11 苦難の日々
共和国へ帰った後、『ライトニング』の3人は、ダンジョンの探索を始めた。
いくつもの踏破済みダンジョンを攻略した後、とある未踏破ダンジョンを踏破、BⅦ(ビフォアー・インダストリーⅦ)のダンジョンを次々と踏破して行った。
普段はフィールドのクエストを受けて資金を貯めつつ日銭を稼ぎ、その一方で週に1か所、入念に下調べを行った上で、場所を決めてダンジョンに挑戦した。
スティーブは夢への第一歩を踏み出したのだ。
だったが…
※ ※ ※
とある遺跡最奥…
「くそっ………!!ここもだめか………!!」
スティーブが端末を蹴飛ばしながら言った。
周囲にはトロールの死体が転がっている。ついさっきまでの戦闘で、『ライトニング』の3人が倒したものだ。
最奥がトロールの巣になっていた時点で望み薄だったのだが、会敵してしまったものはしょうが無い。
端末は根元から折られ、倒され、群れの長の玉座にされていた。これの価値も分からないモンスターどもがいまいましい!!
「もう10か所目だぞ…」
スティーブの悪態は止まらなかった。
「………たった10か所だ。次はどこを回るか考えよう。」
ライオスは努めて冷静さを保って言った。
「…じゃあ、あといくつ回ればいい…!?」
スティーブが不機嫌そうに耳を立てて言った。
「二人とも…そこら辺の物を拾って、帰ろ。」
エミリーが宥める様に言った。
※ ※ ※
未踏破の遺跡、特にBⅦのものは、最奥が『ガーディアン』…ゴーレム等の特殊なモンスターであったり、建物自体の設備であったり…によって守られており、遺跡の途中に巣食っているモンスター達も近寄る事が出来ない。
冒険者が遺跡を踏破するには、そのガーディアンを無効化する必要があるため、途中、何があるか分からない危険も相まって、未踏破のBⅦ遺跡の探索の難易度は非常に高い。
これに対し、踏破済みの遺跡は事前情報も揃っている上に、危険な罠等も除去されている場合が多いため、難易度は下がるが…価値のある物はあらかた持ち出されている上、ガーディアンが無効化されているため、最奥にもモンスターが入って来るため…先程ご覧の通り、最奥の施設が使用不能になっている可能性も高いのだ。
同日、夕方、冒険者ギルド、『酒場』…
「…未踏破遺跡に挑戦ずる危険を冒すよりも、踏破済み遺跡を回る安全策を。お前もそれに同意したはずだが…」
3人で囲むテーブルで、ライオスは言った。
「その方針を転換しようと言ってるんだ!!その時は現実を知らなかったから…!!」
スティーブの耳は怒りと興奮で上がったままだ。
「スティーブ…私、病気のお母さんがいるから、私が還らない訳にはいかないの………」
エミリーが横からおずおずと手を上げた。
「俺達はそれぞれ夢や目的を叶えるために冒険者になって、遺跡を探索しているんだ…探索そのものが目的な訳じゃない。無暗に命の危険を冒すべきでは無い。」
「そ…そうだ…」
エミリーが努めて明るい声で言った。
「私、これから、戦利品を換金しに行こうと思うんだけど…二人とも、荷物持ちしてよ。」
※ ※ ※
10分後…
冒険者ギルドの側の路地裏、堅気の人間は誰も知らない…冒険者しか知らない、その店はあった。
『ジャンク屋』…
窓一つ無いその店内には、何だか分からない物が、所狭しと詰められていた。
一応、壁沿いと、店の真ん中に島状に陳列棚が並んでいるのだが、店の『商品』は、それらの収納量をとうの昔に越えていた。
「ごめんください…おじいさん…」エミリーが声をかけ、互いにそっぽを向いたままのスティーブとライオスがそれに続いて入って来ると、
「ヒョッ、ヒョッ、ヒョッ…」
店の奥からしわくちゃの老人が、奇妙な笑い声と共に現れた。
「いらっしゃい、エミリーちゃん…また、買い取りかね…!?」
それからスティーブに目が止まると、
「ヒョッ………!?」
と、笑い声が止まり、
「また懐かしい顔だねぇ…もう20年ぶりくらいかい…!?」
彼に妙になれなれしそうに近づいて来る。
「はぁーー…またか………」
スティーブはうんざりする様にため息をつく。
「僕ってそんなに、父さんの若い頃にそっくりなのかなぁ…」
あくまで噂だが、壮年に達したフィリップが髭を生やしたのは、息子のスティーブと区別を着けるためだとさえ言われている。
「ヒョ…ああ………よく見ると耳が違う…」
老店主はがっかりした様に言った。
「おじいさん…今日はこれを買い取って欲しいの………。」
老店主に、遺跡で入手したアイテムを差し出す。
「ふむ…」
老店主はモノクルをずらして一つ一つ鑑定した後、それらの値段をつけ、提示する。
「それで…お願いします。」
高いのか安いのか分からないので、エミリーはいつも、老店主の言い値で売っている。
『ジャンク屋』…遺跡で発掘された、様々なアイテムを、何でも買い取ってくれる店だ。
『何でも』とは、文字通り、何でもだ。
そのお陰でエミリー達は、遺跡探索で何とか食って行けている。
ちなみにこの老店主は、スティーブの父親、フィリップが現役の冒険者で、この店を利用していた頃から、この容姿なんだそうだ。一体何歳なのか…
