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辺りをゆっくりと見回す。
小さな色とりどりな魚が泳ぎ、周りには色んな形の綺麗な珊瑚やイソギンチャク、大きな貝やヒトデなんかも見つける事ができた。
そこはどこまでも透明な明るい群青の景色が広がっていた。
(うん、成功)
自然と頬がゆるむ。今日も想い描いた通りの場所に来る事ができた。
私はゆっくりと水を掻きながら辺りを散策した。
道中、小さな魚の群れを見つけ一緒に泳いだり、泳いでいるウミガメも見れた。珊瑚の近くではタツノオトシゴも見つけた。小さくてすごく可愛いい。
そんなタツノオトシゴに別れを告げ、また私はゆっくりと泳ぎはじめた。
足をゆっくり動かし、ゆっくりと腕で水を掻く。
(あぁ…いいな…)
辺りは静かで自分が掻いている水の音が微かに、ゆっくりと聞こえてくる。のんびりと時間が過ぎているこの感じが堪らない。
(でも…せっかくだし)
私は止まってゆっくりと目を閉じてある事を望んだ。そしてゆっくりと目を開ける。
そして自分の身体を確認した。
宮子の下半身は人型のそれとは異なり大きな尾びれへと変っていた。
その姿は童話に出てくる人魚のそれであった。
私は人魚の姿で辺りを軽く泳いでみる。
先ほどと違ってスピードが段違いで小回りもよく効く。
「うん、良好良好」
思った通りに動く事ができ満足した。
「よし、じゃあ行くか」
私は適当な方向に向かって全力で泳いだ。
先ほどと違って凄い速さで景色が過ぎ去っていく。
珊瑚礁を避け、魚の群れの中を突っ切り、私は縦横無尽に駆け巡った。
息苦しさはない。水からの抵抗感も感じない。ただそこにあるのは純粋な疾走感のみ。
「ゆっくり泳ぐのもいいけどこっちもやっぱ最高だなぁ」
勢いそのままに海中でバク転したり、できる事を色々と試した。
「さて…と」
ひとしきり楽しんだ私はまた辺りを見渡した。
私の見る夢の中でも出来ないことは存在する。
といっても大体の事は出来るのだが、それでも出来ないこと存在した。
1つ目はオブジェクトが壊せないこと。
壊そうとしても透けてしまうか、そのオブジェクトそのものが消失してしまう。
今でこそ触れてその感触が伝わってくるくらいにまで進化したが、初めの方は触ろうとしても透けて触ることもできなかった。
リアリティを求める私にとっては少し不満のあるところだ。
もうひとつは[世界の壁]を越えること。
こっちは出来ないこともないが出来た事はまだ数回しかない。
空を飛ぶ夢を見て、どれだけ高く上に羽ばたいても宇宙に行くことはできない。地上の景色が見えていても地上に降りることはできない。
動物と触れ合う夢を見ても鳴き声が聞こえなかったり動きが無かったりする。
こういった現象をまとめて私は[世界の壁]と呼んでいる。
[世界の壁]は1つの夢に複数存在するときもある。夢によって壁は異なる形で存在していた。
私はそれを探しては超える方法を模索している。
上を向き、海上を眺める。陽光が海中に入っていて海面には太陽らしきものがゆらゆらと揺れている。
私は海面目指してゆっくりと泳いでみる。
しかし、一向に海面にたどり着くことはできない。
(やっぱりここに壁がある…か)
それを確認し、私は再び全力で泳いだ。
このタイプの壁は前に一度突破した事がある。
(あの時みたいに…!)
徐々に加速し、目まぐるしく景色が流れていく。
加速を繰り返し、最高速に達した瞬間その速度のまま一気に上方向へと角度を変えた。
(行け…!)
手を伸ばし薄い膜の様なものに触れ、突き破ったコンマ数秒後、目の前が真っ白になった。