Qデスゲームで嫌いな奴へ復讐するのに最適な能力を述べよ A死に戻りで皆殺しです
最近、デスゲーム系の物語が流行している。
理由は簡単だ。
おぞましく理不尽なゲームに翻弄され、あっさりと死んでいく登場人物達。
そして、そんなゲームを主人公が乗り越えるカタルシスが、読者を引きつけるからだ。
そう言う僕も、デスゲーム系の物語を好んで読んでいる。
特に、キャラが死ぬ場面が好きだ。
爽快な気分になって、ストレス発散になる。
悪趣味だとは思うが、好きなのだから仕方ない。
「スマホ見てニヤニヤしてんじゃねえよ、気持ち悪い」
そんな声とともに、手元から強引にスマホを奪われる。
憂鬱な気分で顔をあげると、想像通りの男が立っていた。
「うわぁ。こいつ、またキモいの読んでるよ」
奪い取ったスマホを覗き込みながら、嫌らしく笑みを浮かべる男子生徒。
一ノ瀬という、バスケ部の生徒だ。
「こいつ、将来人殺しそうじゃね?」
「分かる。包丁とかで急に刺してきそう」
一ノ瀬の隣で、同じバスケ部の取り巻きがニヤニヤと笑っている。
悪意しかない三人の表情に、吐き気がした。
「もし俺のとこに殺しに来たら、こんな雑魚返り討ちにするわ」
その言葉とともに、肩に鈍い痛みが走った。
ゲラゲラと笑いながら、一ノ瀬は繰り返し僕の肩を殴り付けてくる。
やめてくれと頼んでも、下品な笑い声が大きくなるだけだった。
クラスメイト達は遠巻きにこちらを見るだけで、関わろうとはしない。
それどころか、中にはクスクスと笑っている者すらいる。
少し前まで行動をともにしていた友人が僕を笑っているのが見えて、何とも言えない気分になった。
嫌がらせは、チャイムが鳴って担任が入ってくるまで続いた。
担任に注意され、ようやく一ノ瀬達は自分の席へと戻っていく。
「…………」
嫌がらせを受けている僕を見ても、担任は何もしようとはしない。
それどころか「お前に原因があるんじゃないのか?」などと言ってくる始末だ。
幼稚な嫌がらせを繰り返す一ノ瀬達。
遠巻きに笑うだけのクラスメイト。
あっさりと見捨てて去っていった元友人。
見て見ぬ振りをする担任。
みんな、消えてしまえば良いのに。
地面に捨てられたスマホを拾い上げると、罠にかかって死んだ漫画のキャラが映っていた。
連中がデスゲームに巻き込まれて死んでくれたら、どれだけスッキリするだろう。
そんなくだらないことを考えながら、僕はスマホの画面を消した。
これが、僕の日常だ。
退屈で、苦痛で、代わり映えしない。
僕の、くだらない日常。
――それがこの先も延々続くのだと、僕はこの瞬間まで信じていた。
『やっほー、みんな! 今日は絶好のデスゲーム日和だね☆』
教室に響いたのは、高く甘ったるい声だった。
授業中にも関わらず、無遠慮に扉が開かれ、一人の少女が教室に入ってきた。
唐突に入ってきた少女に、教室中の視線が集まる。
「うわ、何だあれ」
誰かが小さく呟きを漏らすのが聞こえた。
無理もない。
少女の格好は、普通じゃなかった。
フリルの付いたピンク色のドレス。
手に握られているのは、細長い星型のステッキだ。
乱入してきた少女は、魔法少女らしいコスプレをしていた。
しかし、痛々しい格好に反してそのコスプレは似合っている。
まるでアニメから抜け出してきたかのように、少女の外見とマッチしていた。
『ボクの名前は、粛清少女エリエリ。今日はみんなの人生を豊かにするために、とびっきりのデスゲームを準備してきたんだ!』
満面の笑みを浮かべながら少女――エリエリはそんなことを口にした。
言葉の意味を理解できず、僕達は固まって彼女を見ることしかできない。
「おい、授業中だぞ。変なこと言ってないで、早く教室から出ていきなさい」
我に返った担任が、低い声で注意する。
あ、と思った。
目の前の光景は、さっきまで読んでいた漫画の序盤にあまりにも酷似していたから。
『――キミ、邪魔だよ』
低い声とともに、エリエリがステッキを振った。
「――あ、がっ」
濁った声と、破裂音が響く。
ボタボタと、赤黒い何かが教室中に飛び散った。
噎せ返るような鉄の臭いが、鼻を突く。
「え?」
クラスメイト達は、全員呆けた表情を浮かべた。
教壇に立っていた担任が、文字通り破裂したからだ。
手品。それともドッキリか。
しかし、教室中に散らばった血肉は偽物には見えなかった。
「ひ、ひぁあああああああ!」
大量に血を浴びた前方の生徒が、パニックになって悲鳴をあげた。
『もー! うるさいよ!』
「あああああ――あ」
頬を膨らませ、エリエリがステッキを振る。
