五剣帝
「フハハハハ!蜥蜴ごときに私が屈する訳がなかろう。」
「さぁ、お前のその醜き首、爪、体、四肢、全て切り刻んでくれよう!!」
挑発的な態度を取るこの男は、ギークやレオナと同じ鎧を来ていることから、おそらく白鯨騎士団の剣士なのだろう。
「ゴアアーー」
リザードフィッシュが高く翔び、拳を男に向かって放った。
「ぬるいわ!」
ザクッ
「グルァーーー」
男がリザードフィッシュの腕を切り落とす。リザードフィッシュは雄叫びをあげた。
「では、こちらから行かせてもらおう!」
「ハァーーー!海流剣!」
男の剣に水が纏う。剣の周りには波打つ海のように水が渦巻いている。
(これが、魔法なのか?)
カイトは目の前の光景に唖然としていた。
「散れ、蜥蜴よ」
バッ!
男がリザードフィッシュ目掛けて翔んだ。
「ゴルァーー!!」
リザードフィッシュがさっきの二倍はあろう巨大な水の弾を作り出し、男に放った。
「フハハハハ!甘い甘い甘ーーーーい!」
「乱れ千本桜!」
男の剣から、無数の斬撃が繰り出される。
「ガ…ァ…」
リザードフィッシュは無残にも肉塊へと姿を変えた。
「クッ、我が高貴なる顔に穢れた血が付いてしまったではないか。蜥蜴め、地獄で猛省するが良い。」
「ありがとうございました!隊長!」
「あ、ありがとうございました」
「おお、貴女は我が隊の新人、レオナ・サラスティアではないか。」
「わぁー、私の名前を覚えてくださってたんですね!光栄です。」
「フハハ。私は高貴なる騎士であるぞ?部下の名前くらい覚えておかなくて何が隊長であるかぁ!」
「む?そちらの男は?見ない顔だな。」
「あー、俺は…」
「この方こそ!マリンチュアの新国王、カイトミナヅキ様です!!」
(なんでこんなに食い気味なんだ?)
「ほう、君がギークの言っていた我が新しい主君か…我に似て良い男ではないか。」
「我が名はアーサー・カリル。白鯨騎士団三番隊隊長を務める騎士である。」
「この方は貴族出身の騎士で、とても強いんですよ。」
「そーなんですか。あの、助けてもらってありがとうございます。それと、さっきの怪物は何だったんですか?」
「いやいや、民を助けるなど騎士として、貴族として当然のことだ。先程の蜥蜴はリザードフィッシュと言う海獣だ。マリンチュアの悲劇はご存じておるだろう?、その時に黒鯨が作り出したと言われている。」
「へ、へぇー」
(この国にはあんなバケモンがいっぱいいるのかよ?異世界怖ぇーー!)
「いやー、ホントにアーサー隊長が居て助かりましたよ」
「たまたまそこら辺の警備に当たっていてな。それでは我は仕事に戻るとしよう。」
「お疲れ様でーす。」
「災難でしたねぇ?カイト様。」
「そうだな。でも、レオナはやっぱり騎士なんだな。」
「え?」
「いや、武器も防具もないのに、真っ先に敵に向かって行けるなんて、尊敬したよ。」
(ただの天然少女だと思ってたけど…)
「あ、ありがとうございますとても光栄です身に余るお言葉ぁー!」
「ははは、落ち着けよw」
早口で言葉を連ねるレオナを見て、カイトは微笑んだ。
「今日は疲れたなぁ、帰るか」
「そうですね!帰ってゆっくりしましょうか。」
「今日は案内ありがとな、楽しかったよ」
「喜んでもらえて良かったです。また外出するときはお供させてくださいね?」
「ああ!また案内頼むな!」
「はい!」
カイトは帰ってすぐにベッドに横たわった。
「ふぃー疲れたー。騎士、魔法、化け物、あとは美女ホントに異世界に来たんだなぁー。今更ながら実感したよ。あーあ、俺にも魔法とか使えるのかなぁ?」
今日の出来事に興奮して眠れないカイトは、ベッドの上でそんなことを考えながらぼっーと過ごしていた。
コンコン
「失礼しますカイト様、ギークでございます。」
「どうした?入ってこい。」
「すみませんが、少しばかりご足労いただきたいのですが?」
「どっかに行くのか?」
「はい、戴冠式が三日後となりましたので、先に白鯨騎士団五剣帝への顔見せを。」
「五剣帝?」
「あ、すみません。五剣帝は、白鯨騎士団で最も強い五人の剣士のことです。それぞれが騎士団の隊長を務めています。」
「へぇー、なんかかっこいい響きだな。」
「え?てことはあいつは五剣帝だったのかよ!」
「と言いますと?」
カイトは今日あったことを話した。
「あー、アーサー殿でございますか。彼は少しナルシストが入っていますが、中身も本当に高貴で、実力も確かでございます。」
「やっぱあいつらすごいやつだったんだな。」
「でも、もう夜の十時だぞ?こんな時間から大丈夫なのか?」
「ええ、一応極秘ですのでね」
ギークは人差し指を口に当ててウインクした。
「着きましたよ。」
「ZZZ…はっ!もう着いたのか。」
「ええ。こちらが白鯨騎士団の本部でございます。」
「おお、すげぇーなこれは。」
