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その音が消えるまで  作者: 水打一人
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4話 あなたのおうちはどこですか

 矢原君への質問は難航を極めた。


「元々、矢原君はどこから来たんですか? 何か用があってここへ?」

「いや……」


 矢原君は真剣に悩み、考えて、思い出そうとしていたのだが、不幸な事に彼は、


「……お、覚えてないっす」


 大切な記憶をぽっかりと、どこかへ置いて行ったかのように忘れてしまっていたのだ。

 両親、出身地、学校や、それらに関する人物まで、ありとあらゆる記憶が喪失しており、僕の知りたいことは全くと言っていいほど得られなかった。

 ――記憶喪失って、本当に実在するのか。

 あまりにも答えが、「覚えてない」ないし、「知らない」だったので、本当は悪い事だが、心の内側では感心すらしてしまった。


「お、覚えてないんだったら仕方ないですよ! な、なんかすみません、色々と聞いちゃって」 

「いや。ほんと、申し訳ないっす……」


 僕は彼を疑っていなかった。

 疑った所でなんだ、という話もあるが、「ことは」事件についての言及も無いし、その仕草にはわざとらしさが全くなかった。

 ――ま、まぁ、単に人付き合いが少ないだけかもだけど……。


「つ、次、俺が聞いてもいいですか?」

「あ、あぁ! どうぞどうぞ」


 勝手に凹んでたら、今度は矢原君の方から質問が飛んできた。


「ここはどこですか?」


 ――う、うん。まぁ、聞かれると思った。


「えっと、ここは響町ひびきまち。栃木県の奥の方にある町なんだけど……」

「栃木県……」

「う、うん。ホントに何もない町だよ。あるのは入り組んだ廃商店街くらいでさ……」


 響商店街。

 山に沿うように作られた為、高低差が激しく坂や階段が多い、厄介な構造をしている商店街。

 営業している店もあるが、殆どが廃業している為、おばけ商店街なんか言われてたりする。トタン屋根や木の柱だったり、時代錯誤な感じが何とも言えないその商店街は、夜に回るとすごく怖かったりする。


「学校はあるけど、ほとんど皆上京しちゃったりして、寂しい感じだし……」


 僕がそこまで言い終わると、矢原君はガッツリとその話題に食いついてきた。


「は、廃商店街!?」

「え?」


 通学路にもなっている身近な商店街にそこまで食いつかれるとは思ってもいなかった。僕は思わず、変な声で反応してしまう。


「入り組んでて!? トタン屋根!?」


 矢原君の食いつきようと、変わりように、僕は言葉を失い、ただ頷くしかなかった。

 ――そ、そこまで食いつきます?


「あ、案内してくれませんか!? 行ってみたいっす!」

「う、うん……。いいです、けど……」


 これもこれで、結構困りものだ。

 好奇心は人を変えると言うけれど、「ことは」の時とは全く違う変わり様。

 楽器とヘッドフォンを早速身につけ始めた(なんの躊躇もなく! 慣れた手つきで!)彼は、昨日の夜とは全く雰囲気が違っていて。

 結局僕は、彼のペースに流されるまま響町を案内する事になってしまったのだ。

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