしかに自慢するだけの強さはあると思うよ…」

北見夕晴(きたみゆうせい)は、七架と廉、啓一郎の間を取り持とうとする。

「さすが夕晴。ちゃんと仲間のことを考えている。廉も七架もこんな異世界で疲れているんだろう。俺は大丈夫だ夕晴。二人を見捨てたりしない。必ず守るよ」

夕晴は、フォローのつもりで言ったのだろう啓一郎の言葉に、ため息をつくしかできなかった。

「啓一郎。いい加減にしないと、見捨てられるのはあなたよ」

「どういうことだ、シファ」

パーティーの最後の一人。山口・シファ・明日香が啓一郎に口を開いた。

「啓一郎。あなたの言葉はすべて自分本位なのよ。

 さっきの空への言葉もそう。あの子あなたを拒否ってたじゃない。みんなあなたと一緒に行動するのに嫌気がさしてるの。

 自分だけ目立てばそれでいいなら、自分一人で全部やればいいじゃない。私たちはあなたの引き立て役じゃないの」

「シファ……。ならば言わせてもらうが、君たちが束になってかかっても、僕の方がはるかに強いぞ。

僕がいなければ、君たちは死ぬことになるだろう」



 「ほんと頭にくる」

「七架。僕は事実を述べているんだ。君も廉も僕に従うべきだ」

睨んでいる七架に、啓一郎は憐みの笑みで七架を見つめた。

「じゃ今度、空に頼んで七架と俺の三人で啓一郎と摸擬戦をやろうよ。たぶんそれでわかるんじゃないかな」

「それはダメ、廉。それはやめて」

廉の言葉を明日香が遮った。

「明日香。どうして君は空を遠ざけるんだよ。空の実力は……」

「啓一郎の方が強いわ。あの子は貴族に取り入ってうまくやってるの。近づくと、利用されるだけよ」

「……明日香」

「それは本当かシファ。だったら今度、僕からきつく言ってやらないといけないな。いい子だと思っていたが……」

明日香の言葉に呆然となっていた廉は、啓一郎の話で我に帰った。

「明日香ぁ。どうして空のことそんなに知ってるの?」

「見てればわかるわ、そんなこと」


 

 以前から、明日香が空音をよく思っていないのはわかっていた。

この異世界…『エル・アルプル界』と呼んでいるこの世界に、三年前に転移してきたという空音は、七架たちを心配してなにかと気遣ってくれている。

 アドバイスだけではない。学院内でも七架たちの立場が悪くならないよう、空が配慮してくれている。自分を嫌っている明日香のことをもだ。

明日香はそんな空が嫌いなのかもしれないが、表だけでもうまくやっていいはずだ。こんなにあからさまな行動をしなくても…と七架は思う。


 

 ここで七架が辺りを見ると、自分たちの周りに人垣ができていることに気がついた。

道の端だったとはいえ、なにやら揉めている七架たちは注目の的となっていた。

「ここじゃ邪魔になるから、別の場所で話そうよ。迷惑だし」

「そうだな。七架たちがわかってくれてよかった。人の迷惑になることはよくないぞ、七架。

君が変なことを言わなければ、こんなことにならなかったんだ。以後は気をつけてくれ。

さ、行くぞ」

この男は……。七架の体が震えているのは廉にもわかった。怒りが爆発しかけているのだろう。

「あーっ、もう我慢ならない。七架、空のところに行こうっ」

「…れっ……」

冷静さを欠いた七架が街なかで怒りを爆発させる前に、廉が声を張り上げ、啓一郎が廉の名前を言いかけた時だった。


 

 


 啓一郎の頭上で爆発音が起こる。思わず耳を塞ぐと、子供ほどの人影が、啓一郎たちに向かって降ってくるように見えた。

ここで別の角度から光の線が人影に向かい、その人影を貫いたように見えた瞬間、

風の盾(ウィンドシールド)っ」

明日香が七架たちの前に風の能力で盾状の形を作ると、爆風からメンバーを守った。


 

 「守るなら、自分たちだけじゃダメでしょう」

明日香の耳元で声が聞こえた。

「誰よっ」

明日香が首を左右に降ると、自分たちのやりとりを見ていた人々の周りにできた光の壁が、爆風から守っていた。

刹那。明日香たちの両脇に気配が感じられたとき、駆けつけた空音とヴィントが、それぞれの小さな人影を剣で両断していた。


 

