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夢見の少女  作者: soul chiter
6/15

2-2

炎天下の中、自転車を漕ぐ事数十分。学校の校門が見えてきた。

東第一女子高等学校。文字通りの女子校だ。


校門をくぐり抜け、1年の自転車置き場のいつもの定位置に自転車を止める。

自転車を降り、籠の中の鞄を手に私は校舎の中へと急ぐ。

校舎の中は外よりも涼しいかと期待したがその期待は裏切られ生温い温度が充満していた。


うんざりしながら校舎の階段を登り、3階にある美術室へと向かう。


校舎では色んな音が聞こえてくる。

吹奏楽が奏でる楽器の音、教員と生徒の会話、外からは運動部達の掛け声。

夏休みでも普段とほとんど変わらない、いやむしろいつもより大きく聞こえてくる気がした。


私にとってそれらはちょっとした雑音だった。


私は急足で3階に登り、美術室の扉を開いた。

美術室には誰もいない。

すぐさま壁にあるクーラーの電源をつけ、鞄を机に置き、椅子に腰掛けて一息ついた。


「なんで朝なのにこんなに暑いのよ…」


額の汗をハンカチで拭いながら愚痴をこぼす。


本当は部活にも入らず、家からも出たくなんかなかったがこの女子校の決まりとして何か一つ、必ず部活に入らなければならなかった。


ほんと、ふざけた決まりだ。


はぁ…とため息を吐き、私は椅子から立ち上がって美術室の奥にある扉へと向かった。

扉の向こうは準備室。ここには色んな資料や画集なんかが置いてある。

ぶっちゃけ私が美術部に入った理由のほとんどがこの準備室にある資料目当てだった。


準備室のドアノブに手をかけたその時、美術室の扉が開いた。

入ってきたのは女生徒のグループ3人組だった。

明るい髪色、着崩した制服、俗に言うギャルってやつなんだろう。そんな3人組が美術室にズケズケと入ってくる。


「ねぇ〜ちょっと暑いんやけど〜?」


教室に入ってくるなりそのうちの1人、美谷島由美が聞こえてくるくらい大きな声で言ってくる。


「もっとさ〜早めに来てとか考えない?普通〜」


それに続くようにもう1人、松井恵那も声をあげる。

2人の台詞に大きなため息を吐き、私はドアノブから手を離し自分の席へと戻った。

無言で席に座り、机の上の荷物を下ろそうとした時、目の前の机をバンッと叩く大きな音がした。


顔を上げるとそこには3人グループの中心的存在の佐藤由里香が立っていた。


「ねぇ宮子〜あんた何無視してんの?」


「…別に」


「前にも言ったよね?私たちが来るまでにやりやすい環境作っとけって。忘れちゃったの?」


「…あんた達、来ない方が多いじゃない」


バシッと大きな音と共に頬に強い衝撃が走る。


「なに?言い訳?」


見下すように睨みつけ、由里香は低い声で言ってきた。

痛い…。さっきので口の中を切ったのか、口内に血の味がゆっくりと広がっていく。


「ねぇ宮子、もう一回言ってよ」


グイッと髪の毛を掴まれ無理やり持ち上げられる。


「こらこら由里香ちゃん顔はあかんよ〜見えるところに痕が残ったら後々めんどくさいんやから」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら由美が近づいてくる。


「やるんやったら目立たへんところやらなあかんよ。こんな風に」


その瞬間、由美は勢いよく私の横腹を殴りつけた。

その衝撃に耐えきれず私は地面に倒れ伏す。

ずくずくと鈍い痛みが腹部に響いている。

その痛みに私は動けずうずくまった。


「由美容赦なさすぎでしょ」


「これでも手加減してるって」


キャハキャハと馬鹿みたいな笑い声が聞こえてくる。


この3人は部活に顔を出せばこうやって私に危害を加えてくる。由里香に関しては中学の頃から一緒で、思えばあの頃から由里香中心で私はいじめられ続けていた。

高校に入学してからメンバーは由美、恵那の2人に変わったが未だにこうして由里香が先導して私をいじめてくる。

こいつらが美術部に入った理由も人数が少なく、楽で、尚且つ私がいるから、らしい。


ーーほんと…なんでこんなやつらがいるんだろ


それまで聞こえてた笑い声がぴたりとやむ。


「宮子…あんた今なんて言った?」


「宮子ちゃん、もっかい言ってくれへん?」


あー、やば。口に出ちゃったかな…

私はうずくまったまま動きを止める。


「なんとか言いなさいよ!」


由里香が思いっきり私の背中を踏みつけてくる。

背中に痛みが広がっていく。私はそれを無言で耐え忍んだ。


「2人とも〜時間切れ、先輩来たわ」


入り口付近で廊下を見ていた恵那の声が聞こえてくる。

その瞬間、由里香の攻撃が止んだ。


「チッ…」


舌打ちをした由里香は自分の鞄を取りに私から遠ざかっていった。


「ちょっと由里香ちゃん、後始末やってってよ〜。もう、しゃあないんな〜」


地べたに伏してる私は由美に手を掴まれ無理やり引っ張り起こされた。


「恵那ちゃんちょっと手伝って〜」


「え〜…仕方ないな〜」


その後、私は2人がかりで無理やり起こされ、椅子に座らされた。


「あんた、あんま調子乗らん方がええで」


座らされた後、耳元でボソリと由美が小声で告げてきた。

そして2人は何事もなかったかのように私の元を立ち去り由里香の近くの席に腰掛けた。


私は乱れた髪の毛を軽くとかし、何事もなかったように平静を保った。

その直後、美術室の扉がガラガラっと開いた。

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