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第三話  明かされた現実

   第三話  明かされた現実

    

 授業は何時もと同じであり、クラスメイトも変わりない。鈴花がホームルーム前に感じた違和感はいつの間にかどこかへ消えてしまった。

「今日はおしまい。また明日。」

 最後の授業が終わり先生が教室を出て行く。鈴花は帰りの支度をしようと机の横にかけておいた鞄を上に置く。鞄は軽く、やはり何も入っていないように感じる。やはり、朝入れた本はこの鞄には戻ることはないのだろうか。彼女は再びあの本を開き表示された絵を見たいと思いつつ机の中の教科書類を鞄の中に入れようとした。

 その時、開いた鞄の奥に二つの目を持つ黒くて大きな蛙が見えた。

 鈴花は小さな悲鳴とともに反射的に鞄から体を離す。悲鳴を聞きつけて近くに居た京子が近づいてきた。

「どうしたの。」

 京子は不思議そうに鈴花に聞いてくる。鈴花自身はそのような状態では無い。

「かばん、鞄の中。」

 鈴花は震えながら鞄の中の蛙を指差す。彼女の言葉に京子は鞄の中を覗き込む。京子は鞄の中を一度覗き込むとすぐに顔を戻した。

「鞄の中には何も無いよ。」

 鈴花はその言葉に京子と鞄の中に未だ陣取っている蛙を見る。京子には蛙が見えていない。それは何故、何故なんだろう。彼女の行動から京子の顔が少しずつ笑えない顔になっていく。

「疲れているんじゃない。早く帰って休んだほうが良いよ。」

 京子はそれだけ言うと、他の子と一緒に教室を出て行く。

 鈴花がその姿を目で追いかけていると、いつの間にか教室には彼女以外誰も居なくなってしまった。彼女は外から聞こえる生徒たちの声を聴きながら再度鞄の中を見た。集中すればするほど怖いからだ。自分の体が震えていることは彼女自身良く分かっている。未だ鞄の中に存在する蛙は動かずじっとこちらを見ている。

「な、なんで蛙なのよ。」

 見れば見るほど叫びたくなる。鈴花は蛙が好きではないのだ。身近に居て一番お会いしたくない相手である。

「なんだよ。蛙じゃ駄目かよ。」

 鈴花は声に驚き、声の主を探して教室内を見回す。しかし、誰も居ない。彼女は唯一可能性のある鞄の中の蛙を見る。

「ここだよ。ここ。」

 蛙の口の動きに合わせて声が聞こえてくる。信じられないが、確かに声の出所は蛙であった。鈴花は椅子に座りながらも後退する。

「蛙が、蛙が喋ってる。」

 鈴花は蛙からさらに遠ざかろうと後退する。すると、椅子から床に落ちてしまった。お尻のあたりをぶつけたが、痛みよりも今目の前で起こっている事が気になった。鞄を見ると、その中から蛙が跳び出して彼女の椅子の上に着地した。

「蛙じゃなければ何が良いんだ。言ってみろ。」

 光の下にさらされた蛙の肌は黒く表面を光が反射していた。

「ぬめりが無いやつ。」

 鈴花は体を液体で包む動物はいやだった。触った時の感触を想像してしまうからである。

「そうか。たとえばこんなのか。」

 目の前に居る蛙は白く柔らかそうな物体に変わり、そして別のものへと変化した。

「これでどうだ。ん。」

 鈴花は言葉が出なくなってしまった。先ほどまで蛙だったものが、今は白い羽が生えた小さな人間の姿をしている。まるで天使のように見えるが顔はあまりかわいくない。

「なんだ。これも駄目か。これなら人間受けすると思ったんだけどな。」

 鈴花は声が出ないため、慌てて首を振った。先ほどの蛙に比べればまだ良いほうだ。気持ち悪くも無い。

「これでいいのか。よし、これで決定。」

 羽の生えた小さな人間は羽をはばたかせて宙に浮く。そして、鈴花の周りを円を描くように回り始めた。彼女は回り始めた小さな人間を目で追う。

「あ、あなた誰なの。何故私の所に来たの。」

 羽の生えた小さな人間はぴたりと止まり、鈴花を見る。

「俺はハルだ。あんたの鞄の中を見てみな。話はそれからだ。」

 鈴花は驚きながらも、這って机の上の鞄を引っ張る。鞄を床に落とすと、その中に手を入れた。すると、本が入っている事に気付く。彼女は鞄の中から本を取り出した。

「やっぱり。」

 鈴花の手には朝に見た黒く分厚い本がある。

「俺はその本の番人……まあいい。本を開いてみな。」

 鈴花はハルの言葉通り鈴花は本を開く。すると、自動的にページがめくれて、あるページを開いた。そのページは朝のホームルーム直前に見たページだった。そこには今や途中までしか見ていない絵の完全版が存在している。その絵は緑色の丸い円盤の形をしていて、そこにはよく分からない模様が描かれていた。しかし、彼女はそれが何であるかわからない。