 「……空っ」

「廉、遅れてごめん。でも油断しないで」

空音の姿を確認して安心しかけた廉たちに、空音の声が叱咤する。



 「……魔導人形(トリグラフ)っ」

廉が呆然と、切られたその躯を見つめる。

空音が切った人影は子供の姿をしているが、切られた断面から石のような破片が見てとれた。

魔導石像(タロス・ガーゴイル)だな。どこかに操っているやつがいるのだろうが」

ヴィントの冷静な声を聞いた廉は、それ以上動揺を広げずに済んだ。

「それは彩雲が追ってるよ。それより、廉、七架、みんな。力を貸して」

空音が廉たちにすばやく声をかけた。が、明日香は瞬間的に空音を睨みつけた。

「ふざけない……」

「わかったっ」

「任せてっ」

拒絶の意思を口にしかけた明日香を遮り、廉と七架がそれぞれの武器である双刀と魔導杖を構える。

このせいで明日香は反論の機会を失い、仕方なく魔導杖の役割を兼ねた短剣を構えた。


 

 「光の守り(リラン・アルン)

声はメティルのものだが、メティルのパートナーである魔導人形(トリグラフ)『リラン』が、上に向かって両手をつきあげ、周辺にいた住人一人ひとりにドーム状の結界ができていた。

「…でたらめな『霊力(マナ)』のやつ。そんなバカみたいな魔導術が使えるわけないでしょう」

明日香が悔しそうにメティルを睨む。

「…私だって、魔導人形(トリグラフ)がいれば……」

そこまでつぶやいて唇を噛んだ。


 

 「……ふんっ!」

いち早く、啓一郎が剣で、襲ってくる魔導石像(タロス・ガーゴイル)を力任せに破壊する。

「炎の矢っ」

啓一郎が剣をかまえると、炎が矢状の形をした攻撃魔導術が発動され、数発が魔導人形に命中すた。

「きゃっ」

「わぁっ」

啓一郎が二、三体の魔導石像(タロス・ガーゴイル)を破壊していくと、石像の体であった破片が、人を傷つけるのに十分な大きさのままで逃げ遅れている街の住人たちに降り注ぐ。


 

 「ケイイチロウっ。ところかまわず魔導術を使うな。避難誘導を最優先でやれ」

「君がやれっ。僕は勇者なんだから、敵の撃破が最優先だろうっ」

ヴィントの言葉に、啓一郎は従う素振りはみせない。


 

 「……うっ」

正面を向き直った啓一郎の動きが止まる。そして体が崩れ落ちると同時に、空音が立ち上がってきた。

「こいつがいると厄介だから、少し寝ててもらおう。廉、七架。この先の神殿はまだ襲われていないから、そこに街の人たちを誘導して」

空音は、手早く廉と七架に声をかける。

「どうしてそんなことがわかるのよっ」

明日香がここぞとばかりに声を荒げた。が、廉と七架は互いの顔を見合わせ頷き合うと、

「うん、わかった」

「こっちは任せてね」

二人は笑顔で空音にうなずく。

「じゃ、俺も手伝うよ。とりあえず、啓一郎は任せて」

「ありがとう、夕晴。お願い」

空音が夕晴にお礼を言うと、「こちらこそありがとう」と夕晴は逆に空音に笑顔をむけた。

「……空。いつからあなたが私たちに命令できるようになったのよ……」

明日香からは、空音への憎悪のような感情が溢れ出ている。

「ごめん。今は時間がないから、廉たちと一緒に避難誘導をやって。あとであなたの不満は聞くから」

「覚悟なさいっ」

啓一郎と違って、文句を口にしながらも、明日香は状況を把握して空音の言葉に従った。


 

 


 「空っ、ナイス。厄介ばらいができたね」

陸翔が愉快そうな笑顔で空音に話しかけた。

「めんどくさいのは啓一郎ぐらいだよ。まぁ…明日香もだけど。でも明日香はちゃんとわかる人だと思うから。それより、陸翔」

十二歳程度の子供の体形をしているが、陸翔は自分の身長ほどの大きさの木製ブーメランを石像の両断に活用している。

切れ味抜群のその武器は、辺りに石や岩をまき散らすことなく美しい断面で切り裂いていく。



 「彩雲が探してるみたいだけど、こいつらを操っているやつの特定はまだみたい」

もう一人の魔導人形、来羽は陸翔より少し身長は小さいが、両手に銃を握り、魔導石像の急所である額の位置を撃ち抜いて、消滅させながら、空音に話しかけた。

空音のパートナーと言うべき二体の魔導人形、陸翔と来羽が空音をかばう様に、それぞれの武器で敵を倒していく。

「ソラ、アヤモは狙撃で敵の魔導師を狙っているのかもしれないが、アオイはどうした?」

ここでヴィントが空音を見る。敵に注意を向けながら、空音はヴィントの問いに答えた。

「彩雲の繋ぎと街の偵察を頼んでた。そろそろ連絡が来ると……」

敵の数が減ってきたところで、辺りを見回した時だった。


 

