32 願わくは笑顔で(四月一日掲載)
時系列は、第31話の頃です。
スティーブは今回の事件に関して、関係者として形式だけの取り調べを受けた。
衛視詰所の表側から、奥の取調室への長い廊下に出たスティーブ。
がちゃり…
廊下の反対側のドアが開き、エミリーが入って来た。両腕には、『検閲済み』の札が貼られた包みを抱えている。
そう言えば、取調室と同じ並びには、囚人の面会室もあったはずだ。
コツ、コツ… スティーブは廊下を奥へ向かって歩き出した。
コツ、コツ… エミリーも廊下を表へと歩き出した。
コツ、コツ… コツ、コツ…
二人は長い廊下の途中ですれ違い…
「え…!?」
スティーブはエミリーの目元から零れる光る物を見留め、
「ちょ、ちょっとエミリー…!?」
エミリーは、だっ、と駆け出す。
「待ってエミリー!…す、すみません、取り調べはまた今度に…」
衛視にそう言い残すと、スティーブはエミリーの後を追って、詰め所を駆け出た。
「…っ!?スティーブ!?」逃げる足を早めるエミリー。
「待って…どうして逃げるの…!?」追うスティーブ。
その差はどんどん縮まって行く。
気づくべきだった。エミリーはライオスとの面会後で、あの包みは彼への差し入れなのだろう。
なら何故、彼女は包みを持ったまま、面会室を出たのか。
そしてついに、人通りの無い小さな公園で、エミリーは立ち止まり、
手に持った『検閲済み』の包みをバラバラと落とし、
「ひっく、ひっく………」
エミリーは嗚咽し、スティーブは彼女を、後ろから抱きしめた。
※ ※ ※
数十分後、『ライトニング・カンパニー』工房長室…
「ライオスに面会を拒絶された!?」
「う…ん……『もう来ないでくれ。俺の事は忘れろ』って…」
ソファに腰掛けてうなだれるエミリー。
部屋の外では、突然、女を連れて来た若き工房長に、何事かと集まってきた工員達を、「新しい秘書の面接です」と言って追い返すウララ。
(僕の…せいだ、これは…何もしなかった…何も言わなくても、分かってくれると思ってた…)
スティーブはデスクの引き出しの鍵を開け、額縁に入っていた、三つ折りの小片を広げて、そっと差し出す。
「エミリー…これ見て。『スクリーンショット』。ずっと渡せずにいた…」
「これは…あの時の…」
中央にエミリー、左にスティーブ、右にライオス…30分かけて撮った、世界初のスクリーンショット。遠くへ過ぎ去ってしまった、仲間の姿…3人を分かつ様に、2本入った折れ目が痛々しい…
「あなたがいつも言ってた、『今ある姿を、そのまま描き留める方法』…」
「『思い出を記録する方法』だったんだ。これは…
辛かった昨日を、過去に、
幸せな今日を、記録して、
明日へ…」
スティーブはエミリーの隣りに座る。
「エミリー…話をしよう。離れ離れになってた時の事も、すれ違ってた時の事も、これからの事も…」
エミリーは何も言わず、スクリーンショットの3人の人影を、いつまでも見つめていた。
※ ※ ※
次にエミリーがスクリーンショットを撮る時、隣に誰が写っているのか、それは分からない。
ただ、願わくは、その表情が笑顔であらん事を。




