声なし少女と七色の跡
短編処女作です
「いやー最近ソシャゲに課金しすぎで、カミさんに怒らちまってよ〜……」
体育教師が授業と全く関係のない話をしている。
クラスの中でその話に興味を持っているのは、全体の10%もいないだろう。
窓の外、空を眺めている長谷部優作もそのうちの1人だった。
雲を見つけては、あの雲はどのような形に似ているか想像していたが、本人が飽きっぽい性格なのか、はたまたこの行動がそれほど人を熱中させないのか。
どちらが正解なのかはだれもわからないと思うが。
とりあえず、今優作は別の暇つぶしの方法を考えていた。
目線を下げてみると、外で陸上競技の授業が行われていた。
優作の学校は、どの学年も1〜4組は陸上競技から、5〜8組は器械運動から始まる。
今の時期はその2グループが入れ替わる時期。
そして2ー2である優作は、前半クラスの最初の授業でリレーをやっており、今、外で全く同じ競技が行われているため、あのクラスは5〜8組のどれかだろう。
リレーを見てみると、バトンパスする時に落としていたり、抜きつ抜かれつの戦いをしており、応援の声が窓を閉めてクーラーをつけている勇作のところまで届いていた。
とりあえず暇つぶしには十分すぎる代物だった。
(これにするか)
そう思いながら見ていたら、独走していたチームのランナーが漫画と思うくらい盛大に転んでいた。
なんとか一位をキープしたまま次の人にバトンを渡したが、そのあと先生のもとへ行き何か話したあと、クラスメイトとは離れて、何処かへと向かっていった。
(たぶん保健室へ行ったな)
そう思いながら、優作はとある日について思い返していた。
とある少し変わった少女と出会った日である。
「じゃあ俺先戻ってるな」
そう言って保健室から出て行った友人に礼を言って見送っていた。
「で、君はリレーで足を捻っちゃったのかな?」
「あぁ……まぁ……そうですね」
若い保健室の先生に対して、優作は恥ずかしげに答えていた。
何も優作が言ってないのに怪我の原因を知っているのは、この先生の観察眼がすごいのか、それともあの姿を保健室から見られていたのか、二択だが優作は前者であると信じておきたかった。
なぜかわからないが、リレーのアンカーを任された。
一位とほとんど変わらない差まで追いついたが、最後のカーブを曲がった時に、足首を捻ってしまって、ドターンと音が鳴ったように転んだ。
一応、片足だけで最後まで走っていったが、流石に今の順位をキープできるわけがなく、結局最下位になってしまった。
先生に保健室に行く旨を伝え、友人の肩を借りて保健室まで行き、今に至る。
「長谷部君?年と組、あと下の名前は?」
「2-2組24番の長谷部優作です」
「へぇー2-2かぁー、じゃああの子とおんなじクラスだね」
ペンを動かしながら先生は言った。
「すみません、あの子ってだれですか?」
「ほら、そこにいるじゃん」
そういって先生が向けた視線の先には、表情がない、まるで人形のような少女がいた。
とりあえずお互い会釈はしてみるが
(えっ?同じクラス?あんな子いたっけ?)
新クラスが始まってから、2ヶ月くらいしか経っていないため、クラスの中に名前や顔が分かっていない人だっている。しかし、
(この子、全然見た事ねぇぞ。というか、可愛いのに男子の会話の話題に出てきたことすらないのでは?)
