17 青天の霹靂
10分後、郊外のスティーブの研究小屋…
暗室の中、スティーブは先程撮影したフィルムを、薬品で洗っていた。
先に塗った薬品は、これで洗い落とされ、透明となるが、光が当たった部分は化学反応を起こし、落ちずに黒く残る。
これを乾燥させ、もう1枚、紙に薬品を塗った物を用意し、先のフィルム…『ネガ』を重ね、
強力な光を放つ魔法道具で光を照射する。
ハーフエルフの視力では目を傷めてしまうため、黒く分厚い眼鏡で目を覆っての作業だ。
この光を使えば撮影時間を短縮できるのだが…被写体の目がやられてしまう。ままならぬものだ…ともあれ…
「『絵』が出来たぞ!!」
ぼんやりとした、白黒の、ようやく3人の人影と見える、絵…
「エミリーとライオスにも見せに行こう!」これは、僕達3人の、友情の証なのだから…!!
※ ※ ※
スティーブが再び冒険者ギルドに戻った時、既に夕方だった。
(ライオスとエミリーは…まだ自分の部屋かな…!?)
2階への階段を上がり、ライオスの部屋へ急ぐ。
ドアは…半分開いていた。不用心な奴だ…
(…誰かいる…何か話してる…!?)
ドアの隙間から、中の様子と、会話が見聞き出来た。
「…前にも言ったろう…」
ライオスの声だ。
「エミリー、スティーブじゃなく、俺を選べ!!」
「………え!?」
スティーブは我が耳を疑った。
ライオス…何を言ってるの…!?部屋で一緒にいるのは…エミリーか!?
「これまでさんざん、あいつと行動を共にして、思い知ってるだろう…
あいつは工房長の、英雄の子供で、エルフの伯爵の孫だ。
生まれ育ちが違うんだよ。
今は一緒に居られても、いずれあいつは、実家に帰り、工房を継ぎ、どこかのやんごとなきご令嬢と結婚するんだ。
それに…あいつはハーフエルフだ。そんな男と結婚したら、お前は次期工房長夫人への羨望の目と、クォーターエルフを産んだ女という差別の目で、一生見られ続けるんだぞ…!!」
(ライオス…エミリー…僕の事を、そんな風に思っていたの…!?)
スティーブの頭の中がガンガンと鳴った。
「ライオス…何言ってんの!?私は………」
エミリーが何か言おうとするが、
「俺はお前の事が好きなんだ。俺なら、一生お前の側にいる。お前を不幸にはしない。」
そしてライオスは、
エミリーの唇を奪った。
「………!!」「………!!」
「………」
スティーブはドアの隙間から、それを見ている事しか出来なかった。
エミリーの目は驚きに見開かれ、
ライオスは、スティーブに覗かれているのを知っているかの様に、片目でこちらを睨み、そして、ニヤリと笑うかのように目を細めた。
「あ…ああ…あああーーーー………」
悲鳴にも似た声を上げて、スティーブはよろよろとあとずさり、ダっ…!!と、ギルドから出ていった。
パシン!ライオスの頬を平手打ちするエミリー。
一方、スティーブは…
日が暮れた街をよろよろと歩いていた。そして呟いた。
「ライオスが…裏切った………」
よろ…よろ…
「いい奴だと………仲間だと思ってたのに………裏切った……
…何で…こんな事に…なっちまったんだ………」
よろ…よろ…
そして…何気なく突っ込んだポケットの中で、さっき現像した『絵』に指が触れ、
「…そうだ…僕は…夢を叶えたんだ…
…家へ…帰ろう…帰らなきゃ…」
※ ※ ※
『パイライトカンパニー』社屋…
自宅を訪れると母さんから、父さんはここだと告げられ、やって来た。
こんな夜遅くだと言うのに…
守衛に息子だと名乗ると、スティーブの顔を覚えていた彼は、社長室へ通してくれた。
が、その社長室で、かなり長時間待たされた。
こんな時間に、どこへ行っているのか…
がちゃり…重厚そうな社長室のドアが開くと、父さんが入って来た。
心なしか少しやつれている様な…
父さんはスティーブに一瞥すると、
「………何の用だ…!?」
と、ぶっきらぼうに言った。
スティーブが、自分が目指していた装置が完成したと告げたが…
「…これが『今ある姿を、描き留める方法』…!?馬鹿にしとるのか!?」
と、言った。
「父さん…!?」
「こんなぼやけた、白黒の、色も着いていない…
おまけに聞いたぞ、この絵を描くのに、30分近くじっとしてなきゃならんそうじゃないか…!!」
「それは…」
「こんな物が、お前の望んだ物なのか!?
こんな物のために、こんなガラクタのために、お前は家出して、3年間もどこぞをほっつき歩いとったのか!?」
父さんの口調は段々と怒りと侮蔑に満ちて来た。
「ガラクタ…!?」
スティーブは絶望したが、父さんの言葉は止まなかった。
「…もういい。お前には失望した。
お前は勘当だ。今後うちの敷居を跨ぐ事を許さん。
冒険者なり何なり、どこでも好きなところへ行くがいい!!」
「父……さん……」
再び打ちひしがれたスティーブは、よろよろと社長室を出て行った。
息子の出て行った社長室で、フィリップはスティーブが残して行った『絵』を、しばらくじっと見つめていた。




