第1話 馬鹿と天才
4月、桜が舞い散る春。
小谷裕樹は県立怜悧高校に入学した。ここは県下随一の進学校であり、全員が中学時代「天才」などと称されてきた。もちろん小谷も例外ではなく、小学校、中学校と公立ながら学年1位は譲らなかった。
クラスは1年2組。男女比は若干男子の方が多いようだ。だが、小谷にはそんなことはどうでも良かった。「東京大学理科III類に合格し、医者として人を救いたい」その思いは強く、受験を終え、晴れて入学したその日から彼の心は大学受験へと向いていた。
「おはようございます。」
担任がやってきた。年齢は30半ばといったところだろうか、中肉中背のいかにもサラリーマンといった体型をしている。
「今日から1年2組の担任で数学を担当する水谷です。1年間よろしくお願いします。」
よくあるシンプルな挨拶を終えると、水谷はまず入学前に出された課題を提出するよう言った。どんどん回収していく、もちろんこんなことは小谷、いやその他全員にとっても当たり前であるが。
「忘れました。」
麗かで透き通るような声が隣から聞こえる。隣を見ると端正な顔立ちをした女子がすんと座っていた。「どこにでも馬鹿な人間はいるものだ」そういったことは小谷も理解していたが、まさかここまで近くにいるとは思わなかった。早くも不安が募る。
ホームルームがひと通り終わり、小谷は帰途についた。入学早々に「馬鹿」を発見した、それも隣の席だ。この現実に小谷は息をはいた。
実際に授業が始まると、中学とは比にならないスピードで授業が進んでいく。「天才」たちも授業について行くのが精一杯な様子で、内職をする余裕などなさそうだ。小谷も高速で書かれ、消されていく板書に置いていかれないよう、必死でついていく。そんな授業を受けながら日々は過ぎてゆく。
1話目の執筆が終わりました。小谷のフルネームは出してますが、このまま「小谷」で行こうと思います。