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窓の外から蝉の鳴き声がうるさく聞こえてくる。
カーテンを閉めているが陽光がその隙間から入ってきているのが見える。
部屋の中はクーラーが効いていて涼しいが、外は恐らく猛暑なんだろう。
こんな日は外に出ないで涼しい部屋の中で動画を見ながら氷の浮いた冷たいジュースでも飲んで過ごすのが至高だ。
私はベッドで横になりながらスマホで気になるタイトルの動画をタップし、ぼんやりと画面を眺めながらジュースを口にする。
「ん〜この人いまいちだなぁ」
動画を流しながら、また気になるタイトルがあるかと画面をスワイプする。
すると部屋の扉がガチャリと開いた。
「宮子、ちょっといい?」
扉の向こうにはお母さんの姿があった。
私はそれに気づき、付けていたイヤホンを外す。
「なに?」
「ちょっと、昼間なんだからカーテンくらい開けなさいよ。それにクーラーちょっと効きすぎじゃない?」
ずけずけと部屋の中に入ってきたかと思えばお母さんは閉めていたカーテンをばさっと開けた。
真夏の陽が部屋の中に容赦なく差し込んでくる。
「ちょっと買い物行ってきてくれない?」
「え〜…」
「どうせ暇してるんでしょ。夏休みだからってずっと家の中にいないで、少しは外に出なさい」
「外暑いから出たくないんだけど…」
「行ってくれるならついでに好きなアイス買ってもいいから」
「それってなんでもいいの?」
私は少し前のめりになりながらお母さんに詰め寄る。
「いいわよ。ついでに私のも買ってきてほしいし」
そう言ったお母さんは一万円札とメモをピラッと差し出して、「じゃあよろしくね」っとだけ言い残し私の部屋をあとにした。
渡された一万円札とメモ用紙を財布の中に入れ、身支度をし私は部屋を出た。
部屋を出た瞬間、ジメッとした空気が肌を撫でた。
嫌な感触だった。
そう言えば昨日雨降ってたっけ…最悪…
私は重い足取りで玄関に向かい、その扉をゆっくりと開け外に出た。
強い日差しが肌に刺さる。風は温いし湿気のせいかベタベタする。蝉の鳴き声がうるさく鳴り響いているのがさらに暑さを際立たせてる様に感じる。
あーもう最悪…アイスに釣られて安請け合いなんてするんじゃなかった…
外に出て数秒であの涼しい楽園に帰りたくなる。
はぁ…と大きいため息をつき、一度玄関に戻り、置いてある自転車の鍵を手に取りもう一度玄関の扉を開いた。
2度目の扉は1度目と違い重く感じた。
自転車のカゴに鞄を放り込み自転車に跨る。
「あっつ…」
日差しと熱のせいかハンドルもサドルも熱くなって思わず声に出てしまった。
また大きなため息を一つついて私は自転車を漕ぎ出した。
さっさと買い物なんて済ませてあの楽園に戻ろう。それでいつものように嫌なことなんて全部忘れよう。
「今日は何の夢を見ようかな…」
ぽつりと呟きながら暑い日差しの中、自転車をこぎ進めた。