「ヒョッ、ヒョッ、ヒョッ…またおいで…」
老店主の声に見送られ、3人はジャンク屋を後にする。
「みんな、これ…」
エミリーはジャンク屋で得たお金を山分けにし、ライオスと、スティーブに渡す。
「明日からまた頑張ろ…ね。」
「う…うん…」
「ああ…」
※ ※ ※
1ヵ月、冒険者ギルド、『酒場』…
「いいか、みんな。一説によると、モンスターは光を嫌うため、ダンジョンにはモンスターが居付き、同じ理由で、強いモンスター程、彼等にとって居心地の良い、ダンジョンの奥に住み着く習性があるらしい。そこで…」
ライオスはトン、と、地図の1点を指さす。
「山の中にあるこの遺跡。踏破済みだが、大小2つの建物から成り、入り口は大きな建物、最奥は小さな建物の最上階で、最奥へ向かう際、大きな建物から小さな建物へ向かう、『屋根が透明な廊下』があるらしい。」
ガラス張りの渡り廊下、と言う意味だろう。
「それが…どうしたの…!?」
エミリーが問うと、スティーブは
「そうか…」
と、声を上げる。
「『屋根が透明な廊下』には日光が差し込むから、モンスターはその奥へ入って来れない………」
※ ※ ※
数日後、件の遺跡最奥付近…
「「「………」」」
『ライトニング』の3人は、それぞれに呆然とした様な表情を浮かべ、スティーブは尖った耳が半ばからヘロヘロに垂れ下がっていた。
目の前の渡り廊下の、透明な天上は割られ、そこにギャーギャーとやかましく声を上げる、ヒューマンの女そっくりの上半身に、両腕が鳥の翼、下半身が鳥の足になったモンスター…ハーピーが集っていた。
一応、そいつらを全滅させて最奥へ行ってみたが、そこは奴らの巣になっていた。当然、端末は死んでいた。
ダンジョンの入り口への帰り道ずっと、スティーブの耳はゆっくりと上下にピコ…ピコ…と動いていた。
エルフが不機嫌になると耳がああなるのを、エミリーは初めて知った。
あるいは、『怒り』の上向きと、『失望』の下向きが混ざり合った結果なのか…
※ ※ ※
同日、夜、冒険者ギルド、『酒場』…
「もうたくさんだ!!」
スティーブはテーブルをドン!と両掌で叩き、そこに並んでいた料理が盛られた皿がガシャン!と跳ねた。
「お前…父親の自伝を読まなかったのか…!?」
ライオスもまた不機嫌そうな声で言った。
度重なる遺跡探索の不発に、というより、仲間の短気さに、という感じであったが…
「…フィリップ氏の『ツァウベラッド』の復元は、彼の祖父が半ばまで研究を進めていた物を引き継いで完成させた、いわば2代に渡る事業だそうだ。
お前の目指す物も、最低限、同じ苦労を支払わなければ手に入らないと思わなかったのか…!?」
「父さんは関係無いだろう!!とにかく!次は、未踏破ダンジョンに挑戦するぞ!!」
「だから…未踏破は危険だと…」
「危険を恐れて、何が冒険者だ………!!」
「お得意の『当たって砕けろ』か!?それで一度、俺達を厄介事に巻き込んだよな………!?王国で!」
「ライオスやめて!!」
それまでオロオロと2人の言い合いに戸惑っていたエミリーも、ようやく彼等を制止しようとした。
「………お前、何のために遺跡を探索してんだよ………」
「スティーブ………!!」
「聞いてもはぐらかされてばかり…『俺が俺であるため』…だっけ!?それも訳分かんねぇし…」
「やめて…!!」
「…まだ、あるかどうか分からないんだ…俺が探してる物は…」
ライオスが呻く様に言った。
「だから…言えない…」
「そんな物のために、僕たちは1つしか無い命をかけさせられているのか………!?」
「お前の目指してる物だって…あんな絵1枚しか、存在を示す物が無いじゃないか…」
実際にはもう1枚、存在する事を、ライオスは知っているのだが…
「とにかく…このままじゃあ夢を叶える前に僕はじじいになっちまう…」
「考えた事が無かったのか…!?俺達が目指してる物は、そういう類のものだって…」
「ライオス…お前だって、夢がかなわなくて悔しくないのか…!?」
「俺は………それでもいいと思ってる。」
「その程度だったのか………お前の覚悟は…!!」
スティーブがライオスの襟元を掴もうとするが…ライオスはそれを片手でぴしゃりと払いのける。
「やめろ…髪が乱れる。」
そして、一番近くにいたスティーブにだけ聞こえる声で、
「大っ嫌いなんだよ…お前のそう言う苦労知らずなところ…」
「え………!?」
「おーおー、あいつらとうとう仲間割れかーー!?」「いいぞー、もっとやれーーー!!」
あのスカーの仲間の4人が、一斉にはやし立てる。スカー本人がいないが………正直、どうでもいい。会いたい顔でも無いし…
「………」「…………」
周囲のヤジでようやく冷静になったスティーブとライオス。
「……もう休む。」
そう言うとライオスはツカツカと、腹立たし気な感じでギルドの階段を、2階の宿屋へと登る。
「こ…今夜はあなたももう休んで、頭を冷やしましょう、ね、スティーブ!?」
「あ…ああ…」
さっきのライオスの台詞はきっと僕の聞き違いだ。スティーブは無理やりそう思う事にした。