そういう類いの会話に出てくる女子は、他の男子の影響でだいたい覚えているが、この少女については全くといっていいほど情報を覚えていなかった。
一体だれなんだ?と優作が悩んでいると、目の前に一枚のルーズリーフが差し出された。
『須藤凪です。いつもは保健室にいるのでご存知なくても仕方ないんですが……』
「えっ!?あなたが須藤さん!?」
名前だけは覚えていた。クラスメイトの中では滅多に顔を出さないレアキャラ扱いされている。
「自己紹介は終わったー?」
優作を手当てするための道具を持ってきた先生はいった。
「そしたら突然だけど君にお願いがあるんだよ」
「なんですか?」
「週一回からでいいから保健室に昼休みに来てくれない?」
「えっ?なんでですか?」
唐突な願いに若干優作は驚いていた。
(どこをどうしたら昼休みにここにくるのだよ)
と思いを込めて先生の方をみていたら、その目線の真意に先生が気づいたのか、
「あぁすまない、詳しい事情を言ってなかったね」
と言ってきた。
「この子は色々あって、ある時から全く喋れなくなっちゃったんだよ。おかげで今は保健室登校なんだけどね、本人に教室に戻りたいって意思があるんだよね。クラスメイトが慣れるまで時間かかるだろうし、それなら事前にクラスに仲良い人がいれば、楽になるかなぁーってことで君に頼んだんだよ」
「ならば、僕じゃなくて女子に頼めばよくないですか?」
頭を掻きながら先生はこう答えた。
「いやーそうしておきたいのは山々なんだけど、こっちの想いっていうのもあるからね。まぁ強いて理由を挙げるとすれば、君が彼女を良くも悪くも大きく変えてくれるからっていうところかな?」
こうして優作と彼女の少し変わった日常が始まっていった。
2週間経った頃には優作は彼女のことはだいたいわかっていた。
分かったことは彼女は会話するときはほとんどルーズリーフで会話する。そして感情によって色を変えている。
なんでそんなことをするか優作が聞いてみたら、
『私って表情分かりづらいから、こうしたら少しは分かってくれるかなぁーってことでしてる』
とのことだった。
色の数は六色。特に何もないとき、喜怒哀楽そしてそれ以外の感情で使い分けている。
橙は喜怒哀楽の喜の部分。
『中間一位だった!』とか『自販機のルーレット、初めて当たった!』など、様々な場面で使わている。
赤は喜怒哀楽の怒の部分。
と言っても優作がほとんど怒られる事もなく、使ったとしても優作にとっては可愛さが勝ってしまう。
青は喜怒哀楽の哀の部分。
一時期は藍色に近い色を使っていたが優作が黒と間違えてしまい、そのせいで凪が怒ってしまうというコンボが発生してたため、ある時優作が明るめの青をプレゼントした。
彼女はそれからはそのペンを大切にしている。
緑は喜怒哀楽の楽の部分。
『楽しいことってこんなあったんですね!』と言うくらい今までこのペンを使ってなかったらしく、『緑ペンの費用が増えたのは嬉しい悩みです』と言っていた。
黒ペンはそれ以外の感情、そして特に何もないときはシャーペンで会話していた。
やがて月日が経つにつれて、優作は凪に対してとある感情を抱き、そして凪は黒ペンを使う頻度が増えていった。
そして保健室の扉からは誰かが見ていた。
ある日凪はクラスメイトの女子から呼び出された。
その内容は修学旅行の班決めについてのことだった。
放課後の集合場所である2ー2に行くと呼び出した張本人がいた。名前は天瀬梨香といった。
『あなたが私のことを呼ぶ理由なんて、ろくでもないことに決まっているんですが、一体何のようですか?』
そう書かれた文字は少し震えていた。
「いやー本当だったらあんたに執着する理由なんてないんだけどね、アンタと長谷部君が関わってきたから釘を差しにきたわけ」
「これ以上関わらないでくれない?」
『……なんで?一体どういうこと?』
「明日告白するの、まぁ成功してもしなくてもあんたがあの人の近くにいるだけで吐き気がするからもう関わんないでね」
そう一方的に伝えた梨香は、教室から出ていった。
「凪、そこにいるのは分かっているから出ておいで」
バレたのが意外みたいな挙動で物陰から凪が出てきた。
『バレないと思っていたんですが…』
「窓のガラスから、反射して見えた」
『そういうことだったんですか…そういえばなぜ、彼女からの告白を断ったのですか?』
梨香は宣言通りに優作に告白した。
側から見ればお似合いのカップルだと凪も思っていた。
そして彼には特に断るメリットもないと思っていたのだが、彼は断った。
「なんでって理由を本人の前で説明するのも恥ずかしいんだけど…」
『本人の前?いったいどういうことですか?』
「なんで分かんないのだよ…あぁもういいや面倒臭い!」
優作は、頭をかきながら何かを決心した顔だった。
「凪!お前のことが好きだ!」
それを聞いた凪は、少し放心していたがやがてルーズリーフに書きはじめ、
『書くものがないと話せないけどいいんですか?』
「いいよ、そんぐらい」
『全く表情とか見せられないんですけどいいですか?』
「色ペンで十分伝わってるよ」
凪の目から何かが溢れていた。
もう答えは決まっているも同然だった。
「おおーまたおんなじクラスかー良かったね!まぁ私が調整したんだけど」
3年に上がった2人と話しているのはきっかけを作ってくれたあの先生だった。
いったいどんだけの権限を持っているのかと、二人は疑問に思った。
「久しぶりにみんなと過ごす学校は楽しみ?」
『少し不安ですけど楽しみですし、何より優作さんがいるから安心ですね』
最初の方は緑で描かれていたが、途中から桃色に変わっていた。
「あれっ?!桃色のペンみたの初めてなんだけど、それってどういう意味?」
優作はニコニコしながら、凪が描いた文字を読んだ。
『ナイショです!』
@Ametosamusa1217
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来たら画面の向こうで叫んでいると思っててください!
これが反響あれば連載で書くかもしれません…