マリンチュア国王「カイト ミナヅキ」
第一章「国王戴冠」編スタートです!
城内の応接間に通された海斗は、出された菓子に舌鼓を打ちながら、優雅に紅茶を嗜んでいた。
「お待たせしました国王陛下、まずはこの国の成り立ちと歴史について…」
「ちょっと待った!その呼び方、妙に緊張するからやめてくれないか?俺にはちゃんと水無月海斗って名前があるんだからさー。」
「これは失礼いたしました。ではカイト様とお呼びいたします。」
(まぁ、様付けくらいは容赦してやるか。)
「ごほん、では始めたまえ」
(うわー、こんなこと言うの恥ずかしー)
「はい、では。」
この国の起源は、5000年前に遡る。
5000年前、ゴナン大陸から、遠くはなれたショーナ島に移民がやって来た。ショーナ島は海洋資源に富んでおり、魚や海草やらが大量に獲れた。彼らは争いを起こさず、平和に暮らしていた。島の守り神であった水の精霊は、そんな彼らの欲の無さと寛容な心に感動し、人々に力を与えた。それを魔力と呼ぶ。そしてその精霊の名である「マリンチュア」を国名にし、平和に暮らした。
「なるほどね。てことはこの国の人たちはみんな魔法が使えるの?」
「そうなりますね。」
「めちゃくちゃファンタジーだなwさすが異世界だ!」
「そう言えば、さっきの門番も、城内にいた兵士っぽいひともあんたも鎧に鯨の紋章が描いてるけど、なんか理由でもあるの?」
「それは、千年前の『マリンチュアの悲劇』によるものなのです」
「なんだそれ?」
今から千年前に遡る
千年前、ある一頭の鯨が南の海に現れた。その鯨は、当時国民を悩ませていた海賊を全員喰らったのである。彼のお陰でこの国の平和は保たれたのだ。その鯨は、その体の白さから「白鯨」と呼ばれ、皆から敬われ、守護神として崇められた。そんな時、この国に災厄がやってきた。
南の海に、闇のように黒く、おぞましいその姿から白鯨と対比され、「黒鯨」と名付けられた。彼らは西の海で長い時間闘い続けた。町の被害は凄まじかった。2頭の闘いから被弾した魔力や水が町を襲った。結果、死闘の末に白鯨は敗北、しかし、彼は最後の魂の半分を使って黒鯨を封印、残りの半分を、いつか復活した黒鯨を倒すために遠い地の誰かに託した。マリンチュアは甚大な被害を負ったが、白鯨の善戦によって壊滅は免れた。白鯨の死を悲しんだ人々は白鯨を神として崇める「鯨信教」を作り、白鯨の勇姿を後世に語り継いだ。そして、また黒鯨のような災厄が起きた時にこの国を守るため、「白鯨騎士団」が設立された。
「これがマリンチュアの悲劇です。」
「そんな歴史があったのか…」
「あれ?でも俺が食われたのは黒い鯨だったぞ?」
「その前に、カイト様に話さなければならないことがあります。」
「まず、1つは黒鯨の復活が近いこと、そして、」
(ごくり…)
「白鯨の魂を受け継いだのが、あなたなのです。」
「え、おれ、なの?」
「異世界転生して王様になるってだけでも困惑するのに、この国を救った英雄の意志を受け継ぐとか、情報量多すぎだろ!?」
「そして、あなたを食べてこの異世界に召喚したのもきっと、我々白鯨騎士団と対になる存在、黒鯨を信仰する黒鯨騎士団の仕業でしょう。まぁこの私、白鯨騎士団団長ギークハイエルが、あなたの身がやつらに渡るのを防いだのですけどね!」
「あんた、団長だったのかよ。」
「つまり、あなたが白鯨の力を覚醒して、黒鯨を倒すのです!!」
ギークが身を乗り出して語りかけた。
「で、でも、俺は」
「あなたは、この国の救世主となるのです!!あなたが、英雄の意志を受け継ぎ、この国の王として民を救うのです!!」
ギークは宗教の勧誘のように全身を使って熱弁した。
「でもおれ魔法なんて使えないし、第一、剣とか武器なんて何も使えない…」
「ご安心を。我らが騎士団には優秀な剣士がたくさんおります。どなたかをあなたの指南役に充てましょう。」
「ああ、そりゃどうも」
(英雄とかそんな大役無理だよ、俺は生前ただの漁師だったんだからよぉー)
不安感に駆られるカイトであった。その時
コンコンコン
「?、入りたまえ」
ギークが扉に向かって言った。
「し、失礼します!ほ、本日から国王側近ひしゃ、秘書官に任命されました!白鯨きしょ、騎士団三番隊所属のレオナ・サラスティアです!」
噛みまくりの自己紹介を終えた青髪の少女が現れた。
「君だったのか。新たに秘書官に就任した剣士は。」
「は!ギーク団長!こんにちは!」
(なるほど、天然っ子か、悪くない。)
「えっと、レオナ…さん?だったっけ?俺が新しい国王(納得はしきれてない)のミナヅキカイトだ。秘書官ってことは俺の身の回りのことをしてくれるってことかい?」
「はい!ふつつかものですがよろしくお願いしまぁす!」
「ハハハ。彼女は元気でしょう?でも彼女は容姿で選ばれたんじゃないんです。新人剣士にも関わらず、騎士団の三番隊のホープですからね。ちなみに、騎士団は隊の番号が若い方が強いんですよ。」
「へぇー。全部で何番隊まであるの?」
「五番隊までです。普通、新人は五番隊から、優秀な剣士でも四番隊からですね。」
「君ってすごいんだね!」
「あ、あ、ありがとーごさいましゅ!」
レオナは顔を赤く火照らせながら盛大に噛んだ。
「じゃあこれからよろしくな、レオナ。」
「はいっ!」
こうして、カイトの異世界王様生活は幕を開けたのであった。