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53 聖剣の煌めき

 魔王を泣かすと決意はしたものの、そう簡単に済む話ではなかった。

 そもそも魔王は、俺が聖剣を用いることで何とか倒すことができたほどの強敵だ。

 今の俺では、勝ち目がないに等しい。


「ふはははは、あの勇者ともあろうものが情けない! 我に手も足も出ないではないか!」

「くっ……」


 振るった剣のことごとくが、魔王の腕が硬質化し生み出された刃によって弾かれる。

 反応速度だけではなく耐久性、切れ味に至るまで、これ以上ない仕上がりだ。


「援護します!」


 遠く離れた場所からティナの言葉が聞こえた直後、俺の周囲に氷の槍が数十現れる。

 それらは魔王目掛けて勢いよく発射された。


「甘い、甘いぞ! その程度、我に効くと思いあがったか!」

「くっ、通じませんか!」


 魔王は腕の動きを高速化させ、容易くティナの攻撃を防ぐ。

 このまま単純な攻撃を仕掛けていても通用するとはとても思えない。


 どうすればいい?

 どうすれば、俺は魔王に勝てる?

 聖剣を持たない、今の俺が……!


「……なんだ?」


 その時だった。

 上空から、黄金に輝く球体がゆっくりと落下してくる。

 そこからは不思議な温かい何かを感じた。


 俺はそれに手を伸ばす。

 それが何か大切なものであるということを直感したからだ。


 戦闘の最中、突如として不可解な行動を始める俺を見て、レオノーラが首を傾げた。


「ルーク師匠、どうかしたのか?」

「悪い、レオノーラ、少しだけ時間稼ぎを頼む」

「ルーク師匠!?」


 魔王の相手をレオノーラ(とティナ、ユナ)に任せ、俺は光のもとに向かう。

 今の魔王はまだこちらの世界に馴染んでいないのか本調子とはいいがたい。

 時間を稼ぐだけならば、レオノーラたちに任せられる。


 そしてようやく、俺は黄金の光に辿り着く。

 それに触れた瞬間、眩い光が俺の視界を覆った。



「……ここは」


 気が付けば、俺は純白の世界に立っていた。

 ティナも、ユナも、レオノーラも、魔王すらここにはいない。


「ルーク!」

「っ!」


 そんな中、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 この声を俺は知っている。

 驚愕に目を見開きながら、俺はその場で振り向いた。


「オルド! リース! ガイアス!」


 そこにいたのは、かつて旅を共にした三人の姿だった。

 けれど、どうしてここに……?


