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2021.5.8 九州大学文藝部 書き出し会

八月のある朝

作者: 匿名

八月のある朝、男が一人行方不明になった。その程度のことがニュースになるような時代は終わった。

世界が人知をこえた存在に支配されてしまったこの時代、昨日までいた人が今日もいる、そんなかつての常識は、今は通用しない。

俺たちは今夜も暗い森の中を歩き続ける。

あいつらが寝静まった世界を、平和に思える漆黒の世界を、ただひたすらに、少しでも安全な世界を求めて


「おい、とまれ」

俺たちは12人の班を率いるサンザ隊長が俺たちに、歩みを止めるよう小声で指示を出した。


俺たちはその場に立ち止まった。そして誰一人として一寸たりとも動くことはない。


俺たちは耳を澄ませて周囲の状況をうかがった。今日は月明かりがない。その日を選んで移動している。


この世界で頼ることができるのは、聴覚、嗅覚、そして自分の直感だけだ。


静かな夜に響き渡るのは風の音とその風に揺らされる草木のざわざわとした音だけだ。


まだ何もにおわない、何も感じない。肩が痛くなった俺は少し背筋を伸ばした、背中に背負った荷物が少し音を立てる……


「レン、以上あるか?」俺は先頭のサンザ隊長からリレー方式で伝わってきた言葉を列の前の奴から受け取った。

俺は首を横に振って後ろの奴に同じ質問をする。

そして全員が異常がなかったことを確認してサンザ隊長はまた前に進み始めようとした。


しかし何かが変だ。俺は思った。何も変な音とにおいはしない だが俺の直感は言う、ここは

危険だ


「うわあああああああああああああっ……ぐはっ……」


そう俺が感づいた瞬間、後ろ、前、上、下、すべての方向から絶叫が聞こえ始めた。


どこからも命令は聞こえない、間違いない、もう死んでしまったのだ、サンザ隊長は。



俺は仲間たちと共に全力で暗い森の中を走り始めた。誰も方向はわかっていない。

地図はサンザ隊長が持っていた。


必死で何も見えない道を走っていた時、俺の目の前の奴が倒木に躓いて転倒した。


そいつの顔はさっきまで列で俺の一つ前にいたやつではなかった、

「助けてくれっ……頼むよ……助けて……くはっ……」


俺がそいつを飛び越えたすぐ後に助けをこいたそいつの声はやんだ。この世界の掟、それは決して誰も助けてはならない、この世界で自分一人で救うことができるものなど、何もないのだから。


俺はただひたすらに走った、何度もつまずきそうになったがそれでも踏ん張って走った。


俺は風が吹くのを感じた。そしてそれにのって水と土のにおいがかすかに感じられた。


俺は心の中で喜びに満ち溢れた、きっと近くに洞窟があるんだ。


俺は風が吹いた方向に走った。


距離はわからない、だけどそんなに遠くじゃないはずだ、いけ、何が何でも生きるんだ!


匂いが強くなっている。間違いない、この匂いは洞窟のものだ、俺は確信した。


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