08 宝は箱の外
数日後、とある山奥…
『ダンジョン討伐の経験を積もう』という事で、スティーブ達『ライトニング』の3人は、討伐済みのダンジョンの踏破に挑戦する事にした。
「ここは自然の洞窟で、当然、『インダストリーⅦ』とは無関係。」
ライオスが先頭を歩きながら言った。
「危険は…無いの!?」
エミリーが訊ねると、最後尾のスティーブが、
「…あるに決まってるよね…!?モンスターの巣になってる…ってのが、定番だけど…」
と…
「…何か聞こえる。」
スティーブが尖った耳をピクピクと動かしながら言った。
「前方、剣戟だ!」
「先客がいるのか!?」
ライオスが呻いた。
「…やばい…冒険者側が劣勢だ!」
スティーブの尖り耳が上へピンと伸びた。
「えーーーっ!!」
助けないと!エミリーが促すが、
「この声は……」
スティーブが何か気付いた様だったが、
「い、今は非常時だ!!」
それから接続させた『クレノワール』と『クレブランシュ』で、前方の闇へ向かって矢を放つ。
「い、行くぞ…!!」
3人は洞窟を走る。走りながらスティーブは矢を放ち続ける。2本、3本…!!それから分離させたワンドを掲げて呪文を詠唱しながら突進し、前方のパーティーが魔法の有効範囲に入ったタイミングで、
【グループヒール】!!それからワンドを右腰に納め、更に走る。
闇の向こうにあったのは、左側へ向かって開けた洞窟。その左奥には床に大きな穴が開いている。
「あーーーーっ!!お、お前…!!」
頬に傷のある男が叫んだ。
(やっぱり…)
前方で戦っていたのは、あの『スカーフェース』を含む冒険者5人組。それがトロール数匹に絡まれていたのだ。
「てめぇこの耳長!!余計な事をするな…ぐぇふっ!!」
スカーフェースの言葉は、スティーブに腹を殴られて中断される、が…
ホワホワン…!!「…う…!?」
スカーフェースの全身に残っていたダメージが回復される。殴られた腹も…痛くない。
「…近接回復魔法だ!!」
腹に手を当てたままのスカーを見下ろしてスティーブは言った。
「文句は生き残ってから言え!!その頬の傷までは治せないから安心しろ!!」
「汚らしい耳長が!!」
「獲物、横取りすんじゃねぇ!!」
他のメンバーも罵声を浴びせる。
「それどころじゃないだろう!!」
ライオスが彼等の態度を非難した。
「こいつら倒すぞ!!」
それから…
ライオス達の合流によって、トロール達は少しずつ、数を減らして行った。が、統制の取れない2つのパーティーはトロール達と乱戦状態となり、スティーブは徐々に洞窟の左側へ押し出されて行き…
ガン!
「え…………!?」
重装備の戦士が持ったバトルアックスの腹で殴られ、
左奥の大きな穴へ、落ちていく。
瞬間、重戦士が明らかにニヤリと笑った。
が…
「あ……」
左腕を、スカーフェースに掴まれた。
「お前………」
「やかましい!!しっかり掴まってろ!!」
スカーの野太い声が飛ぶ。
「おい!お前!!」
「そんな奴、放っとけ!!」
スカーの他のメンバーが叫ぶ。
「スティーブ!!掴まれ!!」
ライオスも手を伸ばした。スティーブはサーベルをしまって、右手を伸ばす。
二人がかりで引き上げられ頃には、トロール達は全滅していた。
「はぁ、はぁ…」
「はぁ、はぁ…」
その場でへたり込む3人。
「あ…ありがとう、な…」
スティーブに礼を言われたスカーは、
「か…勘違いするな!!目の前で手前に死なれたら、夢見が悪ぃからな…!!」
そして、頬の傷を指で掻きながら、
「それに…この傷は、昔の手前の不始末のケジメだ。消さなくていい。」
…なにがあったのやら…
「おい、お前!!」
ライオスは重戦士に向かって叫んだ。
「見たぞ!!スティーブをわざと落としたろう!!」
「それがどうした!」
重戦士は悪びれもせずに言った。
「思い出せ。そいつの母親達のせいで、我らの父祖は尊い命を失ったのだ!!その罪の産毛の一本だけでも、そいつの命で贖ってもらわねばならん。」
「思い出せって……戦争は70~80年も前の事だろう…お前ら産まれてないだろう…」
スティーブは呆れて言った。
そもそもスティーブの母、モリガンは、貴族とはいえ女である。実際、その頃にも生きており、戦士としての適性はあったが、戦争自体に参加していない。が…
「黙れ!!この汚らしい耳長が!!我らは貴様らほど無駄に長くは生きれんが、その恨みは子々孫々に受け継がれているのだ!!」
無茶苦茶である。
(な…何だこいつら…)
スティーブの頭がガンガン唸った。
(何でここまで言えるんだ…!?も…もしかして…ぼ、僕の方がおかしいのか!?)
スティーブは両腰の武器を抜いてみた。『クレノワール』と『クレブランシュ』…両手に握られた、2つの武器、ヒューマンとエルフ、己の身体に流れる、2つの血…
「………何か白けた。お前ら帰るぞ!!」
別の男がそう促し、彼等は助けてもらった礼すら言わずに、洞窟の入り口へ帰って行った。
「あぁっ…お前ら…!!」
スカーフェースもその後を追った。
※ ※ ※
その後…『ライトニング』の3人は、心に大きなわだかまりを残しつつも、洞窟の探索を続け、そして…
「ここが…洞窟の最奥か…」
そこにあったのは、蓋が開いたままの、空っぽの宝箱。しかもあちこち穴が開いて、周囲の状況以上にボロボロに朽ちている…
「分かっちゃいたけど…心折れるよな………」
空っぽの宝箱を3人で取り囲んで、スティーブの耳が垂れ下がった。
「練習だもん…しょうが無いけど…」
エミリーが慰める様に言った。
「2人とも…上を見ろよ。」
ライオスに言われるままに、2人が上を見ると…
「うわぁ…」
宝箱の直上の天井は、何故か崩れて穴が開いていた。宝箱が朽ちていたのは、そのせいか…
そして…外はいつの間にか夜になっており、開けた穴からは、大小いくつもの星々が瞬いていた。
「きれい………」「ああ………」
陳腐な表現だが、まるで宝石の様な、星々…
宝箱を囲んで、天上の穴で切り取られた星空をいつまでも見上げる3人。ライオスは右手を上に伸ばして、ギュっと拳を握った。
「今は………これで満足しておこう。」
その後、3人は冒険者ギルドに帰還した。