Gとのかくれんぼ
時刻は丑の刻、深夜のネット徘徊を切り上げ、私は眠ることにした。
眠る前に水を飲み、歯を磨くのが日課のルーティーンだ。
歯を磨く為に洗面所に行くと、奴がいた。
白く輝く洗面台の上に対をなす形で黒く輝いている。
こちらに気付くこともなく触覚を上下に揺らし、水でも呑んでいるのだろう。
(大きい)
体長5センチ以上はある。
見れば見る程、生理的な嫌悪感は強まるばかりだ。
ガサッガサガサ
「あっ。」
私に気が付いたのか、洗濯機の後に隠れてしまった。
私は暫く茫然とした後、取り敢えず歯を磨き、部屋に戻った。
「眠れる訳が無い。」
あれがいる部屋で眠れる訳が無い。
もし、私が寝ている中、あれが部屋へ侵入し、部屋中を這いずり回っていたら。
そして、朝目覚め、あれが私の眼前にいたら。
あぁ。私の心はきっと狂ってしまうだろう。
我に返り、紙の広告の束を丸め、再度洗面所へ向かった。
「何処だ。何処だ。」
時刻は丑の刻、私は必死でそれを探した。
最早、眠気など吹き飛び、鏡に写る私の目は赤く充血していた。
(見つけた。)
奴は音も無く、風呂場の扉に這っていた。
ふ
い
に
あ
れ
は
と
ん
で
き
たたたたたたたたたたた
(fhぐぃry3w8thw4tが;あばば)
錯乱した私はブンブンと紙の束を振り回し、あれは悠々自適に洗面所を抜け、私の部屋ヘ飛んで逃げた。
紙の束を強く強く握り、私は部屋へ戻る。
デスクトップパソコン、ベッド、大きな家具はその2つとシンプルな部屋であるが、あれを見つけられない。
天井
カーテン
デスクトップパソコン
ベッド
天井
真っ白な壁紙にシーリングライトが轟々と光る。
私の気持ちを反映してか、それとも真夜中だからか、その光に陰を感じる。
カーテン
深緑のカーテンはあれが隠れのに丁度良い。
しかしながら、私の心を嘲笑うかの様にそこにはいない。
デスクトップパソコン
まだあれと遭遇して30分と経っていないが、随分長い時間に感じられる。
ベッド
パステルカラーの夏布団は派手ではあるが、物が少ない部屋には映える。
カサカサカサ
不意に背後から気配を感じ、振り返ると、扉にあれが這っていた。
ベージュ色の扉はあれが隠れるには不向きであったが、隠れる気など毛頭無いかの如く、
触覚を動かし、こちらをあざ笑っている様に見えた。
私は音を立てない様にゆっくりと近付いた。
触覚が細かく動く度に心臓がドキリと高鳴り、思わず悲鳴を上げたくなるが、それを必死に抑えた。
パチン
うっかり足元に置いてあったシーリングライトのリモコンを踏んでしまい部屋が暗くなった。
私は急ぎリモコンを手に取り、ライトを再度点けた。
(いない)
あれは扉から離れ、何処かへ消えてしまった。
違和感を感じ、私は上着を見た。
みぞおちの部分にあれがいた。
何も考えられない。
思考が真っ白に染まる。
「hgすいあgwkんwt4いghsdぴおhん2q34hがp」
私は意味不明な叫び声を上げ、大急ぎで上着を脱ごうとして転んだ。
錯乱している私は上着で視界が遮られた中、床を転がり上がり回った。
時刻は寅の刻、部屋の中で一人、私は茫然自失としていた。
あれの体液まみれの上着を脱ぎ捨て、別の上着を着ている。
私はもう全てを忘れ眠ることした。
眠る前に水を飲み、歯を磨くのが日課のルーティーンだ。
洗面所へ向かおうと部屋の扉を開けると、あれがいた。
廊下の床に堂々と触覚を揺らし佇んでいた。
時刻は寅の刻、私の夜は終わらない。
「一匹だけだと思った。残念、三十匹いました。」




