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第17話-ゴミも積もれば

 そろそろ日が暮れるという時間。西の空は夕日で真っ赤に染まり、鳥の鳴き声が澄んだ空に響き渡っている。ここで待機を命じられた御者の男は御者台に座り、まだ姿を見せぬ少女を待っていた。


 依頼主である商人は、雇っている冒険者たちが引っ張ってきた盗賊十人と大量の盗品を馬車に積み、一足先にガラムの街に向かって行った。途中、何台かの馬車が通り過ぎるたびに故障かと思われ声をかけられ、その度に人を待っていると説明するのが少々面倒だったが……。




「こうやってボケッと待ってる時間ってのも良いものだな……」


 御者の男は呟きながら、何かを感じ街道の東側に広がっている林のほうに目を向けた。


「なっ、なんだ……っ!?」


 林の中で動く黒くて長い何かが見え、御者は驚愕の声を上げる。咄嗟に逃げる準備をしながらその不規則に動く影をよく見てみると、そこにいたのはロープで数珠つなぎになった数十人の見窄らしい格好をした集団だった。





「ほら、しっかりと足を動かさないと、その顔がまた地面で擦り下ろされちゃうよ」




 恐ろしいことを言いながら、猫のような耳と尻尾を生やした桃色髪の華奢な少女が引っ張っていた。


「すいません、遅くなりました」


 少し困ったように微笑みながら、その少女ヨルが御者の男に話しかける。


「いえ、しかしこんなに大人数の盗賊団がこの辺りに居たとは。それを退治されたヨルさんの腕前も素晴らしい!」


 口ではそう褒め言葉を述べつつ、男の内心は疑問と不安とで塗りつぶされそうだった。


(これだけの人数をこんな娘がどうやって…うちの娘より小さいのに)


「あぁ、これ五組ほどのグループなんです。探して潰しての繰り返しでした」


 まるで店を回って欲しいものを買い集めてきたかのような気軽な口調でヨルが答える。


「五組…っ!? この辺り一帯を移動しながら!? それで怪我もなく全員捕まえたと…!?」


 口で言うのは簡単だが、移動時間と戦闘時間を考えると、この短短時間でどうやってこの人数を捕まえてきたのかが男には想像つかなかった。しかし目の前にはそれを成した証拠が勢揃いしている。


 何人かは顔が殴られたように腫れており、何人かは鎧に多数の穴が開きそこから血を流した跡がある。最低限の怪我の治療はされていたが、まるで遠距離から矢尻の付いていない矢で貫かれたような傷跡だった。

 そんなボロボロにされた盗賊たちだが、全員が背中に大量の荷を背負わされていた。恐らく彼ら自身が溜め込んでいた盗品であることがわかる。


(これだけ一方的にダメージを与えたあげく、馬車馬のふように荷運びに使うなんて……)


 この少女には逆らわないようにしようと心に誓ったのだった。



 ――――――――――――――――――――――――



(どうやら私の容姿はこういうことには便利らしい)


 見た目は少女。剣も杖も持っておらず、冒険者などには見えない。よく目立つ桃色の髪にぴょこんと飛び出た耳と尻尾。そんな少女が夜も近い時間に一人で歩いていれば、盗賊でなくても声をかけるだろう。それなりに修羅場を潜っている冒険者などは逆に罠を警戒して近寄らないかもしれないが。


(それにしても、全部ハズレか)


 ヨルは街道沿いを疾走しながら林や岩の障害物がある辺りに人の気配を感じ取るとスピードを落として歩く。これを繰り返すだけで面白いようにならず者たちを釣り上げたのだった。

 しかし、目的の集団についての情報は得られず、余計な荷物だけが増えて行った。仕方なく、捕まえたおっさんたちにお願いをして荷物を持ってもらいロープで繋いで歩かせてきたのだった。


(明日はもうちょっと先まで行ってみよう)


「あの、ヨルさん、荷物は馬車に積み込みますね、男たちはこのまま馬車につないで連行します」


 そう言いながら手早く荷物を馬車に積み込み始める。ヨルも手伝おうとしたのだが、休んでてくださいと言われたので一人で御者台に上がり、空に見え始めた星を眺めていた。


 {…………っ……)


 暫く足をプラプラさせ、作業の様子を眺めていたヨルの耳が何かの音を捉えた。少し甲高い音で街中などでは確実に聞き逃すような小さな音。

 まるで塞がれた口から漏れた声のような。


「すいません、もう一度行ってきます!荷物の扱いは全てお任せします!先に戻っててください!」


「えっ!?ヨルさんっ!?」


 男が驚き、振り返った時にはすでに走り去るヨルの後ろ姿が遠くに見えるだけだった。



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