Side S-1 異世界の次世代
西暦2054年、夏の某日、午前9時、
『ミレニアム王国』(旧宮城県仙台市太白区)、長町…
1台の車椅子が道の真ん中にあり、その側には片手を地面につけ、片手で赤ん坊を抱き抱えた女性がうずくまっていた。
「だ…誰か…」
彼女の両足は太股から先が無く、車椅子は彼女の足代わりだった。その車椅子から何かの拍子に落ち、あいにく周囲に誰もいない中、戻れなくなってしまったのだ。
「誰か助けて…」
女性…小田カナコ…もとい、黒部カナコがか細い声を上げる。そこへ…
「お困りですか………!?」
3人の男女が声をかける。カナコが見上げると、そこにいたのは、鎧やローブを着た、耳の尖った男女…
ウィルとヴィッキーと、エリナだった…
※ ※ ※
数分後…
「ありがとうございます、助かりました…」
走る『ツァウベラウト』の後部座席で、カナコは言った。
「ユウイチ君、かーわいい!!」
カナコの隣にはユウイチを抱っこするヴィッキー、
「いえ、無事で何よりです。僕の家族にも車椅子を使ってる人がいますから…」
運転席のウィルが、ハンドルを握ったまま言うと、ユウイチをあやしながらヴィッキーが、
「ウィルはねぇ、おばあちゃん子なんだよ〜。腰を痛めて歩けなくなったおばあちゃんのために、車椅子を作ってあげたんだよ〜。」
「ヴィ…ヴィッキー姉…」
運転席で耳の先端まで赤くなるウィル。ヴィッキーは続ける。
「エリナちゃんもこれから大変だね〜。ウィルは浮気の危険性は無いけど、ウィルの心の中には、おばあちゃんというどんな美女も敵わない理想の女性がいるんだからね〜〜〜」
「姉ちゃんっ!!」
「そ、そんな事ないです…」
ウィルが叫ぶと、助手席にエリナが困った様に言った。2人の様子にくすっと笑うカナコ。隣りではユウイチが、ヴィッキーの尖った耳の先端に触れようと手を伸ばそうとしているが、ヴィッキーの耳は上下にピコピコ動き、なかなか触れない。
(いい人達だ。格好は変だけど…)
カナコは思った。すると運転席のウィルが、
「ところで………ここは、戦争とか魔物の襲撃とかが何かあったんですか!?」
『ツァウベラウト』の車窓に見える風景は、凄惨の一言だった。自分達がいた『港街』よりも遥かに高度な文明で築かれたと思われる大都市が、無惨にも破壊されているのだ。復興の途上なのか、あちこちに粗末な家が建っているが…
「えっ!?知らないんですか…!?」
カナコの心の中で警鐘が鳴る。
「う…うん…ずっと遠い所から来たからね…」
ウィルの言葉に嘘は無い。気がついたら3人でここにいたのだ。自分達の世界とは、明らかに違う異世界に…『遠い所』には違いない。
「…2年程前に、宇宙人が攻めて来て、私達の世界を滅茶苦茶に破壊してしまったんです…」
簡潔にカナコは言った。ファンタジー物のエルフ…彼等は本当に、その様な存在なのかもしれない。カナコはそれを受け入れつつあった。宇宙人がいるのだ。エルフもいてもおかしくない。それに、2年前の宇宙人より、自分の危機を救ってくれたエルフの方が、余っ程信頼出来る。
「その………言いにくいでしょうけど………その足も…!?」
後部座席のヴィッキーが、彼女としては珍しく遠慮がちに聞いた。
「うん………」
沈みがちにカナコは答えた。気まずい雰囲気が車内を覆う。すると助手席のエリナが、
「その…足ですけど……私の母なら治せるかもしれません………」
運転席のウィルが言った。
「エミリー先生、か…リカバリー使いの……」
※ ※ ※
同時刻、旧山形県山形市某所…
ウィィィィ………!! ヴィィィィィィ!!!
「「「う………うわぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」」」
3台のツァウベラッドが、数機のアレッツに追いかけられ、4人のバイク乗り達は悲鳴を上げていた。アレッツの方は今では数少なくなった野盗、ツァウベラッドの方は『フリューゲル』と『ブリッツ』と『ヴィント』、乗っているのはスティーブと、ライオスとエミリーと、テレサだった。因みに4人は今回は若い姿のままだ。異世界に転移させられていきなり、全高7mの機械の巨人に追いかけられ、スティーブは叫んだ。
「な…………何でこんな事になっちまったんだぁぁぁぁぁ〜〜〜!!??」
当のエミリーは、仲間たちと大変な事になっていたのだった…




