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目を開けると薄暗い部屋の中、見慣れた天井が目に映る。
クーラーから流れてくる風の音、外から聞こえてくる蝉の鳴き声、目覚まし時計の秒針を刻む音が聞こえる。
私はゆっくりと状態を起こし一呼吸ついた。
「……やった」
部屋の電気をつけ枕の下にあるスケッチブックを手に取る。
「見えた、見えた」
白紙のページを机の上に広げ、引き出しから色鉛筆を取り出し、私は意気揚々とスケッチブックに見たものを描き出した。
「よし、完成」
出来上がった絵を見て満足げに笑みをこぼす。
そこに描き出されたのは穏やかで、島のひとつもない地平線の海と、雲ひとつない快晴の空だった。
何も無い空と海の景色。それが私が最後に見た光景だった。
私は[世界の壁]を越える事ができたのだ。
また一つ、自分の夢の世界が広がった。それが嬉しくて仕方がなかった。
「宮子〜ご飯出来たわよ〜」
一階からお母さんの声が聞こえてきた。
その声に私は時計を確認する。
時計の針は19時を過ぎて差していた。
(5時間も経ってたのか…)
スケッチブックを机の上に置き、私は部屋を出た。
下に降りるとリビングの机の上には既に晩御飯が用意されていた。
今日の晩ご飯はカレーだった。
冷蔵庫からお茶を取り出し、自分の席についてテレビをつけた。
適当にチャンネルを変え、色んな番組を見てみるが私の興味を引くものは何ひとつなかった。
「はぁ…」
「なに、テレビ消しちゃったの?」
お母さんが台所から出てきて自分の席についた。
「面白いの何もしてなかったから」
それだけ言って私は目の前のカレーを頬張った。
「あんた、今まで2階で何してたのよ」
「寝てた」
「もう…夏休みだからってゴロゴロしてないで出かけたりしたらどうなのよ」
その言葉に少しムッとなり、私は無視してカレーを食べ進めた。
「明日は?何か予定あるの?」
「午前中部活に行くくらい」
「そう、お母さん明日仕事あるからお昼適当に食べててね。あと、お父さん近々帰ってくるみたいだから」
「ん、ごちそうさま」
適当な返事をし、空になったお皿を台所の水桶の中に沈めた。
「お風呂入りなさいよ〜」
「お昼に入ったから今日はいい」
それだけ言い残し、私はさっさと2階の自室へと上がった。
部屋の扉を閉めた私は椅子に座り、再びスケッチブックの先ほど描いた絵を眺める。
(もう一度同じ夢を見て、今度はこの世界に繋がるか試そう。それで何が出来るか色々試してみよ)
宮子の顔から笑みが溢れた。
スケッチブックを開き、枕の下に置く。
耳栓をして明かりを消し、ゆっくりと横になる。
(明日の部活は久しぶりにファンタジーな物描こっかな)
ふふっと笑いながら目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をし私はまた夢の世界へと旅立った。