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05 4つの再会

1時間後、共和国冒険者ギルド、飲食スペース、通称『酒場』…


「つまりさ…」

サラダを頬張りながらライオスは言った。

「あの猟師小屋の、穴と反対側の壁に、映った絵を描き留める手段を設置すれば、君が言ってた、『今ある姿をありのままに描き留める手段』になるんじゃないか…!?」


「なるほど…」

スティーブはソーセージを突きながら言った。

「でもあんなボンヤリして絵じゃあ…それに、下手したら装置は、あの小屋みたいな大掛かりなものになる危険性もあるよね…」

「そこは、これから改良を加えて行くしかないと思う。

いずれにしても、あちこちの遺跡を巡って、知識や遺物を発掘する必要があるな。それで、だ…」

ライオスはずいと顔を寄せて言った。


「スティーブ…俺のパーティーに入らないか!?」

「き…君たちの…!?」

「さっきも言った通り、俺も探してる技術があって、あちこち遺跡を巡りたいんだ。」

「『俺が俺であるため』、か…!?」

「そう。君は万能型らしいし、前衛とヒーラーだけのうちのパーティーに入ってくれたら助かるよ。」

「そうね。あなたが入ってくれるなら心強いわ。」


「願っても無い話だよ」

スティーブは言った。ライオス…この男の発想は自分の助けになる。スティーブは直感した。それに…

スティーブはライオスの隣りに座るエミリーを見つめた。このパーティーに入れば、エミリーと一緒にいられる時間も増える。

この2年間を、取り戻せるかもしれない…


夕食が終わると、ライオスはギルドの2階の宿に戻り、エミリーは、休む前に養生所へ病気のエレンおばさんの様子を見に行くそうだ。ギルドの2階に泊っているらしいが、あの自分の家はどうしたんだろうか…


スティーブもギルドの2階を借りたが、「用事があるから」と言って、出かけて行った。


彼にはエミリーの他にももう一人、大事な幼馴染がいるのだ。


     ※     ※     ※


「こんばんは…」

街の路地裏に建っている家に入ると、そこには皆一様に、背の低い調度が並んでいた。

ドワーフの家なのだ、ここは…


「坊ちゃま…!!」

出て来たのは年配のドワーフ。もっとも、ドワーフはその髭面のせいで、外見から年齢が分かりづらいが…

「じい、元気だったか!?」

スティーブが言うとそこへ…


「スティーブ!!2年ぶりだべか、スティーブ!!おめ、冒険者になっただか!?」

奥からもう一人、ドワーフの若者が現れた。


「ハロルド!!お前…また髭が伸びたな。」

スティーブが駆け寄り、彼…ハロルドの肩を、ポンポンと叩いた。

あの奇妙な言葉遣いも、昔のままだ。


20年前、『パイライト・カンパニー』設立の際、王国から招致したドワーフ達の中に、じいはいた。

ドワーフの中では珍しい、経営に長けた男で、妻と2人での移住となった。

長年、子宝に恵まれておらず、『工房を我が子だと思ってご奉公致します』と言っていたのだが、共和国の水と余程相性がよかったのか、転居後すぐ、彼の奥さんがハロルドを身籠った。

