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第十二話  平和な時間

   第十二話  平和な時間

    

 鈴花が玄関のドアを開けると、月の光が辺りを照らしていた。夜のためか涼しい。続いて宗太が靴を履いて出てくる。彼はしきりに自分の着ている服を気にしているが、彼女たちしかいないと考えられるのでそれほど気にすることでも無いと思う。最後にハルが家の中の電気を消して出てきた。

 ハルはドアを閉めると鈴花たちの上を飛ぶ。彼女は久しぶりにハルが飛んでいるように感じた。しかし、良く考えれば家の中でも良く飛んでいる。彼女たちの頭上を飛んでいるから「飛んでいる」と感じたのだろう。

 鈴花はジャンプしてハルを捕まえようとした。ハルは彼女の手を避けると捕まらないようさらに上昇する。

「ちょっと。卑怯でしょうが。」

 鈴花はハルを捕まえようと何度かジャンプしたが諦めた。ハルは彼女が諦めた事を確認するとゆっくりと降りてきた。

「こんな所に突っ立てないでどこか行こうよ。」

 鈴花が宗太を見れば、彼は既に歩き出していた。彼女もその隣を歩く。ハルを見れば彼女たちの後方を飛んでいる。

 鈴花たちはしばらく歩くと近くにある公園に着いた。大きな木々が月の光から守るように公園を覆っている。覆っていることは構わないが、灯りが無いためか公園の中は真っ暗である。

 鈴花はハルに明かりを点けるよう言う。ハルは彼女に面倒だと言いながらも公園の前に立った。すると、すぐに公園内に明かりが灯る。彼女は公園に入りながらハルに礼を言った。

 鈴花は夜の公園というのは一人で来るには危ない気がして一度も来たことが無い。公園内は静かで虫一匹さえ居ないと感じた。暑い時期だというのに蚊も居ないようだ。

 鈴花は何か無いかと辺りを見回す。ここに来て何も無ければ家に居るときとあまり変わらないと思った。そこで、近くに砂場を発見する。道具も転がっていてすぐにでも遊べそうだ。

「そうだ。砂遊びしよう。」

 鈴花はうれしそうに砂場に走る。砂場に着くと宗太を見た。彼は戸惑う。彼はこの歳で砂遊びなんてと思っているのだろう。彼女は彼に近づき手を掴んだ。

「ほら、いいじゃない。私たち以外見てないんだし。」

 宗太はしぶしぶ砂場まで来た。鈴花は砂場に置かれているスコップを彼に渡す。彼女も自らスコップをもって砂場を掘り始めた。特に何かを作るというわけでもなくただ砂場に大きな穴を作っていく。その時、ふと昔実家の砂場で穴を掘って居たことを思い出す。

「俺はその辺に居るからなんかあったら呼んでくれ。」

 鈴花は夢中で掘るその合間になんとかハルの声が聞こえた。動作を止めてその声に反応する。ハルがどこかへ行った事を確認すると再び掘り始めた。掘り進めると湿った砂が現れる。手を入れればひんやりと冷たい。

「宗太。ここに手を入れてみて。」

 鈴花は宗太に掘った穴に手を入れてみるように言った。彼はスコップを置いて、何かを探るように片手を入れた。すると、彼の表情に変化が起きる。

「冷たくて気持ちいいや。」

 宗太は穴から手を引っ込めると自らのスコップで勢いよく掘り始めた。もっと深く掘って冷たさを感じたいのかもしれない。

 掘るほどに増える砂の山。鈴花たちは両手が埋まるほどの穴を掘り終えた。それから掘り出した砂を使って山や町を作り出した。小さい頃とやっていることは同じだが、さらに細かく作っていく。奥から彼女たちが掘った穴を繋げた谷、砂の山、余った砂で作った町。砂場一面すべてを使って出来た作品は破壊するには勿体無いものだった。

「砂遊びって意外と疲れるわね。」

 鈴花は砂場の端に座る。砂や土が少々付くが、雨に濡れているわけではないので払えば大丈夫だ。

 宗太も鈴花の様子を見て彼女に近づく。彼は彼女に手を差し伸べた。

「こんな所かな。ほら、そこのベンチに座ろうよ。」

 鈴花は宗太の手を取って立ち上がる。彼を見れば何かうれしそうだ。

 鈴花たちはベンチに座り、出来上がった砂の作品を眺める。照明が適度に明暗を作り、彼女たちが作った物では無いように感じた。

「どうだいお二人さん。ほれ、お土産だ。」

 そこへハルが戻ってくる。ハルの手にはビニール袋。鈴花がそれは何かと問えば、中にあるのはアイスバー。触れればひんやりと冷たい。ハルが黒い本を使って買って来たのだろう。ハルが彼女と宗太の間に座ると、それぞれが袋からアイスを取り出す。彼女は木の棒を持ちアイスの部分を口に含んだ。

