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その音が消えるまで  作者: 水打一人
10/11

10話 何見てんだ

 少し固めに炊けたご飯を口にしながら、僕と矢原君は約束について話し合った。


「約束というのは、やはりギター関連なのでしょうか?」

「わかんねぇな。もかしたら、浮気すんなよ、みたいな約束かもしんねぇし、そもそも約束かどうかすら怪しいんだよな……」

「場所とかは思い出せますか? 誰と、どんな約束かは分からずとも、場所や時間なんかは……」

「……寒かった」

「はい」

「…………」

「ぜ、全然気にしないでください! だ、大丈夫ですから! ね!」


 しかし、それ以降どれだけ質問を重ねても、答えらしい答えやヒントは見つからず、お茶碗はいつの間にか空になっていた。


|||||||||||


 結局、僕らは今日の考察をあきらめ、お風呂に入ることにした。

 お風呂に入ったらアイディアが浮ぶ! なんて事を期待したのだが、そんな事はちゃんとなかった。

 僕は湯船に浸かりながら考える。

 ――けど、本当に取っ掛りが掴めないなぁ。なにか、「彼女」に対して明確な、明確な……。あっ!

 僕はそこで、ようやく思い出したのだ。「ことは」という女性の名前を。


||||||||||


 和兎のヤツが風呂に入ってる間、滅茶苦茶に暇だったから、俺は居間を物色して時間を潰す事にした。

 ――そういや、和兎の家の構造ってどうなってんだろ、古本屋ってことは分かったけど。 それらしき暖簾のれんはあるのだが、勝手に入ったら怒られそうな気がして、俺はそこに行く事を躊躇った。


 仕方なく俺は、居間をくまなく探索する。

 ガスコンロに台所、テレビは無く、布団を入れるための押し入れがある。

 壁には俺のギターケースと、和兎の学校の鞄があった。

 ――き、気になる……。

 まだまだ3日の付き合い。俺はまだ、熊谷くまがや和兎かずとという人間を、全然理解していなかった。

 ――の、暖簾はダメだけど、鞄くらいだったら……ね?

 自分の好奇心に適当な言い訳をつけて、俺は和兎の鞄に手を突っ込んだ。

 ……その時だ。


「あっ! ダメですよ、龍真! 他人の物を勝手に物色しては!」


 女の声。和兎のじゃない。

 俺は後ろを振り返った。キョロキョロと辺りを見渡して、声の主を探す。

 しかし、いくら探しても女なんて見つからなかった。

 ――幻聴か? やべぇな、俺の耳。

 妙に聞き覚えのあるような声だったが、俺はその奇妙な感覚が鬱陶しく、思わず頭を振った。

 そして俺は、気を取り直して和兎の鞄に手を突っ込んで……。


||||||||||


 歯を磨き、髪も乾かし終えて、僕は洗面所を出た。


「矢原君、お風呂出ました――」


 そこで僕は、自分の家の居間で、信じられない光景を目にした。

 矢原君が何かを一心不乱に読み込んでいる。それだけならまだいいのだが、問題はその、読み込んでいる物。

 それは、それは……


「おっ、和兎! これ、お前が書いたの?」


 厳重にしまっておいたハズの僕のプロットだった。


「何見てんだてめぇぇぇぇ!!」


 月明かりがぼんやりと浮かぶ夜に、1人の創作者の絶叫が響いたのだった。

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