以降、ハロルドは歳の近いスティーブと一緒に育ち、じいもスティーブの事も『坊ちゃま』と呼び、可愛がってくれていた。


「それで…ハロルド、どうなんだ…!?工場の方は…!?」

スティーブは訊ねた。彼が家出する2年ほど前、ハロルドは『パイライト・カンパニー』に就職した。

「へぇ…あれからずっと、あちこちの職場を転々としてますだ…」

俯いてハロルドは答えた。

「お前、不器用だったからな…」

幼い頃から彼を知っているスティーブだったが、彼が細工や工作が上手かったという印象は無い。

いつ頃からか髭を伸ばし始めて初めて、『やっぱりこいつもドワーフだったのか』と思ったくらいだ。

「ま…まぁ、『至る所青山あり』ですだ…」

「が…がんばれよ…」


「それで坊ちゃま、旦那様との事は…」

と、そこへ…


表の方から、魔動エンジンの駆動音が聞こえて来た。それは近づくに連れて段々とゆっくりになり、この家の前で止まった。


窓越しに見えたのは、『ツァウベローラー(魔動スクーター)』に乗った、ドレス姿のエルフの美女。


「母さん…」


スティーブの母、モリガンだった。

『ツァウベローラー』から降り、家の扉を開け、彼女は入って来る。


「すてぃーぶ…あなたをみたという、うわさをきいて、うちいがいで、たよるとしたら、ここしかないとおもって、きました。」

「鋭いね母さん…でも、言っとくけど僕は…」

言いかけたスティーブだったが、


「すてぃーぶ…いま、このばで、きめなさい。」

母さんは見た事の無い険しい目つきで言った。

「ゆめをあきらめて、いえへかえるか、ゆめをかなえるまで、いえへかえらないとちかうか…」


「夢を叶えるまで、家へ…」

「よくかんがえなさい。あんいにきめないで。」

母さんはスティーブの言葉を再び遮る様に言った。

「おまえがこれからむかおうとしてるのは、けわしく、きけんなみちなの。

わたしが、いきてぼうけんしゃをつづけられたのは、いいひとにであえて、うんがよかったからでしかないの。」


「…アルバートおじさんが、トロールに殺されたそうだよ。」

スティーブがそう言うと、母さんは顔を伏せた。

今だからこそ分かる。認めたくないけど、父さんが分からずやだから、冒険者になる事を反対したのでは無い事が…だが…


「…でも、僕は戻らない。夢を、『今この姿を描き留める方法』を、探し出す。」


アルバートはきっぱりと宣言した。


「大丈夫だよ。その方法の一端は掴んだし、仲間も出来た。

僕は父さんと母さんの子供だ。二人に出来た事が、僕にもきっと出来る。」


父さんの思い通りには、ならない。父さんを、越えてみせる!


「わたしにはむずかしいことはわからないけど…とうさんとおなじまほうが、おまえにもきっとつかえると、しんじてるよ。」


「母さん…」

ここで『魔法』という言葉が何故出てくるのか、スティーブには分からなかった。


「いまのきもちを、けっしてわすれないのですよ。

これからときどき、ここであいましょう。

それで、とうさんにはうまくいっておきます。」


それから母さんは、じいに向き直り、

「ごめんなさいね…あなたにも、せわをかけるけど…」

じいは、「いえ…坊ちゃま達のためなら…」


そして母さんは、『ツァウベローラー』の後ろの荷台に結び止めていたバスケットを、スティーブに差し出した。

「からだにはきをつけるのですよ。これ、あとでみんなでたべなさい。」


母さんは一礼して、家を出ていった。魔動エンジンの駆動音が離れて行く。


「奥様も、旦那様も、心配していたのですよ…」

じいは言った。


スティーブは、バスケットを開いてみた。

中に入っていたのは、骨の周りに丸く肉の付いた物。

「坊ちゃま…私たちは結構ですから、どうぞ…」

「あれ、何て動物の、どこの肉なんだべか…」


スティーブは、肉にかぶりついた。


「………美味い…」


2年ぶりの、おふくろの味だった。

ツァウベラッド:Zauberad(魔動バイク)

ツァウベラウト:Zauberauto(魔動車)

ツァウベローラー:Zauberoller(魔動スクーター)




ツァウベラッド・ドヴェルク(オヤジ搭乗)、

ツァウベラッド・ピンク(ニェット搭乗)、

ツァウベローラー(第三部モリガン搭乗)


『ドヴェルク』は身長の低いドワーフでも乗れる様に、中央のフレームを無くし、座って乗る形式としたもの。ただしこれでもドワーフには足が届かないため、立ち乗りになっていた。

これが王国で量産化され、ニェットが乗ったのが『ピンク』。名前通りピンク色をしている。彼女のセンスも分からない。

これを見たフィリップが、『スカートを履いた女性でも足を閉じて乗れる』と考え、自身の工房で量産したのが『ツァウベローラー』。モリガンもこれに乗っていた。


なお、前作はヒロインがよその国から来たお姫様(伯爵令嬢)で、作中で主人公とバイクに相乗りして、途中で髪を切ったが、誰が何と言っても偶然の一致です。

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