表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/67

04 あの雷の日

「初めまして…ライオスだ。」

良く通る声で、その青年は言った。


「ぼ…僕は、スティーブだ」

スティーブは自己紹介した。

「君は…ハーフエルフか!?」

と、彼の短く尖った耳を見て問うライオスに、エミリーは、

「ほ…ほら、以前、話したでしょ!?『パイライトカンパニー』の…」

「ああ…それで…」

一人納得した様な表情を見せた。何だろう、こいつは…!?

「そ…それで…エミリー…」

ライオスとの関係を問おうとしたスティーブだったが…


「話の続きは…雨宿りの先を見つけてからにしよう。」

天を指さしながらライオスは言った。雲行きが怪しくなってきた。

「…もうすぐ降って来る。」


     ※     ※     ※


10分後…


最悪、雨の中を街までツァウベラッドで突っ切る覚悟をしていた3人だったが、幸い、すぐそこに猟師小屋があったため、濡れずに済んだ。


ドアを開けると、そこはもう何年も誰も使っていなかった様で、すえた匂いがした。が、雨露だけはしのげそうだった。


     ※     ※     ※


「アルバートおじさんが…亡くなった!?」

エミリーから自分が家出した後の事を訊ねたスティーブは、衝撃の事実を聞かされた。


外の雨音は、段々と強くなっていた。3人は、エミリーを中心に、左にスティーブ、右にライオスの並びで、猟師小屋の壁にもたれて座り込んでいた。


「ええ…トロールの一団に一人で挑んで、返り討ちに会ったの…」

エミリーがそう答えた。

「そんな…だっておじさんは予備役で…そもそもあんなに強かったじゃないか…!?」

少なくともスティーブの中のアルバートおじさんの印象は、そうだった。

「もう強くなくなっていたから、予備役に回っていたの!!」

エミリーが叫んだ。

「あの時だって、他に動ける人がいなくて、『すぐ戻って来るよ』って言って出ていったっきり…」

最期は嗚咽するエミリーを、

「エミリー…」

ライオスが彼女の肩に手を置いた。


何だろう…この感覚は…!?


「それで、お母さんも気落ちして病気になって…」

少女が2人分の生活費を稼ぐためには、冒険者になるくらいしかなかった。


「そんな私を、ずっと励まし続けてくれてたのが、このライオスだったの…」

エミリーが自分の肩に手を置いている青年を見つめた。

彼はギルドで出会った先輩冒険者で、ヒーラーとしての立ち回りを彼女に教え、彼女を自身のパートナーとして、行動を共にしていた。


(な…何でこんな事になっちまったんだ…!?僕は冒険者になって、父さんと母さんを越えて、自分の夢を叶えたかっただけなのに…

僕がいない間に、こんな大変な事になってたなんて…!!

大体…父さんは何をしてたんだ!?あの2人とあんなに仲良かったのに…)


「…それで、スティーブ…探してたものは、見つかったの!?」

ズキン!エミリーの問いに、スティーブの胸が痛んだ。

『私の窮状を放っておいて』、言外にそう言われているように感じた。

「探してたもの!?」

「『今あるこの姿を、そのまま描き留める方法』ですって。まるで夢みたいね。」

半ば笑いながらエミリーにそう言われて、スティーブは顔を伏せた。が、


「いいんじゃないか、そう言うの…」

「ライオス…」

その言葉に、スティーブは顔を上げた。

「太古の文明の復元、だろ!?そういうのを探すために冒険者になった奴だって、いっぱいいるぞ。

かく言うこの俺も、な…」

「初耳ね、そんな話…一体、何がしたいの!?」

「まだあるかどうかも分からなかったから、言ってなかっただけさ。強いて言えば…


俺が俺であるため、かな…」


「何だよそれ、格好いいじゃん!!」

スティーブは会ったばかりのこの男に好感を覚えた。


「太古の文明の復元と言えな、あなたのお父さんも、そうだったわね、そう言えば…」

エミリーはそう言ったが、スティーブは、

「…父さんの話は関係ないだろ。」

と、吐き捨てる様に言った。

「スティーブ…家へは帰ってないの!?」

エミリーは心配そうに言った。

「たった今、王国から帰ったばっかりだ。あと、探し物も、共和国で本格的にする予定だ…」

「何の事だ…!?」

「………親に冒険者になるのを反対された。だから家出して王国で冒険者になった。

君がさっき、『俺が俺であるため』って言ったけど、僕も似たようなもんだ。

父さんの後釜の工房長じゃない、僕は自分の夢を叶えたい。」

「へぇ………」

ライオスの視線に冷ややかな物があった事に、スティーブは気づかなかった。


「そう言えば、君…変わった事、してるね。サーベルとワンドの二刀流なんて…」

「ああ、これ…」

ライオスに言われ、スティーブは腰のサーベルとワンドを抜いて見せた。銀色に輝くサーベルと、黒く、湾曲したワンド…

「サーベルが『クレブランシュ』、ワンドが『クレノワール』だ。」

「ふむ…サーベルとワンドで1揃いか…でもなら…背中の『それ』は何かな…?」

「これは…」


その時…


ピカっ!!外が一瞬、眩しく光った。


「キャっ!!」

エミリーが両手で顔を覆った。


「エミリー…あれ、まだ苦手なの!?」


「『あれ』って…!?」


「この子、雷が苦手なんだよ。」

「言わないでーーー!!」

顔をうずめたままブンブンと首を左右に振るエミリー。その瞬間、


ドーーーン!!