 「空っ」

フードをかぶった子供が一人、空音を呼びながら走ってくる。

「碧っ」

今も子供の姿をした魔導石像と戦っていたためか、ヴィントがその子供に向かって剣を構える。

「待って、待って。ぼくだよ。(あおい)だって」

フードをとった子供は、苦笑してヴィントに両手を振った。

「アオイか…」

「さっき、空がそう言ってなかったっけ!?」

冷静を装ってヴィントがつぶやくと、碧は全力で抗議した。

「絶対ヴィントは天然だよね」

「まぁまぁ、碧。ヴィントが全力で演技しているんだから、そこをわかってあげてよ」

満面の笑顔でメティルが二人の会話に乱入する。

「……メティルって、啓一郎とは違うタイプのめんどくさいやつだよね」

「ソラ。それすごく嫌なんだけど……」

空音の突っ込みに、メティルは落ち込んだようにつぶやいた。

「そんなことより、見つけたよ。彩雲が狙いをつけてる」

「ありがと、碧。そこへ案内して」

「こっちだよ」

空音たちが、碧に続いて駆け出した。


 

☆彡 ☆彡 ☆彡



 神殿前に廉たちが到着し、そのあとから避難してくる街の住人たちを守っていた。

「空の言う通りだ。あの魔導石像はこっちにやってこない。……すごいな」

夕晴がつぶやく。明日香は何も言わずに、唇を噛んだ。

「……空って、魔導人形が四人もついてるもんね。ちゃんと調べてたんじゃない?」

「それは思うよ。普通、魔導人形に選ばれるだけでもすごいのにさ。それに異世界人だと、力の質が違うとかで難しいとか言われたことあるし」

七架の素直な疑問に、夕晴がため息をつきながら答えた。


 「廉は空と仲がいいでしょ。何か聞いてない?」

夕晴の質問に、廉は「俺もそんなに話しているわけでもないんだけど」と前置きをしながら、

「それは空にもわからないらしいよ。三年も早く転移してこっちで修行しているから、エル・アルプル界に馴染むことができたのかもとは言っていたけどね。

 それを見たって、空の実力はケタ違いだと思うよ。啓一郎は足元にも及ばないと思うけど。さっきも空の一撃で気絶してたし……」

廉の視線は、まだ意識がもどらず、壁に背をもたれて気絶している啓一郎に向けられる。


 

 「啓一郎の肩を持つわけじゃないけど、彼は不意打ちの形で倒されていたじゃない。卑怯者のやりそうなことよ」

「……明日香はどうして、そんなに空をライバル視してるの?それとも啓一郎のこと……」

「それは、ぜっったいにないっ」

廉にツッコミを入れた明日香に対しての七架の言葉に、明日香は不快感を露わに反論した。

が、七架に言い返されたことを全身で否定した。

「明日香。それって、空のことはライバル視してるけど、啓一郎のことは絶対に言われたくないほど毛嫌いしてるってことでいいの?」

廉が補足説明した内容に、明日香は「そうね。それで間違いないわ」と微妙な表情で肯定していた。

「でも明日香まで嫌っているなら、僕たちは啓一郎とのパーティーを解消していいよね?悪いけど、僕は廉と七架と一緒に、空とパーティーを組めないか頼んでみたいな。明日香には悪いけど……」

これは夕晴。

 

 

 異世界人で組んだ五人のパーティーだった。

武器や能力の特性のバランスも考えてそういう意味での相性は良かったと考えているが、啓一郎の言動にメンバーはウンザリしていた。



 廉、七架と夕晴の意見が一致してしまっていると、明日香は空音を否定しづらくなる。

「……そう。ならそれでいいんじゃない?私はしばらく単独で魔獣討伐をする……」

「明日香は啓一郎の次に強いし、このチームを纏めていたのは明日香だよ。でも今は、冒険者活動は禁止されている。今回だって、街の近くで魔獣が出たから野外活動が認められただけだし。冒険者は真っ先に敵に狙われて、ずいぶん殺されていると聞いてる。

明日香もこの討伐が終わったら、高ランクの風の魔導師になる勉強を頑張ってみたら?」

そう言って笑顔になった廉に対して、明日香は苛立ちを覚えたが、「わかったわ」とだけ答えた。

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