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第五話  帰路

   第五話  帰路

    

 鈴花たちは学校の校門前に立っていた。日が落ちて暗くなった道は本当に暗く静かである。彼女たち以外に人間が居ないためかどの家にも明かりは無い。街灯の光も無いため、真っ暗な世界が鈴花たちの目の前に広がっていた。この状態では何処かに行こうにも難しい状態である。

 鈴花は人々を照らす街灯が急に懐かしくなった。明かりが灯っていればどれほど安心出来るだろうか。それと共に暗闇への恐怖も和らぐ。しかし、今この状態は人間の中にある恐怖心を無理やり外に引っ張り出す以外の何ものにも役立てていない。

「暗くて、なんか怖い。どうしよう。これじゃ家に帰れないよ。」

 鈴花はしゃがみ込み目の前にある自宅への道を見た。自宅と言っても彼女が住んでいる建物と同一のものであるだけである。元は誰の家なのかわからない。

 すると、暗闇でハルが黒い本をじっと見ていることが確認出来た。

「道を照らす光があれば良いんだろ。」

 ハルは鈴花を見て、街灯がある辺りを見た。すると、彼が見た街灯に明かりが灯っていく。

「すごい。どうやったの。ねえ、まさかハルって魔法使いなの。」

 鈴花は驚き声を上げる。目の前で起きている事が信じられなかった。まるで魔法である。チョークも魔法で出したのではないかと考えてしまうほどである。

「魔法なんて非科学的なもの、俺には使えない。それに、これを実際やっているのはこの本だ。」

 ハルは鈴花の持つ黒い本を見る。

 街灯に明かりが灯されたためか、だいぶ色々なものが見えるようになった。

 鈴花たちはその中を歩き出す。彼女が歩けばそれに合わせてハルが街灯に明かりを灯していく。街灯の明かりは彼女が通り過ぎるとともに順に消えてく。これは無駄が無い。しかし、そうだとしたら黒い本が自ら光れば明かりとして良いのではないかと考えてしまう。彼女がそのことをハルに言えば、彼は驚き彼女を見る。

「鈴花のところじゃ本は明かりとして使われているのか。」

 鈴花はハルからの単純な質問に反論しようにも否定しか出来ない。本自体を燃やせば良いと考えても、それでは本がつかえなくなってしまう。結局ところ本は明かりにはならないのだ。

 鈴花は周りが明るくなり、安心出来るようになる。すると、彼女は次にハルに抱いている疑問の解消へと取り掛かった。

「ハルって最初からこの世界に居たの。」

 鈴花がハルを見ると彼は首を横に振った。彼は彼女を手助けするために黒い本と一緒にこの世界に連れてこられたらしい。彼にはそれ以前にどこに居たかといった記憶は無いらしい。その事について黒い本が知っているかもしれないと彼は言う。しかし、黒い本は何も言わない。

 鈴花はハル自身を非科学的な存在として考えてみた。しかし、そこで問題が発生する。非科学的な存在が同じ部類に属する魔法の使用を否定しているのだ。つまり、そのことから彼自身も科学的な何かで構成されていると考えられる。現時点でこれ以上わからないため、ハルが何であるかについての考察はここでやめることにした。

 鈴花は気を取り直して次の質問をする。

「ねえ、さっき出てきたような敵ってまだこれからも一杯出てくるの。」

 鈴花は歩きながら横目でハルを見る。しかし、彼から返ってきた言葉は良いものでは無かった。

「幾つ居るのか俺にはわからない。こいつも幾つ出てくるかについては何も言ってないし教えてくれない。案外こいつ自身も知らないのかもしれないな。」

 ハルは黒い本を見ながら言った。ハルの話では彼と本の間で意思疎通が可能であるとの事である。だとしたら何故実際に使用する鈴花と黒い本の意思疎通を可能にしなかったのだろうか。これが仕様というものなのかと考える。それとも彼女から見て本として存在すべき対象だからなのだろうか。疑問はあるが、案の定黒い本の回答は無いためこの質問は終わらせた。

「じゃあさ、敵を全部倒したら私は元の世界に戻れるよね。まさか戻れないってことは無いよね。」

 鈴花は一番心配なことを聞いた。生きて戻れるかどうかである。望んでこんな所に来たわけではないのである。しかし、敵の目標は彼女であり、逃げたところで何も変わらないと考えた。この疑問について黒い本からの回答があった。

「お前が生きてすべての敵を倒し終えたら元の世界に戻してくれるんだとよ。」

 黒い本の回答から最後まで生きていれば帰れるとの事である。また、パートナーとしてハルと共に出来る限り彼女を守るとの回答もある。この話は心配すればするほど質問と回答の連続になると考えられたため、これ以上の質問は避けた。

「そういえば、この本の……。」

 鈴花は黒い本を開き、緑色の円盤の絵が描かれたページを開こうとした。すると、自動的にページがめくれて目的のページが開かれる。彼女は手でページをめくっていない。ただ開こうと思っただけである。これが科学的であると言われても信じがたい。

「この文章って何が書かれているの。」

 鈴花は緑色の円盤の絵が描かれたページの横にある文章を指差した。ハルは本を覗き込みその文章を見る。

「これは敵の名前、体長、体重などの情報だ。ついでにこの赤い文字はな……。」

 ハルは本から顔を離すと鈴花を見た。

「敵を倒すことが出来ましたって意味の文字列だ。学校のテストとかであるだろ、『よくできました』ってのが。あれと同じだ。その赤い文字列が出た時点で敵は倒せたって事だ。無ければ未だしぶとく生きてるって事さ。この赤い文字が出るまでは気を抜かないことだな。」

 ハルはそこで大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。そして目の前にある闇を見て続けた。

「俺が今いろいろ喋っているが、この情報はみんな黒い本から聞いたんだけどな。俺はただ伝えていい情報を伝えているだけさ。」

 ハルはただの代弁者であり、決して偉くは無いと本人は言う。しかし、黒い本と直接意思疎通が出来ない鈴花にとって彼は必要な存在である。

「このさっき倒した敵の名前ってなんなの。」

 鈴花は本に書かれた敵の名前と思われる文字列を指差す。そしてハルを見た。彼は目だけを彼女に向けた。

Nebula(ネビュラ)だ。」

 ハルは言い終えると再び前を向く。星雲を意味するその名は何かの始まりを意味しているのだろうか。考えているうちに朝は鈴花の自宅であった家に着く。

 鈴花は玄関に走りより、ドアのノブを回してみる。すると鍵はかかっておらず難なく開いた。登校前に鍵をかけたはずであるがそれさえも黒い本が見せていたのかもしれない。彼女は後ろに居るハルを見た。

「私の家じゃないけど。ここで休みましょう。私の家と同じだから。」

 鈴花はそのまま家の中に入る。遅れてハルも家の中に入った。

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