「久しぶりだな、ルーク。再会を喜びたいところだが、悪い、時間がないんだ。用件を伝える」

「オルド……用件っていうのは?」

「ああ、実はな。俺たちは魔王を倒した。けれど、それで魔王が完全に消滅した訳じゃなかったんだ」

「みたいだな。今、目の前にいるよ」

「っ、やはりか! 時間がないな」


 ここで、金髪の少女リースが前に出る。


「魔王の本体はね、莫大な魔力を保有した魂そのものなの。人の形をしていたのは、あくまでそういう器の中に入って行動していただけ」

「……ということは、俺が倒したのは器だけだったのか?」

「そうなの! 私たちがそれに気づいた時にはもう、魔王の魂はここじゃない世界……ルーク、貴方の世界に向かっていたわ」

「なるほどな。だからこんなことになっているのか」


 最後に前に出てきたのはガイアスだ。


「ルーク。相変わらず鍛え上げられた良い肉体だが、それでも魔王には苦戦しているんだろう?」

「そうだな。聖剣を持たない俺じゃ、勝てる見込みがないに等しい。それでもやるしかないから」

「だろうと思ったよ。だからこそ、俺たちがこうしてお前のもとにやってきたんだ」

「ガイアス?」

「お前が魔王を倒した時、俺たちはずっと力になれなかったことを悔やんでいた。けど、ようやくお前の力になれる時が来たんだ……これを受け取れ」


 俺の目の前に、眩い金色の光が現れる。

 そうだ、これに触れた瞬間、俺はこの空間に呼ばれたんだった。


「ルーク、それは聖剣の力の源だ。俺たちがこうして思念しか飛ばせなかったように、剣そのものを渡すことはできない。けど、それさえあればお前は戦えるだろう?」

「オルド」

「勝って、ルーク。今度こそ、あの魔王に!」

「リース」

「いけ。鍛え抜かれた筋肉の強さを、今こそ見せつけてやれ」

「ガイアス」


 ああ、本当に。

 馬鹿ばかりだ。

 何が力になれなかっただ。

 俺はずっとこいつらを信頼してきたっていうのに。

 最高の仲間だ。


「ああ、ありがたく貰っていくよ……またな、皆!」

「ああ(うん)(おう)、ルーク!」


 そして、眩い光は収まっていく。

 俺は現実に戻ってくる。


 確かな決意を胸に秘めて。



 現実に戻ってきた俺の視界に映ったのは、魔王と戦うティナたちの姿だ。

 徐々に魔王は全盛期の力を取り戻しているのか、劣勢に立たされている。

 俺が戦いに参加しなければ、命さえ危ないだろう。


 けれどどうする?

 俺は手元にある金色の光に視線を落とす。

 聖剣の力の源はここにある。けれど肝心の剣がない。

 今俺が持つものでは、恐らく出力に耐えきれない。


 ――いや、待てよ。


 オルドたちの話が確かならば、魔王は器を失った状態でこちらの世界に来たはずだ。

 けれど今、彼女はこうして人の形をして戦っている。

 どこで器を手に入れた?

 何を器にした?


 ――まさか。


「ユナ!」

「ルーク!?」


 俺は戦いの最中にある彼女の名を呼びながら、その体を抱え撤退する。

 ユナは焦った様子だが、気にかけている余裕はない。


「ユナ、魔王がどうやって人の形を保っているか分かるか? 何を器にしているのか……俺の予想が正しければ」

「え、えっと、私の魔心の力が一部だけ奪われて、それで……」

「やはりか!」


 だとすれば可能性がある。

 ユナの魔心が魔王の出力にも耐えられるのであれば。

 聖剣の真価を発揮できるかもしれない。


「ユナ、頼みがある」

「ルーク……?」

「力を貸してくれ。そして、一緒に魔王を倒そう」

「……うん」


 俺が何を考えているのか察したわけではないはずだ。

 それでもユナは迷うことなく頷いてくれた。

 その信頼に応えるんだ。


「ユナ、魔心を発動してくれ。大きさは一振りの剣。硬度は最大。魔力を全部使ってもいい」

「分かったよ」


 そうして生み出されていく剣に、聖剣の力を注いでいく。

 やがてそれは黄金の輝きを放つ一振りの剣に姿を変える。


「この、光は……」

「お兄様?」


 戦いの最中である二人すら、目を奪われるほどの煌めき。

 この力で、俺は魔王を打ち倒す。


「勇者……! 何をした、何故今のお前がその力を持っている!?」


 魔王もまた驚愕と恐れからか、攻撃の手を止めこちらを見る。

 そんな彼女に向け、俺は力強く。


「最高の仲間が、届けてくれたんだよ」

「――――!」


 意味を理解できたのか、魔王の顔が大きく歪む。

 

「そうか! 我がこちらの世界にやってきたように、あやつらも……だがもう手遅れだ! こちらの世界で得た器はあちらの世界の器の何十倍も魂に馴染む! もはや聖剣を持った勇者と言えど、我には及ばん!」

「それはどうかな……!」


 俺はゆっくりと聖剣を振り上げる。

 大気から大量の魔力を吸収し、大きな光の柱となる。


 この一振りに込められた、多くの者の思い。

 それら全てを俺が解き放つ。


「喰らえ、勇者! 我の最大の攻撃を!」


 魔王の体から漆黒の炎が出現し、空間を消滅させながら迫ってくる。

 それをまっすぐに見据え、俺は聖剣を振るった。


「グラディウス・アーツ流、終の型――光燼こうじん


 俺の体内から強制的に魔力が聖剣へと流れ、数百倍の力になって放たれる。

 眩い、光の奔流。人々の魂の煌めきが、魔王に迫る。


 やがて光は漆黒の炎を呑み込み、そして――


「……我の予想の遥か上をいくとは。これが、勇者の本当の力か」


 ――今度こそ、魔王を魂ごと喰らう。


 光が消えた時、そこにはもう何も残されてはいなかった。


 こうして俺は、魔王を討伐した。

次回は本日20時ごろ更新です!

お見逃しなく!

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