表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

後輩はグーで殴る

作者: 孤独

【社内食堂は来月から値上げを実施します】


物価高の波を実感し、財布の中身は……


「うへ~、ついにか……」

「悪いねぇ。社内食堂もギリギリなのよ」

「そっすよね」


コンビニよりもちょっと高いが、メニューはいい。しかし、値上げと来たら考える。……そういえば、近くのチェーン店も値上げをしたか。

コンビニにも値上げの波……というか、量の誤魔化しなどがされているとかで同僚が嘆いていた。

これで給与が増えるならと思ったが、なかなかそうはならない。

ため息を溢しながら、お盆に載せた料理を持ってテーブルまで運んだ。メニューを一つ減らすか、料金の上限を決めるかどうかを思う。これからの昼食を考えているとき


「あ、矢木さん。隣、いいっすか?」


まだ、昼食の摂り方があった。

仕事の先輩。矢木さんが食べていたモノはお弁当だった。それはコンビニやスーパーを買ってきた厚底誤魔化し系の弁当ではなく、ガチの手作り弁当。

ご飯におかずが4品。量もあって、質もある。食堂の料理と比べれば劣るだろうが、昼食として十分過ぎる。


「いつも弁当ですよね」

「まぁな」


矢木はモグモグと食べながら、何かを聞きたそうにしている後輩の顔を見て、


「俺も料理くらいするんだよ。彼女ができた時も考えてな」

「え?その弁当は、いつも矢木さんが自ら」

「おうよ」


察しがいいのか、分からないが。

矢木からしたら自慢したいのか。


「最近、ハマってな。男だって料理・家事してなんぼだろ。女に頼りきるのはダセェ」

「は~、すげ~。毎朝作ってるんですか?」

「朝5時ぐらいに起きて作る」


そんな朝早くから起きて、朝食と昼食を用意するのか。とはいえ、矢木をして


「朝は白いご飯を炊く程度。卵焼きやギョーザを作るくらいだがな。ほとんどは休みや夜勤出勤前に、作り置きしてんだよ」


さすがに朝の間で弁当の全てを用意するのは大変だ。作り置きを弁当に利用しているだけだ。それだけでも後輩くんからしたら、驚いてしまう事だ。朝飯を用意するのにも大変なのに……。

しかし、良いキッカケと思い


「1食おいくらなんです?」

「値段?」


1食がいくらかって言われると、矢木もちゃんと計算した事はないが。食材を纏め買いして、計画的に調理することも考えて……


「確かこの前買ったのは、1329円だったか?」

「高っ!」

「一食いくらか分かんねぇよ。早とちりすんな」


面倒になって、レジのレシートに出た値段を答えてしまった。しかし、その買い物でどれだけの惣菜ができたか考える。スマホの電卓を使いつつ


「5日分、1日3食、……15食。それを1329円から割ると……88円か?」


レシートの中身を見れば、飯に使ってないモノもある。それにお米の料金、1合分も加算してねぇが


「まぁ、100円ぐれぇだろ」

「えーーー!?その弁当、100円くらいなんですか?」

「冷凍食品を詰め込んだらちょっと高くなるだろうけど、俺はあんまりやらねぇな。一人もんだし。米は貰いもんだし」


いつ起きて、いつ動いても、自由な独り身。

値段の事なんてあんまり気にしなかったが、確実にコンビニよりも量は多いし、食堂よりも安い。買い出しと調理のお値段としたら、妥当な額だと思う。

ちなみに買った食材を5日で使い切る事もないし


「調味料やフライパンとか、そーいうのも用意すれば、また値段は違うだろうけど。食堂よりかは安いし、コンビニよりも量が多いのは確かだぜ」

「時間はどれくらい掛かるんですか?」


手料理で大事なのは時間だ。やって来た矢木をして


「知らねぇよ。俺の基準とお前の基準は違う」


大前提として、そんな手際の話。人によって違うだろう。だが、確かな事がある。


「毎日料理して、日に日に旨い飯ができて、早く出来ていくんだ。飽きるか辞めるかを凌ぐ、我慢比べだろ」

「我慢比べ……」

「俺だってこれくらいにできるようになったの、つい最近だよ。卵焼きだって何度も焦がして失敗してる。食費に困ってるなら、食堂やコンビニに文句言わず、自分で解決しろよ」

「!……分かりました!アドバイスをありがとうございます!」



◇      ◇



そんな話から1週間後。


「おっ、お前もようやく弁当か?」


矢木が自作弁当を持って、弁当を食べている後輩の隣に座って尋ねた。


「はい。色々と話し合って、お弁当にしました」

「ほ~」


矢木の方が先にやっている分、その出来はまだまだと言えるものだが、


「同棲してる彼女に無理を言って、今後は手作り弁当にしてもらいました!」

「……は?」

「俺!この会社で出世して、彼女を楽にさせます!結婚すると決めました!」

「…………その弁当、彼女が作った?作り続ける事を約束してくれたの?」

「はい!」

「…………」



俺は彼女ができても困らせねぇようにと、自炊から色々と一人でやってんのに。なんだこの差は。やっぱり、顔か。性格か。学力か。コミュ力か。経済力か。なんだよ、これはよ。なんでお前はすでに彼女持ってんだよ。

俺が弁当を作ってきて、こんな屈辱は今までにねぇよ。我慢してたけどよ。

こっちは作り置きだから、15食全部、同じ料理を食ってんだよ!旨いし、食いたいでもな、刺激が足らないんだよ!!腹一杯に食えても、幸せ一杯にはならねぇんだよ!



「お前!歯を食いしばれ!」

「ふぁ!?」

「この幸せもんがーーー!!」


後輩にかましたグーパンだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 後輩はとんだリア充でしたね(笑) しかし、主人公もめげずに弁当を作り続けて欲しいと思います。 そこに惹かれる誰かが現れるかもしれないので…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