29 青春(パーティー)の終わり
スティーブは『フリューゲル』を走らせていた。
ライオスの居場所は、分かっていた。
間違い無く、あそこ…
あの猟師小屋だ。
※ ※ ※
小屋の前では、ライオスが待ち構えていた。
真紅の鎧に兜、剣と盾を既に装備していた。
『フリューゲル』のエンジン音を聞き付けて出て来たのだろう。耳の良い奴だ…
「よう、スティーブ…」
ライオスが言った。
「ここへ来たという事は…あの罠を潜り抜けたって事か…悪運の強い奴だな…それとも英雄のお父上にでも泣きついたかな…!?」
「ライオス…」
『フリューゲル』から降りながらスティーブが言った。
いつものツナギ姿では無く、途中で空色に金の差し色の革鎧に着替えて来た。そして腰にはサーベル『クレブランシュ』とワンド『クレノワール』。
「お前、あいつらを殺したのか…!?」
「言っとくが正当防衛だぞ。先に襲って来たのはあいつらの方だ。」
「…あいつらとは仲間じゃなかったのか!?」
「………あいつらは、老人たちから、眠くなるような昔話を嫌というほど聞かされて育ち、
教科書の中でしか知らない戦争の怨嗟を背負わされた可哀そうな奴ら、
戦争が始まったら王国のエルフが皆殺しになり、みんなが幸せになると本気で信じているおめでたい奴らさ。」
ライオスの口調には、これまでには無い嘲りで満ちていた。
「戦争の火種を掘り起こす手段について研究していると言ったら、一も二も無く飛びついて来たよ。俺の事も同志だって…」
「『過去視』の技術と、『空間連結』の技術の融合、か…!?」
「そこまで気づいてるんだったら話が早い。
エルフどもから研究成果を強奪する戦力に、ああいう連中が必要だったのさ。」
ライオスの口元が歪んだ。
「第三次大戦終戦後、王国のエルフ達は戦後処理を伸ばし伸ばしにして、いつまでも戦争捕虜達を留め置いた。
これは長命なエルフ達が、ヒューマンの時間間隔を理解していなかったせいだとされているが、
実は知ってて意図的に延ばした疑惑があるんだ。
捕虜達を飼い殺しにして、ヒューマンをゆっくりと滅亡させるためにね。」
父さんの言っていた事は、これだったのか………!!
「第三次大戦終了直後、王国のエルフ達がこの事について画策している場面を覗き見て、そうだな…
大勢の人で賑わっている共和国の街の中央広場辺りで流してやろうか…
共和国の好戦派は開戦への恰好の口実を得る。
第五次大戦の始まりだぁ!
王国のエルフ達は間違いなく滅ぶだろうが、共和国のヒューマンも、果たして国体を維持できる数が残っているかな…!?
この世界はお終いなんだよ!!」
ドクン………!!
僕の身体には、ヒューマンとエルフ、その両方の血が流れている。
この世界は…ヒューマンとエルフが共存する世界は、父さんと母さんが作った。
「父さんと母さんが作ったこの世界を、壊させはしない!!」
「スティーブぅ!俺はお前の事も、会った時から大っっ嫌いだったんだよぉ!!
お前は俺と同じなのに、金も権力もある英雄の両親がいて、何不自由無く育ったくせに、冒険者なんかになりやがって…!!」
「何、言ってるんだ…!?お前が、僕と、同じ………!?」
ライオスはゆっくりと、兜を脱ぎ、耳にかかっている自分の髪をかき上げた。
「その耳………!!」
常に長い髪で隠れていたライオスの耳は…尖っていた物を、根本近くで切られていた。
「ライオス…お前はエルフ…いや………」
「お前と同じハーフエルフ。もっとも、俺は父親がエルフだったがな…」
ライオスは髪を元に戻しながら言った。
「この耳は俺が産まれたばかりの時、母が切り落としたんだ。母は俺に、髪を伸ばして耳を隠せ、誰にも見せるなとも言った。
おかげで差別も迫害も受けずに育つことが出来たが、俺はヒューマンでもエルフでもハーフエルフでも無くなっちまったぁ!!
俺は産まれ落ちた時から、俺である事を禁じられて来たんだ。俺が俺として生きられないこの世界なんか、滅んじまえ!!」
それで『俺が俺であるため』、か…………でも…
「僕だって………何もかもを手に入れた訳じゃあない!!」
絞り出す様にスティーブは言った。
「ほぉ………!?」
「エミリー………あの娘だ。」
「あぁ………あの女はどうーーでもいい。」
さも関心が無さげに、ライオスは言った。
「どうでも………!?」
「お前の目の前で奪ってやれば、手前の泣きっ面でも見れるかと思って、粉かけてやっただけさ。
馬 鹿 な 女 だ ぜ !! お 前 か ら 逃 げ た の に、
結 局 ハ ー フ エ ル フ の オ ン ナ に な り や が っ た!!
俺がハーフエルフだと知ったら、あいつ今度はお前に股を開くだろうよ。
俺の子を孕んじまったら、あいつだって産まれたガキの耳を切り落とす母親になってたろうな………」
「貴 様 ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !!!」
スティーブの目と両耳が、激しい怒気で吊り上がった。
「あはははは!いい顔になったなぁ!!さぁ、俺たちのパーティーに決着を着けようか。
かかって来いよ、『ライトニング』のスティーブ!!」
「黙 れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ っ!!!」
スティーブは『クレブランシュ』でライオスに斬りかかり、ライオスはそれを盾で防御した。