雷鳴が轟き、


「キャーーーーっ!!」

エミリーは叫び、そして…


左側にいるライオスの腕にしがみついた。


(エミ…リー…!?)

また自分の腕にしがみついて来ると思っていたスティーブは、そんな幼馴染の反応に困惑する。が…


「あ、安心してエミリー、あの雷はまだ遠いよ。」

努めて平静を装ってそう言った。

「雷が…遠い!?」

聞いた事の無い情報に戸惑うライオス。


「うん…お父…あ、ある人から聞いたんだ。『遠くの雷ほど、遅れて聞こえる』って…」


「遠くの雷が…遅れて聞こえる…!?」

ライオスはその言葉を反芻した。


再び外がピカっ!と輝き、しばらくしてゴロゴロと雷鳴が轟いた。今度はさっきよりも早く音が聞こえた。


「だ…段々、雷が近づいて来てるって事か…!?」

「キャーキャーキャー!!!」

エミリーはライオスの腕の中で悲鳴をあげ続けていた。


「……ま…窓、閉めるね…音は、耳塞いで我慢して…」

スティーブはエミリーの隣りを離れ、木の押し上げ窓を降ろすと、唯一の光源が無くなった室内は真っ暗になった。

が、エルフの血を引く彼は暗闇でも中の様子…ライオスにしがみついているエミリーの姿が見えた。

いたたまれなくなり、二人の反対側、入り口側の壁にもたれる様に座った。が…


そのせいで、ライオスに抱きつくエミリーの姿を、真正面から見る羽目になった。


(何でこんな事になっちまったんだ…)


雷が鳴る度に、僕に抱きついてた幼馴染の少女は、もういない。


(さっさと『今、あるこの姿を、ありのままに描き留める方法』を探そう…)


その時、窓の隙間から再び稲光がピカっ!と光り…


「…え!?」


瞬間、エミリーとライオスの後ろの壁に、『下から上へ伸びる木』が映った。


「な…何だ、今のは…!?」


「どうしたんだ!?何かあったのか!?」


スティーブの様子がおかしいのに気づいたライオスが、彼の方へ行こうとして、


ゴロゴロゴロ!!

「嫌ーーーーっ!行かないでライオスーーー!!」

エミリーに更に強くしがみ付かれ、立ち上がれなかった。


エミリーをなんとか宥めすかして、スティーブが座っている入り口側の壁に移動する。

しばらくして再び、ピカっ!と稲光が輝き、反対側の壁に、さっきの『下から上へ伸びる木』が映った。


「…お前がさっき見たのって…これか!?」


「ああ…」


ゴロゴロゴロ…


「二人とも…冷静に何話してんのよーーーー!!」


やがて、稲光と雷鳴との間隔は長くなっていき、そして、


「雨…晴れたみたいだな…」


「え…ええ…」


窓の隙間から漏れる光が一段と眩しくなった。が…


「ま…まただ…」


向こうの壁には、またも『下から上へ伸びる木』が、ぼんやりと映っていた。


「な…何これ…!?」


雷が去ったおかげでエミリーもようやく2人が見た物を見る事が出来た。


「これ…よく見ると、上に大地、下に空も見えるな…」


スティーブが言う通り、上の大地には、草の様な物まで、下へ向かって生えている。


「みんな見て見ろ。壁の向こうの外の景色が、逆さまに映ってるみたいだ。」


ライオスがドアを開けると、そこからは、上に空、下に大地、そこから木が伸びた風景が見えた。

が、反対側の壁に映っていたのは、下に空、上に大地、そこから下に、木が伸びている。そして、その『ぼんやりした逆さ映しの風景』は、ドアを開けると消えた。


「どうやらこれだな…」


スティーブが入り口側の壁の一点を指さした。そこには小さな節穴が開いており、これを塞ぐと反対側の『逆さ映しの景色』も消えた。


「…この穴を通して、壁の向こうの景色が天地逆になって映ってるみたいだ…」


「もしかしたら、これなんじゃないか…!?


『今ある姿を、ありのまま描き留める方法』、その端緒は…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  カメラきた! [気になる点]  レンブラントさん式か……。  この世界はモータリゼーションはやたら発達しているけど透視図法とかはあるのかしら。  透視図法の開発者は建築関係のひとで、絵…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