2-5
目を開けたそこは何も見えない暗闇だった。
辺りを見渡しても何も見えない闇の中。
右も左もどちらを見ても真っ暗な世界。
私はこの景色を何度も見た事がある。
ーーまたこの夢か…
私はこの真っ暗な世界をまるで何かに導かれるかのようになんの躊躇いなく歩き出した。
私はこの世界があまり好きじゃない。
目が暗闇に慣れてきたのか少しずつ見えてくるものがあった。
自分の服装、自分の歩いている道、そして、前方にある人影。
その人影が見えた時、同時に自分の利き手に何か握っている感触があることに気がついた。
視線を利き手に向ける。
握られていたのは先の尖った鋭利なハサミ。
前方の人影に視線を戻す。
ハサミを握る手に力を加え、ゆっくりとその人影に近づいていく。
近づいていくにつれ徐々にその人影の顔が見えてくる。
人影の正体は由里香だった。
朝あった時とおんなじ学生服を着て暗闇の道の真ん中に突っ立っていた。
そんな由里香に宮子はそのままゆっくり近づき手に握っていたハサミをその喉目掛けて何の躊躇も無く突き刺した。
そのまま何度も突き刺し、切り裂き、挙句、首を切り落とした。
まるで発泡スチロールでも切ってるかのような、そんな軽い手応え。
血も出てこない、殺った感触も殆どない、なんともつまらない行為。
首を失った胴体はそのまま地面に崩れ落ちていった。
私は地面に転がった頭の髪の毛を掴み、持ち上げて表情を確認する。
その表情は刺す前と全く変わらない無表情のままだった。
その顔を見て舌打ちし、私はその首を強く地面に叩きつけた。
顔をあげ、前を見るとまた前方に人影があった。
ゆっくりと人影に近づいていく。
中学生の頃だった。
初めはほんの出来心だった。
私を馬鹿にしてくるやつ、虐めてくるやつ、裏切るやつ、そんなやつらを許せなかった。
だからそいつらを殺す夢を見ようとした。
結果的には確かに見れた。ただし、その夢は[世界の壁」が多すぎた。見た世界は真っ暗で殺したい奴らはまるでマネキンみたいに動かず、殺った時の感触も軽い。殺し終わったらほぼ強制的に夢から追い出される。
それでも嫌な事や辛い事があれば私はその夢を見て憂さ晴らしをしていた。
でも、どれだけその夢を見ても、[世界の壁]を越えようとしても全く超えることは出来なかった。
殺し方を変えても人物が違っても景色は同じで殺した時も全く同じ。
ーーつまらない…
リアリティも無く、残るものは虚しさだけ。
私はいつしか自発的にはその夢を見ようとはしなくなっていた。
しかし…そんな意思とは関係なく、虐めを受けた日は決まってその夢を見るようになってしまった。
別の世界に行くために色々したがどんなに試してもおんなじ夢だった。
それから私は虐められる度に夢の中で人を、いや、人型の物を殺し続けている。
色んな方法で、さまざまな凶器で。
近づいた人影は由美の姿をしていた。
由美も魂の抜けた、容姿がそっくりなだけのただの人形だった。
私は持っていたハサミをその人形の目に突き刺した。
その反動で人形は地面に倒れた。その人形に馬乗りになり、再びハサミを目元に突き刺した。
何度も何度も突き刺し続けた。
気が済んだ頃にはもはや元がどんな顔か分からないくらいぐちゃぐちゃになっていた。
前を見るとまた人影が見える。
その人影が誰なのか大体の察しはついていた。
私は由美だった物を踏みつけながらその人影に近づく。
案の定、その人影は恵那の容姿をしていた。
ため息混じりに持っているハサミを恵那の心臓に突き刺した。
力なく倒れる恵那に似た人形。
その顔面を何度も何度も踏みつけ、最後は力一杯蹴り飛ばした。
力一杯蹴ったはずなのに返ってくる感触はやはり軽いものだった。
ぼろぼろになった恵那のようなものを見てため息が溢れた。
徐々に恵那のようなものの身体が薄く消えていく。
その瞬間、強い衝撃が頭に響いた。
そろそろか…
視界に見えていたものが見えなくなり、また目の前が真っ暗になる。
ハッと目を開けると視界に白い、自室の天井が広がっていた。