「そいつがこれからお前を襲うやつさ。」

 鈴花は驚きハルを見る。ハルの言っていることが良く分からない。何故彼女が襲われることになったのだろうか。ハルはそんな彼女を気にせず続けた。

「そいつを倒せるのはお前とその本だけ……。」

「ちょっと待って、良くわかんないよ。なんで私なの。何でそいつを倒さないといけないのよ。」

 ハルの言葉を遮るように鈴花は言う。彼女はなんとか立ち上がるとハルをじっと見た。ハルの言葉に現実味が無い。まるでおとぎ話のような感覚を覚えてしまう。

「それは俺にも分からない。だが、その本がお前を選んだんだ。鈴花。」

 鈴花はハルに名前を呼ばれると、さらに現実味が無くなった。

「なんで、知っているのよ。私の名前。」

 ハルは一度頷くと黒い本を見た。

「その本から聞いたんだ。それだけさ。」

 ハルの言葉から、元は黒い本が鈴花の名前を知っていたことになる。何故本が彼女の名前を知っているのだろう。ますます良く分からない状態になる。

「良く分からないわ。帰る。」

 鈴花は黒い本を閉じると、荷物をまとめて教室の出入り口へ向かって歩いた。

「それは無理だな。もう、お前さんが家に帰っても誰も居ないよ。」

 鈴花は驚き、ハルを見る。彼女は彼の落ち着いた姿に動揺する。

「な、なんで。今日だって朝家から……。」

 すると、手に持っている荷物が急に軽くなった事に気が付く。自らの手を見てみると鞄が消えて黒い本だけになっていた。

「どういうこと。どういうことなのよ。」

 鈴花は黒い本だけを持ってハルに近づいていく。その迫力にハルは少し後退する。

 ハルの話ではここは鈴花の居た世界と人間以外は同じらしい。既にこの世界には人間は居ないらしく、朝からずっと彼女の周りの人間を黒い本が見せていたというのである。これは突然別の世界に入り込んだら混乱するためであるとハルは説明しているが、結局今混乱している。

 鈴花はその場に座り込んだ。気が付けば人々の声さえも聞こえなくなっている。これまで常に何かしらの音を耳から聞いていたためか、無音であったことが無い。そのため、急に怖くなった。

「本当に私たちしか居ないの。他に誰も居ないの。」

 鈴花は机にしがみつきながらハルを見る。本当に悪い夢を見ているようだ。ハルは彼女の言葉に頷き外を見る。

「俺たちだけだ。あとは、お前を襲う敵だけだな。ほら、来たぞ。」

 鈴花はすぐに窓に近づく、遠くから大きな丸い物体が近づいて来ていることがわかった。しかし、太陽を背にしているためか丸い以外はわからない。しかし、予想は付いている。本に描かれていた得体の知れないもの。彼女はゆっくりと窓から離れた。

「ほら、本を開きな。あんたしかあいつを倒せないんだからな。」

 背後からハルの声がする。この世界に鈴花たち以外居ないならば、彼女がやるしかない。彼女は言われるままに本を開く。自動的に先ほど見た緑色の円盤のページになり、横に少しずつ文字が浮かび上がる。しかし、その文字は鈴花の知らない言語のためか読むことができない。文字が完全に浮かび上がると、自動的にページがめくれる。次のページには鈴花にも読める言語で文章が浮かび上がってきた。

「倒し方。」

 本には緑色の円盤の倒し方が二ページに渡って書かれているようだ。しかし、何故なんだろう。鈴花はさらに近づいた円盤を見た。

「こんな方法で倒せるって言うの。」

 鈴花は唇を軽く噛むと勢い良く本を閉じた。そして、廊下へ向かって走り出す。

「やれば良いんでしょ。ハル、あんたも来なさい。」

 鈴花はハルを見る。すると、ハルは彼女に近づいてきた。

「言われなくても付いていくさ。俺はその本の番人だからな。」

 そして、鈴花たちは誰も居ない廊下を走って、一階へと降りた。

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