14 豆台風の恵み
10分後、『酒場』…
「………困ったことになった。どうやら太古の技術書は、相当に難しい物らしい…」
腕組みしたライオスが言った。
「…あの本は、読者が科学に関する様々な基礎知識を、『当たり前の事』として知っている事を前提として書かれているらしい。
でも僕らはそれを持ってないから、あの本に書かれている内容が、理解出来ないらしい…」
スティーブが言うと、
「「うーーーーーん………」」
2人は揃って途方にくれた。
と、そこへ…
「兄っちゃーーーーーーーーーーーん」「ぐあ!」
ギルドの扉がバタン!と開いて、テレサがスティーブに飛びついて来た。
彼女はあれ以降も、時々こうしてギルドにやって来ては、一しきり喚いて去って行っていた。
「兄ちゃん元気ー!?元気ーーーー!?冒険してるのー!?冒険やってるのーーー!?私も冒険者になりたいなーーーいいーー!?いいでしょーーー!?いいねーーーー!?やったーーーーーー!!!どーーーしたのーーー!?何か元気無いみたいだね――どーーーしたのーーーー!?」
「テレサ…」
スティーブはテレサを引きはがしながら言った。
「僕は難しい話をしてるんだ。静かにしてくれないか!?」
「ちぇーーー…」
「そう言えばスティーブ…」
ライオスはかなり長い時間考えた末、言った。
「何!?」
「お前が昔、言ってた、『遠くの雷が遅れて聞こえる』という話。」
「うん…」
「あれをお前に話してくれたのは、誰だ!?
その人は科学に関する素養があるみたいだから、その人から科学の基礎知識を勉強してから、あの本を読めば…」
「それは無理だよ。」
スティーブは顔を伏せて答えた。
「だってその人………僕の父さんだもん…」
「あー………」
ライオスは納得した。
スティーブは父の反対を押し切って冒険者となった。
母とも『夢を叶えるまで家へ帰らない』と誓っている。
「そう言えば、僕の父さんは、ツァウベラッドの開発のために、若い頃から様々な科学書を蒐集してて、その中の1冊を教科書代わりに、僕に色々教えてくれてたな…」
「そ…その本は何て名前だ…!?今、どこにある…!?」
「”Science”って本…在り処は多分、父さんの書斎………」
「…だめじゃないか………」
ライオスは頭を押さえた。
これまで数々のダンジョンを攻略して来た自分たちにとって今更、父親の部屋が最難度のダンジョンになるなんて…
バタン!表の方でドアが閉まる音がした。
テレサが帰って行ったのだ。
全く…何しに来たのか…!?
「あ…あのー…」
すると、これまで話に加われないでいたエミリーが手を上げた。
「その”Science”って本…私、知ってるかも…」
「「え……!?」」
「この間、遺跡から取って来た教科書の中に、そういうのがあったわよ………古書店に売っちゃったけど…」
スティーブとライオスはガタン!と椅子から立ち上がった。
「「それだーーーーーーーっ!!」」
※ ※ ※
10分後、古書店…
「良かった…まだ売れてなかったな…」
ライオスは”Science”を買い戻した。
スティーブもエミリーが売った本の中から、”Chemistry”を買い取った。
題名が錬金術に似てるから、何か使い道があるかも知れなかった。
「しかし…1冊しか無いのか…」
”Science”はスティーブにとってもライオスにとっても、バイブルとなるに違いなかった。
「交互に読むしか無いのか…」
時間がかかり、効率は悪くなるが…
3人がギルドへ戻って来ると…
「兄っちゃーーーーーーーーーーーーーん!!!」「ぐえ!?」
テレサ、再来襲。
「痛ってぇなぁお前は…いっつもいつも何しに…」
面倒そうなスティーブに、テレサは、
「はいこれ。」
表紙に”Science”と書かれた古い本を取り出した。
ライオスが持っているのと同じ…いや、あちこちの傷や折り目には見覚えがある。
「これ…父さんの………!?どうして…!?」
これは、父の書斎にあるはずの”Science”だ。
「これが必要なんでしょ!?兄ちゃん!!」
あっけらかんとテレサは言った。
取って来てくれたと言うのか…!?
「う………うん………ありがと…」
状況が呑み込めなくもスティーブは妹に礼を言った。
こいつ…わぁわぁ喚き散らしながら僕たちの話を聞いて、理解してたのか………!?
「それじゃあ、がんばってねーーー!!」
そう言ってテレサはギルドから出ていった。
「テレサちゃんもあなたの事、応援してくれてるみたいね…」
エミリーが言い、スティーブは”Science”をじっと見つめた。
これで、ライオスと2人一緒に、この本を読んで行ける。だが…ちょっと待てよ…
ペラペラペラ…!!スティーブはものすごい勢いでページをめくり始める。
「お…おい、スティーブ!!」
「どうしたの…!?」
「これ…見た事あるぞ………!!」
更にペラペラとページをめくり…
「あった、これだ!!」
あるページで指が止まる。
そこに描かれていたのは、箱と木の絵。
箱の、木の側の一面に小さな穴が開いており、
木の両端から伸びた線がその穴で交差し、
反対側の壁の逆さ映しの木の両端まで伸びている。
「これって…」
「あの猟師小屋の………」
「あの小屋…どこかで見た事があると思ってたけど………これだったんだ…。」
父さんに読んでもらった、この本…皮肉にも、僕が夢を叶えるのを反対した父さんが教えてくれた事が、僕の夢を叶える助けになった。
スティーブはその絵に添えられていた一文を読んだ。
「ピンホール…レンズ……ピンホール・カメラ………
…『カメラ』!?」
それが、彼が目指す物の、名前………




