25 あの父の子として
2日後、『ライトニング・カンパニー』工房長執務室…
壁に据え付けられた大きな額縁には、スティーブを含めた工員全員で写した『スクリーンショット』、そして、デスクの上の小型額縁には、スティーブとエミリーが写った『SS』。
スティーブは朝から、書類仕事をしていた。
が…
「手が進まない…頭が回らない…」
デスクの上には、2日前に問題になった灯り対策の試作パーツを着けた『カメラ』が置かれていた。
図面を引けば、ドライバーを回せば解決出来る問題はまだいい。
それで解決出来ない問題が、彼の心に重くのしかかっていた。
「ライオス…」
幼馴染のエミリーを2年前にスティーブから奪い、現在、過去を見通せる不可思議な道具を造り出し、あの冒険者達と裏で関わっているらしい。
そのうえでなお、エミリーは、彼の事で心を痛めているのだ。
「あいつ…一体何をやろうとしてるんだ…!?」
デスクの上の2人の『SS』、エミリーの肩にはライオスの手が置かれている。
奴は『SS』の裏に折り込まれながらも、なお、エミリーに手を伸ばしているのだ。
そう言えば、おじい様…伯爵が、昨日ここを訪れたらしい。
いつの間に共和国へ来てたのか…
僕はずっと研究室に籠りっぱなしだったが、
おじい様もこちらの邪魔しないように気遣って、僕に知らせない様に言ってくれたらしい。
「工房長…」
側に立っていた秘書に声をかけられ、
「…すまない、手が停まっていたね…ごめん…」
慌てて書類に向き直るスティーブ…
「いえ…残りの書類は今日でなくても良い物ばかりですので、散歩でもなされてはいかがですか…!?」
普段は事務的な事しか言わない秘書からの、思いがけない言葉。
「そ…そうだな…済まない…夕方までに戻らなかったら、今日はもう帰っていいから…」
スティーブは書類をしまい、首から試作品の『カメラ』をかけると、工房を後にした。
がちゃん。
閉じた執務室のドアへ向かって、秘書は呟いた。
「いえ…私はいつまでも、あなたをお待ちしておりますよ…」
※ ※ ※
曇りに沈んだ街を歩くスティーブ…
ド ン !
彼の前で小さな音が響き、人だかりが出来る。それを分け入って見ると、そこにあったのは、根元から折れた街路樹と、全面が凹んだ『ツァウベラウト』と、血を流してうずくまっている人…
事故を起こした『ツァウベラウト』をちらりと見て、父さんの工房の製品では無い事を知り、不謹慎にも少しだけ安心して、
「し…失礼します…だ、大丈夫ですか!?」スティーブは怪我人に駆け寄り、【ヒール】をかける。が、彼は本職のヒーラーでは無かった。根本的な治療にはならない。
「だ、誰か、ヒーラーを!そっちの、『ツァウベラウト』の中の人も…!!」
ローブを纏った何人かの若者が出て来て、怪我人により強力な回復魔法をかける。
その人と場所を代ろうとする刹那、怪我人が小さな声で言った。
「…あんたのお父さんがあんな物造る前は…こんな事も無かったのに…」
「………っ!!」
スティーブは何か言おうとしたが、ヒーラーによる治療を邪魔する訳には行かなかった。
すぐに衛視達が現れ、その場の野次馬達を解散させた。
※ ※ ※
フィリップ邸前…
「出て来い!この人殺し!!」
数人の人達が怒鳴り声を上げ、閉ざされた門扉を蹴飛ばしている者もいた。
「何が英雄だ!!お前達の機械のせいで、何人死人や怪我人が出たと思ってるんだ!!」
「謝罪しろ!!責任を取れ!!!」
「やめろ!!!」
スティーブは彼等の前に割り込んだ。
「何だこいつは…!?」「ここのボンボンか…!?」
「………この中に…魔動車両の事故に会った被害者や、その遺族がいらっしゃるんですか!?」
スティーブは毅然とした態度で訊ねた。が…
…誰も名乗り出る者はいなかった。どうやらそういう事らしい。
「…聞いて下さい。魔動車両が出来る前、馬や馬車が移動や輸送の主流だった時から、それらの起こす事故はありました。
荷車が事故を起こした時、人を轢いた側を押していた者が、より重い罪になる法律すらあったと聞きます。」
殺気だった群衆を相手に、スティーブは語り続ける。
「魔動車両に罪はありません。
馬が不慮の出来事に驚いて暴走する事故は、明らかに無くなりました。
今、魔道車両が起こしている事故の殆どは、運転者や歩行者の、人為的な原因に帰結されます。
一人一人がしっかり自分の責任を守って行けば、
要は、魔道車両を運転する上でのルールを、みんなで考えて作って行けばいいんです…」
「 ご ち ゃ ご ち ゃ う る せ ぇ ん だ よ ! ! ! 」
粗暴そうな男が、手に持っていた棍棒を高く掲げて、目の前の門扉に叩きつけようとする。
「や…やめろ………!!」
スティーブは首から下げていた『カメラ』を構えた。
「そ…それ以上するなら、これで撮影させてもらう…これを然るべき所に出せば、お前等を罪に問う事が出来る…!!」
「く…………っ!!」
男は歯噛みしながら、それでも諦めた様に、皆を引き連れて、のろのろと去って行った。
(く………っ!!僕は何で、父さんの弁護をしたんだ…!?)
内心、狼狽するスティーブ。
「お前だって、密告者の道具を作る、お上の犬なんじゃないのか…!?」
その声にスティーブは振り向いたが………そこには既に誰もいなかった。
(違う…魔道車両は…カメラは…そんな道具じゃない………!!)
僕は………どうすれば………!?




