2-1
目を開けるとさっき見た世界と同じ、珊瑚礁が広がる綺麗な海の中だった。
私は上を見上げた。
水面が揺れ、陽光が海の中まで入ってきている。
私はゆっくりとその光の方へと泳いだ。
さっきはここに[世界の壁]があった。でもそれは先ほど破り、その先を目の当たりに出来た。
今ならこの先を見る事ができるはず。
ごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと上昇していく。
次第に水面との距離は近づいていき、恐る恐る手を伸ばす。
そこに[世界の壁]はなく、伸ばした手は水の中から出ていった。
出た手をすぐに引っ込めゆっくりと水中から顔を覗かせる。
そこから見えたのは海の水面と青空が何処までも続いている世界だった。
その景色は宮子が描いた絵と同じものだった。
その景色を見た私は海の中に潜りグッとこぶしを握りしめた。
「やった!越えれてた!海の上の世界ができた!」
あまりの嬉しさに声が出る。この瞬間はやっぱり嬉しい。[世界の壁]を越えれるとより夢の世界が豊かになるし、何よりリアリティが増す。
リアルな世界を自分の思い描くように出来る万能感、それが私は大好きだった。
私はすぐに水中で目を閉じて願い事をした。内容は前とおんなじもの。
目を開けると下半身が魚の尾びれに変化していた。
変化が確認出来ると、全力で水面目指して私は泳いだ。
そしてそのままの速度で水中から空中へ、まるでイルカのように勢いよくジャンプした。
飛び上がった先で見えたものは海と空だけの綺麗な世界。
水面から顔を覗かせてた時とは違い、上から見ると水中が透き通って見え珊瑚礁や魚の姿もはっきりと見えた。
水中に着水した私はもう一度ジャンプする為に助走をつけた。
海面ギリギリを泳ぎ、水中を思いっきり蹴ってジャンプしようとした瞬間
世界そのものが揺れた。
激しく、そして一定の感覚で揺れだした。
「……もう時間か…良いとこだったのに…」
私は大きなため息を吐き、目を閉じた。
再び目を開けるとそこにはいつもの白い天井があった。
私は胸元のポケットに入れていたスマホを取り出し、バイブを止め、時間を確認した。
午前8時35分。
あっという間に朝を迎えていた。
耳栓を外すと蝉のうるさい鳴き声が窓の外から聞こえてくる。
「はぁ…」
その鳴き声にうんざりしながら私は朝の身支度をする為に部屋を後にする。
お母さんはもう仕事に行ったみたいで家には誰も居なかった。
歯磨きを終わらし、朝食を適当に済ませて、私は学校に行く準備を始めた。
制服に着替え、鞄の中にスケッチブックをしまう。
時計を確認しながら少し急ぎ気味に外へと飛び出した。
外は雲ひとつない快晴で、太陽の日差しがささるほど暑かった。
「あっつ…」
自転車にまたがり、私は自宅を後にした。