叫んでいた生徒の一人の首が、宙を舞ってコロコロと教室を転がった。
遅れて、切断面から鮮血が吹き出す。
『人の話はちゃんと聞かないと駄目でしょ? 騒いだら、みんなの首をすぱーんってしちゃうからね!』
血の雨に悲鳴をあげそうになった生徒達が、手で口を抑えて必死に頷いていた。
エリエリは満足げに鼻を鳴らすと、朗らかに話し始める。
『さて! 邪魔者もいなくなったし、早速だけどお話を始めるよ!』
状況と噛み合わない明るい口調に、怖気がした。
『これからキミ達には、命懸けのデスゲームに参加してもらいます! だからゲームのルール説明を、と言いたいところなんだけど、まずは何でキミ達にデスゲームをさせるのか、説明しないといけないよね』
言葉を切ったエリエリと、目があった。
どこか無機質な桃色の瞳が、笑みの形に歪む。
嫌な予感がした。
『でも、何でもかんでもすぐに説明していたら、考える力は伸びないよね! 自分で考えることが、成長への第一歩さ!』
そんな薄っぺらい言葉を口にして、エリエリは軽い足取りで僕の席までやってくる。
俯いた僕の顔を、笑顔のまま覗き込んできた。
『クラスメイトから苛められてそうなキミ! どうしてボクがキミ達にデスゲームをさせようとしていると思う?』
心臓が早鐘を打つ。
状況の意味不明さに、目眩がした。
「え……あ」
不味い。
舌がもつれて、言葉が出てこない。
『うん? ボクにも分かる言葉で言ってくれると嬉しいな』
答えられなければ、殺される。
そんな考えが、頭を過ぎった。
「え、と。ゲームの中で無様に死んでいく姿を見て、楽しむため……?」
口を衝いて出たのは、そんな言葉だった。
直前に読んでいた漫画で、黒幕が語っていたのと同じ台詞。
言ってから、しまったと後悔した。
『ふんふん、なるほどね』
そんな僕の焦りとは裏腹に、エリエリは満足そうに頷いた。
『良く言えたね。自分の考えを口にすることは、人と接する上でとても大事なことだからね。キミ、名前は?』
「姫野祐希、です」
『そっか。あのね、姫野くん』
エリエリはニッコリと笑みを浮かべ――、
『――そんな悪趣味なこと、ボクがするわけないだろ』
ステッキを振った。
「あ――」
体から力が抜け、僕は地面に倒れ込んでいた。
頭を強くぶつけ、思わず呻く。
クラスメイト達が押し殺した悲鳴をあげるのが聞こえた。
「なに……が」
ぶつけた頭を擦ろうと、後頭部に手を伸ばす。
そして、気付いた。
「え?」
手がなかった。
両手とも、腕の途中からなくなっていた。
断面から赤と白が覗いている。
『言葉を口にする時は、相手のことも考えないと駄目だろ? キミの心無い言葉に、ボクの心は真っ二つだよ』
――だから、代わりにキミの体を半分にしてみた。
なくなっていたのは、手だけじゃなかった。
あるはずの下半身が、見当たらない。
少し離れたところに、両手と下半身が転がっているのが見えた。
「あ……あぁ」
胴の切断面から、血に濡れた内臓がデロリと零れ落ちているのが見えた。
大量の血液がぶち撒けられて、教室の床を赤黒く汚している。
「ひぁああああああッ!?」
何だよこれ。
どうなってるんだ?
嘘だろ。どうして僕がこんな目に?
『ちなみに正解は、「デスゲームを通して、キミ達に人間として成長してもらいたい」からでした。人が死ぬ姿を見て楽しむためだなんて、キミ、頭おかしいんじゃない?』
痛みはない。でも熱かった断面が今は冷たい。手も足も動かせなくて、芋虫のように血溜まりの中で無様にもがくことしかできない。びちゃびちゃと血溜まりが揺れる。嫌だ、死にたくない。
『でも、可哀想だからもう楽にしてあげるね。ボクは優しいからさ』
視界の隅で、エリエリがステッキを持ち上げるのが見えた。
僕はデスゲーム系の物語が好きだ。
けど、それは傍観者として見るのが好きなだけで、自分が参加したいわけじゃない。
だって、僕は知恵も体力も、何も特別なモノを持っていない。
デスゲームに参加したって、序盤でゴミのように死ぬのがオチだからだ。
『――ばいばい☆』
パンッと。
音が聞こえて。
僕は死んだ。
☆
『でも、何でもかんでもすぐに説明していたら、考える力は伸びないよね! 自分で考えることが、成長への第一歩さ!』
――甘ったるい声で、僕は目を覚ました。
『クラスメイトから苛められてそうなキミ! なんで、ボクがキミ達にデスゲームをさせようとしていると思う?』
桃色の瞳が、僕を見つめている。
それは、先程とまったく同じ言葉だった。
――――は?