そこには巨大な協会のような施設があった。全体が白で統一されており、屋根の真ん中には白鯨の紋章が飾られている。入り口の両脇には、鯨の銅像と、女神(おそらく、マリンチュア)の銅像が建てられている。
「さぁ、こちらへ」
中に入ると、まずはエントランスになっており、金の模様が入った赤い絨毯が敷かれており、天井には白金色のシャンデリアが並ぶ。 そのなかでも、奥にたたずんだ、一際大きな扉がある。目的地はおそらくここであろう。
(この部屋に、最強の剣士がいるのか…ワクワクしてきたな。)
バタン
扉が開かれた。その先には円卓のテーブルが一つ真ん中に設置されており、五人の剣士が既に座っていた。
「皆さん、今宵は遅い時間にお集まり頂き、誠にありがとうございます。こちらのお方こそ!マリンチュア新国王、カイト・ミナヅキ様であります!!」
パチパチパチパチ
乾いた拍手が部屋のなかにこだまする。
「あ、どうもこんばんは!俺…僕がこの国の新国王、カイトミナヅキです。えー、ふつつかものですが、精一杯頑張りますんで、お手柔らかにお願いします。」
(やべー、緊張しすぎてワケわかんない挨拶になってしまった。)
「君、なかなか面白い挨拶をするねぇ。」
「あはは…」
「自己紹介は僕から行こうか。僕はアルガード・プライン。五番隊隊長を務めている者だ。よろしくね。」
「彼は最年少で五剣帝に抜擢された男です。」
「よろしく。」
アルガードはとても小柄な少年で、青白い髪色をしている。見た目は小中学生くらいだが、妙に大人びた口調をしている。
「まあ、新国王様、そんなに緊張することもありますまい。」
「儂はアーヴァン・ポルセシウス。見ての通り、ただの老いぼれですわい。一応、一番隊隊長をやらせてもらっとります。よろしく。」
「彼は騎士団最高齢の剣士で、私より長い期間騎士を務めていらっしゃいます。」
「お願いします!」
髪、髭、眉毛まで、全て銀色に染まったこのじいさん剣士からは、ただならぬオーラを感じる。
(こういう長老キャラってめちゃんこ強かったりするんよなぁー)
「フハハ、私は今朝会ったばかりであるがなぁ!一応名乗っておこう!我が名はアーサー・カリル、三番隊隊長を、務めているぅ!」
「ああ、アーサーさん!今朝は本当にありがとうございました!」
「うふふ。なかなか可愛い男じゃないの。あたいはクシャーナ・ミネルバ。四番隊隊長をやっているわ。よ・ろ・し・く♪」
「は、はい。お願い…します。」
(この人めっちゃ、せくすぃーだな)
肩を出した服を着た紫髪のお色気姉さんに頬を赤らめるチョロいカイトであった。
「じゃあ最後は…」
「おれはぁ自己紹介するようなたまじゃあねぇから飛ばしてくれ…」
「そんなことを言うなよスラン。お前もこの騎士団最強の一角だろう?恥ずかしがるな。」
「まぁ恥ずかしがってる訳じゃねぇんだがよ。わーったよ。」
「俺はスラン・M・ロッド。見ての通り、クズ剣士だ。こんなんでも二番隊隊長になれる。あんたも気楽にやりなぁ。」
「失礼ですぞ!スラン殿!」
「へへ、じいさんに言われると痛いねぇ~。まぁ俺からは以上よ。」
(なんなんだ?このおっさんは)
スランと名乗るこの男は、ぼろぼろの服にカウボーイのような帽子を被り、左目には眼帯を着けている、やばい見た目をしている。
(なんか頭痛いな。早く寝たいぜ。)
「この五人が、白鯨騎士団を支える大黒柱でございます。」
「ヘハハハハwwなにが大黒柱だぁ?安月給のクセに良く言うぜ!」
「金がないのは酒ばっか飲んでっからだよ(ボソッ)」
「言ってくれるじゃねぇかよアルガード。お子ちゃまには酒の旨さが分かんねぇんだよww」
「なんだと?」
「やめろ。下民ども。ここでそんな醜い争いをされては、私がいるこの神聖な場所が穢れるであろう?」
「ほんっとにあんたらは子供だねぇ。アーサーもそれは喧嘩を止めるに入んないよ。ただ煽ってるだけさ。」
「その通りだ。」
「おっとぉー?じゃあ、ここで誰が一番強いか決めるかぁ?」
一触即発のムードがこの部屋を包み込む。
「やめんかぁ!貴様らぁ!!」
ギークが聞いたこともないドスの効いた声で怒鳴る。
「国王の御前であるぞ!?なにをそんな下らんことで揉めておるのだ!お前らが仲間割れをしてどうするつもりだ!この国を破綻させたいのか!?ええ!?」
「お見苦しい所をお見せして誠に、誠に申し訳ない。帰りの馬車を手配しましたので、先にお帰り下さい。」
「お、おう。すまんな。」
(トホホ、こんなことになるなんて…うっ、頭も痛いしよぉー。)
散々な目に合ったカイトは帰ってすぐにバタンキューした。カイトはレオナにお茶をいれてもらおうと思ったが、もう夜中の十二時なので諦めることにした。
「こんなことで国王なんて大丈夫なのかなぁ?不安だけど、また明日考えるか。ふぁーあ。お休み…」