異世界召喚
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王が口を開いた。
「ここはソシリア王国という。北は魔族の国、東と西には人間の国、南は獣人の国が広がっており、そのちょうど真ん中あたりじゃ。そして、近々魔族が人間の国に侵攻を始めそうだと聞いたので、古来より伝わる勇者を呼び出すための魔法儀式で君たちを呼び出した、ということだ」
王が口を閉じる。そして、代わりに豪華なローブの人間が話し始める。
「ここまで話せば分かっただろう。陛下は、君たちを勇者とするからこの国を守れとおっしゃっておられる」
クラスメイトが騒ぎ始める。どうしてかは分からないが、担任はいない。ここにいるのは生徒だけらしい。
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
クラスメイトの1人で、クラスのまとめ役の赤坂亮太が声を上げた。確か居合をやっていたはずだ。
「何だ?」
豪華なローブの人間が応答する。
「勇者にする、とは言われましても、我々のほとんどは真剣すら握ったことが無く、戦力としてははっきり言って数えられないかと思われます。そこはどうなさるのでしょう?」
「そのために、君たちには特殊能力を与える。それも、かなり強力なものだ。特殊能力を与えた後しばらく訓練をしてもらう予定だ。訓練が終わるあたりではこの世界の兵士を遥かに上回る実力になっているだろう」
「特殊能力により、力をつけさせる、という認識でよろしいでしょうか?」
「ああ。善は急げという言葉がある、早速君たちに特殊能力を与えよう。明日から訓練をしたいからな。では……」
ブツブツと何かを言い始める。すると、クラスメイトの体が光り始めた。様々な色の光が、様々な強さで光っている。やがて光は収まった。
「これで君たちには特殊能力を与えられただろう。『特殊能力チェック』と言えば、自分の能力が何か分かるらしい」
あちこちから「特殊能力チェック」という声が聞こえてくる。俺もチェックをする。
〈あなたの能力はドッペルゲンガー。記憶しているものに姿を似せることができる。能力をコピーし、最大70%まで使うことも可能なこともある〉
頭の中に直接声が入ってきた。
どうやら全員能力チェックが済んだように思う。
「君たちには部屋を準備した。そこで過ごしてくれ。メイドたちが案内をするだろう」
そう言い残して王はどこかに行った。
「ご案内いたします、勇者様方」
能面のような顔のメイドたちが、俺たちを連れて行く。少し歩くと、大きな部屋に出た。
「ここが勇者様方のお部屋となります。人数分の個室も準備してありますので、お休みになる際などはそこで過ごして頂くのも良いかと思われます。それでは、失礼いたします」
メイドたちが部屋を出て行った。
「みんなに与えられた特殊能力を共有した方が今後の行動にいいと思う。だから、能力の共有をしたいなって思う」
「「「いいぞー」」」
早速赤坂が提案し、何人かの賛成の声が聞こえる。反対は特にいない。
「じゃあ、出席番号順で、俺から話すよ。俺は聖騎士。騎士であり、神聖属性魔法も使えるらしい」
赤坂が話し終わる。次は伊藤知紗だ。
「私は水属性魔法使い。治癒魔法と、水による攻撃魔法が使える」
「僕はクリエイター。武器とかの道具を作り出せるらしい」
次々と話して行く。霞原はゴーストという能力で、自分が攻撃出来なくなる代わりに姿や音を消し、ダメージを一切受け付けなくするらしい。俺はドッペルゲンガーだと話した。霞原と俺が話したとき、全員が呆れたような雰囲気になったので、居心地が悪い。まあ、他人の支援が全くできないため、当然の反応かもしれない。
全員の能力紹介が終わったとき、若干霞原や俺と他のクラスメイトの間に壁ができたような雰囲気があった。
「じゃあ疲れた人はもう休んでもらってもいいよ。その後のことは残りの人で話し合って、後で教えるから」
赤坂が話しているが、明らかに俺や霞原の方を向いて言っている。
「じゃあ俺疲れたから休むわ」「俺も」
俺と霞原は部屋に行く。他のクラスメイトは、赤坂を中心に話を続けているみたいだ。
一人一人個室があるらしいが、とりあえず霞原の部屋に2人で入る。
「お前ゴーストだってな。コードネームと同じ能力とか面白いな」
「ドッペルゲンガーって、コードネームとは全然違うな。『エクリプス』の力は無くなってないよな?」
「もちろん」
霞原の暗殺者としてのコードネームは『ゴースト』、俺のコードネームは『エクリプス』だ。
懐からナイフを取り出し、本気の6割ほどの速度で霞原の首に振るう。余裕で弾かれる。
「元々の力はそのままってことだな」
「ドッペルゲンガーってどんなことできんのか詳しく教えて」
「うん」
霞原の姿をイメージし、その姿に変身しようとする。体を捻った時のような感覚があるが、すぐに収まる。
「おお……俺そっくりじゃん。ホクロの位置ちょっと違うけど」
「まじ? まあいいや。普段のギリースーツになってみるわ」
今度は、普段仕事をするときに着ているギリースーツ姿をイメージする。
「普段と同じだな」
「ゴーストの能力見せろよな」
「あいよ」
直後、霞原の姿が消えた。気配でどうにかどの辺りにいるかは分かるが、本当に消えたようだ。
「そこ?」
投げる専用のナイフを取り出し、投げつける。
「御名答」
直後、ナイフをキャッチした霞原が現れる。
「本当に消えてたぞ」
「まじか。結構便利……だけど少し疲れるわ。30分走ったときみたいな感じ」
「まあ休んだら?」
「それより模擬戦やろ?」
早速振られる。
「いいよ。どこでやる?」
「じゃあ、10秒間俺は目を瞑るから、その間にこの城っぽいところのどこかに走っていって。で、そのあと模擬戦開始」
「ドッペルゲンガーの力とかは?」
「使わずにやろう。じゃあスタート、10……9……8……」
カウントダウンが聞こえる。とりあえず、素早く走って行く。二階上がって右の通路に入り、30メートルほど走ってから右に曲がって……
10秒経っただろう。一気に歩き方を変える。なるべく足音を消して歩くようにする。
しばらく歩いただろう。不意に気配を感じ、素早く屈みながら後ろを向く。霞原がナイフを振るっていた。
刹那に13回切り合う。どちらもうまく捌いたため、傷はできていないようだ。10回以上切り合った時点でどちらかが傷を受けなければ、後は持久戦になってしまうことは確定なので、戦闘を終える。
「他のやつらのところに能力使って忍び込むか」
「気配消すだけで良くね?」
「確かに」
クラスメイトのところに向かうことにした。
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