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06 ライトニング

翌朝、共和国冒険者ギルド、『酒場』…


スティーブとライオスが朝餉を取り終えた所に、エミリーがやって来たので、3人でテーブルを囲んで打合せをする事になった。


「さて…探索の話だが…」


ライオスが話を切り出した。しかし…ヘルメットを脱いでいても、ヘルメットを被ってるみたいな頭である、彼は。


「…あれから考えてみたんだが…あの猟師小屋で起きた事は、魔法が一切関与しない、科学的な現象だと思う。」


「『科学』…!?」

聞きなれない言葉に戸惑うエミリーに、スティーブは、

「一言で言うと、はるか太古、『インダストリーⅦ』以前の、魔法が広まる前に普及していた技術、かな…」

と、説明した。

「とにかく、対象が魔法か科学かで、探索すべき遺跡も違って来る。

科学だったら、『インダストリーⅦ』以前の遺跡を探る事になる。」


「当然…危険も大きいのよね…!?」

エミリーが恐る恐る訊ねた。

「俺が守ってやるさ…それに、その分、見返りも大きいからな…」

「…分かった。私…あなたに着いて行くわ…」


「(エミリー…)ま…まぁ…気長に構えるさ…」

スティーブは右手で耳をしごいた。幼い頃からの癖だった。これをやると、何故か落ち着くのだ。

ともあれ、エミリーとの時間と距離は、そう簡単に縮まりそうにない。


「そうだな…」

ライオスの言葉にスティーブは

「え…!?」

と、驚く。

「…いきなり目的の遺跡に挑むのは愚策だ。3人での戦闘経験を積んでおかないと…」

「あ…そ…そっち………!?」


     ※     ※     ※


同日、午前…


ランクC冒険者3人が、今更『ゴブリン3匹討伐クエスト』という訳にも行かないので、『海岸地帯』との境界付近まで遠征する事にする。

受注したクエストは、『トロール3匹討伐』。『海岸地帯』の共和国寄りに出没する巨人型モンスターで、共和国へも度々流入して来る。

父さん達の頃とは状況が違う。ランクD以下の冒険者も育ち、共和国内のゴブリンやオークも、彼等だけで十分討伐出来ている。ここにランクCの自分たちが出しゃばると、狩場荒らしの誹りを受けかねない。


スティーブの『エクレール』と、ライオスとエミリーの『ブリッツ』、2台のツァウベラッドは荒野を走り、暫定的な国境付近にたどり着いた。

「しかし、『エクレール』に、『ブリッツ』…か。」

ツァウベラッドから降りながら、スティーブは言った。

「どうかしたのか!?」

ライオスは自分のツァウベラッドを『アイテムストレージ』に収納ながら聞いた。

「いや、どっちも『雷』とか、『稲妻』とか言う意味だよな…」

「えーーーっ!?私、そんな名前のに載ってたのーー!?」

エミリーが悲鳴を上げた。


「…共和国の人も、王国の人も、考える事は同じなんだなーって…」

スティーブはしみじみと言った。


「……そういう考え方が出来るのは、お前くらいだって…ん!?待てよ…!?


……『ライトニング』。」


「「え…!?」」


「………いや、俺たちのパーティー名。俺達のツァウベラッドの名前と、お前と出会ったあの雷雨にちなんで…」


「やめてよそういうのーーー!!」

エミリーが再び悲鳴を上げた。


「エミリーにとっては、『自分が乗り越えるべき物』の名前という事で…」

スティーブが冷やかす様に言うと、

「しばらく見ない内に意地悪になったんじゃないのーーー!?」

「ははは…」


『ライトニング』、結成。


     ※     ※     ※


「行くぞ。」


ライオスが剣と盾を構えて先頭を歩き、その次がエミリー、そして、最後尾がスティーブである。

が、スティーブは『クレブランシュ』と呼ぶサーベルと、『クレノワール』と呼ぶワンドを、何故か接続していた。

サーベルの柄を、ワンドの先端に…サーベルの曲がった刃とワンドの湾曲が、弧を描く様な形をしていた。そう、これは…


「前方3!トロール!!」

スティーブが小声で言う。が、エミリーには点にすら見えない。母親の血の影響で、彼は遥か遠くでも、たとえ暗闇でも見通せる。

「スティーブ、やれ!」

「気をつけてね…」

2人の言葉に、スティーブは、

「了解…」

と、言って、


『クレブランシュ』と『クレノワール』を接続した物を、左手に持って前へ向けて構え、そして…

背負っていたえびらから、右手で一本の矢を引き抜き、つがえた。

サーベルの先端とワンドの石突から、いつの間にか弦が伸びていた。そして…


ヒュン!スティーブの左手の『弓』から、1本の矢が放たれた。


矢は目の前の『点』に吸い込まれ、スティーブはサーベルとワンドを分離させる。

そして、左手のワンドを前に出し、「***…」魔法の詠唱を始めつつ、右手で箙からもう一本矢を取り出す。

それを見てエミリーも、「***…」魔法の詠唱を始める。そして…


「Ugoooooo!!」

前方から3匹の岩のような肌を持った巨人…トロールが駆けて来る。

1匹は肩に矢を受けており、いずれも興奮している。そして…


【エリアパラライズ】!!


スティーブの詠唱が成立し、3体のトロールの動きが止まる。


【バリア】!!


エミリーの強化魔法がライオスにかかり、それを受けてライオスは、


「うおおおおぉぉぉぉ!!」


トロールに突進し、


「でぃりぃぇりやぁぁぁぁぁぁっ!!」


その一体に斬りかかる。


スティーブは右手の矢を左手に持ち替え、ワンドを握った左手の人差し指で矢を挟む。

そして、ライオスが切り結んでいるトロールに接近し、右手のサーベルを振り下ろし、


【ベノム】!!【ダーク】!!


詠唱短縮近接型の毒魔法と暗闇魔法。トロールの肌が不気味な紫色になり、また目の周りに靄がかかる。

その間にも後ろにいるエミリーから回復魔法が飛び、ライオスが負ったダメージを回復させる。


その1匹が倒れそうになった時、


「Ugo…」

残り2匹のうちの1匹の【パラライズ】が先に切れ、ライオスに殴りかかろうとする。


「!」

スティーブが素早く反応した。左手のワンドに右手のサーベルを素早く接続させ、再び弓型にすると、左手に持っていた矢を放つ。


トスっ!「U!!」


トロールの振り上げた腕に当たり、一瞬ひるんだ隙に、最初の1匹を倒したライオスが今度は動き出した1匹に向き直る。

すかさずスティーブが、弓型の武器を再分離させ、まだ麻痺している残り1匹に【パラライズ】を上書き。


2匹目、そして3匹目と、最前名前が決まったばかりの『ライトニング』の3人は、トロールの一群を難なく全滅させた。


     ※     ※     ※


「連結させて弓にも使える、サーベルとワンド、か…」

「そ。『ハイブリッド・ウェポン』って言うの。王国側で復元された技術で造られて、向こうの魔法戦士たちに広まりつつあるの。」

「何かすごい…けど…」

「でも、聞いた事無ぇぞ…」


「こっちの人にはニーズが無いだろうからね。剣と魔法と弓と、それら全部を使いこなせる人じゃないと、使い道が無いからね…」

スティーブが両手のサーベルとワンドを見つめながら言った。


「まぁ、我がパーティーのサポート役には、最適なんじゃないかな…」

「頼りにしてるわね…スティーブ…」


そして…


『ライトニング』の3人はその後も狩りを続け、目標頭数を討伐し、帰還した。

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