「それで、何してたんだ。」

 ハルの言葉に鈴花はアイスを口に含みながら砂場を指差した。ハルはアイスをくわえながら砂場を一周する。一周し終えると再び彼女と宗太の間に座った。

「砂遊びか。悪くないな。」

 鈴花はハルの言葉に相槌を打ちながらアイスを食べる。彼女は最後の一口を飲み込むと立ち上がり背伸びをした。彼女はそのまま宗太と作った砂の作品を見る。彼女は作品の出来に我ながら上手く出来たと感心した。そうしている間に、ハルと宗太もアイスを食べ終えて彼女の元に来る。

「壊すの勿体無いわ。写真で残したいくらい。」

 鈴花は周りを見て次の遊びを探す。見れば近くにブランコがあった。彼女は走りよりブランコに乗る。金属が擦れる音が聞こえてきた。子供用のためか座るところが低く設置されている。彼女にとっては足が地面にぶつかりやすく面倒だ。それでも彼女はこいだ。すると、宗太もブランコに座って一緒にこぎはじめた。ハルは近くのタイヤ椅子に座って二人を見ている。宗太を見れば同じく彼女を見て笑っている。彼女もそれに釣られて笑顔になった。

 その時、鈴花は視界の端でハルが何かを感じ取った事を確認した。すぐにブランコを降りてハルに近づく。宗太もどうしたのかと彼女の後に続く。

「来たみたいだ。」

 ハルはすぐに黒い本を鈴花に差し出す。彼女は黒い本を受け取り、本を開いた。ページは自動的にめくれて新しいページになる。そのページにゆっくりと絵が現れ始めた。彼女はポケットに入れたチョークを取り出す。持ってきて良かったと本当に思った。そして、現れる絵をじっと見る。

「あの、僕はどうしたら。」

 鈴花は宗太を見る。そういえば、彼が居たのだ。ハルと彼女の二人ならどうにかなるだろうが、彼が居ては色々と面倒である。

「悪いけど、先に家に帰っておいて。」

 宗太は鈴花の言葉を拒否する。帰る途中に敵と会ってしまったらどうするんだと言って来た。つまり、一人で帰るのが怖いらしい。仕方なく三人は急いで家に戻ることにした。家までの道のりを三人は走る。絵が現れ始めたということはもうすぐ本体が現れるということだ。彼女は早めに彼を家に戻して戦いに専念したいと思った。

「つ、着いたわ。」

 鈴花と宗太は少々息を切らしながら玄関前に到着した。彼女は彼に隠れているようにと言って黒い本を開く。絵は完全に現れていた。その姿はまるで戦車のようだ。それも複数である。

Deathferia(デスフェリア)だ。」

 鈴花は背後からハルの声が聞こえるものの目の前の絵から目を放すことができない。これまでと違って妙に生々しい敵だ。見たことがあるからかもしれない。ページがめくれて倒し方が現れ始めた。彼女はそれを確認すると周りを見ようと顔を上げた。

 その時、鈴花の体が真横に飛ばされた。直後、背後で爆発音がする。気がつけば、ハルが彼女を抱きしめていた。真横に移動させたのもハルだろう。そして、爆発したのは彼女の家だった。立ち上る煙の中で家は崩れかかり壁のかけらが散乱しているのが見えた。すぐに爆発した場所とは反対側を見る。すると、そこにデスフェリアが居た。その姿は戦車としか言いようが無い。主砲が左右に動き、獲物を探している。照準が合えばすぐに撃ってくるだろう。まともに当たったら体は粉々に砕けて幸せな人生の終りを迎えられないと思った。

「仕方ないな。ほれ、俺の手を掴め。」

 鈴花はハルに言われるままに彼の手を握った。すると、彼はその手を掴んだまま勢い良く塀を越えて道路に出る。彼女のすぐ近くを弾が飛んでいく。再び近くで爆発音がした。戦車は人間では無くもっと大きな物が相手じゃないのかと彼女は考えた。

 鈴花はハルから手を離すと黒い本を開く。自動的にめくれたページには既に戦い方が現れていた。

「兵器に殺されちゃたまらないわ。」

 鈴花はチョークを握り直すと、目の前にある道を走り出した。

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